女神と一緒に異世界転移〜不死身の体と聖剣はおまけです〜

子供の子

第3話 年齢詐称

 世界を救うために異世界に来た俺とセレンさんだが、世界を救う前の俺たちは当然ではあるがただの浮浪者であり不労無所得者だった。


 当初の予定では、この世界の通貨を持ってくるはずだったらしい。
 流通に影響の出ない範囲で、女神の力を用いて作るつもりだったのだとか。


 だがそれをうっかり忘れてしまった。


 セレンさん、意外にもドジっ娘属性を持っていたようだ。


 俺の魂(と書いてソウルと読む)としては萌え属性が追加されただけのエピソードであって何ら困らないのだが、人間優斗さんは飯食わないと餓死するし屋根のあるところじゃないと眠れない生粋の日本人だ。セレンさんも今の状態では食ったり寝たりしないといけないとの事なので条件は同じである。


「良いですよ別に気にしなくて。間違いは誰にでもあることですし、ようはそれを挽回できるかできないかで評価は決まるんです。そもそも俺の中でのセレンさんの評価は揺らぐことなく花丸級なので気に病む必要性は皆無なんです」


 なんて言って慰めたが、自分の失態には厳しいらしく頑なに謝罪の姿勢を崩さなかったセレンさんと、妥協案で『一つだけなんでも言う事を聞く』という事になったのはまた別の話だ。
 棚から牡丹餅どころじゃない話である。


 実際まじで気にしてないんだけど。
 せっかく異世界に来たんだから冒険の一つくらいは初っ端に挿入したって良いじゃないか。夢にまで見たといえば言い過ぎかもしれないが、誰しも夢想くらいはしたことがあるだろう。


 それはともかくとして、俺たちは冒険者ギルドへやってきたわけだ。
 中に入った瞬間セレンさんに集中する荒くれ者共(先入観だけではない。実際に柄の悪そうというか素行の悪そうな奴らがわんさかいる)の視線を威嚇しつつ牽制しながら、カウンターっぽいところへ向かう。


「依頼を受けたいのですが」


 言ってみたかった台詞である。


「こんにちは。当ギルドのご利用は初めてですか?」


 にっこりと対応してくれる受付嬢さん。
 美人だなぁ。そういえばさっきから醜いと言えるような女性とすれ違ってすらないような気がする。もしかしてこの世界って女性の容姿のレベルが軒並み高かったりするのか?


「初めてですね」


 当然初めてである。


 ……と、もしかしてセレンさんは利用した事あったりするのかと思って、少し後ろで待機している彼女を振り返って見たらこくりと頷かれた。
 対応としては間違ってないようだ。


「では、こちらのカードにお名前と年齢、性別、得意な武器や特技、使用できる魔法の属性とそれぞれの最も難易度の高い魔法のランク、その他のご記入をお願いします」


 え、ちょっと待って、字とか書けな――いや、書けるな。なんでか頭の中にインプットされている。そもそも言葉が何の違和感もなく通じてるし、カードだとかランクだとか本来横文字な言葉も違和感なく聞き取れてる。


 考えるまでもなくセレンさんの仕事だろう。
 言葉が通じている時点で気が付いても良かったことだな、これは。


 それはそうとして。


「セレンさん、魔法の属性とかランクとかよく分からないんですけど……」
「不明、と書いておけばいいですよ……ね?」


 セレンさんの問いかけに受付嬢さんがこくりと頷く。
 なるほど。案外適当なんだな。


「お客様を疑っているわけではなく、皆様に注意させて頂いていることなのですが、虚偽の記述をされますとこちらで分かるようになっております。それが発覚した際には冒険者としての登録が一定期間認められなくなります。
 それから、犯罪歴があったりしても同じく一定期間認められなかったり、場合によっては永劫登録禁止となる事もあります」


 へぇ。
 全然適当じゃないじゃん。


 じゃあこのギルドにいるあの荒くれ者共は、言うほど荒くれてるわけでもないって事か。なんちゃってヤンキーだ。


 ま、組合とか言ってたしそれくらいの規制はあって当然なんだろうな。
 俺が元いた世界と違ってそれを判定する基準が魔法であるだけだ。


「あちらのスペースがありますので、どうぞあちらにてお書きください。書き終えたら持ってきて頂いて、問題なければそれで登録完了となります」
「承知です」


 という訳で案内されたスペースで書く。


 名前は緑崎優斗。を、この世界の……というかこの国の言語で。ちなみにユウト ミドリザキの順番になる。英語みたいだな。文字の形は全然アルファベットじゃないけど。
 年齢は18。


