君が見たものを僕は知っている

涼風 しずく

第9話 信也と蓮

今年の夏休みは楽しくなりそうだ。俺は高校の入学したての頃を思い出していた。




高校デビューで一番大切なことは友達づくりだ。最初から高校生の階段を踏み外さないようにしないといけない。




俺は教室に入ってグルッと周りを見渡した。中にはすでに何人かの生徒がいて、それぞれの時間を過ごしている。




すると、1人ボーッと窓の外を眺める生徒がいるのに気づいた。何故かわからない。俺はその生徒にゆっくりと近づいていた。




「お、おう!俺は五十嵐 信也っていうんだけど?その、えっと~、」


俺は続きが思いつかずにしどろもどろになる。




「僕は、蓮。よろしく」


そんな俺を見かねてか、蓮は俺に手を差し出してくれた。俺達は握手を交わした。これが俺と蓮との出会いだった。




あの時は思わなかった。蓮と親友と呼びあえるほど深く繋がれるとは。




「あ、蓮くん!おはよー!」


すると急に俺の背後で元気な女の子の声が響いてきた。俺はその声に反応して振り返った。そこに居たのは、小柄な可愛らしい女の子と息を飲むほど綺麗な女の子だった。




「おはよう、鈴佳」


蓮が小柄な女の子に声をかけた。鈴佳ちゃんと言うらしい。




「あ、もう友達できたの?良かったね蓮くん」


鈴佳ちゃんとはニコニコと笑っている。




「ん?ああ、うん。信也くん。えっと、こちら鈴佳。僕の幼馴染なんだ」


蓮は俺に鈴佳ちゃんを紹介してくれる。俺は慌てて頭を下げて挨拶をする。




「それより、鈴佳も友達できたの?」


蓮は鈴佳ちゃんの隣の女の子を見ている。




「うん!さっき会って話したら気が合ってさ、あ、紹介しないとね。こちら凛ちゃん」


凛は「よろしくね」と言って頭を下げる。




俺はその時、人生初めての一目惚れをしていた。




「凛ちゃんかぁ~」


俺はボソッと呟いて慌てて口を押さえる。どうやら凛には聞こえていなかったようだ。




それからゆっくりとした月日が流れていった。気づいたら俺達はいつも一緒にいた。いわゆるいつメンってやつだ。




俺達は初めてあったあの日から何も変わっていない。俺の凛への気持ちもだ。




そんなある日だった。俺は蓮と一緒に帰っていた。




「はぁ~、もう少しでクリスマスだな~」


俺は息を白く染めながらため息をついた。




あと数日でクリスマスだ。もう1年が過ぎようとしていた。でも、今年は例年とは異なっていた。




町を彩るイルミネーションも、冬の寒さも、今年は妙に胸を締めつけてくる。理由は分かっていた。だからこそ更に辛いのだ。




「告白しないのか?」


蓮の言葉に俺は分かりやすく動揺してしまう。




「え!は、はぁ!?だ、誰にだよ!」


そんな俺を見て、蓮はニヤニヤと笑っている。




「はぁ~、まぁそれは気づいてるよな~。こんだけ意識してるんだもんな」


俺は諦めて蓮に相談することにした。




「なぁ、やっぱりイチかバチか告白した方がいいよな?」


自分では分かっていた。ただ、誰かに背中を押してもらいたかった。




「ん~、わからない。僕には関係ないからね」


予想外の言葉に面食らってしまう。




「は、はぁ!?お前、俺に幸せになってほしくないのかよ!?それでも友達かよ~」


我ながら情けない。でも確かにそうだ、蓮には関係のないことだ。




「いや、そうじゃなくてさ、僕は告白しろとか、するなとか言える立場じゃないしさ、まぁ、もし駄目で傷つくなら告白しなくてもいいとは思うけどね」


蓮は淡々と言葉を重ねている。




「いや!駄目でも伝えた方が絶対にいいだろう!伝えないで後悔するなら、伝えて後悔した方がいい!絶妙にその方がいい!」


俺がそう言い切ると、蓮はまたニヤニヤとした表情を浮かべている。




「な、なんだよ!ニヤニヤして!」


こっちは本気で言ってるのに。




「あ、いやごめん。でも、答えでてるじゃん!」


蓮のその言葉に俺はハッした。




俺は想いを伝えたい。そう思っていたんだ。蓮に言ったことが全てだった。




