君が見たものを僕は知っている

涼風 しずく

第21話 最高のプレゼント

「ありがとう。すごく嬉しい。ちょっと思ってたんだ。もしかして蓮くんも私のこと想ってくれてるんじゃないかって」


「も?って?」

僕は「蓮くんも」という言葉に引っかかった。


「うん。私も蓮くんの事が好きだから」

その瞬間、僕の中の重いものがスゥーと消えていくように感じた。まるで、空が飛べそうなくらい心が軽い。


「でもね」

しかしそれは束の間だった。鈴佳の次の言葉に僕は耳を疑った。


「でもね、私は付き合えない」


「え?それってどういうこと?」

僕にはまったく理解出来なかった。僕達は両想いだった。でも付き合えない。僕は必死に考える。二人の間を邪魔するものを。


「もしかして、受験とか?勉強に集中したいから恋愛は後でってこと?」

必死に絞り出した答えがこれだ。


「うううん。違うの」

鈴佳は首を横に振る。じゃあ一体なんだ?僕にはまるで分からない。


「じゃあ、どうして?どうして駄目なの?」


「私が蓮くんと付き合ったら、蓮くんに悲しい想いをさせちゃうの」


「そんなことないよ!悲しい想いなんてするはずがない!」

僕は少し強い口調になってしまう。鈴佳がそばにいるだけで幸せなのに、そんな想いをするなんてありえなかった。


「いや、絶対に悲しい想いをさせちゃう。蓮くんの将来を考えていってるんだよ」

将来?なんのことを言っているのかさっぱり分からない。


「さっきから何をいってるんだよ!俺の将来は俺が決める!そんなこと鈴が考えることじゃない!」

僕は興奮して声を荒げてしまう。その後で僕はすぐに後悔をした。鈴佳は泣いてしまった。僕が鈴佳をこんな風に泣かしてしまったのは初めてだった。


「あ、鈴、ごめん。でもどうしても納得できなくて」


「私こそ、ごめんね。理由はきっと言っても信じてもらえないから」

鈴佳はハンカチで涙を拭っている。


「そうか。でも、一つだけ確認してもいい?鈴は僕のことが好きなんだよね?」

鈴佳は僕の問いに「うん」と頷いた。


「そうか。良かった。ありがとうね。よし、じゃあ早く帰ろうか。家の人も心配するから」

そう言って僕は歩き出した。


僕は納得はまだしていなかった。でもこのまま話し合ってもきっと喧嘩になってしまうだけだ。きっと時間が経てば教えてくれるだろう。それまで今までのように接することが出来るかな?


それから鈴佳と僕は少し距離を空けて歩いていた。もちろん会話もまったくなく。重い空気が二人を包んでいた。僕の心も鈴佳が僕のことを好きだと知った嬉しさと、それでも恋人の関係にはなれないというもどかしさで複雑だった。


僕達はいつものように僕の家の前で別れた。別れ際も「じゃあ、またね」と素っ気ない挨拶を交わした。


僕が家に入るとリビングから両親がバタバタと走ってでてきた。きっと両親も僕の告白が上手く行くって信じていたのだろう。二人の顔は今の僕の心とは正反対の笑顔をしている。


「おかえり蓮。どうだった?楽しかった?」

母は料理の途中らしくお玉を持ったまま出てきている。


「え?あ、うん!楽しかったよ!久しぶりに行ったらさ、いろんなアトラクションが増えててさ、ご飯も美味しいくて、鈴も大はしゃぎしていたよ!」

僕は両親に心配させないように明るく振る舞った。ただ、鈴佳の名前を口にしたとき、少しだけ心がズキッと傷んだ。


「あー、お腹空いた!今日のご飯は何かな~」

僕は明るく振る舞ったままリビングに入る。


「蓮?なんかあったのか?」

そう聞いてきたのは父だった。なんとも鋭い。


「いや、何もないよ!でも、ちょっと疲れたかも。ずーっと歩きっぱなしだったしさ!」

僕は心の中を悟られないように笑顔を繕う。


「ちょっと蓮、来なさい」

父はリビングのテーブルへと僕を手招きする。


「何?どうしたの?なんかあったの?」

僕はまだ演技を続ける。


僕は父の前に座った。そして父の隣に鍋の火を止めて母も座った。二人ともいつになく真剣な顔をしている。


「蓮。いいか、俺とお母さんにだけは嘘をつくな。何かあったらちゃんと言いなさい。俺たちは家族だ。家族はお互いに支え合わなければいけない。さぁ、何があったか言ってみなさい」

