冷酷無比な殺し屋が一人の高校生となって異世界転生するとこうなる

Leiren Storathijs

不十分より十分の方が良い

俺は、盗賊に盗まれた金を仲間が誰も殺される事なく、無事に取り返す。

現在、武具屋にて天野が興奮しながら武器選びをしている所である。

武具屋に入ると、筋肉質でがたいの良い中年の男が、威勢良く声を上げる。

武具屋「へいらっしゃい!おおっと、これはこれは、勇者一行様じゃねぇか」

霧咲「一目見ただけで分かるんですか?」

武具屋「おうよ。武具職人って言う特殊職業の一流なれば、一目で相手の職業が分かるんだぜ?」

俺は徐ろに武具屋の男に情報分析を試みる。


職業:武具職人4級、武具店店長
スキル:職人の目 Lv 1
年齢:56歳


武具職人4級……一流と1級は違うのだろうか?

そんな事を思っていると、天野が横から目を輝かせながら、武器を見つめはしゃぐ。

天野「すっげぇ……全部ゲームで見た事があるような武器やアイテムばかり!あぁ、マジで俺異世界に来たのかぁ……」

武具屋「おっと、楽しんでいるところ悪いが、職業によっては扱える武器も変わるからな?扱えない武器を使おうとすると、魔法やスキルが正しく発動せず、単なる飾りになっちまう。そこは注意しろよ?」

霧咲「なるほど……それが各職業の仕組みなんですね」

使用可能武器はステータスには書かれていなかったが、武具屋に置かれている武器に触れようとすると、透明のウィンドウが武器の真上に、値段と共に使用可能か不可能かが表示されている。

俺は一通り全ての武器を見るが、どうやら殺し屋は全ての武器を扱えるらしい。

因みに全ての仲間の使用可能武器を纏めるとこのようになる。


葛城 刹那:殺し屋
使用可能武器:全て

霧咲 勇人:勇者
使用可能武器:一部を除いて全て
Lv 100以降 勇者の剣

神月 麗奈:魔術師
使用可能武器:短剣、魔導杖、魔導書

天野 隼也:剣士
使用可能武器:短剣、長剣、大剣、刀
Lv 60以降 魔剣、妖刀、神剣

瑠璃川 真里:治癒術師
使用可能武器:魔導杖

仁道 正義:拳士
使用可能武器:手甲、大鉈、ハンマー
Lv 60以降 魔斧


このように職業毎に使える武器が異なるが、特定の職業に至ってはレベル制限が付いている物もあるらしい。

天野「んー、俺の使える武器多くね?迷うなぁ……」

仁道「うっしゃ、俺様の武器は大鉈で決まりだぁ!これで化け物共をぶった斬ってやる」

霧咲「僕は、やっぱり普通の剣が良いですね。これが一番馴染む」

神月「……?……?ちょっと店長!この魔導書って本。一文字も読めないんだげど?」

武器屋「そりゃあ魔法学校とかに行って一から勉強すれば良いじゃねぇか。最初から魔導書をスラスラ読める奴なんていねぇぜ?」

瑠璃川「ん〜……使えるの魔導杖しか無いし、これで良いかなっ」

そう各自武器を悩み選ぶ中俺は、俺が使う銃はこの世界に存在しないらしいが、最も機構的に馴染む武器を選ぶ。

クロスボウだ。一発一発矢を装填する必要があるが、弓の様に狙いを定めている間、弦を引き続ける必要が無く、一発装填で弦が固定される為、引き金を引く事で弦が弾かれ発射される仕組みだ。

