女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第53話 学園へ
いつまでもくよくよしている訳にはいかない。
立場はなんか成り行きで竜王になってしまったが、実際的にはパルメがこれまで通り回して行く。死の森の掘り出し作業が終わったら、本格的にパワーアップしないといけないな。
と、いう訳で。
はちゃめちゃに強い元竜王ことパルメに、強さの秘訣を聞いてみた。
「気合いだな! 大体気合いでなんとかなる!」
こいつはあれだ。
アホだった。
こいつに聞いた俺が悪かった。
いや、色々励まそうとしてくれてるのは分からんでもないけどさ。
やっぱお前アホだよ。
という訳でレオルに聞いてみた。
「普通に剣術とか習えば良いんじゃないのか? 余は剣を使わないから知らんが」
と割にまともな意見が返ってきた。
剣術を習う、か。
なるほど、確かにそれは良いかもしれない。
エルランスと修さんに剣術を教わった期間って合計しても一ヵ月とちょいだもんな。伸びしろはあるはずだ。
あるよね? あると信じたい。
◆
今時の剣術学校って入学試験とかあるんだなぁ。
とか、今時じゃない剣術学校を知らない俺が言ってみる。
思い立ったのがちょうど入学シーズンで良かった。
編入という形でも別に良いっちゃ良いのだが。
多少手続きが面倒なだけで。
とりあえず入学シーズンなのだから普通に入学すれば良いのだ。
「次は……ユウト ミドリザキさんとディーナ=ミゼラリさんですね」
審判の男性が俺の名前を呼んだ。
そう。
剣術学校の入学試験とは、実技だ。
木刀で戦って評価を貰う。負けたからと言って落ちるという事は無いらしいが、噂によれば勝てば入学はほぼ確定らしい。
呼ばれて前に進み出ると……うわ、相手は女の子か。
長い水色の髪の毛が特徴的な、美人な子だ。
やり辛いなぁ。
「女だからって手加減しないでね。よろしく」
「おう」
握手を求められたので、応じる。
見た目は華奢な手だが、その掌は剣だこでいっぱいだった。
剣術学校って言うから、剣術初心者が来るものだと思ってたがそうでもないのかな。
「では尋常に――はじめ!」
ふ、と彼女――ディーナと言ったか――の木刀の先端がブレた。
突きだ。
と気付くまでに時間は要さなかった。
掴――んじゃ駄目か。
躱して、小手を狙って木刀を振るう。
「んっ」
と軽く驚いたような声を上げたディーナは、小手への攻撃を、木刀から手を放す事によって回避した。
それありかよ。
そして俺の木刀が振り切られたところを、上からぽんと押されて今度は俺が木刀を取りこぼしてしまう。いや違う。取りこぼしたのでなく、取られたのだ。
――無刀取り。
まさかこんな鮮やかに、一瞬でやられるとは。
だが。
まだ審判は勝負ありと言ってないぜ。
ディーナが離した木刀の柄を踏んで、手元まで跳ね上げさせる。
「あはっ」
それを見たディーナは嬉しそうに笑った。
偶々だぞこんなの。10回やって一回成功するかどうかなレベル。
審判は無刀取りを見た時点で手を動かしかけていたが、俺が新たに木刀を手にしたところでその動きを止めた。
周りからは歓声が聞こえる。
――が、そっちに気を取られている暇は無さそうだな。
ひゅん、と打ち込まれた木刀は俺の動体視力でも捉えきる事が難しい程だ。
しかし、難しいが、不可能ではない。
この子も強いが、修さんはもっと強かったぜ。
木刀同士をぶつけ合ってしまえば、俺は勝ててしまう。
自信や慢心ではない。事実だ。力に差があり過ぎる。
だから敢えて、力が無くても勝てる方法で勝とうじゃないか。
俺にだってプライドはあるからな。
10回ほどディーナの木刀を躱し、払う。
止める、なら簡単なんだけどな。
