君が見たものを僕は知っている

涼風 しずく

第27話 アルバム

それから僕は時間を見つけてこまめに鈴佳の元へと通っていた。特に変わったことはない。いつものように会話をしてただそれだけ。今日もまた僕は病室に来ていた。


「今日は調子はどう?」

日に日に心臓の活動は弱まってきているらしい。それでも鈴佳は辛そうなところは見せたことはなかった。


「うん!元気だよ!」

いつもの笑顔。その笑顔を見れば安心はする。だけど、きっと無理に笑っている時だってあるのだろう。


「もう11月も1週間で終わりだね」

クリスマスパーティーからもあっという間に時が過ぎて、今日はもう23日だ。


「うん。早いね」

最近、鈴佳の様子が少しおかしい。きっと、医者の言葉を聞いて不安になっているのだろう。今だに原因不明。このままでは医者が言うにはもって今年中。もしかしたら、それよりも早くに心臓の活動が停止するだそうだ。


「えっと、もう少しで誕生日だね!何か欲しいものとかある?何処かに連れていってあげれない変わりに、何でも買ってあげるよ!」

僕は鈴佳の不安を少しでも消せるように明るく振る舞う。


「うん。ありがとう。考えとくね」

鈴佳は弱々しい声で呟く。こんな時なんて声をかければいいのだろう?僕は自分の無力さを恨んだ。


「そうだ!またクリスマスの時みたいにみんなでパーティーでもしようか!またケーキを買ってくるからさ!今度はバースデーケーキだよ!」

僕には明るく振る舞うことしかできなかった。


「いいよ、みんな大変でしょ?ケーキだってお金がかかるし」

今日の鈴佳はいつにもまして弱気だ。


「鈴?どうしたの?体調悪い?」

僕は気遣いの言葉をかける。僕が来ているからって無理させるのも可哀想だ。


「大丈夫だよ。心配かけてごめんね。でも、みんなや蓮くんが来てくれるから、なんとか前向きに生きてられるんだ。本当に感謝してるよ。ありがとうね」

鈴佳はニコッと笑いかけてくる。なんでそんな事を言うのだろう。まるで別れの挨拶みたいで嫌だ。


「鈴、大丈夫だよ!きっと良くなる。よくなったらまた遊園地に行こうよ!」

根拠のない言葉ばかり並べた。今はいくら根拠のない自信でも信じるしかなかった。


「蓮くん。お願いがあるの」

鈴佳が僕にお願いなんてなんか久しぶりだ。僕は頼ってもらえて少し嬉しくなった。


「なに?なんでも言ってよ!鈴のためなら何でもするよ!」


「ありがとう。じゃあ」

鈴佳はそういうとゆっくりと目を閉じて唇を僕に向ける。え?これってつまりキスをしてってこと!?


僕は一瞬躊躇うも、ゆっくりと鈴佳の唇に僕の唇を合わせた。この感触。結婚式と遊園地でも感じたこの気持ち。


僕達はゆっくりと離れる。鈴佳はニコッと笑って「ありがとう」と僕に感謝を伝える。やっぱり今日の鈴佳はおかしい。まるで自分の死がいつなのか分かっているみたいだ。


「蓮くん、ごめんね。あと一つ聞いて欲しいことがあるんだ」


「え?」


「11月30日の夜。来てくれないかな?」

鈴佳の誕生日の前日だ。鈴佳から来て欲しいなんて言うのは初めてだ。


「うん。それはもちろんいいけど、どうして?」


「いや、大したことはないんだけど、なんとなくその日に会いたいなって思ってさ」

理由は分からないけど鈴佳がそういうなら会いにこよう。


「うん。でも、その日以外も時間があったら来るからね」

鈴佳は「ありがとう」と呟いた。


その帰り道。僕は不安を抱えながら歩いていた。今日の鈴佳の様子。言葉。なんだか、遠くに行ってしまいそうなそんな気がした。でも、きっと気のせいだ。僕は信じるって決めたんだ。僕は力強い足取りで家に帰った。


