君が見たものを僕は知っている

涼風 しずく

第13話 夏の思い出

その後、鈴佳と凜が食材を運んできたところで、苦戦していた火もようやくついた。さぁ、ここからキャンプ本番だ。僕達はジュースを手に乾杯をした。


「うっめぇ~!やっぱりバーベキューは最高だなー!」

信也は今にも踊り出しそうな雰囲気だ。


「信也、野菜も食べなきゃ駄目だよ!」

凜はまるで信也のお母さんのように、信也の皿に野菜を取る。


「おぃひぃ~」

鈴佳とはいうと、口一杯に肉と野菜を頬張って、まるでハムスターのように頬が膨らんでいる。


バーベキューとは不思議なもので、普通に室内での焼き肉とやっていることは同じなのだが、何でか普段よりも格段に美味しく感じる。場の雰囲気と気分が高揚しているせいなのかもしれない。一種の催眠術みたいなものかも?


なんて、考えているうちにも信也がどんどん肉を食べてしまうので、僕は次から次へと鉄板に肉をおく。よく、アメリカとかの映画やドラマとかでバーベキューをやってるシーンがあるが、あの時の父親とかの気分だ。


自分はつまみながら焼いて、ひたすら焼いて、それでもみんなが笑顔で食べているのを見ると嫌じゃない。むしろ、こっちも焼くのが楽しくなる。ただ、暑いのはきついけど。


一通り焼き終えたころには僕はお腹一杯になっていた。みんなも同じらしく椅子に座りながらジュースを飲んで話している。僕も空いている椅子に座ってお茶を一口飲んだ。


「いやぁー、それにしてもテストであんなにいい点数取れるとはな。おかけで家の親もご機嫌でさ、いやみんなの力があったとはいえあれは奇跡だよな」

期末テストの話をしているようだ。確かに信也はよく頑張っていた。その結果の賜物だろう。


「まぁ、俺は奇跡を呼ぶ男だからな!」

でも、ちょっと調子に乗りすぎのようだ、次のテストに響かなければいいが。


「いや、奇跡なんて呼べないでしょ。だったら蓮くんの方が奇跡を呼ぶ男だと思うけどな」

不意に凜が僕の名前を出す。僕が奇跡を呼ぶ男?


「あぁ、そうだな。だってお前昔、大事故にあって命の危機になったことあるんだよな。意識不明の重体だっけか?よく復活できたよな。後遺症も残ってないんだろう?これぞ奇跡だな!」


なるほど、確かにあの事故のことは奇跡と呼んでもいいだろう。でも、両親にも鈴佳にもたくさん心配かけたっけな。僕は鈴佳の方を見る。


鈴佳は下を向いて何かを考えている。恐らくあの時のことを思い出しているのだろう。あの時、鈴佳は泣いて喜んでくれたっけ。僕はあの日の事は大変だったけど、みんなが僕を大切に思ってくれている事を知れた大切な思い出として胸にしまっている。


「でも、もし蓮が死んでたらと思うと変な感じだな。蓮だけじゃやくて、凜も鈴佳ちゃんも、もし誰か1人いなかったらと思うとちょっと怖いな」

信也のいいたい事はよく分かる。そもそもそうなったら、僕達はこんなに仲良くなれていたのだろうか?


