女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第50話 群れ
「俄かには信じがたい。……が、メロネ。確か、人を武器にする禁忌魔法があると言っていたな」
「……はい。確かに存在します。私と、妹が魔法の生みの親ですから」
また新しい情報が入ったな。
魔法の生みの親。
魔の親。
魔の神。
魔神。
そういう事だったのか。
「恐らくこの方たちは嘘をついてません。……これから私たちの身に何かあって、娘を――セレナを刀として封印するのでしょう」
「…………やはり信じられないな。いや、お前たちの話が、じゃない。俺たちがそこまで追い詰められるような事態がある事に、だ」
どういう事なのかと聞くと、修さんは簡潔にその答えを言ってくれた。
「俺とメロネは世界最強だ。世界最強クラスでなく、最強なんだ。吸血鬼の王にも、竜王にも、光のハイエルフにも勝てる。そんな俺たちを、どういう追い詰め方したら娘を刀にするという結果まで至らせる事が出来るんだ?」
「……俺に聞かれても」
「そうだよな。すまない。お前も混乱してるんだよな。……いやしかし、よくここへ辿り着けたな。今この世界――今俺たちがいる世界が、何千年も後の娘の夢の中というのもやっぱり信じがたいが、お前たちの運の強さもそういう意味じゃあ信じがたいと思うぜ」
それはどうだろうな。
これが夢ならある程度は都合よく話が進んで当然な気もする。
俺の夢ではないんだけれども。
しかし、と修さんは前置きして、
「未来において既に起きてしまっている事を、過去で変えるというのは不可能なのだろうか」
「……どうなんでしょう。ここが『過去の夢』なら、何をしても変えられない可能性はありますけど」
「変えられる可能性もあるってこった」
ポジティブな人だなぁ。
今の自分が、娘の夢の中に出てくる登場人物に過ぎないのかもしれないと分かったうえで。これだけ明るいのは凄い。尊敬に値する。
先代の英雄か。
数千年前の、過去の英雄。
……興味があるな。
その強さに。
「修さん」
「どうした?」
「その……手合わせしませんか。軽くで良いんで」
「…………」
「……駄目ですか?」
いいや、と。
「お前にそっくりな奴が吸血鬼にいてな。……あぁ、お前も吸血鬼なんだっけか。じゃあ知ってっかな。流石に数千年後は生きてないかな。レオルって奴がいるんだよ」
「レオル!?」
「知ってんのか」
「知ってるもなにも、あいつ今吸血鬼の王ですよ」
「へえ。やるなぁあいつも。てことは今の王を殺したか説得したって事か……ふぅん。数千年後のレオルってどれくらい強いんだ?」
どれくらい、か。
あいつとまともに戦ったのは最初に出会った時のみだ。
……いや、あの時は戦いにすらなってなかったかもしれない。
「滅茶苦茶強いですよ。俺が全力でぶん殴ってもびくともしないんです」
「ふぅん。へーえ。じゃあ、手合わせの後に、俺とお前が知ってるレオルのどっちが強いか教えてくれよ」
結果から言えば。
手も足も出なかった。
凄まじい強さだ。
パワー、スピード、防御力、動体視力、反応速度、全てにおいて俺が上を行っている。はずなのだが、手も足も出なかった。
「戦闘経験が圧倒的に足りないな、優斗。確かにお前は力は強いし速いし、吸血鬼の特性まで持っているから厄介ではある。しかもその辺の吸血鬼を遥かに超える不死身ときた。が、厄介なだけだ」
汗もかいてない修さんが言った。
俺は汗だくだってのに。
スタミナも総量は俺の方が上なはずなんだが……
なんていうんだろうな。
馬力で勝ってるのにテクニックで負けてる。
単純にこういう事だろう。
「うし。お前らどうせ元に戻る方法が分かんないんなら、うちに泊まってろ。その間俺がお前を鍛えてやる。俺自身も鈍ってる部分があるからな。迫る脅威に備える意味でも、な」
「それは願ってもないことですけど、良いんですか?」
「何がだ」
「そんなに簡単に俺たちの事を信用して」
