君が見たものを僕は知っている
第29話 悪夢
―――11月30日 23時30分 とあるバス停
僕は帰り道の途中にある、バス停に座っていた。バスに乗るつもりはない。ただ今は一人でいたかった。鈴佳と話すことはもうない。そんなの信じられない。一緒にいてあたりまえだと思ってたのに。僕は絶望にうちひしがれ泣くこともなくなった。
どうして鈴佳が。僕は鈴佳に渡された指輪を見つめる。鈴佳が宝物と言ってくれた指輪。その指輪がとても冷たく感じた。
「鈴……」
こうしている間にもリミットは近づいてきている。と言っても僕には何もすることができない。ただ奇跡を願うこと以外は。
僕は心の中で強く願った。
「どうか、鈴の命を救ってください!お願いします!」
僕は何度も「お願いします!」と繰り返す。指輪を握る手にギュッと力が入った。
―――11月30日 23時55分 病室
私は仰向けに寝ていた。私の最後まであと僅か。もう私は死ぬんだ。この瞬間も思い浮かぶのは、家族との団欒。信也くんと凜ちゃんの漫才みたいな会話。蓮くんの笑顔。
「嫌だ。死にたくないよ……」
私の目から涙が零れる。時間は少しずつ進んでいく。私は目を瞑る。時計を見てしまえば心が引き裂かれそうになる。
今までの日常が鮮明に頭に浮かんでいく。これが走馬灯ってやつなのかな?どれも幸せな思い出だ。私はその一つ一つの思い出を噛み締めていた。
時計は見ていないけど、きっとあと数十秒ってところだろう。心臓は苦しくない。アビスは最後の優しさで苦しまないように逝かせてくれるみたいだ。その優しさで私をもっと生かしてくれないかな?なんて私は最後の最後まで生きることを望んだ。
目を瞑ってから時間が経ったけど私の体には変化はない。息もしている。心臓も脈をうっている。え?まだ時間じゃないのかな?
私はゆっくりと目を開けて時計を見る。
時計は0時15分を然している。あれから結構経っていたのか。ん?0時?私、生きて?
私はバッと起き上がって部屋の水道で顔を洗う。冷たい。確かに感覚はある。私は生きている。念のためスマホの時間も確認する。うん、間違っていない。私は助かったんだ!
私は急いで蓮くんに電話をした。早く伝えないと。早く声が聞きたい。私は蓮くんが出るのをワクワクしながら待った。でも、蓮くんは電話にはでないまま留守番に切り替わる。あれ?手が離せないのかな?でも、着信を見たらびっくりするだろうな。心配させたからちゃんと謝らないと。
私は緊張で喉も渇いたのでジュースを買いに廊下に出た。するとなにやら病院内が騒がしい。何かあったのだろうか?私は少し気になりつつも自販機のあるロビーへと向かった。
ジュースを買っている間も看護師さんが忙しそうに走り回っている。
私は病室へと帰ってきた。すると私のお父さんとお母さんがいる。また、二人に会えた。その嬉しさに思わず抱きつきたくなった。でも、二人は暗い顔で私を見つめる。
「お父さん、お母さんどうしたの?何かあった?」
私の問にお母さんがフゥーと息を吐いて、話しはじめた。
「鈴、落ち着いて聞いて。さっきね蓮くんがトラックに轢かれて今、手術をしているの」
私は理解ができなかった。まるであの日のようだった。
「蓮くん?何?なんで、そんなのおかしい」
私は足の力が抜けてしまいその場に崩れ落ちた。
「大丈夫。落ち着いて。深呼吸して」
お父さんとお母さんは心配して背中を擦ってくれる。
「蓮くん。蓮くんのところに連れてって!」
私は今すぐにでも蓮くんに会いたかった。蓮くんに会って私が生きてるって伝えれば、蓮くんも戻ってきてくれる気がした。
「ダメよ、鈴だって心臓が悪いんだから無茶しちゃ」
二人は私の身を案じてくれる。でも、今の私にはその言葉が届かなかった。
私は走りだした。後ろから二人の「鈴!」と名前を呼ぶ声が聞こえたけど、私は止まらなかった。私病院の一番角にある手術室をめがけて一目散に走っていた。
