女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第65話 今一度
「どうしたの? 凄い顔してるけど」
「……いや。どうもしないさ」
「……サトウ……サイトウって人と関係、あるよね」
「やっぱ見透かしてんな」
隠し事は出来ないな。
そもそも斎藤の奴、本当にこっちに顔出さずにトンズラこきやがったから俺と何か関係があると思って当然か。
「ちょっとな。昔ドンパチやった仲なんだよ」
「ふぅん……」
嘘はついてない。
事実だ。
もっと詳しく言えば、殺し合いをして、殺した相手、というのが事実なのだろうけど。
多分何かを隠しているというのはディーナも勘付いているのだろうけど、それ以上斎藤について追及してくることは無かった。
一筋縄ではいかないのだ。
色々と。
今日、セレンさん達の――ミラのところへ行こう。
直にあいつを見たことのあるミラなら、俺よりも客観的にどうするべきか教えてくれるかもしれない。セレンさんも一応あいつは見たことあるはずだから、彼女にも聞いてみても良い。
俺一人では、斎藤をどうするのか――どうしたいのか、判断が付かなかった。
◆
今日はディーナとの特訓もルクス先生との特訓も休んで、セレンさん達の元へ向かった。いつもと違う周期で来た俺に最初はびっくりしつつも歓迎してくれた彼女たちだったが、俺の話を聞くにつれてその表情は険しいものへと変化していった。
「あの男……生きてたんだ」
「本人はゾンビって言ってたけどな……あるんですか、そんな事」
「……無くはないです。確率的には起こっても良いことですが……運が悪いというか悪運が強いというか……」
で、と本筋を話す。
「どうしたら良いと思います? あの男――斎藤の処遇」
「殺すべき」
「……出来る限り芽は摘んでおきたいですが、魔神に従わない、というくだりが本当かどうかが鍵となりますね」
ミラもセレンさんも、概ね予想通りの答えを返してきた。
やっぱりあいつの危険性を間近で見たか否かというのは、判断に大きく関わってくるみたいだ。今の俺なら、あいつと普通に相対すればまず勝てるだろう。
あいつが嘘をついているかどうか。
魔神が俺に真実の眼もくれれば良かったのに。
……いや。
そういえば、魔神は斎藤について触れなかったな。
あれは意図的なのだろうか。
意図的なのだろう。
斎藤がグールとしてこの世に舞い戻っている事を、知らないはずはない。
……魔神と斎藤はまだ繋がっている、と考えるのが自然か?
まだ繋がっているからこそ俺に斎藤の事を伝えなかった。
だが、繋がっていないからこそ俺に斎藤の事を言うまでもなかった、という可能性もある。
魔神も斎藤も信じる事が出来ないから、どっちともとれるんだよな。
こうやって俺たちが悩んでいるのさえ、恐らく斎藤の掌の上なのだろうけど。ライオンの檻にいる気分、とあいつは言っていたが、それでいてあれだけ平然としていられたのは何かやはり裏があるからだろうか。
それともあいつがただ単純にぶっ壊れた価値観の持ち主だからなのだろうか。
どちらとも取れる。
怪しい芽は――摘んでおくべきか。
「ボクがやろうか」
ミラが申し出る。
「今のボクなら、あいつに後れを取る事はない。出会った瞬間に殺す」
「……いや。やるなら俺がやる。俺がやるべきなんだろう」
殺したはずのあいつを。
もう一度ちゃんと殺すのは、俺の役目だ。
「セレンさん。やはり斎藤は放っておけません」
「……分かりました。確かに、魔神との繋がりは否定できないですからね。……一人で大丈夫ですか? そこまで露骨な挑発をしてきたという事は、何か対策を考えてあるのかもしれません」
「大丈夫です」
大丈夫。
今更あいつに手こずる事もないだろう。
それこそ、こっちはライオンなんだからな。
地力の差が大きすぎる。
さて。
そうと決まればすぐに動かなければ、俺が探せる範囲をあいつが超えてしまう。
俺は宿から出て、その屋根に登った。
精神を集中させ、自らの体を霧に化けさせる。
霧になった体は、俺が認識できるギリギリの範囲まで拡散する事が出来る。
大体この町くらいなら覆える。
――見つけた。
町から少し出たところだ。