「はん。お前らが仮に敵でも、今のお前程度なら何も困らないからな。それに、俺だって幾つも修羅場潜ってんだ。嘘ついてる人間かそうじゃないかくらい、分かるつもりだぜ」
「……そうっすか」
「で、だ」
「?」
「俺とお前の知ってるレオル、どっちが強かった?」
「…………」
どうなんだろうな。
今の戦闘にしてもそうなのだが、二人とも底が見えないという点では同じだ。だが、戦えばどちらが勝つかは分かる。
「多分、強いのはレオルですよ」
「そうか」
修さんは、嬉しそうに笑いながら短くそう答えた。
◆
何事もなく。
何も起きずに、一ヵ月が経過した。
俺たちは依然として夢から出られないまま。
修さんたちに脅威は訪れなかった。
だが、近いうちであろうという事は分かる。
何故なら、未来で寝ている少女の年齢は、今ここにいるセレナと同じくらいに見えるからだ。と、言うより、同じだ。
身長とか。
「胸の大きさとか?」
「そうそう、胸の大きさとか――ってなんでやねん」
ベタなノリツッコミをミラとやり取りできるくらいには、平和だった。
今日今この瞬間までは。
「オサムさん!!」
家の外から、そんな叫び声が聞こえた。
修さんがすぐに対応したようで、その話声はほぼ聞こえなかったが、吸血鬼の聴力を全力で使わせてもらい多少は盗み聞き出来た。
この街の近隣に魔物が出たとの事だった。
それも、一匹や二匹じゃない。
大量発生したらしい。
「俺も手伝いますよ修さん」
「……すまない。助かる」
幾ら修さんが強いと言っても、それは対人戦の話だ。
相手が複数なら馬力で勝る俺の方が相対的に強くなる。
そんなので勝っても別に嬉しくないが。
「セレナ。母さんと一緒に留守番しててくれ。すぐに戻ってくるから」
「……分かった。うちは私に任せて! お母さんもうちも、私が守るから!」
「うーし」
くしゃ、と修さんがセレナの頭を撫でた。
そのセレナの服は。
俺が知っている、未来で昏睡しているセレナが着ているものと同じだった。
◆
街の入り口へ行くと、大勢の町人が扉を必死で抑えているところだった。
この街は壁に囲まれている。
というよりも大抵の街はそうなのだが。
入り口を破られれば、魔物がなだれ込んでくる。
「壁を飛び越えるぞ!!」
修さんが叫び、ぐっと溜めを作った後に跳躍した。
聖剣の持ち主なだけあって、超人的な動きだ。
ちなみに、ミラは置いてきた。
魔具なしのミラは普通の人間の強さの範疇を超えない。
今回みたいな件では、正直言って危ない。
セレナの服装の件もあるしな。
俺も修さんに続いてジャンプする。
修さんに比べれば溜めはなくて良いが――いや、こんな事いちいち意識してるから俺は弱いんだ。力なんて気にするな。
大事なのは強さだ。
「優斗は左側を頼む! 俺は右側からやる!」
「分かりました!」
ぞっとするような魔物の多さだった。
ウルフ系、オーク、オーガ、サイクロプスに――ミノタウロスまで。
大量に。
視界を埋めつくすほど大量に。
大量発生とかってレベルじゃないぞこんなの。
まずは扉に群がっているオーク共を殲滅する。
簡単な事だ。
順番に対処していけばどいつも大した事ない。
躱し、受け止め、斬る。
殴る。蹴る。
力は籠めなくて良い。
それくらい圧倒的な力が今の俺にはある。
この一ヵ月で学んだ事は、俺の戦闘スタイルは力み過ぎていた、という事だ。全て全力を尽くせば良いという事ではない。
大振りは簡単に避けられるし、カウンターも決めやすい。
ジャブ程度でオークくらいなら粉砕できるのだから、それ相応のパワーで戦えば良いのだ。
見る見るうちに魔物は減っていった。
修さんも対複数では……なんて思っていた俺が甘かった。
対複数でもめっちゃ強いじゃんあの人。
そりゃそうか。
俺より力が劣るからと言って、それは普通の人並の膂力である事を指す事にはならない。あの人もあの人で聖剣の持ち主なのだから、強くて当たり前か。
サイクロプスの棍棒を受けとめ、そのまま振り回して周りの魔物たちを圧し潰す。
これくらいなら――と思った時だった。
タイミング的には最悪で最高の場面だった。