なので狙い定め中に、手ブレが無く極めて命中精度が高い。命中するかどうかは使用者の腕次第だが、使い勝手は銃と同じだろう。

但し鉛の弾丸とは違い、矢がかなり軽い為、風の影響をとても受けやすい。それを考える事が出来れば、人間相手なら額を貫通、魔物なら急所を確実に撃てる筈だ。

瑠璃川「お、葛城君はクロスボウかぁ……いつも銃使ってるから様になるねぇ」

仁道「そういや此処には銃は無えんだな。ん?って事は、元々持ってた銃は何なんだ?」

葛城「現実世界でも愛用していた銃だ」

仁道「ははは……やっぱりマジで殺し屋なのか……」

ただ俺の実銃スキルは自身よりレベルが10下回っている敵なら『HSクリティカル』が発動し、どんな相手でも一撃で仕留められるというものだ。

実銃本来の力はそのスキルに奪われている為、クロスボウより実銃が強いという訳では無い。恐らくこれからは、このクロスボウがお世話になるだろう……。

さて、そう考えている内にどうやら全員の武器が選び終わったようだ。武器はこのようになった。


葛城 刹那:クロスボウ
霧咲 勇人:長剣
天野 隼也:刀
神月 麗奈:短剣、魔導書
瑠璃川 真里:魔導杖
仁道 正義:大鉈


神月は、いつかどこかの魔法学校で学ぶつもりらしい。それまでは短剣をメインに使い、大事に持っているんだとか。

学校なんかに行く予定は無いんだがな……。暇があったら仲間強化の為
、短期なら行っても良いだろうか……?

葛城「全員、選んだな?じゃあそろそろ行くぞ」

全員、それぞれ元気よく返事し、武具屋を出ようとすると、武具屋の男に呼び止められる。

武具屋「おっとっと、ちょっと待ってくれ。勇者一行なら是非とも頼みたい事があるんだが……」

霧咲「良いでしょう。なんなりと」

武具屋「あぁ、ありがとう。ちょっと荷物運びとお遣いを頼みたい。この素武器を鉱山の街ベリックに届け、売りに行ってくれないか?これはもう加工出来ない、使い物にならなくなった武具なんだ。これは向こうの街では、資源として扱われるから重宝されてんだ。歩いて行けとは言わねえ、馬車を手配するから、その護衛をしてやってくれないか?」

武具屋の男はよっこらせっとと言って、大量の錆びた武具が入った箱を5〜6箱、机の上に乗せる。

葛城「馬車の護衛とその錆びた武具を届けるんだな?報酬は?」

霧咲「葛城君!別に良いだろ?僕達はこんなに金を持ってるじゃないか!」

葛城「駄目だ。例え金を持っていようが、仕事をする上では必ず報酬が必要だ。別に金が欲しいなど一言も言っていないだろう?依頼人が居て請負人が居る。それも俺達の命が拘る以上は、タダでは話にならん」

そういうと、武具屋の男はニッと歯を見せて笑顔を作る。

武具屋「小僧。分かってるじゃねぇか。ただ金の為に動く他の奴らとは大違いだ。安心しろ。この武具を売った金はお前らの物で良い。馬車の護衛の報酬は、馬車を操る商人から受け取ってくれ」

葛城「了解した。良し、この箱を馬車に積み込むぞ」

俺は依頼内容と報酬を確認した上で武具屋を後にした。武具屋を出る間、申し訳無さそうに霧咲は頭を何度も下げながら武具屋を出る。

霧咲「すみません!本当にありがとうございます」

…………。仕方がないか……コイツらはまだ学生だ。学校に通っていた時は、帰りや休みの日に買い物とかをしていたんだろうが、人助けまではした事が無いんだろうな。

倒れる者を前に、善意だけで助ける者も居るだろう。しかし俺は違う。依頼を受けて仕事をする上で善意や悪意など関係は無い。じゃあ何故依頼を受けるのか?それは、やれと言われたからやる。それだけだ。

