異世界坊主の無双でハーレム生活

かぐつち

各所の反応 銀細工屋 流行りの儀式

 それは第一印象では若干嫌な客だった。
 少女を二人連れた良い年をした男、男は槍と、少女の片方は杖を持っている事から、冒険者である事は判った。何も持っていない少女は、どこかの看板娘か?良い生地の服を着ている事から裕福な様子が見て取れる。
 裕福そうな少女に手を引かれて店の前に来た男の第一声が
「こんな安物で良いのか?」
 だった、確かに安物だが、それを言うのはマナー違反だろう。金細工は高すぎてこうした路上で売る物では無い。
「安物言うなよお客さん、ちゃんと銀だぜ?」
 そんな微妙な客だろうと、女連れた冒険者は金離れが良いのだ、追い返すものではない。
「純度いくつだ?」
 何気にしつこいが、ちゃんと混ぜるものは細工屋組合での規定値の銅と亜鉛だ、すなわち純銀扱いで良い。ちなみに細かく言うと銀95%・銅4%・亜鉛1%だ、混ぜ無いと柔らかすぎてすぐ曲がるのだ。
「ちゃんと純銀だって。」
 胸を張る、銅と亜鉛を混ぜていると言うと作り方を解らない素人は嫌な顔をする。
「良いんですよ最初は安物で、高いのは後でも買えるんですから。」
 高い物をねだるのかと思ったお嬢まで安物言い出した。
「お嬢ちゃんまで安物言うなっての。」
 流石に突っ込み疲れてぐったりと返す。
「ちょっと見せてもらいますよ。」
 言うが早いか、品定めを始めたようだ。
「ちゃんと買ってくれよ?」
 買ってくれれば文句は言わない。
「物次第です。」
 お嬢は手慣れた様子で左手薬指に指輪をはめてサイズを確認している、納得したのか、指輪をはめて、似合うか見比べているようだ。
「一先ずこれですかね、エリスちゃんと和尚さんもこの辺でお揃い出来ればいいんですけど。」
 お揃いも何も、飾り石の無い一番安い指輪だ。
「じゃあこのへんか。」
 男も同じ並びの石無し指輪を確認している。
「ほら、エリスちゃんも。」
 そう言って、小さいお嬢ちゃんの指に同じような指輪をはめてサイズ確認をしている、どうやらこの小さいお嬢は自分に振られるとは思っていなかったらしくされるがままだ。
「これで良いですかね、違和感ありません?」
 不思議そうな顔で手をにぎにぎと動かして確認している。
「大丈夫です。」
 サイズはあったか、揃いで買うのか?
「で、この三つで幾らです?」
 3つ纏めて買ってくれるなら上出来だ。
「3つまとめて銀貨6枚と言いたいが少し値引いて5枚にしといてやる。」
 多少サービスしても罰は当たらんだろう、新入りが練習で作るようなシンプルな指輪だ。
「はい、それで良いです。」
 そこから値切るようだったら流石にげんなりするが、言い値で買ってくれるなら上客だ。
「和尚さん3枚で私たち1枚ずつで。」
「はいよ。」
 お嬢の指示で男が金を取り出すが、お嬢たちも金を取り出している、少し珍しい。
「はい、これで。」
 お嬢が金を集めてまとめて払う。
「まいど、仲良さそうで何よりだ。」
 一人の指示で文句も言わずに動いている。
「これでも新婚ですから。」
 なるほど。
「そりゃおめでとう。」
 取り合えず祝っておく。
「ご祝儀もらえます?」
 にっこりと笑顔を浮かべながら無茶と言ってくる。
「さっきの値引きで勘弁してくれ。」
 それは実質材料代のみだ。
「残念です。」
 あっさりと引き下がった、ただの世間話みたいなものなのだろう。
「サイズ合わなかったら言ってくれ、交換ぐらいはしてやるから。大抵この辺に居る。」
 朝市の場所取りは縄張り厳しいのでいつも同じ場所だ。
「はい、その時はお願いします。」






「さて、指輪を一旦外して下さい。」
「やっぱりやるのか。」
 そんな事を言いながら男が指から指輪を外してお嬢に渡す。
「こういうのは形が大事です。」
 そう言ってお嬢も指輪を外して男に渡す。何かの儀式か?
「エリスちゃんも外して和尚さんに渡してください。」
「こうですか?」
 小さい方のも良くわかっていない様子で指輪を外して男に渡した。
「じゃあ、和尚さんからお願いします。」
「これで俺からか・・・」
 お嬢が指示を出すと、男は無茶ぶりをされたというような様子で脱力した後。気持ちを切り替えた様子で、真面目な顔で顔を上げた。深呼吸してから片膝立ちになる。お嬢が意を決した様子で男に左手を突き出す、男はさっき受け取った指輪を取り出して、お嬢の左手薬指にはめる。
「これからも一緒に居て下さい。」
 ああ、婚礼の契約みたいなものか。
「はい、喜んで。」
 二人は横から見てわかるような真っ赤な顔をして、にっこりと笑った。
「はい、次はエリスちゃん。」
 お嬢が立ち位置を入れ替えて少女に手を出させる。目を白黒させているが既に真っ赤になっている。
「これからもこの世界で支えてください。」
 同じように男が少女の左手薬指に指輪をはめる。
「はい、喜んで。」
 さらに真っ赤になって目に涙を浮かべながらこれ以上無い様な笑顔を浮かべていた。
 この3人にお互いを拒絶する意志は一切無いらしい、なるほど、この男は幸せ者だ。
「じゃあ、こっちの番です」
 お嬢が指輪を取り出す、男は判定を待つという様子で膝立ちで待ち構えている。
 お嬢と少女が小声で少し相談して頷いた。
「「これからも私たちを守ってください。」」
「はい、任されました。」
 少女二人がかりで男の指に指輪が嵌められる。
 男がほっとした様子で立ち上がった、どうやら儀式が終わったらしい。
 こちらの婚礼の誓いとは様式が違うようだが、何をやっているのかはよく分かった。
 不意に周囲から盛大な拍手が送られた、俺も含めて野次馬が凄いことになっていた。


「うちの指輪でそれだけ盛り上がられるんなら作ったかいもあったな。」
 安物の指輪でそこまで盛り上がられるなら、何よりだ。
「見物料採りたいぐらいだ。」
 男は照れた様子でぼやく。
「ちがいねえ。」
 こっちも、もうちょっと色付けてもよかったんじゃないかと思う。
 お互い苦笑交じりに言って、笑った。


 二人の少女は野次馬に囲まれていたことに今更気が付いて固まった挙句、男の背中にへばりついて剥がれなくなった。


 野次馬が散り、男の背中から二人が剥がれるまで暫くかかった。




 後日、野次馬から噂が広まったのか、やたらと指輪が売れるようになった。
 最初のあの3人ほど見ごたえのあるものは少ないが、見ていて微笑ましい。
 是非とも、この儀式は広範囲に普及して欲しい。

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