君が見たものを僕は知っている

涼風 しずく

第12話 くじ引き

僕たちはその後、少しリビングでだべるとそれぞれの部屋へと入っていった。慣れない読書をしたせいか疲れていた僕は、ベッドに倒れこむとそのまま眠ってしまった。


翌朝、目を覚ましたのは6時ぐらいだっただろうか。僕は部屋からでると、書斎のコーヒーマシンでコーヒーを淹れて、テラスで外の空気を吸いながら飲むことにした。


辺り一面木々で覆われていて、近くからは川の流れている音が聞こえてくる。町の喧騒などから離れて過ごすこの時間は、心も穏やかになり、僕にとっても貴重な時間だ。


僕がそんな自然と一体化していると、後の戸がカラカラと開く音がした。僕が振り返ると眠気眼を擦りながら、欠伸をする鈴佳が立っていた。


「おはよ~蓮くん~」

「おはよう、鈴」

僕達は挨拶を交わす。お互い寝起き姿を見せるのは小さい頃、僕の家や鈴佳の家に泊まった時以来だ。


「ふぅ~、空気が綺麗だね。空気も美味しいよ」

鈴佳は大きく深呼吸して、口をパクパクして空気を食べている。


その姿がなんだか可笑しくて、可愛らしくて、僕はプッと吹き出してしまった。


「あ~、なんで笑うの?なんか変なこと言ったかな~?」

「いや、ごめん。何でもない。何も変なこと言ってないよ」

僕は笑いの余韻に浸りながら鈴佳を気遣う。何も変なことは言ってないけど、ちょっと変な行動だった。


「あらあら、朝からいちゃついて、新婚夫婦さんですか?」

すると急に背後から声をかけられた。その声に驚いたのと、ドキッとさせる言葉が混じっていたことで、僕は焦りながら振り向く。


そこには凜が立っていた。凜は大きく背伸びをして、僕達を冷やかしの目で見ている。


「あ、凜ちゃん、おはよ~」

鈴佳はその冷やかしに気づいていないのか、それともスルーしているのか分からないが、普通に挨拶をする。


「あ、おはよう」

僕も自分だけ変に意識するのも馬鹿馬鹿しくて、鈴佳に続いて挨拶をした。


「うん、おはよう。二人とも早いね、私が一番だと思ったのになぁ~」


それから、僕達3人はしばらくテラスで、いつもじゃ味わえない景色や空気に浸っていた。


その後は軽く朝食を食べて、少し早いがバーベキューの準備をすることになった。時刻は8時。準備といってもコンロの設置やテーブルと椅子。夜でも見えるようにライトなどの準備だ。


3人で相談して、会場を川の近くにした。火を扱うのでいざというときも安心だ。僕達は協力して準備をする。手際よく進んであっという間に終わってしまった。時刻は9時。開始予定は17時ぐらいなので、あと8時間ぐらいは暇だ。


僕達はとりあえずリビングに集まり、今後の予定を相談することにした。でもその前にまずはやらなければいけないことがある。それは、凜に任せることにしよう。彼女だから。


僕と鈴佳がリビングで意見を出し合っていると、凜が戻ってきた。信也も連れて。


「おっはー!」

本当に寝起きなのかと疑いたくなるくらい元気だ。きっと彼女に起こされたからだろう。なんとも幸せなやつだ。


そこから僕達は今後の過ごし方について話し合うはずだった。でも、信也が持ってきた、トランプ、ジェンガ、人生ゲームなど遊びをしていくうちに、あっという間に時間が過ぎてしまった。負けず嫌いの凜と信也のおかげで、何度も何度も繰り返したのだ。


