女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第59話 転落

 昼間は授業を受け、夕方にディーナから剣術の指導を受け、夜はルクス先生から戦い方を教わる。
 流石にこんなのを毎日は続けられないため、ルクス先生の限界に合わせ、三日に一回は夜の訓練は無しになった。


 夜の訓練ってなんか響きが淫靡だよな。
 実際はバツ印をくらいまくって心折られそうになってるんだけども。


 ちなみに、三日に一回の日はセレンさん達が拠点としている宿に行った。
 血を定期的に摂取しないといけないからだ。
 そもそも普通に顔を見たいし。


 どうやら俺がいない間、彼女たちは彼女たちでそれぞれ何かしているらしい。


 セレンさんやミラだって完璧な訳じゃない。
 伸びしろがあるのだろう。




 何か事件が起きるでもなく、二週間、三週間と経過した。
 その間に俺の剣術がどれだけ伸びたかと言うと、目に見えてよくなっているとは思えなかった。ディーナは「よくなってきてる」と言うのだが……


 まぁ二週間でそこまで上達する方がおかしいか。
 悠長には構えていられないと言っても、半年くらいは余裕を見て良いだろう。魔王がいつ動くかだけが分からないが、数千年動いていないのにこのタイミングで急に動き出すというのも考え辛い。動いたら動いたで仲間内で連絡が取れるしな。


 相変わらずケントはデレないしな。
 ツンツンしてる。
 男にデレられてもアレだけど。






 さて。
 今日は課外授業との事で、冒険者ギルドと連携しての魔物討伐らしい。ちなみに依頼の報酬は学校の備品に充てられるのだとか。
 なんだそりゃって感じだが、対魔物は慣れていない人にとって、大勢でやれるのはプラスになるのだろう。俺もなんだかんだ言って魔物とちゃんと戦った事ってあんまりないからな。


 大体石投げれば終わるし。


 あれでやっちゃダメだよなぁ当然。
 使って良いのは自分の武器のみ。俺の場合は聖剣か日本刀かのどちらかだが……


 日本刀でやってみるか。


「わ。なにその武器! かっこいー」


 そう言いながらとことこと近付いてきたディーナが持っていたのは、普通の両刃の片手剣だった。聖剣と同じような形と見た目。
 性能は全く違うけど。


「かっけぇだろ。日本刀っていう剣だ」
「へーへーへー。いいなー。魔具だったりするの?」
「いや……いや、魔具だ。魔具だよ」
「ふぅーん。もしかして神器?」
「……やっぱ見透かしディーナだな」
「ださいってばそれ」


 ださいかなぁ。
 俺は割りと気に入ってるんだが。
 見透かしディーナちゃん。
 かわいくていいじゃん。


「神器持ってること、秘密にしといたほうがいい?」
「あぁ。出来れば」
「わかった。じゃあ、二人だけの秘密ね」
「後で何をタカられるのか今から怖いな」
「ひどいなー。わたしをどんな人だと思ってるのか気になるよ」
「見透かし……」
「だからださいって」


 隙を見て定着させようとする俺を邪魔するディーナ。
 無理か……
 似合うと思うんだけどなぁ。見透かしディーナちゃん。




「では課外授業を始める。各々森へ入り、ゴブリンを討伐せよ。一人当たりのノルマは五匹前後だ」


 と先生が言ったところで、皆がこぞって森の中へ入っていった。
 ゴブリンだから舐めてかかってるんだろうな。


 実際この森は町から近く、そんなに強い魔物はいないはずだ。それこそゴブリンとか、精々オークくらい。危険はほぼ無いが……


「わたし達も行こっか」
「あぁ」


 今更ゴブリン程度の魔物に遅れをとるとは思わないが、念には念を、だ。
 俺はディーナと二人で行動することにした。


「のはいいんだけど、なんでお前は俺の後ろに隠れてるんだっけ?」
「わたし、虫とか駄目なんだよねー……」
「俺だって別に虫が平気な訳じゃないんだけど……」


 森。
 多くの冒険者がここでゴブリンを狩ったりしているが、整備はされていない。地面は不安定だし、木々は邪魔だし虫は出るしで最悪だ。


 虫型の魔物とかもいるしな。
 この森には多分いないけど。


 でっかいカブトムシっぽい魔物を初めて見た時は気絶するかと思った。子どもの頃はかっこいいと思ってたのになぁ。
 蝉とかも昔は触れたが今は無理だ。




「うひゃおう!?」
「うおう!?」


 ディーナが奇妙な叫び声を上げながら背中に抱き着いてきた。


「な、なにがあった?」
「く、く蜘蛛が上からひゅーって」


 よくある事じゃん……
 ディーナは冒険者としてはやっていけないな。
 冒険者の仕事場は大抵森だからな。魔物が森を好んで拠点にするからだ。その理由は至って単純で、人間があまり近付かないから、らしい。