手術室の前までくると、蓮くんのお父さんとお母さんが前の椅子に腰をかけていた。
「鈴佳ちゃん」
お父さんが私に気づいた。
「蓮くんは?」
私はハァハァと呼吸を整えながら状況を聞いた。
「今、精一杯処置をしている。でも大丈夫。鈴佳ちゃんも来てくれたし、きっと蓮も近くに鈴佳ちゃんがいるって思って頑張ってるから」
蓮くんのお父さんはギュッと拳を握る。
「鈴佳ちゃんは大丈夫なの?」
すると蓮くんのお母さんが、こんな状況にも関わらず私の心配をしてくれる。その目は赤く充血している。
私は「大丈夫です」と言って椅子に腰を下ろす。私のお父さんとお母さんも追いかけてきて、一緒に蓮くんの無事を祈っていた。
しばらくして、赤く灯っていた手術中の明かりが消えた。手術が終了したのだ。それを合図に私たちは立ちあがり医師を待った。
それからすぐに手術室のドアが開くと、手術着をきた医師が出てきた。私たちは医師の言葉を待つ。
医師は私の顔を見渡してから口を開いた。
「手は尽くしました。しかし、手遅れでした。0時50分ご臨終です」
私はの景色が揺らいだ。私はただ頭が真っ白で何も考えることができなかった。蓮くんのお父さんとお母さんの悲鳴にも似た泣き声が私の胸に突き刺さる。
それからのことはよく覚えてない。気がついたら私はベッドの上で目を覚ました。気絶したわけではないみたいだけど、このままで歩いてきた記憶はない。そんな私を心配して、お父さんとお母さんはずっと私についていてくれてた。
それから私は検査をうけて問題がないことが分かると、すぐに退院させられた。お父さんとお母さんはホッとしたみたいだけど、顔には出さなかった。
蓮くんが亡くなってから2日後。私は黒い喪服を来て蓮くんの家にいた。葬式が終わって私と信也くんと凜ちゃんは蓮くんの遺影の前に座っていた。
蓮くんの突然の死に二人とも疲れきってしまっているようだ。目を赤く腫らしている。
そんな私たちの元に蓮くんのお母さんが近づいてきてくれた。
「みんな今日は蓮のためにありがとうね」
お母さんの言葉にみんなお辞儀をする。
「でも、本当に良かったみんなが来てくれて。蓮、毎日楽しそうだったわ。みんなとお花見をするんだって、キャンプに行くんだって、クリスマスパーティーをするんだって、楽しそうに報告してくれてた」
お母さんの言葉に信也くんはポツリポツリと涙を流している。
「蓮、きっと幸せだったわよ。最後まで。それもこれもみんなのおかげね。みんな本当にありがとうね。蓮の友達になってくれてありがとうね。お願い。蓮のこと忘れないであげないでね」
お母さんは涙を堪えながら話をしてくれた。その姿が見ているだけで辛くて目をそらした。
「蓮は、優しくて、俺みたいなやつでも飽きずに相手してくれました。俺は蓮の優しさに甘えていました。蓮がいなかったらと思うの怖いです。本当に蓮と出会えて良かったです」
信也くんは涙声で鼻水をすすりながら声を絞り出す。
「蓮くんと居ると落ち着くんです。私はあまり人と話すのが苦手でそれでも、蓮くんには何でも話せるそんな存在でした。蓮くんは私たちにとって、大切な心の拠りどころで温かな存在でした」
凜ちゃんも涙を溢しながら何とか声をだす。
「私にとって蓮くんは、いつも一緒で私の一部みたいな存在でした。蓮くんの笑顔が好きで、蓮くんの仕草が好きで、蓮くんの全てが大好きでした。忘れたくても忘れられる訳なんてありません!忘れたくもありません!もう蓮くんに触れられないとしても、蓮くんの笑顔や言葉は胸の中にしまってあります。蓮くんはいつもそばにいます!」
そこまで話すと堪えていた涙が一気に溢れだした。きっと私はこれからと蓮くんのことが大好きだ。それは変わることはない。私も信也くんも凜ちゃんもきっと、蓮くんのことは一生忘れないだろう。
だけどごめんね。今日だけは泣いてもいいよね?
