冷酷無比な殺し屋が一人の高校生となって異世界転生するとこうなる

Leiren Storathijs

戦部の街ギアリッグ

俺は成り行きで、ベリックとギアリッグの間を結んでいた地下坑道を開通させ、ベリックからは、多額の報酬とギアリッグからの武器贈呈が約束された。

この坑道は移動手段ではなく、運搬手段として使う為、移動の際は坑道を歩いてギアリッグへ行くようだ。

坑道の入り口は陽の光が差し薄暗いが、奥へ入るほど暗闇が深くなる。数十年振りに開通したとは言え、長年潜んでいた魔物に坑道が荒らされた形跡があり、途中光になる物も無い。

そんな暗闇の中を壁伝いで歩く中、神月が心配そうな小さい声で言う。

神月「ねぇ、本当に魔物は殲滅したのよね?あんなのがまた来たら耐えられないわよ……?」

葛城「用心はしておけ、先は暗く地面すらまともに見えない。分かるのはこの手に感じる壁の冷たさだけだ。又、本当に魔物が襲ってきたら、絶対に慌てるな。暗闇による混乱は、味方に怪我をさせる恐れがある」

長年暗闇に潜んで生きていた魔物だ。恐らく人間よりどんな暗闇にも適応しいるはずだ。そんな中、暗闇で魔物と出会った際慌てて剣を振れば、味方に危害を与える可能性があり、魔物の思うつぼだろう。

だが人間は、そうそう暗闇からくる死の恐怖に対し冷静で居られる者は少ない。魔物にとっても適応しているとは言えど暗闇中、目が見える訳では無いだろう。目で対象を捉えるのでは無く、気配で捉えるはずだ。

だからと言って、冷静沈着にいろとは言わない。大声を出せばすぐに場所は気付かれる。そこから息を止め、魔物の体に触れないように行けば、簡単に通り抜けられる。

天野「わ、わわ分かった……」

そう言うと、天野は妙に震えた声で話を聞く。

葛城「天野、どうした?」

天野「え?べべ別に暗い所が怖くて暗所恐怖症ななんて事はないぜ??」

恐怖症。これは人間の中にある一種のトラウマと同じで、天野の言う暗所恐怖症と言うと、目眩や吐き気を感じる程異常な恐怖を感じる事を言う。

こんな時に更なる恐怖を促すような事があれば……。

そう思った時だった。前方から三匹くらいの魔物の唸り声と吠えが聞こえる。

魔物「グルルル……ガウガウッ!」

天野「ッ!待て待て待て待て!うわあぁああ!!」

葛城「おい天野!」

天野は俺の声も届かず、叫びながら暗闇の坑道の先へ行ってしまった。これで止まらずギアリッグまで、先に行っていれば良いが……今の叫び声で、完全に魔物に場所がばれた様だ。

仲間に光魔法さえも使える者は居ない。完全暗闇の中で、壁だけを頼りに歩く俺にとっては、圧倒的に不利だ。

魔法とは神月の持っているような魔導書を用いる事で、正しい詠唱を行う事で始めて魔法が発動する。しかし、俺にも一応ステータスの中に魔力は存在し且つ、全ての武器を扱えると言う特性を持つ。