自分へと体を戻し、斎藤がいるところまで一息にジャンプする。
そう遠くはない場所に、そいつはいた。
ドン、と音を立てて、斎藤の目の前に着地する。
「よお。また会ったな、斎藤」
「……奇遇だね。緑崎 優斗。二度と会う事は無いと思ってたけど」
「白々しい。怪しい芽は摘んでおくことにしたんだよ」
「同郷のよしみで見逃してくれることは無い訳だ」
「無いな」
「ま、仕方ないか。何ならオレは君に殺される為にここへ来たんだし」
「なんだと?」
「もう満足したしね。人を殺してみたかった欲求も満たされた。期待してたほどのカタルシスは無かったけど。君という面白い人間にも出会えた。あの世から見守っててあげるよ」
「ぞっとしねえな」
「でも、タダじゃあ殺されないよ。腕の一つや二つ、眼の一つや二つは抉らないと」
「――眼、ね」
魔力を籠める。
一秒後の斎藤の動きは、12通りあった。
その中で最も可能性の高いものに合わせて、蹴りを入れる。
「ぐ――」
為すすべなく蹴り飛ばされた斎藤が、呻きながらも立ち上がる。
耐久力も人間の頃より上がるのか。グールってのは。
普通の人間ならもう立ち上がれないと思うんだが。
「はは、やっぱ強いな。オレより殺し合いになれてる日本人とか、やっぱ君以外にはいないよ」
何かが投擲される『可能性』を視た。
躱すと、それがナイフだったことがわかる。
眼前に拳。右手で受けとめ、捻りあげる。わき腹に左手で掌底を二発打ち込む。
硬いな。
防御力がかなり高い。
右手は掴んだまま、力ずくで引っ張り上げて地面へ叩きつける。
「――かはっ」
そのまま、今度は投げ飛ばす。
20メートル近くは吹っ飛んだだろうか。
着地――とまでは行かずとも、なんとか態勢を立て直した斎藤は、嗤う。
「なるほど。やっぱ凄まじいね、君の力は」
「……魔法か何かで強化してるのか?」
「《嫉妬》」
「やっぱ魔神と繋がってたか」
「まぁ、当たり前だよね。言いなりにならないのは本当だけど」
七つの大罪の一つ。
嫉妬。
どういう能力かは知らないが、それでこいつは強くなっている。
「……どういう能力か、教えてあげようか」
「別にどっちでも良い。その能力を使ってもお前は俺に勝てない」
「その通り。《嫉妬》は相手の『力』の3割程度をコピーする能力だ。だから今のオレは、君の3割強の実力を持っている。……大抵の奴よりはそれでも強いんだろうけど、なんてことはない。君とオレじゃあ、力に差があり過ぎた」
「3割ね」
それでもそこらの魔物よりは余裕で強いのだろう。
コピー元とほぼ同程度の実力なら、3割も強化されれば決定的だしな。
影の位置は――最良だ。
ぶわ、と盛り上がった影が斎藤に襲い掛かる。
身を捩ってそれを躱した斎藤の首を狙って、日本刀で横薙ぎに一閃。
しゃがんで避けられる。
左足で蹴りを入れて、吹き飛ばす。
いや、吹き飛ばさない。
影で絡めとって無理やり止める。
「じゃあな」
「――今度こそ終わりか」
首を刎ねた。
血は出なかった。
グールだからだろうか。
影で縛ったままの胴体を降ろして、一息つく。
終わりだ。
今度こそ。
影から火打石を取り出し、そこらから木の枝や落ち葉を拾い集める。
幸い、ここは町の外だ。
この場で処理できる。
ぱちぱちと、ぱきぱきと音がして、火が大きくなったところに斎藤の首と胴体を影で投げ入れた。一瞬火は弱まったが、落ち葉を足してやると更に燃え上がった。
終わりか。
生き返ってまで俺に会いに来て、こいつは何をしたかったのだろうか。
何かを俺に伝えたかったのか。
自分で言っていたように、ただ単純にこいつは狂っていただけなのか。
嫉妬の罪。
七つの大罪。
強力な能力だったのかもしれないが、怠惰と同じで実力差が大きすぎるとその能力はほとんど意味を為さなかった。
まぁ。
そもそも、3割をコピーすると言うのも、よく分からないが。
不死身や吸血鬼としての再生力までコピーしてたなら、首を刎ねても多分死なないだろうし。
詳しくはセレンさんに聞くか。
それにしても――
勝ったのに負けたような気分だ。
斎藤。
あいつに良いようにひっかきまわされて終わっただけな気もする。
七つの大罪か。
俺と斎藤、そして魔王以外にも力を授けられた奴がいるとすれば厄介な事になりそうだな。
