君が見たものを僕は知っている
第18話 恋
8月11日。僕は買い物に来ていた。結婚式から今日まで散歩ぐらいで特に外出はしていなかった。それもあって久しぶりにちょっと遠くにあるデパートに母と来ていた。
もちろん、目的はちゃんとある。明日着ていく服を買いにきたのだ。明日はきっと大切な日になる。だから気合いも入れるために僕は服を選んでいた。
とはいってもオシャレに疎い僕にはどれがいいのか分からない。
いつもなら適当にシンプルなものを選ぶのだけど今日は悩む。悩みに悩んだけど、結局は店員に薦められたものを買ってしまった。
その後は特に行くとこもなかったので、デパートをブラブラすることにした。母とは時間を決めて待ち合わせることにしている。さぁ、何か面白そうなところはないかな?
夏休みということで家族連れが多いようだ。その時前方に小さな男の子の姿が目に見えた。泣いている。どうやら迷子になってしまったようだ。このまま見過ごす訳にはいかない。僕のゆっくりと近づいて、怖がらせないように優しく話しかける。
「ボク?どうしたの?お母さんとはぐれちゃった?」
男の子はウルッとした目で僕を見上げる。
「そうだな~、じゃあお母さん一緒に探そうか?」
僕はとりあえず一緒に母親を探してあげることにした。それでも見つからなかったら迷子センターに連れてってあげよう。僕はそう思って左手を差し出す。
男の子は最初は警戒していたけど、僕がニコッと微笑むと安心したのか手を繋いできた。とても小さくて弱々しい手だ。僕は壊れないように優しく握った。
このデパートは2階建てで今は2階にいる。とりあえず2階を廻ってみるか。僕は男の子のペースに合わせてゆっくりと歩きだした。
2階のフロアを一周してみたが、母親は居なかったらしく男の子は今にも泣き出しそうだ。僕は少し休もうと自動販売機の前のベンチに男の子を座らせた。
僕は男の子にジュースを買ってあげようと声をかけようとした。でも、名前を聞いてなかったので、なんて呼べばいいか分からないことに気がついた。
「あ、えっと、君名前はなんていうのかな?」
僕は男の子と目線を合わせるためにしゃがむ。
「か、快斗かいとです」
弱々しい小さな声で答えてくれた。
「よし!じゃあ快斗くん。喉渇いたでしょ?何か飲もうか」
断られたらちょっと恥ずかしいなと思いながらも聞いてみる。
快斗くんは「うん」と頷いた。
「よし!じゃあ何飲む?なんでもいいよ!」
そう言って僕は快斗くんを自動販売機の前に連れていく。
快斗くんは「これがいい」とオレンジジュースを指差す。僕はお金を入れてオレンジジュースのボタンを押す。取り出し口からジュースを出すと快斗くんに渡した。
快斗くんは少し笑顔になって「ありがとう」とお礼を言う。そんな小さなことだけど僕は嬉しくなって、快斗くんの頭を優しく撫でる。そして、僕も喉が渇いていたので、お金を入れてお茶のボタンを押す。
そして、僕達はベンチに戻って少しの休憩をした。この後は1階でも探してみるかな。そう思って立ち上がった時だった。
「快斗!」
急に女の人の快斗くんを呼ぶ声が聞こえた。
僕は声のした方に顔を向けた。そこにいたのは30代前半ぐらいの女の人だった。きっと快斗くんのお母さんだろう。
「ママ!」
快斗は母親を見るなり走り出していく。そのまま母親に抱きつくと、今まで我慢していたのだろう泣き出してしまった。
母親はそんな快斗くんを優しく撫でて「ごめんね。大丈夫だよ」と慰めている。
すると母親は僕に気づいて近づいてくる。
「あの、息子がお世話になりました。本当に無事に見つかって良かったです。ありがとうございました」
母親は何度も頭を下げる。すると、母親は快斗くんのジュースに気がついた。
「あれ?もしかしてお兄さんに買ってもらったの?」
快斗くんは頷く。
「え?そんな申し訳ありません。お金は払います」
そう言って母親は財布を取り出す。
「いえいえ!大丈夫ですよこれぐらい!それより無事に見つかって良かったです!」
僕はさすがにこれぐらいでお金を貰うわけにいかないので、必死に断る。
「そうですか。いや、本当にお世話になりました。ありがとうございます」