 …………そういえばセレンさんって何歳なんだろう。


 と思いちら、とセレンさんのカードを見ると、そこには18の数字が。


 目が合う。
 誰とってそりゃセレンさんとだろう。


「……嘘書くとバレるって言ってましたよ」
「女神補正です」
「…………」
「女神補正です」


 という事だった。
 何百歳とか何千歳とか何万歳とかそういう単位だと思うんだけど、そこは何か不思議パワーで誤魔化せるらしい。


 女神補正か……。


 永遠の18歳なのだろうか。
 それはそれで背徳的な響きがあるな。ギリギリ条例にひっかからないライン。
 この世界にその手の条例があるかまでは流石に頭の中にインプットされてないが。


 さておき。


 得意武器ってなんだろう。
 この剣の事を書けば良いのかな。剣? いやでも得意かどうかなんてわからないんだよな……剣道部とかだったら分かりやすいんだけど、残念ながら道のつくスポーツはやった事がない。柔道を体育でやったくらいか。


 んー。不明で良いや。


 セレンさんは何やらさらさらと書き込んでいるが、また不正の瞬間を目撃してしまう可能性もあるので控えておく。多少ミステリアスな方が女性は魅力的だと言うだろう。


 自分の方に集中だ。


 ……けどこうしてみると、ほとんど不明だな。
 名前年齢性別くらいはもちろん自分で把握しているが、魔法やらランクやらはもちろん、特技なんかも何を書けば良いやら。


 特技という特技なんてけん玉くらいしかねーよ。それも小学校の時に無双したきりやってないから今出来るかも分からん。
 ……不明だな、不明。


 結局まともに書き込めたのは名前年齢性別だけである。あぁあと大まかな身長体重。170㎝の65㎏である。ちなみにセレンさんは俺より身長は少し低いくらいだ。体重は知らない。女の人の体重ってどれくらいが平均なんだろう。色々と発達してるセレンさんは平均より重かったりするんだろうか。


 などと考えていると、セレンさんがふとこちらを向いた。


「な、なんすか。シーソーしたらどっちに傾くんだろうなんて考えてませんよ」
「それはもはや何を考えていたのか自白に近いものがありますけど……ちなみに、優斗さんの身長体重は知ってますがシーソーしたら優斗さんの方にずどんですからね。
 と、そんな事より優斗さん、特技の欄は何書きました?」
「不明ですけど」


 けん玉って書くわけにもいかないだろう。嘘をつくわけではないし。だって本当に出来るかどうか分からないんだもん。


「多分そこ、『超再生体質』とか書いておかないと嘘判定されますよ。優斗さんも認識・・している事ですし」
「え、それも特技に含まれるんですか?」


 つまりは不死身の事だろう。
 ふーん、難儀なものだなぁ。


「多分不明で出しても、指摘されて書き直すくらいで済みますけどね」
「適当なようで厳しいのに曖昧なんですね」
「これで弾かれるのは、相当な極悪人くらいです」


 ふぅん。
 冒険者ってなるだけなら簡単になれてしまうんだな。
 もちろん、なった後の事がどうかは知らないが。


 そんなこんなで話してるうちにセレンさんも書き終わったようで、先ほどの受付嬢さんのところへ持っていく。定型文のお礼を言いながら受け取った受付嬢さんはそのカードの内容を見ずに、手元にある水晶? のようなものにカードをかざした。


 そのまま一秒か二秒か待っていると、


「……はい。これで登録は完了致しました。今すぐに依頼を受けていかれますか?」


 特に何のイベントもなく冒険者登録が完了したようだった。
 こういうのってなんか、え! このステータスは……! みたいな展開が待っているもんじゃないのか。いや、受付嬢さんがカードの内容見なかった時点でなんとなく分かってたけどさ。


 冷静に考えれば個人情報がまぁまぁ事細かく書いてあるんだから、いくら受付とは言えまじまじと見るわけもないか。魔法がある世界だからと言って、プライバシーに対する配慮がないわけではないのだろう。


 依頼の方だが、当然今受けないと今夜泊まる宿がないわけだから受けるしか選択肢がない。


「どんなのがあるんですか?」
「うーん……」


 尋ねてみると何やら書類をぱらぱらとめくりだす受付嬢さん。
 やがて幾つかめぼしいものを見つけたようで、


「これとかこれはどうでしょう?」


 提示されたものは――


『ペットの小竜を探してください 少女 報酬1000ゴールド』
『ゴブリンの生け捕り二匹 研究者 報酬2000ゴールド』
『偽装彼氏として一日付き合ってください 男 報酬20000ゴールド』