あと、数分で17時という時だった。信也が何かを思い出したかのように「あ!」と声をあげた。


「そうだ、忘れないうちにやっておかないとな」

そう言うと信也は何やら中の見えない箱を持ってきた。その箱には手を入れるような穴が一つ空いていた。


「なんだこれ?」

僕は考えるよりも先に言葉がでた。見た感じだと何かのクジだとは思う。でもその何かが分からない。


「んじゃ、説明するぞ!この中は1と2が書いてある紙が入っている。これをみんなで引いて、一緒の数字を引いた人がペアだ。そのペアで今日は同じ部屋で寝てもらう」


は?寝てもらうって、ベッド一つだけなんだけど、それってもし鈴佳とか凜とかだったら………。


「お、おい!何だよそれ!急に!もし僕と凜が一緒だったらどうするんだよ!」


「え?それはそれで。俺はお前と凜を信じてるし大丈夫だろ。それとも何かあるの思ってんのか?」

信也がニヤニヤと笑う。しまった、これじゃ信也のペースだ。


「私も別にいいけどね、なんか楽しいじゃんこういうの」

凜も乗り気なようだ。これで2対2ってことか。きっと鈴佳も反対するだろう。そう思っていた。


「私もいいと思うよ」

意外だった。まさか鈴佳も賛成するとは。つまり多数決で言ったら僕の負けってことだ。


「わかった。やるよ」

僕は渋々そう言った。言うしかなかった。でも僕と信也が一緒になれば別に問題はないのだ。いや、鈴佳と凜とでも問題をおこすつもりもないのだが。


「よし!じゃあ、誰から引く?」

その言葉に凜が真っ先に手を挙げる。


「んじゃあ、レディーファーストで私からね!次に鈴佳ちゃんってことで」

凜は軽い足取りでクジに近づいて右手を入れる。しばらくガサガサとクジを選んで「これ!」と言って勢いよく手を出した。


凜は取り出した紙を右手に握りしめてクジから離れる。みんなが引き終わったら一斉に開くルールらしい。


凜の次は鈴佳が引いて、次に僕、最後が信也だ。みんなが引き終わる。


「じゃあ、せーのでいくぞ…………。せーの!」

信也の合図でみんな一斉に紙を開く。僕の番号は「1」だ。


「俺は2番だぜ!俺と一緒は誰かな~?」

信也とは違うみたいだ。あとは、鈴佳か凜。僕はゴクンと唾を飲んだ。


「はーい!私2番!」

凜は2番。この瞬間僕のペアが鈴佳に決まった。


「あ、えっと蓮くん。よろしくね」

鈴佳は近づいてきてはにかんだ笑顔を見せる。


僕はその笑顔にドキッとする。今日は鈴佳と同じ部屋で一夜を過ごすのだ。もちろん、変なことは考えていない。考えてはいないけど何でこんなに緊張しているんだ。僕は自分の胸に手を当てる。心臓が忙しなくドクドクと脈を打っていた。


「よし!じゃあバーベキューの時間だぜ!」

信也は火をおこすためにコンロへと向かった。鈴佳と凜は食材をとりにキッチンへ。僕はリビングに残された。いや、僕も信也と火をおこす担当にはなっている。でも、少し気になったことがあったのだ。


クジを引いたとき僕は3枚の紙に触れた。僕の順番は3番目。つまり、全部で4枚のはず紙が、僕の順番では3枚あったのだ。僕の前に2人引いている。僕の順番の時には2枚じゃなかったらおかしいのだ。


僕は信也が置いていったクジの箱を開けて中を見た。紙が2枚残っている。おかしい。誰も紙は戻してないはずた。僕はその2枚の紙を開いてみた。そこに書かれていた数字は「1」だった。どっちも「1」だった。


なるほど。やっぱり最初から決まっていたのか。つまりは、信也と凜が仕組んだものということだ。あらかじめ「1」を4枚入れておく。これは、誰がどの順番で引いても怪しまれないようにするためだ。まぁ、最初と2番目だったら騙されるかもしれないけど、流石に3番目だったら気づく。


そこは、詰めが甘いというか、最初から順番も仕組めば良かったのにと思う。恐らく信也が細工したのだろうがバレバレだ。あとは、僕と鈴佳が必然的に「1」を引いて、信也と凜はあらかじめ隠しておいた紙を引いたフリして手にもっていたのだろう。


僕はハァ~とため息をついて信也のもとへと向かった。


「信也、詰めが甘いよ。バレバレだぞ。やるならもっとうまくやってほしかったんだけど」

僕は素直に気づいたことを話した。きっと僕と鈴佳の仲を応援するためにやってくれたのだろう。その好意には感謝している。


「え?バレちった?」

信也は本気で驚いた顔をする。まさかバレないと思ったのだろうか。こういう抜け目のあるところも嫌いではない。


「まぁ、バレたね。でも、ありがとうな。僕たちのことを応援してくれようとしたんだろ?そこは素直に感謝するよ」

僕の言葉に信也は「おう!」っと返して嬉しそうに笑った。



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