「そうか。俺は‥‥‥。ありがとうな蓮」


やり方はどうであれ、蓮は俺の気持ちに気づかせてくれた。素直に感謝だ。




「え?俺は何もやってないよ!」


そう言って蓮はスタスタと歩いていってしまう。面と向かってお礼を言われて照れたのだろう。




俺は走って蓮に追いつくとおもいっきり背中を叩いた。




ーーーー12月25日




町はクリスマス気分でパアッと明るくなっている。俺はというと、緊張しっぱなしでぎこちない笑顔を浮かべていた。




今、目の前には凛がいる。いよいよ、告白をするのだ。




今日は1日、いつメンで遊んでいた。デパートにいってクリスマス気分を味わったり、何でもないことでも楽しく過ぎていった。




もう帰ろうかとなったところで、蓮と鈴佳ちゃんはトイレに行くといって歩いていった。蓮が気をつかって2人きりにしてくれたのだろう。




そうして、俺は本番を前にしり込みをしてしまっているとという現在。




昨日何度も練習してきた言葉が頭の中をぐるぐると回っている。




俺はギュッと拳を握る。今日はクリスマスだ。聖なる夜だ。サンタさん。プレゼントはいらないから、俺を見守ってくれ。




「り、凛!」


俺は力強く名前を呼んだ。もう後戻りはできない。




「お、俺は。凛のことが‥‥‥。好きだ!」


いい終えるとギュッと目を閉じた。怖くて顔も見ることができなかった。




しばらく沈黙が続いた。俺は恐る恐る目を開けて凛を見る。凛は驚いた表情で固まっている。




「あ、えっと、返事はいつでもいいから」


沈黙が気まずくなって、「あはは」と笑って場を和まそうとする。




「信也?」


不意に名前を呼ばれてドキッとする。




「わ、私。私も信也が好きだった。だから、その‥‥‥。ありがとう」


その瞬間僕の頭は真っ白になった。何度も今の言葉が頭を駆け巡る。




理解するのには数十秒かかった。夢の中にいる気分だ。まさか凛も俺の事を想っていてくれていたなんて。




「あ、まさか両想いとはね。驚いた。俺の事を好きになってくれるなんて」


夢じゃないことを確かめるように言葉にする。




「うん。実は初めて見たときから。一目惚れってやつかな?」


凛は照れたように下を向く。




その表情に胸が締めつけられる。本当に夢じゃないんだよな?何度も自分に問いかけた。




「ごめん!お待たせ!」


そこに鈴佳ちゃんと蓮が帰ってくる。




「あれ?どうしたのお二人さん」


蓮はいたずらっ子のような表情を浮かべている。




「蓮‥‥」


俺は蓮に向かって、成功したという意味で頷いた。




「そっか!よし!じゃあ帰ろうか!」


蓮はまるで自分の事のように嬉しそうに微笑んでいた。




そこからは良く覚えていない。どうやって帰ったのか。何を話したのか。俺だけまだ夢の中に置き去りにされている気分だった。




それから、凛に話を聞いたところ、実は凛は前々から俺の事が好きだと、蓮と鈴佳に話していたらしく、告白する勇気はないと伝えていたらしい。




そこで、蓮が俺に告白させるためにいろんなことをやってきたらしい。




そういえば、男二人で恋愛映画を観に行ったこともあった。カラオケでデュエットソングを凛と歌わせれたこともあった。




思えばあれは俺に告白をさせようと、俺の心を高ぶらせようと蓮が仕組んだことだったのだ。




おかげ日に日に俺の気持ちは大きくなって、あの日の帰りに決意をするまでにいたったのだ。




まったく、恐ろしいやつだ。でも、俺のために。凛のために。いろんなことをしてきてくれたかと思うと嬉しくなる。




そうだ、今度何か奢ってやろうかな?ラーメンとかアイスとか。あ、あそこのケーキ屋とかもいいかも。




そう、思っていたけど、結局行動には移さなかった。何かを奢るだけじゃたりない。




俺は蓮の恋も全力で応援することに決めた。蓮と鈴佳ちゃんの恋が叶いますように。



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