かつて俺が殺し屋であった時のように、生きる為に依頼と報酬を見て、対象を殺す。もし自分の命が狙われるのなら、完全に安全になるまで、敵を殺す。

ただそれだけであり、それ以上は無い。善意や悪意を持つだけ無意味であり、何の得にもならない。

そんな事を考えている内に、全員で錆びた武具の入った箱を馬車へ積み終える。

村の外で待機する馬車の男は笑顔で言う。

馬車の男「今日は積荷が多いな!ささっ、しっかり守ってくれよ?」

葛城「依頼人を受けている以上、出来る限りの力で護衛しよう」

霧咲「お任せ下さい!」

天野「うわぁ……護衛とか絶対魔物とか沢山来るんだろうなぁ……」

神月「ね、ねぇ。私と瑠璃川は、馬車の中に居ても良いかしら?まだまともに魔法使え無いし、瑠璃川も動きながらの支援は望めないわよ?」

霧咲「うん。麗奈と瑠璃川さんは、馬車の中から支援が一番良いと思う」

俺は霧咲の言葉に被せるように、言う。

葛城「その必要は無い。十分な支援が出来る自信が無ければ、ただ邪魔になるだけだ。訳の分からない真似をしようとするな。下手すれば味方の行動だけで、死を招く恐れだってある。馬車の中で大人しくしていろ」

霧咲「葛城君!その言い方は無いだろう!最低限の支援だけでも……」

葛城「必要無いと言っている。魔術師や治癒術師がどんな邪魔になるか疑問か?集中の邪魔だ。使えない魔術師は適当な魔法で、注意を散漫させ、何もできやしない治癒術師は、微妙な能力上昇や不十分な回復により、味方に不安を与えかね無い」

神月、瑠璃川「「え……」」

霧咲「おい葛城……」

葛城「俺はそんな無駄な事でまだ死ぬ気は無い。黙って馬車の中でその絵本でも読んでろ」

俺はこれでも仲間との関係を悪くするつもりで言っている訳では無い。あくまでも警告に過ぎない。少し強く言われただけでめげていては、この先、生きていけるのかも心配だ。

霧咲の性格上、窮地に追いやられた仲間を助けようとするだろう。しかしそれは、自分を死へ追いやる罠であり、無駄に一つ多くの命が失われる事になる。人は多少の助けは無くとも生きては行ける。

瀕死であっても、絶対に助かると言う安心は、人間の感情に置ける生の執着や死の抵抗を潰えさせる。また助かるかも知れないと言う希望と不安が混ざった感情も同じだ。

常に危機感を心の隅に置かなくては、半端な安心は命取りになる。

そう言うと瑠璃川は、疑問と不快が混ざった表情で、俺を睨む。

瑠璃川「何も出来やしないって何だよ……今までそんな目で見ていたの!?信じられないッ!あたしは、少しでも頼りになると葛城君の事思ってたのに!ばーか!!」

霧咲「葛城君……君が殺し屋と言う世界でどんな生き方をしていたのか知らないけど、その生き方を僕達に押し付けないでくれないか……?」

葛城「押し付けているつもりは無い。反論や否定は自由だ。だが否定すれば、死ぬ確率が上がるだけ。例えばこの様にな」

俺は徐ろにクロスボウに矢を装填し、瑠璃川の頬を掠らせる様に撃つ。

瑠璃川「い、痛ッ!?」

葛城「瑠璃川。お前は俺の事を頼りになると言ったな?これでもか?」

霧咲「おい葛城ッ!良い加減にしろ!」

葛城「人をあまり信用するな。本当に信用して良いのは、殺されても良い相手にしろ。霧咲、お前もだ」

俺は更に、拳銃を召喚し、霧咲の両足を撃つ。

霧咲「ぐあぁッ!??」

葛城「馬車よ、いきなり騒ぎ立てて済まないな。怪我人が一人増えた。乗せてくれ」

馬車の男「は、はい……」

こうしてやっと馬車は、霧咲、神月、瑠璃川を乗せ、俺と天野、仁道が護衛で出発した。

天野「お、俺は馬鹿だから何がどうなってんのか分かんねぇや……へへへ……まぁ、一丁やってやろうぜ!」

仁道「おう!全部この大鉈でぶっ潰してやるぜ!」

葛城「下手したら置いてくぞ、死んでも助けないからな」

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