「……いや。どうもしないさ」
「……サトウ……サイトウって人と関係、あるよね」
「やっぱ見透かしてんな」
隠し事は出来ないな。
そもそも斎藤の奴、本当にこっちに顔出さずにトンズラこきやがったから俺と何か関係があると思って当然か。
「ちょっとな。昔ドンパチやった仲なんだよ」
「ふぅん……」
嘘はついてない。
事実だ。
もっと詳しく言えば、殺し合いをして、殺した相手、というのが事実なのだろうけど。
多分何かを隠しているというのはディーナも勘付いているのだろうけど、それ以上斎藤について追及してくることは無かった。
一筋縄ではいかないのだ。
色々と。
今日、セレンさん達の――ミラのところへ行こう。
直にあいつを見たことのあるミラなら、俺よりも客観的にどうするべきか教えてくれるかもしれない。セレンさんも一応あいつは見たことあるはずだから、彼女にも聞いてみても良い。
俺一人では、斎藤をどうするのか――どうしたいのか、判断が付かなかった。
◆
今日はディーナとの特訓もルクス先生との特訓も休んで、セレンさん達の元へ向かった。いつもと違う周期で来た俺に最初はびっくりしつつも歓迎してくれた彼女たちだったが、俺の話を聞くにつれてその表情は険しいものへと変化していった。
「あの男……生きてたんだ」
「本人はゾンビって言ってたけどな……あるんですか、そんな事」
「……無くはないです。確率的には起こっても良いことですが……運が悪いというか悪運が強いというか……」
で、と本筋を話す。
「どうしたら良いと思います? あの男――斎藤の処遇」
「殺すべき」
「……出来る限り芽は摘んでおきたいですが、魔神に従わない、というくだりが本当かどうかが鍵となりますね」
ミラもセレンさんも、概ね予想通りの答えを返してきた。
やっぱりあいつの危険性を間近で見たか否かというのは、判断に大きく関わってくるみたいだ。今の俺なら、あいつと普通に相対すればまず勝てるだろう。
あいつが嘘をついているかどうか。
魔神が俺に真実の眼もくれれば良かったのに。
……いや。
そういえば、魔神は斎藤について触れなかったな。
あれは意図的なのだろうか。
意図的なのだろう。
斎藤がグールとしてこの世に舞い戻っている事を、知らないはずはない。
……魔神と斎藤はまだ繋がっている、と考えるのが自然か?
まだ繋がっているからこそ俺に斎藤の事を伝えなかった。
だが、繋がっていないからこそ俺に斎藤の事を言うまでもなかった、という可能性もある。
魔神も斎藤も信じる事が出来ないから、どっちともとれるんだよな。
こうやって俺たちが悩んでいるのさえ、恐らく斎藤の掌の上なのだろうけど。ライオンの檻にいる気分、とあいつは言っていたが、それでいてあれだけ平然としていられたのは何かやはり裏があるからだろうか。
それともあいつがただ単純にぶっ壊れた価値観の持ち主だからなのだろうか。
どちらとも取れる。
怪しい芽は――摘んでおくべきか。
「ボクがやろうか」
ミラが申し出る。
「今のボクなら、あいつに後れを取る事はない。出会った瞬間に殺す」
「……いや。やるなら俺がやる。俺がやるべきなんだろう」
殺したはずのあいつを。
もう一度ちゃんと殺すのは、俺の役目だ。
「セレンさん。やはり斎藤は放っておけません」
「……分かりました。確かに、魔神との繋がりは否定できないですからね。……一人で大丈夫ですか? そこまで露骨な挑発をしてきたという事は、何か対策を考えてあるのかもしれません」
「大丈夫です」
大丈夫。
今更あいつに手こずる事もないだろう。
それこそ、こっちはライオンなんだからな。
地力の差が大きすぎる。
さて。
そうと決まればすぐに動かなければ、俺が探せる範囲をあいつが超えてしまう。
俺は宿から出て、その屋根に登った。
精神を集中させ、自らの体を霧に化けさせる。
霧になった体は、俺が認識できるギリギリの範囲まで拡散する事が出来る。
大体この町くらいなら覆える。
――見つけた。
町から少し出たところだ。
自分へと体を戻し、斎藤がいるところまで一息にジャンプする。
そう遠くはない場所に、そいつはいた。
ドン、と音を立てて、斎藤の目の前に着地する。