 特にゴブリンやオークなどの人型の魔物は森によくいる。


 等と言っている間に、ゴブリンの集団を見つけた。
 4……5匹か。
 あれくらいなら余裕だ。


「ディーナ……は動けそうにもないな。しゃあない、俺一人でやるか」


 日本刀を持って森に入ってから分かったのだが、日本刀だとちょっと長くて森の中だと使い勝手はあまりよくないんだよな。
 神器だから木に当たって折れたりとかはないだろうが。
 むしろ心配しないといけないのは木の方だ。自然破壊してしまう。


 とは言っても、日本刀をかっこいいと言ったディーナの手前、他の武器に変えるのもかっこ悪い。このままやらさせて貰おう。


 森の中だと、歩く時にどうしても木の枝なり落ち葉なりを踏んで足音がしてしまう。気付かれずに接近というのは難しい。
 正面から突っ込んでいって、バラける前に叩く。


 一匹目を斬り捨て、二匹目、三匹目と簡単に倒して行く。
 残り二匹は――しまった。
 ディーナの方に行ってしまった。


 と思えば、ディーナは普通にその二匹を始末した。
 やっぱ剣術だけに限れば俺より上だな。


 虫が苦手でも体は勝手に動くのだろうか。


「置いてかないでよー……」


 恐る恐ると言った感じで近づいてくるディーナ。
 さっさと10匹くらい倒して森から出るとするか。















「そっち、一匹行ったぞ、ディーナ!」
「分かってるよお!」


 ずばん、と危なげなく9匹目のゴブリンを屠るディーナ。
 やはり動きは淀みないな。
 あと一匹だが……


 この辺りは他の生徒たちも狩った後なのだろう、ゴブリンの死骸ばかりで生きてるのが中々いない。どうするかなーなんて思ってると、少し離れた位置にいたディーナがこっちに全速力で向かってきていた。


「出たあああああ!!」


 なんて言いながら。


 何が出たんだと思えば、ディーナの後ろに大量の蜂が。
 ――いや。
 あれは魔物か。


 なんとかビーって言う。
 セレンさんに教わったがもう忘れてるな。
 とりあえず逃げないと、俺はともかくディーナはやばい。あれは毒持ちだ。俺も平気な訳でもないし。とりあえず追ってくるディーナから逃げるような形で、俺も走り出した。


「に、逃げないでよ!」
「いやいや無理だって俺も! 魔法とか使えないのか!?」
「火属性の魔法しか使えない!」


 なるほど。
 火属性の魔法なんて使ったら森が火達磨になってしまう。


 森は悪路だ。
 なりふり構っていられなくなった俺は、遮る木々を薙ぎ倒しながら逃げる。
 勿論すぐ後ろを走るディーナに当たらないように気を付けながら。


 ――と。


 足場が急に、無くなった。
 下を見れば、崖になっている。


 翼を――と思ったら、ディーナも俺の後をついて来ていたのだから、必然的に俺に突っ込む形になり、翼を出す暇もなく墜落が始まった。


 ――まずい。
 この崖、壁と壁が近すぎて翼を出せない。


「く……!」
「わあああああ!!」


 ディーナはもうパニックになっていた。
 苦手な虫型の魔物に襲われるわ落ちるわで大変なのは分かるが。


 咄嗟にディーナの体を抱きかかえ、自分の背を地面に向ける。
 左腕を背中側に持って行き――変化をさせる。


 イメージするのは、なるべく弾力のあるクッション。


 やがて。
 ばふん、と柔らかく着地した。


 いってえ。
 左肩が外れたみたいだ。
 ディーナを離し、ゴクン、と無理やり戻す。


 これで放っておけば痛みは引くはずだ。
 瞬間超痛いけどそれさえ我慢すれば関節が外れた程度なら我慢出来る。


「ユウト君! 大丈夫!?」
「大丈夫――だけど、上から大丈夫じゃないのが迫ってきてる!」


 仕方ない。
 動けなくなるが、背に腹は代えられないって言うしな。


 影から聖剣を取り出し、力を籠める。
 そして、打ち出す。
 寝転がったままだからちゃんとした威力は出ないだろうが、なんたらビー程度の雑魚魔物ならそれで十分だ。


 狭い崖の中を追ってきていた蜂を一網打尽にすることが出来た。


「すっごい……何今の」
「超必殺技だよ。……使うと動けなくなる」
「……ごめんね、ユウト君。わたしが取り乱したせいで……」
「いや。俺も足場をちゃんと確認しなかったしな」


 木を薙ぎ倒しながらここまで来たから、救助はすぐに来るとは思うが。
 自力で登るのは……無理そうだな。
 ネズミ返し、というのだろうか。
 壁面が反り返っていて、登るのは不可能だ。


 翼も生やせないし、ジャンプして出ようにも壁が邪魔して無理だ。
 周りの壁を崩してしまう事も考えたが、ディーナが崩落に巻き込まれれば怪我では済まない可能性がある。


 ……詰みだな。とりあえず。

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