女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第70話 一秒後

「なんか、最近事後報告ばっかりな気がします」
「……そんな事……無いとも言い切れませんけど」


 俺の話を聞いたセレンさんの第一声がそれだった。
 確かにセレンさんが絡むことってあんまりないな。魔神辺りがうまくそう誘導しているのだろうか。竜人とエルフの戦闘の時も、セレンさんがいなかったらどうなってたか分からないし。


 今回の件も、セレンさんがいたらもっと簡単に終わってたかもしれない。


 氷漬けにすればそれで終わりだろうし。
 生きてないから死なないだけで、動けなくされたら当然動けないのだから。


 うーん。
 セレンさんと別行動するのは避けた方が良いのだろうか。
 というか、もう戦力一塊にしとけばいいんじゃないかな。


 とは言っても、竜王と吸血鬼の王が友達でも、竜人と吸血鬼がそうかと言われればそうじゃないと言うしかないのが現状なんだよな。


 あの戦争の時に吸血鬼の王――レオルが助太刀に来たというのは一応竜の海のみんなには伝えてあるのだが。吸血鬼の王の好感度が多少上がっても、種族間で長年いがみ合ってきたという事実は消えてくれない。


 みんなパルメとかレオルみたいな単純な奴なら良いんだけどな。
 そんな訳ないし。


 頑張ってポジティブキャンペーンやっても、吸血鬼の王に従わない輩がいたり竜王に従わない輩ってのはいるものだからなぁ。
 そういう奴らを一掃してからじゃないと話が始まらない。


 ……そういえば吸血鬼の王は全吸血鬼の居場所が分かるんだったか。
 レオルに協力してもらって、吸血鬼の輩だけでも滅そうかな。


「我ながら物騒な考えだな……」


 染まってきている気がする。
 いかんいかん。
 だがしかし、そういう奴らのせいで竜人と吸血鬼の交流が深まらないのも事実だ。竜の海も色々あって今はほぼ解放してるようなもんだし、今のうちに、こう、民と民との親睦度を高めたいのだが。


「お祭りでもしたらどうですか?」
「お祭り?」
「パルメちゃんの一声でお祭り始まった事があったじゃないですか。確かにやから・・・もどうにかしないといけないですけど、それと並行して親睦を深めても良いと思うんです」
「なるほど」


 今ある戦力をより強固にする意味でも、竜人と吸血鬼には仲良くして貰わないといけない。一応俺、今の立場は竜王だしな。
 実際色々仕切ってるのはパルメだから俺にカリスマとかは無いが、お祭りやろうぜーって呼びかけくらいになら応じてくれるだろう。


 応じてくれるかなぁ。
 念のためパルメを通せば十全だろう。


 死の山が復活する前なら、吸血鬼も竜の海へ来れるしな。
 死の森だけは掘り返したが、死の海はそのまんまだし。
 吸血鬼が味方になってるしいいやって感じで後回しにされている。


 それよりも破壊された町の再興が先だ。
 その再興もそろそろ終わるし、タイミングとしてはベストだろう。
 ……ベストとまでは言えないか。ベターくらいか。


「あれ。そういえばミラはどこにいるんです? 当然一緒にいるもんだと思い込んでたんですけど」
「ミラちゃんなら魔法学校へ行ってますよ」
「魔法学校!」
「魔法が苦手なのを克服したい、と。最近は私一人で冒険者ギルドの依頼をこなしてます」
「そういえば30億集めないといけないっていう初期設定ありましたね」
「初期設定とか言わないでください。……あまりにも順調に味方が増えていて、お金も必要なさそうな感じですけど、あって困るものではないですから」


 ちなみに。
 既に30億くらいは軽く稼いでいたりする。
 軽く、という程軽くもないが。
 各町の最高難易度の依頼をこなしていたらいつの間にか、という感じだ。本当はもっと四苦八苦するのがテンプレなのだろうけど、如何せん俺の仲間がハイスペックすぎる。


 30億は勿論大金だが、バグみたいな性能を持った俺たちにとってはさしたる障害でもなかったという事だ。


「それなら桁一つ上げます?」
「それは無理です」


 無理無理だ。
 何年かかるか分からない。


「勿論それは冗談ですけど、そろそろお金の使い道も考えなきゃですよね」
「え、考えてなかったんですか」
「数で攻められる可能性が高かったので、何人か有用な冒険者や流浪人みたいな人を雇おうと思ってたんですけど……今やその必要はないですし」


