女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第46話 洞窟は入るもの
途轍もなく嫌な夢を見たような感覚だった。
全て鮮明に覚えている。
あんな奴だったのか。魔神とは。
魔の神。神の魔。あいつの言葉には不思議な力がある。聞いているだけで立ちくらみがしそうだった。それに抗った吸血鬼の王と、抗えなかった光のハイエルフか。
狂わせる。
狂ったように躍らせるのがあいつだ。
「……はぁ」
魔神の話を鵜呑みにする訳じゃないが、あいつはまだこの世界に顕現していない。しばらくは顕現しない。それは分かった。案外、それを伝えるために呼ばれたのだとさえ思う。
……いや、これは好意的に解釈しすぎだな。
あいつに絆されている訳でもあるまいに。
『オレ達は紛れもなく同類だ』
その言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。
◆
「優斗さん、少し顔色が悪いですよ。もう少し休んでても大丈夫ですよ?」
「いえ、大丈夫です。ちょっとばかし考え事してただけですよ」
俺たちが何をしているかというと、死の森の再生だった。
土で埋められてしまったのでそれを掘り起こしているのだ。
死の森は広大だ。
しかし、俺が一人で重機みたいな働きをする以上、下手に人がいると危険がある。その為、森の掘り起こし作業は俺とセレンさんの二人で行う事になった。
いや、本当はもう少し人手があっても良かったのだが。
パルメが気を利かせたのか、俺たち二人だけにこの作業を宛がったのだ。正直嫌がらせかと思うくらいの作業量だが、まぁ良い。
ちょうどセレンさんに聞きたい事があったからな。
「セレンさん」
「はい?」
「今朝、魔神と会いました」
「……!」
「色々言われましたけど、結論として、魔神はまだしばらくこの世界に来ないみたいです」
「……そうですか」
それ以上は何も言わなかった。
何から言えば良いか、何を言って良いか分からなかったからだ。
聞きたい事や言いたい事はたくさんあったはずなのに。
いざ目の前にすると、言葉に詰まった。
魔神に狂わされたのだろうか。
少なくとも調子は狂わされている。
後味の悪い邂逅だった。
それにしても、空気が若干悪くなってしまった。
せっかくのセレンさんとの二人きりタイムなんだ。
堪能しなければならない。楽しまなければならない。
「セレ……なんだこれ?」
ちょうど今俺が土を掘り返したところに。
洞窟……のようなものがあった。
ちなみに、セレンさんのバリアのお陰で掘り起こしてすぐに植物に襲われるという事はない。
バリアがなければ、バリアで視界が開けていなければ、絶対見つからないであろう洞窟。自然に出来たものではない。舗装が施されている。
……が、かなり古いようにも見える。
「どうしました?」
「いえ、なんか変な洞窟があって」
「洞窟……?」
セレンさんも知らないのか。
近寄ってきて、その洞窟の入り口を見てセレンさんは首を捻った。
「人工的ではありますけど、手入れもされてないですね。昔の……相当昔のものでしょうか」
「遺跡みたいなもんですかね」
「だと思います」
「セレンさんが知らないって事は物凄い昔のものかもしれないんですよね」
「そうですね……もしかして入ろうとしてます? 優斗さん」
「もしかしなくても入ろうとしてます。わくわくするじゃないですか」
「……まぁ否定はしませんが」
「ですよね」
やはり俺とセレンさんで通じるものがあるようだ。
中の様子を伺ってみるが、暗くてよく見えない。
……暗くてよく見えない?
なんでだ?