「よお。また会ったな、斎藤」
「……奇遇だね。緑崎 優斗。二度と会う事は無いと思ってたけど」
「白々しい。怪しい芽は摘んでおくことにしたんだよ」
「同郷のよしみで見逃してくれることは無い訳だ」
「無いな」
「ま、仕方ないか。何ならオレは君に殺される為にここへ来たんだし」
「なんだと?」
「もう満足したしね。人を殺してみたかった欲求も満たされた。期待してたほどのカタルシスは無かったけど。君という面白い人間にも出会えた。あの世から見守っててあげるよ」
「ぞっとしねえな」
「でも、タダじゃあ殺されないよ。腕の一つや二つ、眼の一つや二つは抉らないと」
「――眼、ね」
魔力を籠める。
一秒後の斎藤の動きは、12通りあった。
その中で最も可能性の高いものに合わせて、蹴りを入れる。
「ぐ――」
為すすべなく蹴り飛ばされた斎藤が、呻きながらも立ち上がる。
耐久力も人間の頃より上がるのか。グールってのは。
普通の人間ならもう立ち上がれないと思うんだが。
「はは、やっぱ強いな。オレより殺し合いになれてる日本人とか、やっぱ君以外にはいないよ」
何かが投擲される『可能性』を視た。
躱すと、それがナイフだったことがわかる。
眼前に拳。右手で受けとめ、捻りあげる。わき腹に左手で掌底を二発打ち込む。
硬いな。
防御力がかなり高い。
右手は掴んだまま、力ずくで引っ張り上げて地面へ叩きつける。
「――かはっ」
そのまま、今度は投げ飛ばす。
20メートル近くは吹っ飛んだだろうか。
着地――とまでは行かずとも、なんとか態勢を立て直した斎藤は、嗤う。
「なるほど。やっぱ凄まじいね、君の力は」
「……魔法か何かで強化してるのか?」
「《嫉妬》」
「やっぱ魔神と繋がってたか」
「まぁ、当たり前だよね。言いなりにならないのは本当だけど」
七つの大罪の一つ。
嫉妬。
どういう能力かは知らないが、それでこいつは強くなっている。
「……どういう能力か、教えてあげようか」
「別にどっちでも良い。その能力を使ってもお前は俺に勝てない」
「その通り。《嫉妬》は相手の『力』の3割程度をコピーする能力だ。だから今のオレは、君の3割強の実力を持っている。……大抵の奴よりはそれでも強いんだろうけど、なんてことはない。君とオレじゃあ、力に差があり過ぎた」
「3割ね」
それでもそこらの魔物よりは余裕で強いのだろう。
コピー元とほぼ同程度の実力なら、3割も強化されれば決定的だしな。
影の位置は――最良だ。
ぶわ、と盛り上がった影が斎藤に襲い掛かる。
身を捩ってそれを躱した斎藤の首を狙って、日本刀で横薙ぎに一閃。
しゃがんで避けられる。
左足で蹴りを入れて、吹き飛ばす。
いや、吹き飛ばさない。
影で絡めとって無理やり止める。
「じゃあな」
「――今度こそ終わりか」
首を刎ねた。
血は出なかった。
グールだからだろうか。
影で縛ったままの胴体を降ろして、一息つく。
終わりだ。
今度こそ。
影から火打石を取り出し、そこらから木の枝や落ち葉を拾い集める。
幸い、ここは町の外だ。
この場で処理できる。
ぱちぱちと、ぱきぱきと音がして、火が大きくなったところに斎藤の首と胴体を影で投げ入れた。一瞬火は弱まったが、落ち葉を足してやると更に燃え上がった。
終わりか。
生き返ってまで俺に会いに来て、こいつは何をしたかったのだろうか。
何かを俺に伝えたかったのか。
自分で言っていたように、ただ単純にこいつは狂っていただけなのか。
嫉妬の罪。
七つの大罪。
強力な能力だったのかもしれないが、怠惰と同じで実力差が大きすぎるとその能力はほとんど意味を為さなかった。
まぁ。
そもそも、3割をコピーすると言うのも、よく分からないが。
不死身や吸血鬼としての再生力までコピーしてたなら、首を刎ねても多分死なないだろうし。
詳しくはセレンさんに聞くか。
それにしても――
勝ったのに負けたような気分だ。
斎藤。
あいつに良いようにひっかきまわされて終わっただけな気もする。
七つの大罪か。
俺と斎藤、そして魔王以外にも力を授けられた奴がいるとすれば厄介な事になりそうだな。
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