勿論俺も魔導書を読める訳ではない。だからと言って魔法が発動出来ない訳でも無いのだ。

それは、俺はドラゴンを倒す際に使ったコントロールチェーン。あれは実は一度も今まで使った事が無く、練習もした事が無い。偶々強くイメージしただけである。

つまり、魔法も同じく詠唱せずに、魔力という概念とイメージさえ持っていれば、使える可能性はあるだろう。

俺は、暗闇の中で前が見えなくとも、勘で神月の杖を奪う。

葛城「借りるぞ……」

神月「ちょっ!?どこ触って……」

俺は杖を握りしめ、壊れる勢いで地面に杖を叩きつける。

すると足元に暗闇を照らす程の白くひかる魔法陣が現れ直後、一瞬の閃光により魔物は目眩し状態となり、俺には、辺りは白いが見える・  ・  ・魔法が放たれた。

敵には状態異常、味方には光の支援を与える魔法が発動したのだ。

葛城「今だ!仁道!」

仁道「丸見えだああああっ!」

辺りが急に明るくなり混乱する魔物に、仁道は容赦なく大鉈で、三匹の魔物を一撃で一薙ぎする。

仁道「あぁ?ここの魔物、さっきの魔物とは弱えぞ?」

葛城「恐らく、気付かない内に、ベリックの領域から出た証拠だろう」

霧咲「そんな事より明るい間に早く行こう!」

霧咲の言葉で俺は、そうだな。と言い、明るく照らされる坑道を出口に向かって一気に走った。

やっとの思いで坑道を出ると、俺の目先に入るは、暗闇から射し込む太陽の光と、目の前にはバベルの塔様に天までそびえ立街が見えた。

街の形は、上は雲を突き抜けて見えないが、山の様に下は幅広く、上に上がるに連れて狭く上まで伸びた形をしている。

そして俺は足元に違和感を感じ、真下に目をやると、体育座りをして放心状態の天野がいた。

天野「…………」

まるで魂が抜け落ちた表情をしており、目の前に入る壮大な光景には一切気付かない様だ。

葛城「おい天野。置いて行くぞ」

天野「……あぁ……」

話にならん。俺はカウンセリングでも無いし、此処は仲間に任せるとするか……。

すると霧咲が天野に対ししゃがみ声をかける、

霧咲「天野君。君が暗所恐怖症だと言う事は少しびっくりしたけど、別に恥じる事じゃ無い。あんな暗闇で魔物と出会うのは絶対絶命だと思うのは当たり前だ。でも君は一人じゃ無いんだ。これからみんなで状況を共有して乗り越えようじゃ無いか!」

天野「…………」

天野は霧咲の声に更に俯き、顔さえ見せなくなった。

霧咲「あれ……?」

霧咲は、天野がただ怖がっていた事を恥ずかしいと思っているのでは無いかと察したのだろう。しかし、俺から見てあの様子はそんな物では無いだろう。

そこで次は仁道が霧咲を押し退け、天野の胸倉を掴み、持ち上げる。

仁道「オラァッ!天野っ!てめぇ、さっきから何くよくよしてんだぁ!?おめえは、憧れのゲームの世界に入って乗り気だったんじゃねぇのかよ!それで暗闇如きで、震えてんじゃねぇクソが!」

天野「はぁ……あんなの何度もあって僕の精神が保つか……」

仁道「あぁあ?天野……おめぇは、少し目を覚ます必要がある様だな……」

すると仁道は、天野の頭を持ち上げる。

天野「ぐっ……な、何を……?」

仁道「俺たちは、皆んな!てめぇの雑魚みてえな恐怖症より!いつ死ぬか分からねえ恐怖と戦ってんだよ!いい加減目を覚ませやこらぁっ!!」

仁道は、その持ち上げた頭を勢いよく地面に叩きつける。

天野「ぐぁっ……!?」

瑠璃川「仁道君っ!」

仁道「もう一丁いくかぁ?オラァッ!!」

天野「がぁっ!!?」

精神的な恐怖は治療法はあるが時間がかかる。ならば最も簡単な解決方法は、物理により新たな恐怖を植え付ける事だ。

『殺されるかもしれないという』想定ではなく、抵抗しなくては『殺される』という確信の恐怖心は、その者が少しでも生きたいという希望があるなら全ての恐怖心に勝り、無理矢理でも抵抗をする筈だ。

しかしその後、恐怖心を植え付けた側との関係が悪くなる事は当然だろう。

天野「もう……やめ……」

仁道「あぁっ?聞こえねぇなぁ!?」

天野「うわあああぁ!!止めろって言ってんだろうが!」

吹っ切れた天野は頭を掴まれ、ぶら下がった状態から体を揺らし勢いを付け、片足の蹴りを仁道の顔面にあたえる。

しかし、仁道は一切の微動をせず、ニヤリと笑うと天野の頭を離し、思いっきり投げ飛ばす。

天野「ぐぁっ!」

仁道「それで良いんだよ!次あんな姿見せたら、暗くて狭い所に閉じ込めてやるからな!」

天野「わ、分かったよ!」

霧咲「さ、さぁ……!気を取り直して、ギアリッグへ行こう!」

そうして、俺は目の前のギアリックへ漸く着いた。

コメント

  • ノベルバユーザー343699

    面白いです!更新頑張ってください!

    2
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