俺の視力は、見てしまった。
遥か遠くから、ドラゴンの群れが飛んでくるのを。
「……はい。確かに存在します。私と、妹が魔法の生みの親ですから」
また新しい情報が入ったな。
魔法の生みの親。
魔の親。
魔の神。
魔神。
そういう事だったのか。
「恐らくこの方たちは嘘をついてません。……これから私たちの身に何かあって、娘を――セレナを刀として封印するのでしょう」
「…………やはり信じられないな。いや、お前たちの話が、じゃない。俺たちがそこまで追い詰められるような事態がある事に、だ」
どういう事なのかと聞くと、修さんは簡潔にその答えを言ってくれた。
「俺とメロネは世界最強だ。世界最強クラスでなく、最強なんだ。吸血鬼の王にも、竜王にも、光のハイエルフにも勝てる。そんな俺たちを、どういう追い詰め方したら娘を刀にするという結果まで至らせる事が出来るんだ?」
「……俺に聞かれても」
「そうだよな。すまない。お前も混乱してるんだよな。……いやしかし、よくここへ辿り着けたな。今この世界――今俺たちがいる世界が、何千年も後の娘の夢の中というのもやっぱり信じがたいが、お前たちの運の強さもそういう意味じゃあ信じがたいと思うぜ」
それはどうだろうな。
これが夢ならある程度は都合よく話が進んで当然な気もする。
俺の夢ではないんだけれども。
しかし、と修さんは前置きして、
「未来において既に起きてしまっている事を、過去で変えるというのは不可能なのだろうか」
「……どうなんでしょう。ここが『過去の夢』なら、何をしても変えられない可能性はありますけど」
「変えられる可能性もあるってこった」
ポジティブな人だなぁ。
今の自分が、娘の夢の中に出てくる登場人物に過ぎないのかもしれないと分かったうえで。これだけ明るいのは凄い。尊敬に値する。
先代の英雄か。
数千年前の、過去の英雄。
……興味があるな。
その強さに。
「修さん」
「どうした?」
「その……手合わせしませんか。軽くで良いんで」
「…………」
「……駄目ですか?」
いいや、と。
「お前にそっくりな奴が吸血鬼にいてな。……あぁ、お前も吸血鬼なんだっけか。じゃあ知ってっかな。流石に数千年後は生きてないかな。レオルって奴がいるんだよ」
「レオル!?」
「知ってんのか」
「知ってるもなにも、あいつ今吸血鬼の王ですよ」
「へえ。やるなぁあいつも。てことは今の王を殺したか説得したって事か……ふぅん。数千年後のレオルってどれくらい強いんだ?」
どれくらい、か。
あいつとまともに戦ったのは最初に出会った時のみだ。
……いや、あの時は戦いにすらなってなかったかもしれない。
「滅茶苦茶強いですよ。俺が全力でぶん殴ってもびくともしないんです」
「ふぅん。へーえ。じゃあ、手合わせの後に、俺とお前が知ってるレオルのどっちが強いか教えてくれよ」
結果から言えば。
手も足も出なかった。
凄まじい強さだ。
パワー、スピード、防御力、動体視力、反応速度、全てにおいて俺が上を行っている。はずなのだが、手も足も出なかった。
「戦闘経験が圧倒的に足りないな、優斗。確かにお前は力は強いし速いし、吸血鬼の特性まで持っているから厄介ではある。しかもその辺の吸血鬼を遥かに超える不死身ときた。が、厄介なだけだ」
汗もかいてない修さんが言った。
俺は汗だくだってのに。
スタミナも総量は俺の方が上なはずなんだが……
なんていうんだろうな。
馬力で勝ってるのにテクニックで負けてる。
単純にこういう事だろう。
「うし。お前らどうせ元に戻る方法が分かんないんなら、うちに泊まってろ。その間俺がお前を鍛えてやる。俺自身も鈍ってる部分があるからな。迫る脅威に備える意味でも、な」
「それは願ってもないことですけど、良いんですか?」
「何がだ」
「そんなに簡単に俺たちの事を信用して」
「はん。お前らが仮に敵でも、今のお前程度なら何も困らないからな。それに、俺だって幾つも修羅場潜ってんだ。嘘ついてる人間かそうじゃないかくらい、分かるつもりだぜ」