俺吸血鬼なのに。
と、セレンさんが何かの魔法を唱えて俺とセレンさんの間に光る玉が浮遊した。
「これなんですか?」
「火属性魔法の応用です。触っても熱くはないですけど」
へー。
火属性魔法をどうやって応用したら熱くない光る玉が産まれるのか興味があるが、どうせ俺魔法使えないし聞いても理解できないんだろうな。
よーし行くぜ。
「ちょっと待ってください」
「へ?」
「罠とか仕掛けてある可能性があるので、私が先に行きます」
「いやそれなら俺が先に行った方が良いでしょう。死なないし」
「でも……」
「でももすもももももももものうちもありませんよ」
『も』のゲシュタルト崩壊を起こしそうな台詞を言いつつ、俺は洞窟内部に入った。
続いてセレンさんが「もう!」と言いながらついてくる。
セレンさんが出してくれた光の玉のお陰で内部はよく見える。
何故暗いときは見えなかったんだろう……
「そういう魔法がかけられているのかもしれません。灯りがないと視えなくするような認識阻害魔法は昔から存在するので」
「なるほど」
そうまでして隠したいものがここにあるという事か。
なんて話しながら進んで行くが、ずっと真っすぐで特に何も面白いものは無いな。時折蝙蝠っぽい魔物が出てくるが、そんなのを障害に感じるようなレベルじゃない。俺もセレンさんも。
ちょっと手で叩けば終わりだ。
ぱちんと。
……うん?
「行き止まりだ」
「行き止まりですね」
何もない。
あるのはただ岩の壁のみだ。
えー。
ここまで来て何もなしかよ。
「いえ、多分どこかに……あ、ほら、これですよ」
床に、よーく見ればほんの少しだけ色合いが違う岩の盛り上がりがあった。
それに触れてみると、なるほど。
下に沈むような造りになっている。
かち、という音がした訳じゃないが、岩を押し込むと。
「――うぉ」
「きゃっ!?」
床が消えた。
咄嗟にセレンさんを抱き寄せ、羽を出して浮遊する。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
ゆっくりと下に降りて行くと、広い部屋だった。
ガチャン、と音がして上の床が閉まった。
戻れない……なんて事はないが。
最悪あれぶち抜けば良いし。
「……あそこ何か描いてありません?」
床に何か……魔法陣みたいなのが描いてある。
「召喚魔法陣ですね。あの形は確か――」
セレンさんがそこまで言いかけたところで、魔法陣が青白く光りだす。
これ絶対何か出てくる流れだろ。
「あの魔法陣ぶっ壊したら出てこなくなるとかあります?」
「いえ、下手に手を出すと大量に召喚されたりして大変なので待つしかないです。
……あの形はミノタウロスですね。魔法陣の大きさからして、かなり巨大なのが出てくると思います」
「ミノタウロス……」
牛の化け物か。
なんとなく想像はつく。
ずずず、と魔法陣から牛の角を持った化け物が出てくる。
牛の頭に人の体。
おお、でかい。5メートルくらいか。
迫力は満点だが――
ぶん、と振り下ろされた斧を受けとめる。
血術の特性を掴めてきた気がする。
防御に偏らせるか攻撃に偏らせるか、その時の状況によって変化させる事が出来る。今の場合は防御だ。斧を受けとめた右腕を重点的に血術で覆った。
一瞬でミノタウロスの体が凍り付く。
セレンさんの魔法だ。
それと同時に、ミノタウロスの背後に大きめの両開きの扉が現れた。
終わりか。
「呆気ないですね」
「……普通はミノタウロスの斧を受けとめたりできませんけどね」
「一瞬で凍り付かせるだけの魔法の使い手も中々いないんじゃないですか?」
と。
扉が勝手に開いた。
中には金銀財宝が――
なんて事はなく。
あったのは一振りの刀だった。
片刃の軽く反りの入った、波打つ紋様が美しい日本刀だ。
それが、透明な岩の中にあった。
……日本刀……だよな?
