女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜
第40話 夜這い
「そうか……好きな人がいるのか……なら仕方がない。あたしの事を好きになるまで待つぞ。強い男があたしは好きだからな」
吸血鬼の王辺りとくっついててくれ。
確かに見てくれは美人だが。
でも夫のことあんな躊躇なく本気でぶん殴れちゃう嫁とか嫌だよ。
「そんな事より俺たちに協力することを約束してくれ。竜人の長としてな」
「うん? そんなのずっと前から協力するって言ってるじゃないか」
馬鹿だこいつやっぱ馬鹿なんだこいつ。
お前が四天王どうこう言いだしてこうなったんだろうに……
「すみません、竜王様はこういう性格なんです。今日はもう遅いですし、部屋を用意致しましたのでそちらでお休みください」
色違いマリアさんに(いい加減この呼び方は失礼かもしれない)案内されている途中で、マリアさんが声をかけてきた。
「すみませんユウト様。わたしが棄権なんてしたばかりに……」
「いや、どっちにしろ竜王はあの勝負を吹っかけてきたと思うけど……なんでマリアさん棄権したんだ?」
四天王が全員あんな感じの強さなら決して勝てない相手ではないと思うのだが。
「王に竜人と揉め事を起こさないように言い預かってましたので」
「あぁ……」
あいつのせいか。
じゃああいつが悪い。
マリアさんは悪くない。
まぁでも、先に言った通り、マリアさんが四天王を倒してても俺は竜王と殴り合いをやらされてたんだろうな。完全に俺をロックオンしてたし。
案内された部屋は普通に豪華な部屋だった。
金使ってんなーって感じの。
シャワーまで付いてら。
ホテルでもないのにこんな宿泊設備整えてるのか。
ていうかそもそもあんだけ障害用意してたら客なんて来ないだろ。
竜の海内部で色々取引があるのだろうか。
ベッドは大きいし机の上には果物とか置いてあるし、VIPにでもなった気分だ。実際のVIPクラスがどんな扱い受けるか知らないけどね。
そもそも俺、普通のホテルとかもほとんど行ったことないし。
修学旅行で泊まったくらいじゃないか。
「とりあえずシャワー浴びて寝るか……」
今日は色々疲れた。
主に竜王のせいだが。
四人で来いと言った理由が四天王と戦わせたかったとか、笑えなさすぎる冗談だしな。
ちなみに。
シャワーは冷水しか出なかった。
温水も出るようにしとけよ……
明日にでも竜王に文句言っとくか。
なんて考えつつ、用意されていたバスローブに身を包み、俺は眠りについた。
◆
ゴソゴソと何かが動く気配を感じて、起きる。
窓を見る限りまだ夜だ。
「……何やってんだお前」
吸血鬼は夜目が効く。
闇に乗じて何かをしようとしてもそれは無駄なのだ。
俺の視界には、ピンク色の女の子っぽいパジャマに身を包んだ竜王がいた。あんな豪快な性格で趣味はばっちり女の子かよ。兎の刺繍なんて入れやがって。
「完全に気配を消してたつもりなんだが、流石はあたしの旦那だな!」
「馬鹿野郎静かにしろ」
そもそもお前の旦那じゃない。
「なんだ? 殻を破られた仕返しにでも来たのか?」
「ただ単に寝込みを襲いに来ただけだ! 性的にな!」
女の子が性的にとか言うなよ。
思っても男の前で口にするなよ。
「俺には心に決めた人がいるんだ。帰れ」
「あの三人の中の誰だ?」
「……一番胸の大きい人だ」
「ふむ。あたしも多分あれくらいあるぞ」
それは言われなくても分かってる。
パジャマってなんで基本的に生地が薄いんだろうな。
そもそもそのパジャマサイズ合ってないだろ。一個下のを無理やり着てる感じだ。
胸の辺りとかぱっつんぱっつんじゃないか。
もっとゆったりしたのにしろよ。そんなんじゃ寝辛いだろ。
「秘書に言われた通りの恰好をしてきたんだが、駄目だったか?」
「…………」
あの色違いマリアさんか。
いらぬ知恵を授けやがって……
無しか有りかで言えば大有りだが。
「まぁ落ち着け。俺たちはまだ会ったばかりだろう。そういう段階まで進んでないはずだ」
「『既成事実を作ってしまえば逃げられない』」
誰の言葉だそれは。
少なくともこいつが考えた事じゃないのは分かる。
くそ、敵だらけじゃないかこの城。
ここに泊まったのはまずかったか……
等と考えていると、竜王に押し倒された。