母親はまた何度も頭を下げる。もうそこまでされると逆にこっちが申し訳なくなる。
「じゃあ、私はこれで失礼します。いくよ快斗」
母親は快斗くんの手を今度は離さないようにギュッと握る。
「お兄ちゃんバイバイ!」
すっかり笑顔になった快斗くんは、僕に振り向きながら手を振って歩いていく。
僕は二人の後姿を見つめていた。するとある時の記憶が浮かんできた。
そうあれは僕がまだ小さい頃。7歳ぐらいだったかな?僕は母とこのデパートに来ていた。あの時、僕は玩具に導かれて母と離れてしまった。そう迷子になったのだ。
その時、僕は泣きながら探しまわったのを覚えている。あの時は優しいおばあさんが助けてくれたっけか。
やっと僕は母を見つけて駆け寄った。母も泣きながら僕を抱き締めてくれた。その光景がまるでドラマのワンシーンのようだったみたいで、周りの人たちが拍手してくれたっけ。
今思えば少し恥ずかしい思い出だな。でも、あの時の母の温もりと優しさは今もしっかり覚えている。
あの時そうだったけど、僕は両親に愛されているんだ。
「蓮!?どうしたの?待ち合わせ場所にこないから心配したじゃないの!」
僕が回想をしていると、時間になっても来ない僕を心配して母が駆け寄ってきた。
「え?あ、ごめん!迷っていた子がいてさ……」
僕は母に事情を話した。
「あらそうだったの?もうそうならメールでもしてくれたら良かったのに、心配したじゃないの!」
母は少し泣きそうになっている。
「ごめんって!フフッ!でも何かこんなこと昔もあったよね」
僕はさっき思い出していたことを話す。
「あ、あったね!あの時、恥ずかしかったんだから!みんなは拍手してくれたけど」
母にとっては少し苦い思い出のようだ。
あの時の母の顔と今の母の顔がまったく同じだった。息子の心配をして必死に探して、見つけてホッとして。僕は昔も今も愛されているんだなと感じた。
「本当にごめん。いつもありがとう」
なんだかそう思ったら素直になれて、自然と感謝の言葉がこぼれた。母は一瞬驚いた顔をしたけどまた笑顔に戻る。
「あれれ?どうしたの急に?もう可愛い子ね!ほらなんでも買ってあげるから言いなさい」
そう言うと母は僕の腕に自分の腕を絡めてくる。
「ちょ、ちょっと母さん!何やってんの!それに僕はもう子供じゃないんだよ!」
いい歳で親子でこんな風に歩くなんて恥ずかしい。
「何いってんの?蓮はいつまでも私の子供だよ」
まったく僕は本当に幸せものだな。こんなに僕を愛してくれる人がいるのだから。
その日の夜。僕は早速買ってきた服を着て鏡の前に立っていた。
「へ、変じゃないかな?でも、わりといい感じかも」
僕はまるでモデルになったみたいにいろんなポージングをする。
「鈴、格好いいって言ってくれるかな?」
こんな事を本気で考える僕の乙女チックなところが、自分でも可笑しくて一人で笑った。
変なテンションになっている。遠足の前日の小学生よりはしゃいでいる。約束をした時からずっと待ち焦がれていた。こんな気持ちになるのはいつ以来だろ。いや、この気持ちは今まで感じたことのないものだ。
僕の人生史上初の気持ち。名前をつけるなら?なんだろう?このドキドキして、じっとしていられない気持ち。周りの何もかもがキラキラと輝いて見えてしまうこの気持ち。そうきっとこの気持ちは。この気持ちの名前は「恋」だ。
いよいよ明日だ。明日全てが変わる。どっちに変わるかは分からない。でも、僕は伝えないといけない。ちゃんと鈴佳に聞いてもらわないといけない。
僕は人生史上初のこの恋を最後の恋にするんだと心に誓った。
もちろん、目的はちゃんとある。明日着ていく服を買いにきたのだ。明日はきっと大切な日になる。だから気合いも入れるために僕は服を選んでいた。
とはいってもオシャレに疎い僕にはどれがいいのか分からない。
いつもなら適当にシンプルなものを選ぶのだけど今日は悩む。悩みに悩んだけど、結局は店員に薦められたものを買ってしまった。
その後は特に行くとこもなかったので、デパートをブラブラすることにした。母とは時間を決めて待ち合わせることにしている。さぁ、何か面白そうなところはないかな?