「……そうっすか」
「で、だ」
「?」
「俺とお前の知ってるレオル、どっちが強かった?」
「…………」
どうなんだろうな。
今の戦闘にしてもそうなのだが、二人とも底が見えないという点では同じだ。だが、戦えばどちらが勝つかは分かる。
「多分、強いのはレオルですよ」
「そうか」
修さんは、嬉しそうに笑いながら短くそう答えた。
◆
何事もなく。
何も起きずに、一ヵ月が経過した。
俺たちは依然として夢から出られないまま。
修さんたちに脅威は訪れなかった。
だが、近いうちであろうという事は分かる。
何故なら、未来で寝ている少女の年齢は、今ここにいるセレナと同じくらいに見えるからだ。と、言うより、同じだ。
身長とか。
「胸の大きさとか?」
「そうそう、胸の大きさとか――ってなんでやねん」
ベタなノリツッコミをミラとやり取りできるくらいには、平和だった。
今日今この瞬間までは。
「オサムさん!!」
家の外から、そんな叫び声が聞こえた。
修さんがすぐに対応したようで、その話声はほぼ聞こえなかったが、吸血鬼の聴力を全力で使わせてもらい多少は盗み聞き出来た。
この街の近隣に魔物が出たとの事だった。
それも、一匹や二匹じゃない。
大量発生したらしい。
「俺も手伝いますよ修さん」
「……すまない。助かる」
幾ら修さんが強いと言っても、それは対人戦の話だ。
相手が複数なら馬力で勝る俺の方が相対的に強くなる。
そんなので勝っても別に嬉しくないが。
「セレナ。母さんと一緒に留守番しててくれ。すぐに戻ってくるから」
「……分かった。うちは私に任せて! お母さんもうちも、私が守るから!」
「うーし」
くしゃ、と修さんがセレナの頭を撫でた。
そのセレナの服は。
俺が知っている、未来で昏睡しているセレナが着ているものと同じだった。
◆
街の入り口へ行くと、大勢の町人が扉を必死で抑えているところだった。
この街は壁に囲まれている。
というよりも大抵の街はそうなのだが。
入り口を破られれば、魔物がなだれ込んでくる。
「壁を飛び越えるぞ!!」
修さんが叫び、ぐっと溜めを作った後に跳躍した。
聖剣の持ち主なだけあって、超人的な動きだ。
ちなみに、ミラは置いてきた。
魔具なしのミラは普通の人間の強さの範疇を超えない。
今回みたいな件では、正直言って危ない。
セレナの服装の件もあるしな。
俺も修さんに続いてジャンプする。
修さんに比べれば溜めはなくて良いが――いや、こんな事いちいち意識してるから俺は弱いんだ。力なんて気にするな。
大事なのは強さだ。
「優斗は左側を頼む! 俺は右側からやる!」
「分かりました!」
ぞっとするような魔物の多さだった。
ウルフ系、オーク、オーガ、サイクロプスに――ミノタウロスまで。
大量に。
視界を埋めつくすほど大量に。
大量発生とかってレベルじゃないぞこんなの。
まずは扉に群がっているオーク共を殲滅する。
簡単な事だ。
順番に対処していけばどいつも大した事ない。
躱し、受け止め、斬る。
殴る。蹴る。
力は籠めなくて良い。
それくらい圧倒的な力が今の俺にはある。
この一ヵ月で学んだ事は、俺の戦闘スタイルは力み過ぎていた、という事だ。全て全力を尽くせば良いという事ではない。
大振りは簡単に避けられるし、カウンターも決めやすい。
ジャブ程度でオークくらいなら粉砕できるのだから、それ相応のパワーで戦えば良いのだ。
見る見るうちに魔物は減っていった。
修さんも対複数では……なんて思っていた俺が甘かった。
対複数でもめっちゃ強いじゃんあの人。
そりゃそうか。
俺より力が劣るからと言って、それは普通の人並の膂力である事を指す事にはならない。あの人もあの人で聖剣の持ち主なのだから、強くて当たり前か。
サイクロプスの棍棒を受けとめ、そのまま振り回して周りの魔物たちを圧し潰す。
これくらいなら――と思った時だった。
タイミング的には最悪で最高の場面だった。
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