抵抗は出来なかった。どういう理屈か、物理的に出来なかった。
何これ体が動かない。怖い。
「人体には幾つか、そこを押さえられると動けなくなるツボがあってよー」
へーそうなんだ。
なんて言ってる場合じゃねぇ。
「あたしの母上も同じ方法で父上を襲ったらしいからな。血は争えねーよな」
そこは争って欲しかった。
抗って欲しかった。
「俺と結婚すると生まれる子どもは混血になるぞ?」
「問題ねー。強ければ良いんだよ」
俺の強さは聖剣と元々ある不死身と吸血鬼化の三つの要素から成り立ってるから子どもも強くなるとは限らないんだが。
それを一から説明している暇はなさそうだ。
大声を出して――
「おっと」
ずん、と首元を親指で抑えられた。
声が出ない。
舌の動きを封じるツボとかあるんだ。
知らなかった。
「安心しろよ。父上と母上は仲良しだからな。ラブラブだぜ」
だからと言って俺たちもそうなるとは限らないだろう。
なんて思っても言葉には出せず、バスローブを脱がせられる。
俺が脱いでも誰も得しないよ。落ち着け竜王。俺お前の名前すら知らないぞ。竜王ということしか知らないぞ。
ステイステイ、クールダウンだ。
……はっ。
血術があるじゃないか。
あれは血でなくエネルギーをコントロールするものだが、血はエネルギーでエネルギーは血だ。血の流れもある程度はコントロールできるはず。
俺が落ち着けば良いんだ。
…………。
「……で、ここからどうすれば良いんだ?」
おい。
おい竜王。
とその秘書。
ここまでしといて何もなしかよ。
そりゃないぜ。
いや、俺は拒否するんだけどさ。
立場上ね。
でも何もなしはひどいだろう。
非道だろう。
「く……」
あ。
体が動かせなくても動かせるものがあるじゃないか。
影を使って、竜王を押しのける。
「うわっ!?」
ようやく動くようになった体で、逆に竜王を組み伏せる。
影も併用して押さえつける。
純粋なパワーなら俺の方が上のようだ。
殻は……攻撃意志がなければ発動しないのだろうか。それともさっき割ったからもう無いのだろうか。
「形勢逆転だな、竜王」
「ぐぅ……」
完全に組み伏せられてしまった竜王は悔しそうに唸る。
……今の体勢も傍から見れば俺が竜王を襲っているように見えるだろうが、誤解だ。逆なんだよ。襲われてたのを回避したらこうなったんだ。
「あたしの負けだ。煮るなり焼くなり抱くなり好きにしてくれ」
「油断も隙もあったもんじゃねぇな。抱くなりをこっそり入れるな。煮る訳ないし焼きもしねぇし抱きもしない」
「あたしに魅力がないからか? おっぱいはこんなにあるのに!」
むに、と自分の胸を持ち上げながら嘆く竜王。
そういうところだよ。
女の子は恥じらいあってこそだ。というのが俺の持論である。
というかいつの間に俺の拘束から抜け出したんだ。
侮れないというか抜け目ないなこいつ。
なにが煮るなり焼くなりだ。ちゃっかり逃げようとしてんじゃないか。
「……別に結婚くらいいーじゃんかよ。他に好きな人がいるってんなら、あたしは側室でもいーぜ。そうなるとユウトが竜王になるけど」
「俺は竜人じゃないんだが」
「強けりゃいーんだよ」
そんな適当なものなのか竜王って。
竜人の中で一番強い奴がなるんじゃないのか。
「四天王辺りが許さないんじゃないのか? そんなの」
「あ? なんでだ?」
「あいつらは竜の海の中でも一番強い四人組なんだろ? お前が竜王やめるってんなら次はあいつらのうちの誰かじゃないのか」
「違うけど。あいつらはその辺歩いてた兵士だ」
……そうなのか。
いやまぁ、確かに、本当に一番強い奴から数えて四人ならちょっと弱い気もしてたが。多分エルランスの方が強いくらいだったしな。
そうか。
より強い奴もいるのか。
「明日にでも本当に上から四人を集めようか? わくわくしてるような顔してるぜ、ユウト」
「冗談じゃない」
俺はお前と違って戦闘狂じゃないんだ。
痛いのは嫌だし。
「ふぅん……ま、今日は諦めるか。そういう気分じゃなくなっちゃったし。ユウト達はいつまでここにいるつもりなんだ?」
「……さぁな。早けりゃ明日にでも出るんじゃないか」
「えー! えーえー! もっといてくれよー!」
子どもかこいつは。
「もっといてくれなきゃ協力なんてしないもんねーだ」
「子どもはお前は!」
誓約書でも書かせるか。
魔法的な拘束力があれば……ってあれ?