僕は帰り道の途中にある、バス停に座っていた。バスに乗るつもりはない。ただ今は一人でいたかった。鈴佳と話すことはもうない。そんなの信じられない。一緒にいてあたりまえだと思ってたのに。僕は絶望にうちひしがれ泣くこともなくなった。
どうして鈴佳が。僕は鈴佳に渡された指輪を見つめる。鈴佳が宝物と言ってくれた指輪。その指輪がとても冷たく感じた。
「鈴……」
こうしている間にもリミットは近づいてきている。と言っても僕には何もすることができない。ただ奇跡を願うこと以外は。
僕は心の中で強く願った。
「どうか、鈴の命を救ってください!お願いします!」
僕は何度も「お願いします!」と繰り返す。指輪を握る手にギュッと力が入った。
―――11月30日 23時55分 病室
私は仰向けに寝ていた。私の最後まであと僅か。もう私は死ぬんだ。この瞬間も思い浮かぶのは、家族との団欒。信也くんと凜ちゃんの漫才みたいな会話。蓮くんの笑顔。
「嫌だ。死にたくないよ……」
私の目から涙が零れる。時間は少しずつ進んでいく。私は目を瞑る。時計を見てしまえば心が引き裂かれそうになる。
今までの日常が鮮明に頭に浮かんでいく。これが走馬灯ってやつなのかな?どれも幸せな思い出だ。私はその一つ一つの思い出を噛み締めていた。
時計は見ていないけど、きっとあと数十秒ってところだろう。心臓は苦しくない。アビスは最後の優しさで苦しまないように逝かせてくれるみたいだ。その優しさで私をもっと生かしてくれないかな?なんて私は最後の最後まで生きることを望んだ。
目を瞑ってから時間が経ったけど私の体には変化はない。息もしている。心臓も脈をうっている。え?まだ時間じゃないのかな?
私はゆっくりと目を開けて時計を見る。
時計は0時15分を然している。あれから結構経っていたのか。ん?0時?私、生きて?
私はバッと起き上がって部屋の水道で顔を洗う。冷たい。確かに感覚はある。私は生きている。念のためスマホの時間も確認する。うん、間違っていない。私は助かったんだ!
私は急いで蓮くんに電話をした。早く伝えないと。早く声が聞きたい。私は蓮くんが出るのをワクワクしながら待った。でも、蓮くんは電話にはでないまま留守番に切り替わる。あれ?手が離せないのかな?でも、着信を見たらびっくりするだろうな。心配させたからちゃんと謝らないと。
私は緊張で喉も渇いたのでジュースを買いに廊下に出た。するとなにやら病院内が騒がしい。何かあったのだろうか?私は少し気になりつつも自販機のあるロビーへと向かった。
ジュースを買っている間も看護師さんが忙しそうに走り回っている。
私は病室へと帰ってきた。すると私のお父さんとお母さんがいる。また、二人に会えた。その嬉しさに思わず抱きつきたくなった。でも、二人は暗い顔で私を見つめる。
「お父さん、お母さんどうしたの?何かあった?」
私の問にお母さんがフゥーと息を吐いて、話しはじめた。
「鈴、落ち着いて聞いて。さっきね蓮くんがトラックに轢かれて今、手術をしているの」
私は理解ができなかった。まるであの日のようだった。
「蓮くん?何?なんで、そんなのおかしい」
私は足の力が抜けてしまいその場に崩れ落ちた。
「大丈夫。落ち着いて。深呼吸して」
お父さんとお母さんは心配して背中を擦ってくれる。
「蓮くん。蓮くんのところに連れてって!」
私は今すぐにでも蓮くんに会いたかった。蓮くんに会って私が生きてるって伝えれば、蓮くんも戻ってきてくれる気がした。
「ダメよ、鈴だって心臓が悪いんだから無茶しちゃ」
二人は私の身を案じてくれる。でも、今の私にはその言葉が届かなかった。
私は走りだした。後ろから二人の「鈴!」と名前を呼ぶ声が聞こえたけど、私は止まらなかった。私病院の一番角にある手術室をめがけて一目散に走っていた。
手術室の前までくると、蓮くんのお父さんとお母さんが前の椅子に腰をかけていた。