家に帰りリビングに向かうと、両親がアルバムを見ていた。そのアルバムには僕の小さかった頃から、つい最近の結婚式までの写真まで入っていた。


「あ、蓮、おかえり。ほら見てこの時あなた、お化け屋敷に入って泣いちゃってね大変だったのよ」

母が指を指している写真には、まだ小さな僕が母に抱っこされ泣いている姿が写し出されていた。場所は鈴佳ともいったフェアリーランドだ。


僕にもそんな時があったんだな。昔はお化けが何よりも怖かったけ。でも、今は全然平気だもんな。この間だって、鈴佳と行って違う意味でドキドキしたけど、お化け屋敷自体はそんなに怖くなかった気がする。


あの日は終始ドキドキしっぱなしだったな。鈴佳の言動一つ一つ意識しちゃって、最後の観覧車も恥ずかしいけど、とてもいい思い出になった。


告白は上手くいったのかあやふやだったけど、鈴佳の気持ちを知れて本当に良かった。僕のことを好きと言ってくれた時の笑顔と、言葉は今も鮮明に浮かんでくる。


「あ、これは公園でピクニックした時のやつか。懐かしいな」

そう言って父が指していたのは、公園で僕がお弁当を食べようとしている瞬間の写真だった。


その公園も僕と鈴がいつも遊んでいた場所だ。二人だけだったけど、鬼ごっこをやったり、かくれんぼをやったり、でも一番多かったのがおままごとだったけな。鈴佳がお嫁さんの役をやって今思えば少し恥ずかしい。


それに最近では、みんなでお花見もしったけ。あれも急に決まったことだったけど、凄く楽しかったな。鈴佳と凜が頑張ってお弁当をつくってくれたんだよな。鈴佳もなれない手つき頑張っていたのだろう。鈴佳の卵焼き美味しかったな。


「もう最後か。これはなんか、もうずいぶん前のことのような気がするわね」


「ああ、蓮はとてとかっこ良かったし、鈴佳ちゃんも綺麗だったな」


そう二人で話していたのは、結婚式の写真だ。


結婚式。テストの勝負で言うことを一つ聞ける約束をしたんだったけ。そして、僕は負けて鈴佳の願いで結婚式をしたんだ。あの時、僕が勝っていたらどうなっていたのだろう?そうなんなくて本当に良かったと思う。


あの日のことは正直あまり覚えてない。誰かの話を聞けばそうだったなと思い出すことができるけど、緊張してたし、初めてのキスで頭が真っ白になってしまっていた。指輪を見るたびに思う鈴佳がどんなに大切なのか。


「なんか、時間が経つとは速いわね。もう蓮も高校卒業だもんね。もうすぐに成人式になっちゃいそうね」


「そうだな。もう大人になるんだ。俺たちもそんなに歳をとっていたんだな」


両親はしみじみとそんな話をする。僕も年月の速さは実感していた。本当にあっという間だった。毎日が楽しかった。両親が優しく僕を育ててくれて、いつも隣には鈴佳がいて、何気ない日々でも幸せだった。


成人式にはどんな風になっているだろう。大学生になっているだろうか、もしかしたら就職しているかもしれない。みんなはどんな大人になるのだろうか。


信也と凜には変わって欲しくないな。信也の抜けたところを凜がカバーして、きっといい夫婦になれると思う。そして、そんな二人と僕と凜はまた変わらず集まっているのだろうな。下らない話で盛り上がっているのだろうな。


そして鈴佳。僕達の未来はどうなっているのだろう?未来でも二人一緒にいられるのかな?うん。きっと大丈夫だ。理由なんてないけど、僕と鈴佳はきっとどんな時でも一緒にいる。あの、おままごとが現実になっているかもしれない。僕は二人の結婚生活を思い浮かべて照れくさくなった。


あれ?僕、鈴佳のこと。さっきから鈴佳のことばかり考えている。まったく僕も信也に負けないくらい単純らしい。そういえば、昔からそうだった。


美味しいものを食べれば、鈴佳にも食べさせてあげたいなとか、何か綺麗なものを見つけたら、鈴佳にも見せてあげたいなとか、

嬉しいことや悲しいことがあるたびに、鈴佳に会いたいなとか、何かあるたびに鈴佳のことを考えていた。


そう僕はずっと前から変わることなく鈴佳のことが大好きだった。


ほら、そんな事を言ってるそばでまた会いたくなっているだもん。本当に僕は単純なやつだ。



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