木刀だし。
だが、木刀でしか出来ない――俺にしか出来ないようなやり方で勝っても面白くない。
試しにこちらから打ち込んでみると、今度は流石に無刀取りとはいかずとも、普通に避けられて捌かれる。
やっぱ強いなこの子。
純粋な剣術だけなら俺とは一つステージが違う。
悔しいがそれは認めざるを得ない。
今も審判の中の評価はディーナ側に傾いている事だろう。もしかしたら現時点でも入学できるかもしれないが。
これだけ躱して払えたら十分だろう。
だからここから先は俺の自己満足だ。
一段、木刀を振るう速度のギアを上げる。
それでも彼女は捌く。躱す。
凄いな。
こっちはもう3回ほど変身を残してるがな。
ここで見せる気は無い。
剣術を学びに来たのだから、剣術で勝たないと意味が無いだろう。
パシン、パシン、という木刀がぶつかりあう音がしばらく響く。
実際はそんなテンポじゃないが。もっと目まぐるしく木刀が飛び交っている。
パシンパシンをリスペクトした擬音でいくなら、パパパパパパパパって感じ。
なんで付いて来れるんだこの子。
だが。
それももうすぐ終わりだ。
ディーナが木刀を振り切った所に、俺の木刀を上から被せる。
そのまま手首をくるりと返し、木刀だけを捻りあげる形とする。
これでディーナの手からは木刀が落ちる――はずだった。
まさか、その木刀と一緒に回転するとは思いもしないよね、普通。
捻りあげられた木刀に合わせて回転したのだ。
無刀取りの意趣返しのつもりでやったんだが、まさか不発に終わるとは。
ディーナの今の躱し方で、場は余計に盛り上がった。
仕方ない。
見せる気はなかった変身の一段目を――
「そこまで!」
と。
……なんか不完全燃焼で終わった感があるんだが。
「もう十分です。二人とも合格ですよ」
との事だった。
そんな事は良いから続きをやらせてほしかったなぁ。
「いやー楽しかった。ありがとう、ユウト君って言ったっけ?」
「あぁ。こっちこそ、楽しかったよ」
出来ればまだ続けたかったくらいに。
「続けてれば、ユウト君の本気で見れたかもしれないのになー」
「……気付いてたのか。だが本気じゃなかったのはお互い様だろう」
「ふっふふ。やっぱ面白いなぁ。二人とも合格みたいだし、これからよろしくね!」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
始めた時と同じように、俺たちは握手を交わした。
楽しそうじゃないか、学校生活。
◆
「あーん? お前、入学試験ですっげぇのやってた奴か」
この学校は寮制だ。
別に寮入らなくても良いらしいけど。
でも寮生活って楽しそうじゃん。
別に通えるんだけどね
でも楽しそうじゃん。
理由はただそれだけである。
そしてドキドキの同部屋の奴との顔合わせタイムである。
先に部屋にいてワクワクしながら待ってた俺の元へやってきたのは、ヤンキーみたいな奴だった。
もうちょっと特徴を描写しようか。
金髪のオールバックで、三白眼で、指定制服を既に着崩しているヤンキーそのものな奴だった。
「やぁ。よろしく。俺は緑崎 優斗。剣術は初心者なんだ」
と爽やかに決めてみた。
「やめろキメー。お前の入学試験見てたっつったろ。あれでお前の本性なんて大概見抜いてんだよ」
「あっそう」
ツレない奴だなぁ。
もっとノってきてくれても良いのに。
ディーナなら絶対ノってくれてたぜ。
「オレぁケントっつうんだ。笑えるだろ。剣の字が入ってて、初心者とか宣うてめぇより弱いんだからな」
「いや別に。俺が強いのは当たり前だしな」
「……お前いい根性してんな」
「それ程でもあるぜ」
やってらんねー、とケントは部屋を出ていってしまった。
追いかけた方が良いのだろうか。