「何故こんなところに日本刀が……?」
あれ。
セレンさんも知らないのか。
「これ、出して良いんですかね。岩……? 水晶? に守られてますけど」
「どうなんでしょう……守護していた魔物を倒したので、資格はあると思いますが……」
よし。
じゃあ出しちゃおう。
「あ、これ最初に触れた人にしか使えないとかありますかね」
「こういうのは大抵《神器》になるので、多分そうだと思います」
「使います?」
「いえ、私は魔法主体ですし」
じゃあ俺が貰っちゃおう。
水晶を割るために触れてみると、その水晶が消え、日本刀だけがゆっくりと落ちてきた。
刀を掴んだ瞬間。
刀が、女の子になった。
全て鮮明に覚えている。
あんな奴だったのか。魔神とは。
魔の神。神の魔。あいつの言葉には不思議な力がある。聞いているだけで立ちくらみがしそうだった。それに抗った吸血鬼の王と、抗えなかった光のハイエルフか。
狂わせる。
狂ったように躍らせるのがあいつだ。
「……はぁ」
魔神の話を鵜呑みにする訳じゃないが、あいつはまだこの世界に顕現していない。しばらくは顕現しない。それは分かった。案外、それを伝えるために呼ばれたのだとさえ思う。
……いや、これは好意的に解釈しすぎだな。
あいつに絆されている訳でもあるまいに。
『オレ達は紛れもなく同類だ』
その言葉が、頭の中でぐるぐると回っていた。
◆
「優斗さん、少し顔色が悪いですよ。もう少し休んでても大丈夫ですよ?」
「いえ、大丈夫です。ちょっとばかし考え事してただけですよ」
俺たちが何をしているかというと、死の森の再生だった。
土で埋められてしまったのでそれを掘り起こしているのだ。
死の森は広大だ。
しかし、俺が一人で重機みたいな働きをする以上、下手に人がいると危険がある。その為、森の掘り起こし作業は俺とセレンさんの二人で行う事になった。
いや、本当はもう少し人手があっても良かったのだが。
パルメが気を利かせたのか、俺たち二人だけにこの作業を宛がったのだ。正直嫌がらせかと思うくらいの作業量だが、まぁ良い。
ちょうどセレンさんに聞きたい事があったからな。
「セレンさん」
「はい?」
「今朝、魔神と会いました」
「……!」
「色々言われましたけど、結論として、魔神はまだしばらくこの世界に来ないみたいです」
「……そうですか」
それ以上は何も言わなかった。
何から言えば良いか、何を言って良いか分からなかったからだ。
聞きたい事や言いたい事はたくさんあったはずなのに。
いざ目の前にすると、言葉に詰まった。
魔神に狂わされたのだろうか。
少なくとも調子は狂わされている。
後味の悪い邂逅だった。
それにしても、空気が若干悪くなってしまった。
せっかくのセレンさんとの二人きりタイムなんだ。
堪能しなければならない。楽しまなければならない。
「セレ……なんだこれ?」
ちょうど今俺が土を掘り返したところに。
洞窟……のようなものがあった。
ちなみに、セレンさんのバリアのお陰で掘り起こしてすぐに植物に襲われるという事はない。
バリアがなければ、バリアで視界が開けていなければ、絶対見つからないであろう洞窟。自然に出来たものではない。舗装が施されている。
……が、かなり古いようにも見える。
「どうしました?」
「いえ、なんか変な洞窟があって」
「洞窟……?」
セレンさんも知らないのか。
近寄ってきて、その洞窟の入り口を見てセレンさんは首を捻った。
「人工的ではありますけど、手入れもされてないですね。昔の……相当昔のものでしょうか」
「遺跡みたいなもんですかね」
「だと思います」
「セレンさんが知らないって事は物凄い昔のものかもしれないんですよね」
「そうですね……もしかして入ろうとしてます? 優斗さん」
「もしかしなくても入ろうとしてます。わくわくするじゃないですか」
「……まぁ否定はしませんが」
「ですよね」
やはり俺とセレンさんで通じるものがあるようだ。
中の様子を伺ってみるが、暗くてよく見えない。
……暗くてよく見えない?
なんでだ?