 の三つだった。
 ……最後からそこはかとなく感じるヤバさはなんだろう。
 そこはかとなくとかじゃないな。直球でヤバイよ。


「1ゴールドって円にするとどんなもんの価値になります?」
「国や地域によって差は出ますが、大体1ゴールド1円の感覚ですね」
「……1000円や2000円じゃ宿には泊まれないですよねぇ」
「…………そうですね」


 小声でひそひそ話す俺たちに怪訝な顔をする受付嬢さん。


「他のありません? もうちょっと難易度高くて良いんで」


 三つ目の一日彼氏を選択するという選択肢はないでもない。でも選びたくない。内容のあとに少女とか研究者とかあるのは、きっと依頼者の職業なり性別なりを現しているのだろう。


 そこで問題の『偽装彼氏』とやらは、男となっている。やばいよこれ。ペットの小竜を探してくださいby少女ならまだしも偽装彼氏として一日付き合ってくださいbyバイだよ。
 ねぇよ。これだけは絶対ねーよ。


「これより少し難しい程度の依頼になりますと、人気もあって中々この時間までは残らず、中堅以上の冒険者さんが受けていかれるようなものしか残ってないのですが……」
「受ける分には構わないんです?」
「勿論そうですが、命を落としてしまったりした場合、こちらでは責任を負えませんのであまりオススメは出来ない、というのが本音ですね」


 受付嬢さんが申し訳なさそうに言う。
 うーむ。
 命を落とす、か。


 多分それ、俺の今帯びてる属性が不死である事が本当ならば(先ほどのカードに書いた奴が嘘判定されていない以上、本当である事はほとんど証明されたようなものだけど)、生命に関する危機は恐らくないんだよな。


「セレンさん、ぶっちゃけどれくらいの難易度までならいけると思います?」


 という質問に対し、


「多分、私だけでも中堅冒険者が受ける依頼くらいならこなせる……と思いますけど、実際やった事はないので確実かと言われるとちょっと……」


 うん。


 じゃあ中堅冒険者が受けるくらいの難易度にしとこうか。多分もっと上でもなんとかなるんだろうけど。セレンさんの性格上、俺に伝えている時点で相当安全マージンを取っていることだろう。中堅くらいなら大丈夫と言うんなら、その真意は中堅程度なら余裕という事だ。


 と、思う。
 思うだけであって本当はどうか知らんけど。聞いても多分否定するだろうし。


「という訳でそれなりな難易度でも大丈夫です。なるべくコストパフォーマンスの良いものをお願いします。……偽装彼氏以外で」
「……はい」


 受付嬢さんが苦笑いだったのは、きっと最もコスパが良いのが偽装彼氏だったからだろう。
 たぶん命の危険はないだろうからな。危機にさらされるのは貞操だけだ。たぶんね。


「となりますと、これらのどれか、という事になりますが……」


 そう言われて提示されたのは先ほどと同じ三つ。
 とは言え、内容はかなり違ったが。


『ウェアウルフの討伐50匹 狩人 30万ゴールド』『オークの群れ掃討(オーガが率いている可能性有り) 町長 50万(100万)ゴールド』『火竜の牙 研究者 一つにつき200万ゴールド』


 うひゃあ。
 うひゃあ、だ。


 急に桁違いである。文字通り。
 名前だけで見た目が想像できる魔物ばかりだが、中でもやばそうなのは火竜の牙だな。これ本当に中堅冒険者が受けるものなのか? 


 俺の想像しているより竜がしょぼいのか、俺の想像しているより中堅のレベルが高いのかは知らないが、いずれにせよ一個で200万というのは相当なものだ。これは避けた方が良さそうだな。


「優斗さんにとっての最初の戦闘なので、人型のオークが良いと思います。仮にオーガが出たとしても、私の魔法で十分援護出来るので怪我する心配もないですし」


 と、ここでセレンさんの意見。
 なるほど。それを突っぱねる道理もない。


「というわけでオークの群れ掃討でお願いします」


 その依頼の書かれた紙を受付嬢さんに渡すと、


「それではこちらの誓約書にサインをお願いします」
「誓約書」
「依頼中に亡くなった際、責任の在処を明確にしておく必要がありますので……」


 はーん。
 死んでもギルドに文句言うなよって事ね。


 異世界ライフ、分かってたが甘くはないなぁ。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品