「そうだね。もしそうなら、ここでこんな話もしてない訳だしね。これがある意味奇跡なのかもしれないね」

さすが凜だ。良いことを言う。きっと、僕らが産まれた瞬間からこの奇跡は始まっていたのだろう。


「なんか、しんみりしちまったな!よし!花火でもやろぜ!」

信也は暗くなった雰囲気を変えるようにパンっと手を叩く。


「うん!でも、さきにここら辺片付けちゃおうか!」

そのテンションに合わせるように凜は立ち上がる。


それに続いて僕と鈴佳も片付けにはいる。心なしか鈴佳の元気がないように感じていたが、凜と話していつものような笑顔を見せるいるので少しホッとする。


ある程度片付けをして僕達は川の近くに移動した。


「よっしゃあ!花火だーー!」

信也はまるで花火のようなキラキラした笑顔をする。


僕達は思い思いに花火を手に取り火をつける。花火の灯りがみんなの笑顔を照らしていた。


信也はブンブンと花火を振り回す。みんな子供に戻ったようにはしゃいでいる。終始、僕達は笑顔だった。僕達はきっとこの夏の思い出をきっと忘れないだろう。


「よし!最後はみんなで線香花火しようぜ!先に落ちたやつが花火の後片付けな!」


僕達は一本ずつ線香花火を手にすると中央に集めて火をつける。全員の花火に火がついて小さな火花が散る。4本ならんだ線香花火が儚く綺麗に輝いている。


線香花火の小さな光は最後に力強く火花を散らすと地面に落ちた。その小さな光に照らされた鈴佳の顔があまりにも綺麗で、気づいたら僕は見つめていた。


僕達はリビングでお菓子とジュースで最後の夜の余韻に浸っていた。勝負に負けた信也が花火の始末をして帰ってくる。


「いやぁ~、楽しかったな~。なんかあっという間だった」

信也は似合わない真面目な表情でしみじみと語る。


「うん。でも夏休みが終わる訳ではないから、まだまだこれからだよね!」

鈴佳は満面の笑みを見せてくれた。


「そうだな!結婚式も控えてることだしな!」

そうだった。忘れていたわけではない。考えないようにしていた。考えるだけで恥ずかしくなって堪らなくなるからだ。


「え?もう!お風呂入ってくる!」

鈴佳も思い出して恥ずかしくなってこの場にいずらなくなったのだろう。足早にリビングを出ていく。


「あ、待ってよ鈴佳ちゃ~ん!一緒に入ろうよ~」

まるで中年の酔っぱらいのような絡みをする凜。


「あれ?照れちゃってかわいいな。あ、蓮くんも照れちゃいましたか~?」

信也は僕の赤くなった顔を見て、まるで子供に接するかのような声をだす。


「は!?照れてねぇよ!もういい!僕もお風呂入ってくる!」

僕も堪らずお風呂に逃げる。


「あ、待ってよ!蓮く~ん。一緒に入ろうよ~」

ん?なんかデジャブ?と思いながら僕は足早にお風呂に向かった。


どうやら、僕達がバーベキューをしている時に、使用人の方がお風呂を掃除してお湯を変えてくれていたらしい。


僕達はお風呂を満喫すると自然とリビングに集合していた。しばらく中身のない話をダラダラとして過ごした。


「よし!じゃあ、そろそろ寝るか!」

信也のその提案で僕達はソファーを立つ。でもそこで思い出した。今夜は鈴佳と同じ部屋だ。なぜだろう急にドキドキしてきた。


信也と凜はニヤニヤとしながら「おやすみ」と言い残し部屋に向かっていった。僕達もずっとそこに居るわけにもいかず部屋へと向かった。


部屋はどこも一緒らしく。高そうな家具とベッドが一つだけだ。ソファーでもあればいいのだが残念ながら部屋はない。つまり寝るなら床かベッドか。


鈴佳はベッドに座って僕を見る。


「蓮くんも座ったら?」

鈴佳が頬を赤く染める。少し濡れた黒髪で上目遣いをする鈴佳にドキッとする。なんだかいつもより色っぽい。僕はブンブンと首を振って心を落ち着かせる。


僕達はベッドに並んで座った。いつも並んで登校したりしているから隣にいるのは慣れているはず。なのにどうしてこんなに意識してる?


「えっと、じゃあ寝ようか?」

鈴佳の何の変哲もない言葉が、頭の中を駆け回る。でも、ここは落ち着こう。ただ隣で寝るだけだ。僕はドキドキと高鳴る鼓動を抑えながら、鈴佳と背中合わせで横になる。


ダメだ。眠れない。静まれ鼓動!そう意識すればするほど鼓動は早くなる。鈴佳に聞こえてしまいそうだ。


僕はとにかく無心になろうとした。目を瞑り何も考えないようしする。


僕の中ではまだ数十分ぐらいなのだが、実際にはもう1時間ぐらいたっていたようだ。背後では鈴佳が小さな寝息をたてている。どうやら眠ったらしい。僕も早く寝ないと。落ち着こう。僕はまた目を瞑る。


すると、ガサッと音共に背中に温もりを感じた。


え?僕はゆっくり顔だけ後ろをむく。そこには寝返りをうった鈴佳の顔がすぐ近くにあった。


僕の背中には、鈴佳の柔らかいものが体中に当たっている。もう僕は沸騰しそうなぐらい熱くなる。でも、鈴佳が気持ちよさそうに寝ているので起こすわけにもいかない。


僕はそのまま鈴佳の温もりを感じながら、ゆっくりと目を閉じた。


―――今日の私はなんだか大胆だな。私は寝たフリをしながら蓮くんの背中に密着していた。蓮くんの温もりを近くに感じてドキドキと胸が鳴っているのが分かる。こんな時間が続くのなら何もいらないのに。私は叶わない願いと共に眠りについた。


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