吸血鬼の王はあっさりと魔神を裏切ったが、魔力的な拘束は無かったのだろうか。
……斎藤にチート能力がほとんど与えられてなかったり、元々強い吸血鬼を仲間に引き入れたり、色々と力をセーブしているのは何となく感じていたが。
斎藤自身も『省エネ』がどうこうとか言ってたしな。確か。
魔神も女神だった時のセレンさんと同じくらいの力を持っているんなら、俺みたいなのを一人こっちに送り込むだけで随分と変わると思うんだがなぁ。
他人をそこまで信じられないとかセレンさんは言っていたが。
案外その辺りが付け込む隙なんじゃないだろうか。
或いは吸血鬼の王は実は魔力的な拘束を受けていて、裏切ったフリをしているだけ――とか。
マリアさんを派遣したのはスパイの役目……と言うのは既に否定したことか。これは無いな。そもそもマリアさんを呼んだのはミラだ。
ミラが実はスパイだったなんて展開だったら魔神の根回しが良いとかってレベルじゃない。未来を見て先読みされているくらいの勢いだ。
「……なぁ」
「なんだ。今俺は考え事してんだよ」
「……そろそろどいてくれないかな。せっかく今日は退散しようと思ってたのに、また――」
「うわあ!」
どいた。
そうえいばずっと竜王に馬乗りになってたんだった。
セレンさんやミラに見られてたら何と言われてたか分からないぞ。
「とにかく、明日は歓迎パーティ開いてやるからまだ帰るんじゃないぞ。あたしが満足するまでいてもらうからな」
それって結婚に同意するまでってことじゃないのか――と言おうとする前に、竜王は部屋から出ていってしまった。
…………。
……扉閉めてけよ。
吸血鬼の王辺りとくっついててくれ。
確かに見てくれは美人だが。
でも夫のことあんな躊躇なく本気でぶん殴れちゃう嫁とか嫌だよ。
「そんな事より俺たちに協力することを約束してくれ。竜人の長としてな」
「うん? そんなのずっと前から協力するって言ってるじゃないか」
馬鹿だこいつやっぱ馬鹿なんだこいつ。
お前が四天王どうこう言いだしてこうなったんだろうに……
「すみません、竜王様はこういう性格なんです。今日はもう遅いですし、部屋を用意致しましたのでそちらでお休みください」
色違いマリアさんに(いい加減この呼び方は失礼かもしれない)案内されている途中で、マリアさんが声をかけてきた。
「すみませんユウト様。わたしが棄権なんてしたばかりに……」
「いや、どっちにしろ竜王はあの勝負を吹っかけてきたと思うけど……なんでマリアさん棄権したんだ?」
四天王が全員あんな感じの強さなら決して勝てない相手ではないと思うのだが。
「王に竜人と揉め事を起こさないように言い預かってましたので」
「あぁ……」
あいつのせいか。
じゃああいつが悪い。
マリアさんは悪くない。
まぁでも、先に言った通り、マリアさんが四天王を倒してても俺は竜王と殴り合いをやらされてたんだろうな。完全に俺をロックオンしてたし。
案内された部屋は普通に豪華な部屋だった。
金使ってんなーって感じの。
シャワーまで付いてら。
ホテルでもないのにこんな宿泊設備整えてるのか。
ていうかそもそもあんだけ障害用意してたら客なんて来ないだろ。
竜の海内部で色々取引があるのだろうか。
ベッドは大きいし机の上には果物とか置いてあるし、VIPにでもなった気分だ。実際のVIPクラスがどんな扱い受けるか知らないけどね。
そもそも俺、普通のホテルとかもほとんど行ったことないし。
修学旅行で泊まったくらいじゃないか。
「とりあえずシャワー浴びて寝るか……」
今日は色々疲れた。
主に竜王のせいだが。
四人で来いと言った理由が四天王と戦わせたかったとか、笑えなさすぎる冗談だしな。
ちなみに。
シャワーは冷水しか出なかった。
温水も出るようにしとけよ……
明日にでも竜王に文句言っとくか。
なんて考えつつ、用意されていたバスローブに身を包み、俺は眠りについた。
◆
