女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第52話 意志を
「諦めねぇぞ、俺は」
修さんはそれでも。
気丈に立ち向かった。
当然だろう。
娘が懸かっているのだから。
俺だってそうするべきだ。
そうするべきなのに、俺は限界を超える事が出来ない。
全力の一撃を放って、体が動かない。
英雄と魔王。
あぁ――駄目だ。
無力過ぎて、涙すら出ない。
修さんは。
ボロボロになりながら立ち向かい、負けた。
死んだ。
殺された。
最後は呆気なかった。
修さんが不死身だったら……俺なんかじゃなく、修さんが不死身だったら勝ててたかもしれないのに。なんでだよ。
なんであんな強い人が負けるんだ。
なんで俺が生きてるんだ。
魔王は、動けない俺を――動かない俺を一瞥して、街の方へ歩き始めた。
街にはミラがいる。
メロネさんがいる。
セレナがいる。
セレナという名前は、セレンさんをもじったものらしい。
彼女のように気高く美しくあって欲しい、と。
そんな子を、あいつは喰らおうとしている。
駄目だ。
放っておいて良い訳がない。
ミラだっている。
あいつは俺が守らなければならない。
守らなければならない。
あいつは俺の嫁だから。
ミラは今戦えない。
魔王に勝てるはずがない。
メロネさんはどうだろうか。
恐らく無理だ。
セレンさんよりも感じる魔力が低かった。
修さんや俺の聖剣の一撃を受けて生きているような奴を殺せる威力の魔法は、恐らく放てない。動け。動けよ。動けよ!
体が言う事を聞かない。
主が俺でないようだ。
俺のような腰抜けは俺の主じゃないと。
俺自身の体が拒否しているようだった。
――意識が薄れて行く。
駄目だ。まだ保て。あいつを倒せ。
あいつを止めないと。
――俺は。
◆
気が付くと、ミラが隣にいて。
俺の知っている景色に戻っていた。
戻ってきたのだ。現実に。現世に。
俺が手をかざしていた白い少女は、刀になっていた。
一本の刀になっていた。
きっともう、二度と少女の姿にはならないのだろう。
俺が弱いせいで、修さんは死んだ。
この子がこうなる経緯を見逃してしまった。
「ユウト……」
「強くならないとな……」
強くならないと。
あいつはまだ生きている。
魔王はまだ生きている。
どこかで身を潜めている。
今度こそ。
次は絶対失敗しない。
今度こそ俺は守るべき人を、守らなければならない。
魔王を倒しても終わりではない。
その上に魔神がいるのだ。
気の遠くなるような道のりだ。
それでもやらなければならない。
先代の英雄を。
俺が超えて行くのだ。
修さんを超えて。
あいつを倒し、この世界を救う。
いや。
俺は俺の為に戦う。
俺の大切な人たちを守るために。
修さんのように。
俺は勝つ。
◆
今日あった事を。
今日体験した一か月間を、セレンさん、パルメ、レオルの三人に話した。
セレンさんは魔王の事を知らなかった。
だが、先代の英雄が何者かに殺されたという事だけは分かっていたらしい。それが恐らく、魔神の手先であろう事も。
セレンさんでも全てを把握出来ていないという事は、それだけ魔神が狡猾にやったという事だろう。俺が当事者になれたからたまたま知れただけで。
メロネさんの娘であるセレナについては、存在すらしていなかったとの事だった。
どういう事だろう――と考えかけたが、分からなかった。
そもそもメロネさんの娘をセレンさんが知っていれば、見た瞬間に分かっていたであろうから当然と言えば当然なのだが。
しばらく、過去の文献を漁ってみると言っていた。
何かが見つかると良いのだが。
パルメに関しては、そうか、程度で終わった。
もう少し問答があったが、彼女は完全に部外者だ。
何かあってからでは遅いし、元が付くとは言え竜王だ。魔王に狙われないとも限らないから伝えたまでである。
そして。
レオルは――
「オサムか。懐かしい名だな」
と。
「強かったぞ。オサムという人間は。余の遥か上を行っていた。……だが、そうか。殺されたのか。それは知らなかった。……そうか」
レオルはレオルなりに思うところがあるようで、考え込んでしまった。
恐らく、だが。
魔王は、こいつよりも強い。
吸血鬼の王をも凌ぐ可能性がある。
「……ユウトよ。正式に竜人と手を組みたい。余とて、その魔王とやらに思うところが無い訳ではない。……いや、思うところしかない。即座に探し出してこの手で殺してやりたいところだが、実際に見たユウトが無理と言うのならそうなのだろう。余も力を蓄え、鍛える」
と言い、レオルは影へ沈んで行った。
敢えてそれを追うような事はせず、レオルが座っていた辺りをぼんやりと眺める。
修さんは、異世界に来てから四年だと言っていた。
四年待てばあれだけ強くなれる訳じゃない。
一年。
いや、半年で彼を越える。
出来ないかも――とは思わない。
何故、俺はあの夢を見たのだろう。
見させられたのだろう。
セレナは存在しなかった娘だと言う。
誰がどのような意図でやったかは、俺には分からない。
だが、誰かが誰かに託す為に、あのような形にしていたのではないだろうか。分からないけどさ。
魔神を倒す、という目的の前に大きな目標が出来たな。
まずは修さんだ。
彼を超える。
英雄より強くなる。
そして、魔王を倒す。
その前にも障害があるかもしれないが、それもまとめて倒す。
誰よりも自分の為に。
自分の大切な者を守る人の強さを、俺は知った。
恐怖と同時に知った。
何よりも強い力を。
だから俺は負けない。
必ず勝って――修さんに。
あの暖かな家族に、報告しよう。
意志は確かに。
ここへ。
修さんはそれでも。
気丈に立ち向かった。
当然だろう。
娘が懸かっているのだから。
俺だってそうするべきだ。
そうするべきなのに、俺は限界を超える事が出来ない。
全力の一撃を放って、体が動かない。
英雄と魔王。
あぁ――駄目だ。
無力過ぎて、涙すら出ない。
修さんは。
ボロボロになりながら立ち向かい、負けた。
死んだ。
殺された。
最後は呆気なかった。
修さんが不死身だったら……俺なんかじゃなく、修さんが不死身だったら勝ててたかもしれないのに。なんでだよ。
なんであんな強い人が負けるんだ。
なんで俺が生きてるんだ。
魔王は、動けない俺を――動かない俺を一瞥して、街の方へ歩き始めた。
街にはミラがいる。
メロネさんがいる。
セレナがいる。
セレナという名前は、セレンさんをもじったものらしい。
彼女のように気高く美しくあって欲しい、と。
そんな子を、あいつは喰らおうとしている。
駄目だ。
放っておいて良い訳がない。
ミラだっている。
あいつは俺が守らなければならない。
守らなければならない。
あいつは俺の嫁だから。
ミラは今戦えない。
魔王に勝てるはずがない。
メロネさんはどうだろうか。
恐らく無理だ。
セレンさんよりも感じる魔力が低かった。
修さんや俺の聖剣の一撃を受けて生きているような奴を殺せる威力の魔法は、恐らく放てない。動け。動けよ。動けよ!