夏休みということで家族連れが多いようだ。その時前方に小さな男の子の姿が目に見えた。泣いている。どうやら迷子になってしまったようだ。このまま見過ごす訳にはいかない。僕のゆっくりと近づいて、怖がらせないように優しく話しかける。
「ボク?どうしたの?お母さんとはぐれちゃった?」
男の子はウルッとした目で僕を見上げる。
「そうだな~、じゃあお母さん一緒に探そうか?」
僕はとりあえず一緒に母親を探してあげることにした。それでも見つからなかったら迷子センターに連れてってあげよう。僕はそう思って左手を差し出す。
男の子は最初は警戒していたけど、僕がニコッと微笑むと安心したのか手を繋いできた。とても小さくて弱々しい手だ。僕は壊れないように優しく握った。
このデパートは2階建てで今は2階にいる。とりあえず2階を廻ってみるか。僕は男の子のペースに合わせてゆっくりと歩きだした。
2階のフロアを一周してみたが、母親は居なかったらしく男の子は今にも泣き出しそうだ。僕は少し休もうと自動販売機の前のベンチに男の子を座らせた。
僕は男の子にジュースを買ってあげようと声をかけようとした。でも、名前を聞いてなかったので、なんて呼べばいいか分からないことに気がついた。
「あ、えっと、君名前はなんていうのかな?」
僕は男の子と目線を合わせるためにしゃがむ。
「か、快斗かいとです」
弱々しい小さな声で答えてくれた。
「よし!じゃあ快斗くん。喉渇いたでしょ?何か飲もうか」
断られたらちょっと恥ずかしいなと思いながらも聞いてみる。
快斗くんは「うん」と頷いた。
「よし!じゃあ何飲む?なんでもいいよ!」
そう言って僕は快斗くんを自動販売機の前に連れていく。
快斗くんは「これがいい」とオレンジジュースを指差す。僕はお金を入れてオレンジジュースのボタンを押す。取り出し口からジュースを出すと快斗くんに渡した。
快斗くんは少し笑顔になって「ありがとう」とお礼を言う。そんな小さなことだけど僕は嬉しくなって、快斗くんの頭を優しく撫でる。そして、僕も喉が渇いていたので、お金を入れてお茶のボタンを押す。
そして、僕達はベンチに戻って少しの休憩をした。この後は1階でも探してみるかな。そう思って立ち上がった時だった。
「快斗!」
急に女の人の快斗くんを呼ぶ声が聞こえた。
僕は声のした方に顔を向けた。そこにいたのは30代前半ぐらいの女の人だった。きっと快斗くんのお母さんだろう。
「ママ!」
快斗は母親を見るなり走り出していく。そのまま母親に抱きつくと、今まで我慢していたのだろう泣き出してしまった。
母親はそんな快斗くんを優しく撫でて「ごめんね。大丈夫だよ」と慰めている。
すると母親は僕に気づいて近づいてくる。
「あの、息子がお世話になりました。本当に無事に見つかって良かったです。ありがとうございました」
母親は何度も頭を下げる。すると、母親は快斗くんのジュースに気がついた。
「あれ?もしかしてお兄さんに買ってもらったの?」
快斗くんは頷く。
「え?そんな申し訳ありません。お金は払います」
そう言って母親は財布を取り出す。
「いえいえ!大丈夫ですよこれぐらい!それより無事に見つかって良かったです!」
僕はさすがにこれぐらいでお金を貰うわけにいかないので、必死に断る。
「そうですか。いや、本当にお世話になりました。ありがとうございます」
母親はまた何度も頭を下げる。もうそこまでされると逆にこっちが申し訳なくなる。
「じゃあ、私はこれで失礼します。いくよ快斗」