ゴソゴソと何かが動く気配を感じて、起きる。
窓を見る限りまだ夜だ。
「……何やってんだお前」
吸血鬼は夜目が効く。
闇に乗じて何かをしようとしてもそれは無駄なのだ。
俺の視界には、ピンク色の女の子っぽいパジャマに身を包んだ竜王がいた。あんな豪快な性格で趣味はばっちり女の子かよ。兎の刺繍なんて入れやがって。
「完全に気配を消してたつもりなんだが、流石はあたしの旦那だな!」
「馬鹿野郎静かにしろ」
そもそもお前の旦那じゃない。
「なんだ? 殻を破られた仕返しにでも来たのか?」
「ただ単に寝込みを襲いに来ただけだ! 性的にな!」
女の子が性的にとか言うなよ。
思っても男の前で口にするなよ。
「俺には心に決めた人がいるんだ。帰れ」
「あの三人の中の誰だ?」
「……一番胸の大きい人だ」
「ふむ。あたしも多分あれくらいあるぞ」
それは言われなくても分かってる。
パジャマってなんで基本的に生地が薄いんだろうな。
そもそもそのパジャマサイズ合ってないだろ。一個下のを無理やり着てる感じだ。
胸の辺りとかぱっつんぱっつんじゃないか。
もっとゆったりしたのにしろよ。そんなんじゃ寝辛いだろ。
「秘書に言われた通りの恰好をしてきたんだが、駄目だったか?」
「…………」
あの色違いマリアさんか。
いらぬ知恵を授けやがって……
無しか有りかで言えば大有りだが。
「まぁ落ち着け。俺たちはまだ会ったばかりだろう。そういう段階まで進んでないはずだ」
「『既成事実を作ってしまえば逃げられない』」
誰の言葉だそれは。
少なくともこいつが考えた事じゃないのは分かる。
くそ、敵だらけじゃないかこの城。
ここに泊まったのはまずかったか……
等と考えていると、竜王に押し倒された。
抵抗は出来なかった。どういう理屈か、物理的に出来なかった。
何これ体が動かない。怖い。
「人体には幾つか、そこを押さえられると動けなくなるツボがあってよー」
へーそうなんだ。
なんて言ってる場合じゃねぇ。
「あたしの母上も同じ方法で父上を襲ったらしいからな。血は争えねーよな」
そこは争って欲しかった。
抗って欲しかった。
「俺と結婚すると生まれる子どもは混血になるぞ?」
「問題ねー。強ければ良いんだよ」
俺の強さは聖剣と元々ある不死身と吸血鬼化の三つの要素から成り立ってるから子どもも強くなるとは限らないんだが。
それを一から説明している暇はなさそうだ。
大声を出して――
「おっと」
ずん、と首元を親指で抑えられた。
声が出ない。
舌の動きを封じるツボとかあるんだ。
知らなかった。
「安心しろよ。父上と母上は仲良しだからな。ラブラブだぜ」
だからと言って俺たちもそうなるとは限らないだろう。
なんて思っても言葉には出せず、バスローブを脱がせられる。
俺が脱いでも誰も得しないよ。落ち着け竜王。俺お前の名前すら知らないぞ。竜王ということしか知らないぞ。
ステイステイ、クールダウンだ。
……はっ。
血術があるじゃないか。
あれは血でなくエネルギーをコントロールするものだが、血はエネルギーでエネルギーは血だ。血の流れもある程度はコントロールできるはず。
俺が落ち着けば良いんだ。
…………。
「……で、ここからどうすれば良いんだ?」
おい。
おい竜王。
とその秘書。
ここまでしといて何もなしかよ。
そりゃないぜ。
いや、俺は拒否するんだけどさ。
立場上ね。
でも何もなしはひどいだろう。
非道だろう。
「く……」
あ。
体が動かせなくても動かせるものがあるじゃないか。
影を使って、竜王を押しのける。
「うわっ!?」
ようやく動くようになった体で、逆に竜王を組み伏せる。
影も併用して押さえつける。
純粋なパワーなら俺の方が上のようだ。
殻は……攻撃意志がなければ発動しないのだろうか。それともさっき割ったからもう無いのだろうか。
「形勢逆転だな、竜王」
「ぐぅ……」
完全に組み伏せられてしまった竜王は悔しそうに唸る。