「鈴佳ちゃん」
お父さんが私に気づいた。
「蓮くんは?」
私はハァハァと呼吸を整えながら状況を聞いた。
「今、精一杯処置をしている。でも大丈夫。鈴佳ちゃんも来てくれたし、きっと蓮も近くに鈴佳ちゃんがいるって思って頑張ってるから」
蓮くんのお父さんはギュッと拳を握る。
「鈴佳ちゃんは大丈夫なの?」
すると蓮くんのお母さんが、こんな状況にも関わらず私の心配をしてくれる。その目は赤く充血している。
私は「大丈夫です」と言って椅子に腰を下ろす。私のお父さんとお母さんも追いかけてきて、一緒に蓮くんの無事を祈っていた。
しばらくして、赤く灯っていた手術中の明かりが消えた。手術が終了したのだ。それを合図に私たちは立ちあがり医師を待った。
それからすぐに手術室のドアが開くと、手術着をきた医師が出てきた。私たちは医師の言葉を待つ。
医師は私の顔を見渡してから口を開いた。
「手は尽くしました。しかし、手遅れでした。0時50分ご臨終です」
私はの景色が揺らいだ。私はただ頭が真っ白で何も考えることができなかった。蓮くんのお父さんとお母さんの悲鳴にも似た泣き声が私の胸に突き刺さる。
それからのことはよく覚えてない。気がついたら私はベッドの上で目を覚ました。気絶したわけではないみたいだけど、このままで歩いてきた記憶はない。そんな私を心配して、お父さんとお母さんはずっと私についていてくれてた。
それから私は検査をうけて問題がないことが分かると、すぐに退院させられた。お父さんとお母さんはホッとしたみたいだけど、顔には出さなかった。
蓮くんが亡くなってから2日後。私は黒い喪服を来て蓮くんの家にいた。葬式が終わって私と信也くんと凜ちゃんは蓮くんの遺影の前に座っていた。
蓮くんの突然の死に二人とも疲れきってしまっているようだ。目を赤く腫らしている。
そんな私たちの元に蓮くんのお母さんが近づいてきてくれた。
「みんな今日は蓮のためにありがとうね」
お母さんの言葉にみんなお辞儀をする。
「でも、本当に良かったみんなが来てくれて。蓮、毎日楽しそうだったわ。みんなとお花見をするんだって、キャンプに行くんだって、クリスマスパーティーをするんだって、楽しそうに報告してくれてた」
お母さんの言葉に信也くんはポツリポツリと涙を流している。
「蓮、きっと幸せだったわよ。最後まで。それもこれもみんなのおかげね。みんな本当にありがとうね。蓮の友達になってくれてありがとうね。お願い。蓮のこと忘れないであげないでね」
お母さんは涙を堪えながら話をしてくれた。その姿が見ているだけで辛くて目をそらした。
「蓮は、優しくて、俺みたいなやつでも飽きずに相手してくれました。俺は蓮の優しさに甘えていました。蓮がいなかったらと思うの怖いです。本当に蓮と出会えて良かったです」
信也くんは涙声で鼻水をすすりながら声を絞り出す。
「蓮くんと居ると落ち着くんです。私はあまり人と話すのが苦手でそれでも、蓮くんには何でも話せるそんな存在でした。蓮くんは私たちにとって、大切な心の拠りどころで温かな存在でした」
凜ちゃんも涙を溢しながら何とか声をだす。
「私にとって蓮くんは、いつも一緒で私の一部みたいな存在でした。蓮くんの笑顔が好きで、蓮くんの仕草が好きで、蓮くんの全てが大好きでした。忘れたくても忘れられる訳なんてありません!忘れたくもありません!もう蓮くんに触れられないとしても、蓮くんの笑顔や言葉は胸の中にしまってあります。蓮くんはいつもそばにいます!」
そこまで話すと堪えていた涙が一気に溢れだした。きっと私はこれからと蓮くんのことが大好きだ。それは変わることはない。私も信也くんも凜ちゃんもきっと、蓮くんのことは一生忘れないだろう。
だけどごめんね。今日だけは泣いてもいいよね?
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