母親は快斗くんの手を今度は離さないようにギュッと握る。
「お兄ちゃんバイバイ!」
すっかり笑顔になった快斗くんは、僕に振り向きながら手を振って歩いていく。
僕は二人の後姿を見つめていた。するとある時の記憶が浮かんできた。
そうあれは僕がまだ小さい頃。7歳ぐらいだったかな?僕は母とこのデパートに来ていた。あの時、僕は玩具に導かれて母と離れてしまった。そう迷子になったのだ。
その時、僕は泣きながら探しまわったのを覚えている。あの時は優しいおばあさんが助けてくれたっけか。
やっと僕は母を見つけて駆け寄った。母も泣きながら僕を抱き締めてくれた。その光景がまるでドラマのワンシーンのようだったみたいで、周りの人たちが拍手してくれたっけ。
今思えば少し恥ずかしい思い出だな。でも、あの時の母の温もりと優しさは今もしっかり覚えている。
あの時そうだったけど、僕は両親に愛されているんだ。
「蓮!?どうしたの?待ち合わせ場所にこないから心配したじゃないの!」
僕が回想をしていると、時間になっても来ない僕を心配して母が駆け寄ってきた。
「え?あ、ごめん!迷っていた子がいてさ……」
僕は母に事情を話した。
「あらそうだったの?もうそうならメールでもしてくれたら良かったのに、心配したじゃないの!」
母は少し泣きそうになっている。
「ごめんって!フフッ!でも何かこんなこと昔もあったよね」
僕はさっき思い出していたことを話す。
「あ、あったね!あの時、恥ずかしかったんだから!みんなは拍手してくれたけど」
母にとっては少し苦い思い出のようだ。
あの時の母の顔と今の母の顔がまったく同じだった。息子の心配をして必死に探して、見つけてホッとして。僕は昔も今も愛されているんだなと感じた。
「本当にごめん。いつもありがとう」
なんだかそう思ったら素直になれて、自然と感謝の言葉がこぼれた。母は一瞬驚いた顔をしたけどまた笑顔に戻る。
「あれれ?どうしたの急に?もう可愛い子ね!ほらなんでも買ってあげるから言いなさい」
そう言うと母は僕の腕に自分の腕を絡めてくる。
「ちょ、ちょっと母さん!何やってんの!それに僕はもう子供じゃないんだよ!」
いい歳で親子でこんな風に歩くなんて恥ずかしい。
「何いってんの?蓮はいつまでも私の子供だよ」
まったく僕は本当に幸せものだな。こんなに僕を愛してくれる人がいるのだから。
その日の夜。僕は早速買ってきた服を着て鏡の前に立っていた。
「へ、変じゃないかな?でも、わりといい感じかも」
僕はまるでモデルになったみたいにいろんなポージングをする。
「鈴、格好いいって言ってくれるかな?」
こんな事を本気で考える僕の乙女チックなところが、自分でも可笑しくて一人で笑った。
変なテンションになっている。遠足の前日の小学生よりはしゃいでいる。約束をした時からずっと待ち焦がれていた。こんな気持ちになるのはいつ以来だろ。いや、この気持ちは今まで感じたことのないものだ。
僕の人生史上初の気持ち。名前をつけるなら?なんだろう?このドキドキして、じっとしていられない気持ち。周りの何もかもがキラキラと輝いて見えてしまうこの気持ち。そうきっとこの気持ちは。この気持ちの名前は「恋」だ。
いよいよ明日だ。明日全てが変わる。どっちに変わるかは分からない。でも、僕は伝えないといけない。ちゃんと鈴佳に聞いてもらわないといけない。
僕は人生史上初のこの恋を最後の恋にするんだと心に誓った。
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