女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第43話 唯一人の王
それに気付けたのは、奇跡だったとしか言いようがない。
たまたま向いた方向に、たまたまそいつがいた。
金髪長身の男のエルフ。
巨大な――長大な弓をその手に持っている。
ゆっくりとした動作で弓を引き――射った。
その目標は。目的は、パルメだ。
城の一番上。一番分かりやすく、一番的になりやすい場所に立っている竜王だ。
普通なら届くはずのない距離だ。
それでも届くと直感し、放っておけばパルメは死ぬと確信できた。
咄嗟に射線上に身を割り込ませる。
「ユウト――!?」
パルメの驚きと戸惑いの混じった声が聞こえる。
のとほぼ同時に、俺の体に矢が突き刺さった。
「ぐ――」
両手で掴もうとするが、俺の握力を持ってしてもその矢は止まらなかった。俺の体を貫き、パルメへ迫る。ガァン、と凄まじい衝突音が響いた。
竜王の殻――だったか。
そいつが、パルメを守った。
殻にひびが入っている。
俺が飛び出した意味もゼロじゃなかったという事か。
ちなみに俺の傷は既に完治している。矢が体を貫いていった程度じゃあ死なない。
パルメは無事。矢を射った奴は――
いなくなっている、な。
「ユウト!! 大丈夫なのか!?」
「平気だ。心配すんな」
とんとんと矢が貫通した部分を叩きながら言う。
「……そんな事より、エルフ達の動きが早くなってるな」
四方から迫るエルフ達が、それぞれ一人のエルフを筆頭に脚を早めていた。
馬に乗っていないだけマシというものか。
……どうするかな。
「……あたしが北側を一人でやる。後は――」
「なら俺は東を一人でやろう」
「なら、私は西ですかね」
「ボクは一人でってのは無理だよ。残りで南をやる形になるのかな」
セレンさんは……心配する必要もないか。
各自エルフ2万~3万人ずつ、ってくらいか?
竜の海には三万人の竜人がいるらしいから、南に三万も割ければ余裕だろう。
問題は俺が一人でやれるかってことだが……やると言ったからにはやるしかないな。
「お前ら……。よし分かった。任せる!! 信じるぞ!!」
任せろ。
信じて待ってな。
◆
「とは言ったものの、実際目の前にすると圧巻だなぁおい」
遠くの方では爆発音が鳴り響いている。
セレンさんやパルム達が戦闘を始めたのだろう。
俺の方ももうすぐだ。
一番先頭にいたエルフが俺に気付いたようだが、たかが一人と見たのか、特に何かしてくる様子はない。舐められたものだ。
出来ればそのまま舐めててくれ。
その方がやりやすい。
聖剣を構える。
あの超必を撃てば3万人のうちの何千人かは一発でやれるだろうが、その後がきついんだよな。
あれは奥の手だ。
まずは3万人を倒す算段より、足止めする事を考えないとな。
先頭の奴を倒せば止まってくれるだろうか。
「……やるか」
呟き、一歩目を踏み切る。
直後には、先頭を走っていたエルフを斬っていた。
「さぁこいエルフ共。俺が相手だ!!」
たった今倒した奴が持っていた剣を持ち、叫ぶ。
群がってくるエルフ達を斬り捨てながら、先へ進もうとする奴の元へ跳んでいって、飛んでいって止める。
避ける事も防御する事も考えてなんてられない。
精々、聖剣を持った右腕が吹き飛ばされないようにするくらいだ。
これを失うと弱体化しちゃうからな。
そう考えると影にしまった方が良いのだろうか。でも、普通の剣だと数人斬ったところで切れ味が著しく落ちるんだよな。
とりあえずこのままで良いか。
「押し固めろ!! こいつを止めろおおお!!」
誰かが叫んだ。
そっちから群がってきてくれるなら好都合だぜ。
舐めんな――
「――おおおらあああああ!!」
物量で押しつぶそうとしてきたエルフ達を、力ずくで跳ね除ける。
戦国無双でもしている気分だ。
人が。人の命が。
ゴミのように吐き捨てられる。掃いて捨てられる。
「あああああああああ!!」
叫ぶ。
叫んで、気勢を下げまいとする。
怯むな。
動け、動け、前へ進め。
誰も前へ進ませるな。
止めろ。
食い止めろ――!!
血術がどんどん研ぎ澄まされて行く。
聖剣から得られる力がどんどん増えて行く。
一撃が百人単位を葬る。
衝撃波に掠りでもすればそれだけでエルフの体は抉れる。
吸血鬼や竜人に比べればかなり脆い。
魔法か何かでエンチャントしているのか、稀にしぶとい奴がいるくらいだ。
ここから先へは進まない。
進もうとするなら止める。
「――はぁっ」
大きく息を吐く。
一息つく。
その瞬間に、無数の槍や剣が体に突き立てられる。
痛みを感じる前に、纏わりついてくる奴らを弾き飛ばす。
俺を無視して進もうとする奴の影を引き千切る。影に攻撃することも出来るようだ。
そろそろ半分くらいは行ったか? 全然か?