体が言う事を聞かない。
主が俺でないようだ。
俺のような腰抜けは俺の主じゃないと。
俺自身の体が拒否しているようだった。
――意識が薄れて行く。
駄目だ。まだ保て。あいつを倒せ。
あいつを止めないと。
――俺は。
◆
気が付くと、ミラが隣にいて。
俺の知っている景色に戻っていた。
戻ってきたのだ。現実に。現世に。
俺が手をかざしていた白い少女は、刀になっていた。
一本の刀になっていた。
きっともう、二度と少女の姿にはならないのだろう。
俺が弱いせいで、修さんは死んだ。
この子がこうなる経緯を見逃してしまった。
「ユウト……」
「強くならないとな……」
強くならないと。
あいつはまだ生きている。
魔王はまだ生きている。
どこかで身を潜めている。
今度こそ。
次は絶対失敗しない。
今度こそ俺は守るべき人を、守らなければならない。
魔王を倒しても終わりではない。
その上に魔神がいるのだ。
気の遠くなるような道のりだ。
それでもやらなければならない。
先代の英雄を。
俺が超えて行くのだ。
修さんを超えて。
あいつを倒し、この世界を救う。
いや。
俺は俺の為に戦う。
俺の大切な人たちを守るために。
修さんのように。
俺は勝つ。
◆
今日あった事を。
今日体験した一か月間を、セレンさん、パルメ、レオルの三人に話した。
セレンさんは魔王の事を知らなかった。
だが、先代の英雄が何者かに殺されたという事だけは分かっていたらしい。それが恐らく、魔神の手先であろう事も。
セレンさんでも全てを把握出来ていないという事は、それだけ魔神が狡猾にやったという事だろう。俺が当事者になれたからたまたま知れただけで。
メロネさんの娘であるセレナについては、存在すらしていなかったとの事だった。
どういう事だろう――と考えかけたが、分からなかった。
そもそもメロネさんの娘をセレンさんが知っていれば、見た瞬間に分かっていたであろうから当然と言えば当然なのだが。
しばらく、過去の文献を漁ってみると言っていた。
何かが見つかると良いのだが。
パルメに関しては、そうか、程度で終わった。
もう少し問答があったが、彼女は完全に部外者だ。
何かあってからでは遅いし、元が付くとは言え竜王だ。魔王に狙われないとも限らないから伝えたまでである。
そして。
レオルは――
「オサムか。懐かしい名だな」
と。
「強かったぞ。オサムという人間は。余の遥か上を行っていた。……だが、そうか。殺されたのか。それは知らなかった。……そうか」
レオルはレオルなりに思うところがあるようで、考え込んでしまった。
恐らく、だが。
魔王は、こいつよりも強い。
吸血鬼の王をも凌ぐ可能性がある。
「……ユウトよ。正式に竜人と手を組みたい。余とて、その魔王とやらに思うところが無い訳ではない。……いや、思うところしかない。即座に探し出してこの手で殺してやりたいところだが、実際に見たユウトが無理と言うのならそうなのだろう。余も力を蓄え、鍛える」
と言い、レオルは影へ沈んで行った。
敢えてそれを追うような事はせず、レオルが座っていた辺りをぼんやりと眺める。
修さんは、異世界に来てから四年だと言っていた。
四年待てばあれだけ強くなれる訳じゃない。
一年。
いや、半年で彼を越える。
出来ないかも――とは思わない。
何故、俺はあの夢を見たのだろう。
見させられたのだろう。
セレナは存在しなかった娘だと言う。
誰がどのような意図でやったかは、俺には分からない。
だが、誰かが誰かに託す為に、あのような形にしていたのではないだろうか。分からないけどさ。
魔神を倒す、という目的の前に大きな目標が出来たな。
まずは修さんだ。
彼を超える。
英雄より強くなる。
そして、魔王を倒す。
その前にも障害があるかもしれないが、それもまとめて倒す。
誰よりも自分の為に。
自分の大切な者を守る人の強さを、俺は知った。
恐怖と同時に知った。
何よりも強い力を。
だから俺は負けない。
必ず勝って――修さんに。
あの暖かな家族に、報告しよう。
意志は確かに。
ここへ。
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