……いやなんで追いかけないかんのだ。
女の子ならまだしも。
やってらんねー。
立場はなんか成り行きで竜王になってしまったが、実際的にはパルメがこれまで通り回して行く。死の森の掘り出し作業が終わったら、本格的にパワーアップしないといけないな。
と、いう訳で。
はちゃめちゃに強い元竜王ことパルメに、強さの秘訣を聞いてみた。
「気合いだな! 大体気合いでなんとかなる!」
こいつはあれだ。
アホだった。
こいつに聞いた俺が悪かった。
いや、色々励まそうとしてくれてるのは分からんでもないけどさ。
やっぱお前アホだよ。
という訳でレオルに聞いてみた。
「普通に剣術とか習えば良いんじゃないのか? 余は剣を使わないから知らんが」
と割にまともな意見が返ってきた。
剣術を習う、か。
なるほど、確かにそれは良いかもしれない。
エルランスと修さんに剣術を教わった期間って合計しても一ヵ月とちょいだもんな。伸びしろはあるはずだ。
あるよね? あると信じたい。
◆
今時の剣術学校って入学試験とかあるんだなぁ。
とか、今時じゃない剣術学校を知らない俺が言ってみる。
思い立ったのがちょうど入学シーズンで良かった。
編入という形でも別に良いっちゃ良いのだが。
多少手続きが面倒なだけで。
とりあえず入学シーズンなのだから普通に入学すれば良いのだ。
「次は……ユウト ミドリザキさんとディーナ=ミゼラリさんですね」
審判の男性が俺の名前を呼んだ。
そう。
剣術学校の入学試験とは、実技だ。
木刀で戦って評価を貰う。負けたからと言って落ちるという事は無いらしいが、噂によれば勝てば入学はほぼ確定らしい。
呼ばれて前に進み出ると……うわ、相手は女の子か。
長い水色の髪の毛が特徴的な、美人な子だ。
やり辛いなぁ。
「女だからって手加減しないでね。よろしく」
「おう」
握手を求められたので、応じる。
見た目は華奢な手だが、その掌は剣だこでいっぱいだった。
剣術学校って言うから、剣術初心者が来るものだと思ってたがそうでもないのかな。
「では尋常に――はじめ!」
ふ、と彼女――ディーナと言ったか――の木刀の先端がブレた。
突きだ。
と気付くまでに時間は要さなかった。
掴――んじゃ駄目か。
躱して、小手を狙って木刀を振るう。
「んっ」
と軽く驚いたような声を上げたディーナは、小手への攻撃を、木刀から手を放す事によって回避した。
それありかよ。
そして俺の木刀が振り切られたところを、上からぽんと押されて今度は俺が木刀を取りこぼしてしまう。いや違う。取りこぼしたのでなく、取られたのだ。
――無刀取り。
まさかこんな鮮やかに、一瞬でやられるとは。
だが。
まだ審判は勝負ありと言ってないぜ。
ディーナが離した木刀の柄を踏んで、手元まで跳ね上げさせる。
「あはっ」
それを見たディーナは嬉しそうに笑った。
偶々だぞこんなの。10回やって一回成功するかどうかなレベル。
審判は無刀取りを見た時点で手を動かしかけていたが、俺が新たに木刀を手にしたところでその動きを止めた。
周りからは歓声が聞こえる。
――が、そっちに気を取られている暇は無さそうだな。
ひゅん、と打ち込まれた木刀は俺の動体視力でも捉えきる事が難しい程だ。
しかし、難しいが、不可能ではない。
この子も強いが、修さんはもっと強かったぜ。
木刀同士をぶつけ合ってしまえば、俺は勝ててしまう。
自信や慢心ではない。事実だ。力に差があり過ぎる。
だから敢えて、力が無くても勝てる方法で勝とうじゃないか。
俺にだってプライドはあるからな。
10回ほどディーナの木刀を躱し、払う。
止める、なら簡単なんだけどな。
木刀だし。
だが、木刀でしか出来ない――俺にしか出来ないようなやり方で勝っても面白くない。