数が全然分からない。
遠目で見てる分には分かりやすかったのにな。
滅茶苦茶多いって。
中に入ってしまえば、目の前にいる奴のついでに周りも吹き飛ばすくらいだ。
聖剣を振るう衝撃で何人か斬る事も出来るようになった。
あの超必とはまた違った感じだ。純粋に空気圧で斬れてる感じ。
「――あ、悪魔だ」
誰かがそう呟いた。
ように聞こえた。
或いは俺自身がそう自分で思ったのかもしれない。
悪魔か。
悪い魔、か。
魔神と戦っているはずなのに、皮肉なものだ。
影を棘のような形にして、辺り一帯を地面から突き刺す。
「貴様は、吸血鬼の王か?」
気が付くと、立っている者はほとんどいなくなっていた。
そして、少し離れたところに見覚えのある顔があった。
パルメを射った奴だ。
「……違う。冒険者だ」
「そうか。残念だ。ここで吸血鬼の王も一緒に殺せれば一石二鳥だったのだがな」
この男、さっき見た時は弓を持っていたはずなのだが。
今は持っておらず、代わりに見栄えの良い剣を持っていた。
……剣と剣か。
得意じゃないんだよな、剣術は。
「我は光のハイエルフと呼ばれている。冒険者よ、行くぞ」
「――来い」
ギィン、と甲高い金属音が鳴った。
剣と剣がぶつかり合い、弾き合う。
右から攻めて。左から攻めて。突いて。
全て防がれ、返ってくる。
それを躱し、防ぎ、受ける。
こっちは受けても死なないからな。
随分と有利な戦いもあったもんだ。
「気付いていないのか」
「……あ?」
「貴様、先ほどから受けた傷が回復していないぞ。不死力が尽きたのだ」
「――――」
言われて、気が付いた。
左腕はだらりと千切れかかって。腹には深い刺し傷があり。脚は引きずる他ない程損傷していた。
「……貴様はもう終わりだ。我が同胞を何万も葬った貴様を生かしておく理由もない。ここで死んでもらう」
「……死なねぇよ、俺は」
女神様お墨付きだからな。
治る。
治って、行く。
「……なるほど。我々は貴様のような輩を化け物と呼ぶのだが、吸血鬼の中ではなんと呼ばれているのだ?」
「さぁな」
化け物、て呼ばれるんじゃねぇかな。
「いいや。余は『友達』と呼ぶぞ」
俺の目の前まで迫っていた剣が、止まった。
止められた。
「よく堪えた。遅くなってすまないな」
吸血鬼の中で。
ただ一人、王と呼ばれるそいつは。
牙を見せて、嗤った。
たまたま向いた方向に、たまたまそいつがいた。
金髪長身の男のエルフ。
巨大な――長大な弓をその手に持っている。
ゆっくりとした動作で弓を引き――射った。
その目標は。目的は、パルメだ。
城の一番上。一番分かりやすく、一番的になりやすい場所に立っている竜王だ。
普通なら届くはずのない距離だ。
それでも届くと直感し、放っておけばパルメは死ぬと確信できた。
咄嗟に射線上に身を割り込ませる。
「ユウト――!?」
パルメの驚きと戸惑いの混じった声が聞こえる。
のとほぼ同時に、俺の体に矢が突き刺さった。
「ぐ――」
両手で掴もうとするが、俺の握力を持ってしてもその矢は止まらなかった。俺の体を貫き、パルメへ迫る。ガァン、と凄まじい衝突音が響いた。
竜王の殻――だったか。
そいつが、パルメを守った。
殻にひびが入っている。
俺が飛び出した意味もゼロじゃなかったという事か。
ちなみに俺の傷は既に完治している。矢が体を貫いていった程度じゃあ死なない。
パルメは無事。矢を射った奴は――
いなくなっている、な。
「ユウト!! 大丈夫なのか!?」
「平気だ。心配すんな」
とんとんと矢が貫通した部分を叩きながら言う。
「……そんな事より、エルフ達の動きが早くなってるな」
四方から迫るエルフ達が、それぞれ一人のエルフを筆頭に脚を早めていた。
馬に乗っていないだけマシというものか。
……どうするかな。
「……あたしが北側を一人でやる。後は――」
「なら俺は東を一人でやろう」
「なら、私は西ですかね」
「ボクは一人でってのは無理だよ。残りで南をやる形になるのかな」
セレンさんは……心配する必要もないか。
各自エルフ2万~3万人ずつ、ってくらいか?