父は僕の目をじっと見つめる。


僕は明るく振る舞うのにも疲れて俯いた。


「鈴に告白した。それで、両想いだったんだけど、鈴に付き合えないって言われた」

僕は一つ一つの鈴佳の言葉や表情を思い出しながら話した。


「好きだけど付き合えないか」

父と母は顔を見合わせている。


「蓮。俺はお前たちのことをよくは分かっていない。でもなあの結婚式を見てな、鈴佳ちゃんがお前のことをどれだけ大切に思っているかは分かった。付き合えない理由が何なのかは分からない。でも、大切なのは理由じゃない。好きという気持ちだ。いいか、そもそも付き合うのに理由なんてない。ただ、好きだから。それだけだ。どんなことがあろうとお前が想い続ける限り終わりはない」

父はそこまで言うとテーブルの上のお茶を飲み干す。


「蓮。お父さんも言ったけど、大切なのはお互いにお互いを想っているってこと。その気持ちさえあれば、どんな障害だって乗り越えていけると思うわ」

母はそう言うとキッチンへと戻っていった。


「おっと、お父さんはお風呂にでも入ろうかな、今日は怖いテレビがあるからな、今のうち入っておかないと後で怖くて入れなくなる」

父はそう言って笑いながらお風呂に向かっていった。


僕は一人リビングに残された。父と母の言葉が胸にまるで、スポンジが水を吸い込むように染みていた。


そう。確かに恋人の関係にはまだなれないと言われた。でもお互い好きなのは変わらない。まずはそれでいいじゃないか。想い続ければきっと最後には………。


僕は立ち上がってキッチンに入っていく。


「母さん。ありがとう!大切なのは気持ちだよね」

母は優しい笑顔で頷いた。


そして僕は廊下に出てお風呂場に向かって「父さんもありがとうー」と叫んだ。


するとお風呂場から反響した声で「ビックリした!お化けかと思った!」と聞こえきた。僕はそれを聞いて笑った。心の突っ掛かりが取れた気がした。


それから僕は外に走りだした。向かう先は一つだ。


僕は鈴佳の家の前に立つと「ピーンポーン」とインターホンを押した。するとインターホンから、鈴佳のお母さんの声で「はい?どちら様ですか?」と聞こえた。


「蓮です!鈴に会いたいのですが?」

僕はあがる息を整えながら玄関のドアが開くのを待った。


しばらくしてガチャっとドアの鍵があく音がして鈴佳が顔を出した。


「あ、鈴!話があるんだ、出てきてもらえないかな?」

僕の言葉に頷くとゆっくりと家から出てきて僕の前に立った。


「ごめんね、さっきサヨナラしたばかりなのに。えっと……」

僕は大きく深呼吸をしてから口を開く。


「僕は、鈴のことが好きです。大好きです」

僕の言葉に鈴佳は驚いたような顔をする。


「付き合うとか付き合わないとか、今はどうでもいい。僕は鈴のことが世界で一番好き。それだけは事実だから」

僕はニコリと満面の笑みをみせる。


鈴佳はそんな僕を見て戸惑いながらも笑顔になる。


「ふふっ。世界で一番なんて大袈裟だね。私も蓮くんのことが大好きだよ。宇宙で一番大好きだよ!」

鈴佳は僕の大好きないつもの笑顔を見せてくれる。


それから僕らは二人で笑いあった。やっぱりこうやってる時間が何よりも大切で何よりも幸せだ。


僕達は恋人同士になったわけではない。言うならば友達以上恋人未満の関係だ。でも僕はそれでもいい。二人の気持ちが一緒ならばどんな関係だっていい。


きっと、この気持ちはこれからも変わることない。鈴佳ってきっとそうだろう。そうだと信じている。


今日はとてもいい誕生日になった。僕は人生で一番のプレゼントを貰ったんだ。鈴佳からの「好き」っという気持ちこそが僕にとっての最高のプレゼント。



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