試しにこちらから打ち込んでみると、今度は流石に無刀取りとはいかずとも、普通に避けられて捌かれる。
やっぱ強いなこの子。
純粋な剣術だけなら俺とは一つステージが違う。
悔しいがそれは認めざるを得ない。
今も審判の中の評価はディーナ側に傾いている事だろう。もしかしたら現時点でも入学できるかもしれないが。
これだけ躱して払えたら十分だろう。
だからここから先は俺の自己満足だ。
一段、木刀を振るう速度のギアを上げる。
それでも彼女は捌く。躱す。
凄いな。
こっちはもう3回ほど変身を残してるがな。
ここで見せる気は無い。
剣術を学びに来たのだから、剣術で勝たないと意味が無いだろう。
パシン、パシン、という木刀がぶつかりあう音がしばらく響く。
実際はそんなテンポじゃないが。もっと目まぐるしく木刀が飛び交っている。
パシンパシンをリスペクトした擬音でいくなら、パパパパパパパパって感じ。
なんで付いて来れるんだこの子。
だが。
それももうすぐ終わりだ。
ディーナが木刀を振り切った所に、俺の木刀を上から被せる。
そのまま手首をくるりと返し、木刀だけを捻りあげる形とする。
これでディーナの手からは木刀が落ちる――はずだった。
まさか、その木刀と一緒に回転するとは思いもしないよね、普通。
捻りあげられた木刀に合わせて回転したのだ。
無刀取りの意趣返しのつもりでやったんだが、まさか不発に終わるとは。
ディーナの今の躱し方で、場は余計に盛り上がった。
仕方ない。
見せる気はなかった変身の一段目を――
「そこまで!」
と。
……なんか不完全燃焼で終わった感があるんだが。
「もう十分です。二人とも合格ですよ」
との事だった。
そんな事は良いから続きをやらせてほしかったなぁ。
「いやー楽しかった。ありがとう、ユウト君って言ったっけ?」
「あぁ。こっちこそ、楽しかったよ」
出来ればまだ続けたかったくらいに。
「続けてれば、ユウト君の本気で見れたかもしれないのになー」
「……気付いてたのか。だが本気じゃなかったのはお互い様だろう」
「ふっふふ。やっぱ面白いなぁ。二人とも合格みたいだし、これからよろしくね!」
「こちらこそ、よろしく頼むよ」
始めた時と同じように、俺たちは握手を交わした。
楽しそうじゃないか、学校生活。
◆
「あーん? お前、入学試験ですっげぇのやってた奴か」
この学校は寮制だ。
別に寮入らなくても良いらしいけど。
でも寮生活って楽しそうじゃん。
別に通えるんだけどね
でも楽しそうじゃん。
理由はただそれだけである。
そしてドキドキの同部屋の奴との顔合わせタイムである。
先に部屋にいてワクワクしながら待ってた俺の元へやってきたのは、ヤンキーみたいな奴だった。
もうちょっと特徴を描写しようか。
金髪のオールバックで、三白眼で、指定制服を既に着崩しているヤンキーそのものな奴だった。
「やぁ。よろしく。俺は緑崎 優斗。剣術は初心者なんだ」
と爽やかに決めてみた。
「やめろキメー。お前の入学試験見てたっつったろ。あれでお前の本性なんて大概見抜いてんだよ」
「あっそう」
ツレない奴だなぁ。
もっとノってきてくれても良いのに。
ディーナなら絶対ノってくれてたぜ。
「オレぁケントっつうんだ。笑えるだろ。剣の字が入ってて、初心者とか宣うてめぇより弱いんだからな」
「いや別に。俺が強いのは当たり前だしな」
「……お前いい根性してんな」
「それ程でもあるぜ」
やってらんねー、とケントは部屋を出ていってしまった。
追いかけた方が良いのだろうか。
……いやなんで追いかけないかんのだ。
女の子ならまだしも。
やってらんねー。
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