 そういえば元から目を付けてたって奴がエルランスだったな。
 あいつは元気にやってるのだろうか。


 どうでもいいや。


 何かあれば連絡来るだろ。


「まぁ、さっきセレンさんも言いましたけど金なんて幾らあっても困りませんしとりあえず取っとけばいいんじゃないですか」
「それもそうですね」
「……久々に冒険者ギルドで依頼でも受けようかな。暇だし。セレンさんも一緒にどうです?」
「良いですね。……優斗さんと二人で出かけるのも久しぶりな気がします」
「そうでしたっけ?」


 色んな意味で原点回帰だな。
 冒険者ギルドで登録して初めて倒した魔物がオークだったか。確かあの時は石を投げて倒したんだよな。今ならそんな事しなくても、影だけで倒せてしまうが。


「最近優斗さん構ってくれませんからね」
「構っていいんですか? めっちゃ構いまくりますよ。かまかまですよ」
「いいですよ」
「……とりあえずギルドへ行きましょうか」
「ふふ、やっぱりチキンですね」
「く……」


 ともかく。


 冒険者ギルドへ行って、一番難易度の高かったものを選ぶ。
 近くの岩山に住み着いたレッドドラゴンの討伐だ。


 レッドドラゴンと言えば、修さんが超必で一網打尽にしたあいつらだよな。あんまり強そうなイメージが無いが、報酬から見てそれなりに強いのだろう。


 3000万ゴールド。
 なんか金銭感覚が狂ってくるが、1ゴールド1円の基準に照らして考えれば充分な大金だ。本来、何十人という規模でパーティを作って討伐するらしいが、ぶっちゃけ俺一人で余裕だしセレンさんでも余裕だ。


 お金が貰えるピクニックくらいの感覚。


 そう。


 完全に、舐めていた。


 レッドドラゴンを、ではない。


 この世界を。


 魔神を――





















「やっぱ楽勝でしたね」
「優斗さんが強すぎるんですよ」


 レッドドラゴン。
 戦闘の様子を描写するまでもないくらいの秒殺だった。見つけた瞬間に影で捉えて聖剣で首を落とすだけ。一番最初に戦ったオークの方が手間取ったかもしれないというレベルだった。


「これで俺が魔法覚えれたら無敵なんだけどなぁ」
「そこまでしたら私いらなくなっちゃうじゃないですか」
「セレンさんレベルまではいかなくとも、やっぱ遠距離攻撃って欲しいじゃないですか」
「一応教えたじゃないですか。ファイアーボール」
「あれはなぁ」


 自分があっちいし。
 そもそも実用性に欠ける。
 一発撃つだけで魔力の三分の一くらいは絶対持ってかれちゃうからな。そのくせ威力はぶっちゃけ大したことない。


 それこそレッドドラゴン相手に撃てば蚊に刺された程度にも感じないだろう。


 別に弱い訳じゃないからな、レッドドラゴン。
 オークなんかと比べれば――いや、比べ物にならないような上位の魔物だ。


「そういえば魔物ってなんで魔物って言うんですか? 魔神とか魔王とかと関係あるんですか?」
「あー……関係なくもないです。魔物の魔は魔法の魔で、魔神の魔でもありますから。でも、実は私も『魔物』という存在がいつこの世界に現れたか知らないんです」
「セレンさんがこの世界の女神になるずっと前からいたって事ですか?」
「はい。どころか、私の前――メロネさんが女神になる前からいたそうです。だから、魔神よりも先に魔物がいた事になりますね」
「ふむ……」


 メロネさんの妹が魔神。
 つまり、メロネさんの後に生まれているはずだ。
 そのメロネさんが女神になるよりも前から魔物がいるという事は……どういう事だ?


「魔物の使う特殊な能力を見て、彼女たちは魔法を造ったんです。魔物が先で、魔法が後ですね」
「……なるほど……。でも、女神ですら知らない事なんてあるんですか。メロネさんは知ってたんですかね?」
「多分知らなかったと思います。そういうもの・・・・・・として彼女から教わりましたから。……でも、幾つか気になる事が、大昔の文献に書かれてるんですよね」
「気になること」
「はい。魔物が生まれる更に前にいた種族の事なんですが――……優斗さん、あれ見えます?」
「あれ?」


 セレンさんが指さした先。人の目には豆粒みたいにしか見えないだろう。
 吸血鬼の視力でならば、それを明確に捉える事が出来た。


「なんだあれ……」


 赤い肌。
 山羊のような角。
 蝙蝠のような漆黒の翼。


 俺たちがたった今レッドドラゴンを倒した山の頂上から更に上の方に、そいつがいた。


「何が見えました……?」
「一言で言い表すと――悪魔」


 ですかね、と続けようと思った時だった。
 そいつを見た瞬間から《怠惰の魔眼》に魔力を籠めていて良かったと、心の底から思う。


 数㎞はあろうかという距離が離れていたはずなのに。






 一秒後の未来で、そいつがセレンさんの首を刎ねていた。

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