竜の海には三万人の竜人がいるらしいから、南に三万も割ければ余裕だろう。
問題は俺が一人でやれるかってことだが……やると言ったからにはやるしかないな。
「お前ら……。よし分かった。任せる!! 信じるぞ!!」
任せろ。
信じて待ってな。
◆
「とは言ったものの、実際目の前にすると圧巻だなぁおい」
遠くの方では爆発音が鳴り響いている。
セレンさんやパルム達が戦闘を始めたのだろう。
俺の方ももうすぐだ。
一番先頭にいたエルフが俺に気付いたようだが、たかが一人と見たのか、特に何かしてくる様子はない。舐められたものだ。
出来ればそのまま舐めててくれ。
その方がやりやすい。
聖剣を構える。
あの超必を撃てば3万人のうちの何千人かは一発でやれるだろうが、その後がきついんだよな。
あれは奥の手だ。
まずは3万人を倒す算段より、足止めする事を考えないとな。
先頭の奴を倒せば止まってくれるだろうか。
「……やるか」
呟き、一歩目を踏み切る。
直後には、先頭を走っていたエルフを斬っていた。
「さぁこいエルフ共。俺が相手だ!!」
たった今倒した奴が持っていた剣を持ち、叫ぶ。
群がってくるエルフ達を斬り捨てながら、先へ進もうとする奴の元へ跳んでいって、飛んでいって止める。
避ける事も防御する事も考えてなんてられない。
精々、聖剣を持った右腕が吹き飛ばされないようにするくらいだ。
これを失うと弱体化しちゃうからな。
そう考えると影にしまった方が良いのだろうか。でも、普通の剣だと数人斬ったところで切れ味が著しく落ちるんだよな。
とりあえずこのままで良いか。
「押し固めろ!! こいつを止めろおおお!!」
誰かが叫んだ。
そっちから群がってきてくれるなら好都合だぜ。
舐めんな――
「――おおおらあああああ!!」
物量で押しつぶそうとしてきたエルフ達を、力ずくで跳ね除ける。
戦国無双でもしている気分だ。
人が。人の命が。
ゴミのように吐き捨てられる。掃いて捨てられる。
「あああああああああ!!」
叫ぶ。
叫んで、気勢を下げまいとする。
怯むな。
動け、動け、前へ進め。
誰も前へ進ませるな。
止めろ。
食い止めろ――!!
血術がどんどん研ぎ澄まされて行く。
聖剣から得られる力がどんどん増えて行く。
一撃が百人単位を葬る。
衝撃波に掠りでもすればそれだけでエルフの体は抉れる。
吸血鬼や竜人に比べればかなり脆い。
魔法か何かでエンチャントしているのか、稀にしぶとい奴がいるくらいだ。
ここから先へは進まない。
進もうとするなら止める。
「――はぁっ」
大きく息を吐く。
一息つく。
その瞬間に、無数の槍や剣が体に突き立てられる。
痛みを感じる前に、纏わりついてくる奴らを弾き飛ばす。
俺を無視して進もうとする奴の影を引き千切る。影に攻撃することも出来るようだ。
そろそろ半分くらいは行ったか? 全然か?
数が全然分からない。
遠目で見てる分には分かりやすかったのにな。
滅茶苦茶多いって。
中に入ってしまえば、目の前にいる奴のついでに周りも吹き飛ばすくらいだ。
聖剣を振るう衝撃で何人か斬る事も出来るようになった。
あの超必とはまた違った感じだ。純粋に空気圧で斬れてる感じ。
「――あ、悪魔だ」
誰かがそう呟いた。
ように聞こえた。
或いは俺自身がそう自分で思ったのかもしれない。
悪魔か。
悪い魔、か。
魔神と戦っているはずなのに、皮肉なものだ。
影を棘のような形にして、辺り一帯を地面から突き刺す。
「貴様は、吸血鬼の王か?」
気が付くと、立っている者はほとんどいなくなっていた。
そして、少し離れたところに見覚えのある顔があった。
パルメを射った奴だ。
「……違う。冒険者だ」
「そうか。残念だ。ここで吸血鬼の王も一緒に殺せれば一石二鳥だったのだがな」
この男、さっき見た時は弓を持っていたはずなのだが。
今は持っておらず、代わりに見栄えの良い剣を持っていた。
……剣と剣か。
得意じゃないんだよな、剣術は。
「我は光のハイエルフと呼ばれている。冒険者よ、行くぞ」
「――来い」
ギィン、と甲高い金属音が鳴った。
剣と剣がぶつかり合い、弾き合う。
右から攻めて。左から攻めて。突いて。
全て防がれ、返ってくる。
それを躱し、防ぎ、受ける。
こっちは受けても死なないからな。
随分と有利な戦いもあったもんだ。
「気付いていないのか」
「……あ?」
「貴様、先ほどから受けた傷が回復していないぞ。不死力が尽きたのだ」
「――――」
言われて、気が付いた。
左腕はだらりと千切れかかって。腹には深い刺し傷があり。脚は引きずる他ない程損傷していた。
「……貴様はもう終わりだ。我が同胞を何万も葬った貴様を生かしておく理由もない。ここで死んでもらう」
「……死なねぇよ、俺は」
女神様お墨付きだからな。
治る。
治って、行く。
「……なるほど。我々は貴様のような輩を化け物と呼ぶのだが、吸血鬼の中ではなんと呼ばれているのだ?」
「さぁな」
化け物、て呼ばれるんじゃねぇかな。
「いいや。余は『友達』と呼ぶぞ」
俺の目の前まで迫っていた剣が、止まった。
止められた。
「よく堪えた。遅くなってすまないな」
吸血鬼の中で。
ただ一人、王と呼ばれるそいつは。
牙を見せて、嗤った。
コメント