俺吸血鬼なのに。
と、セレンさんが何かの魔法を唱えて俺とセレンさんの間に光る玉が浮遊した。
「これなんですか?」
「火属性魔法の応用です。触っても熱くはないですけど」
へー。
火属性魔法をどうやって応用したら熱くない光る玉が産まれるのか興味があるが、どうせ俺魔法使えないし聞いても理解できないんだろうな。
よーし行くぜ。
「ちょっと待ってください」
「へ?」
「罠とか仕掛けてある可能性があるので、私が先に行きます」
「いやそれなら俺が先に行った方が良いでしょう。死なないし」
「でも……」
「でももすもももももももものうちもありませんよ」
『も』のゲシュタルト崩壊を起こしそうな台詞を言いつつ、俺は洞窟内部に入った。
続いてセレンさんが「もう!」と言いながらついてくる。
セレンさんが出してくれた光の玉のお陰で内部はよく見える。
何故暗いときは見えなかったんだろう……
「そういう魔法がかけられているのかもしれません。灯りがないと視えなくするような認識阻害魔法は昔から存在するので」
「なるほど」
そうまでして隠したいものがここにあるという事か。
なんて話しながら進んで行くが、ずっと真っすぐで特に何も面白いものは無いな。時折蝙蝠っぽい魔物が出てくるが、そんなのを障害に感じるようなレベルじゃない。俺もセレンさんも。
ちょっと手で叩けば終わりだ。
ぱちんと。
……うん?
「行き止まりだ」
「行き止まりですね」
何もない。
あるのはただ岩の壁のみだ。
えー。
ここまで来て何もなしかよ。
「いえ、多分どこかに……あ、ほら、これですよ」
床に、よーく見ればほんの少しだけ色合いが違う岩の盛り上がりがあった。
それに触れてみると、なるほど。
下に沈むような造りになっている。
かち、という音がした訳じゃないが、岩を押し込むと。
「――うぉ」
「きゃっ!?」
床が消えた。
咄嗟にセレンさんを抱き寄せ、羽を出して浮遊する。
「あ、ありがとうございます」
「いえいえ」
ゆっくりと下に降りて行くと、広い部屋だった。
ガチャン、と音がして上の床が閉まった。
戻れない……なんて事はないが。
最悪あれぶち抜けば良いし。
「……あそこ何か描いてありません?」
床に何か……魔法陣みたいなのが描いてある。
「召喚魔法陣ですね。あの形は確か――」
セレンさんがそこまで言いかけたところで、魔法陣が青白く光りだす。
これ絶対何か出てくる流れだろ。
「あの魔法陣ぶっ壊したら出てこなくなるとかあります?」
「いえ、下手に手を出すと大量に召喚されたりして大変なので待つしかないです。
……あの形はミノタウロスですね。魔法陣の大きさからして、かなり巨大なのが出てくると思います」
「ミノタウロス……」
牛の化け物か。
なんとなく想像はつく。
ずずず、と魔法陣から牛の角を持った化け物が出てくる。
牛の頭に人の体。
おお、でかい。5メートルくらいか。
迫力は満点だが――
ぶん、と振り下ろされた斧を受けとめる。
血術の特性を掴めてきた気がする。
防御に偏らせるか攻撃に偏らせるか、その時の状況によって変化させる事が出来る。今の場合は防御だ。斧を受けとめた右腕を重点的に血術で覆った。
一瞬でミノタウロスの体が凍り付く。
セレンさんの魔法だ。
それと同時に、ミノタウロスの背後に大きめの両開きの扉が現れた。
終わりか。
「呆気ないですね」
「……普通はミノタウロスの斧を受けとめたりできませんけどね」
「一瞬で凍り付かせるだけの魔法の使い手も中々いないんじゃないですか?」
と。
扉が勝手に開いた。
中には金銀財宝が――
なんて事はなく。
あったのは一振りの刀だった。
片刃の軽く反りの入った、波打つ紋様が美しい日本刀だ。
それが、透明な岩の中にあった。
……日本刀……だよな?
「何故こんなところに日本刀が……?」
あれ。
セレンさんも知らないのか。
「これ、出して良いんですかね。岩……? 水晶? に守られてますけど」
「どうなんでしょう……守護していた魔物を倒したので、資格はあると思いますが……」
よし。
じゃあ出しちゃおう。
「あ、これ最初に触れた人にしか使えないとかありますかね」
「こういうのは大抵《神器》になるので、多分そうだと思います」
「使います?」
「いえ、私は魔法主体ですし」
じゃあ俺が貰っちゃおう。
水晶を割るために触れてみると、その水晶が消え、日本刀だけがゆっくりと落ちてきた。
刀を掴んだ瞬間。
刀が、女の子になった。
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