……今の体勢も傍から見れば俺が竜王を襲っているように見えるだろうが、誤解だ。逆なんだよ。襲われてたのを回避したらこうなったんだ。
「あたしの負けだ。煮るなり焼くなり抱くなり好きにしてくれ」
「油断も隙もあったもんじゃねぇな。抱くなりをこっそり入れるな。煮る訳ないし焼きもしねぇし抱きもしない」
「あたしに魅力がないからか? おっぱいはこんなにあるのに!」
むに、と自分の胸を持ち上げながら嘆く竜王。
そういうところだよ。
女の子は恥じらいあってこそだ。というのが俺の持論である。
というかいつの間に俺の拘束から抜け出したんだ。
侮れないというか抜け目ないなこいつ。
なにが煮るなり焼くなりだ。ちゃっかり逃げようとしてんじゃないか。
「……別に結婚くらいいーじゃんかよ。他に好きな人がいるってんなら、あたしは側室でもいーぜ。そうなるとユウトが竜王になるけど」
「俺は竜人じゃないんだが」
「強けりゃいーんだよ」
そんな適当なものなのか竜王って。
竜人の中で一番強い奴がなるんじゃないのか。
「四天王辺りが許さないんじゃないのか? そんなの」
「あ? なんでだ?」
「あいつらは竜の海の中でも一番強い四人組なんだろ? お前が竜王やめるってんなら次はあいつらのうちの誰かじゃないのか」
「違うけど。あいつらはその辺歩いてた兵士だ」
……そうなのか。
いやまぁ、確かに、本当に一番強い奴から数えて四人ならちょっと弱い気もしてたが。多分エルランスの方が強いくらいだったしな。
そうか。
より強い奴もいるのか。
「明日にでも本当に上から四人を集めようか? わくわくしてるような顔してるぜ、ユウト」
「冗談じゃない」
俺はお前と違って戦闘狂じゃないんだ。
痛いのは嫌だし。
「ふぅん……ま、今日は諦めるか。そういう気分じゃなくなっちゃったし。ユウト達はいつまでここにいるつもりなんだ?」
「……さぁな。早けりゃ明日にでも出るんじゃないか」
「えー! えーえー! もっといてくれよー!」
子どもかこいつは。
「もっといてくれなきゃ協力なんてしないもんねーだ」
「子どもはお前は!」
誓約書でも書かせるか。
魔法的な拘束力があれば……ってあれ?
吸血鬼の王はあっさりと魔神を裏切ったが、魔力的な拘束は無かったのだろうか。
……斎藤にチート能力がほとんど与えられてなかったり、元々強い吸血鬼を仲間に引き入れたり、色々と力をセーブしているのは何となく感じていたが。
斎藤自身も『省エネ』がどうこうとか言ってたしな。確か。
魔神も女神だった時のセレンさんと同じくらいの力を持っているんなら、俺みたいなのを一人こっちに送り込むだけで随分と変わると思うんだがなぁ。
他人をそこまで信じられないとかセレンさんは言っていたが。
案外その辺りが付け込む隙なんじゃないだろうか。
或いは吸血鬼の王は実は魔力的な拘束を受けていて、裏切ったフリをしているだけ――とか。
マリアさんを派遣したのはスパイの役目……と言うのは既に否定したことか。これは無いな。そもそもマリアさんを呼んだのはミラだ。
ミラが実はスパイだったなんて展開だったら魔神の根回しが良いとかってレベルじゃない。未来を見て先読みされているくらいの勢いだ。
「……なぁ」
「なんだ。今俺は考え事してんだよ」
「……そろそろどいてくれないかな。せっかく今日は退散しようと思ってたのに、また――」
「うわあ!」
どいた。
そうえいばずっと竜王に馬乗りになってたんだった。
セレンさんやミラに見られてたら何と言われてたか分からないぞ。
「とにかく、明日は歓迎パーティ開いてやるからまだ帰るんじゃないぞ。あたしが満足するまでいてもらうからな」
それって結婚に同意するまでってことじゃないのか――と言おうとする前に、竜王は部屋から出ていってしまった。
…………。
……扉閉めてけよ。
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