Flower Plague

三日月

調査日誌「一日目」

「なぁ、ベルラ

マリティマってあんなに陰気な都市だったっけな」

マリティマに向かう船の甲板でヘリオが言う

「いいえ、もっと活気があるように見えたけど……」

潮風に後ろでまとめた髪をなびかせながらベルラが答える

「支部も何でまたあんな妙なメッセージ残していったんだよ

“花が襲ってくる”ってどういう意味だよ」

「わからないわ

何かしらのトラブルがあったという事くらいしか」




ある日、本土の政府機関に緊急の連絡が入った

“こちらマリティマ支部

本部、応答願う”

非常に焦り、まるで何かに怯えているようだ

“こちら本部、マリティマ支部どうかしたのか?”

“助けてくれ、花が……花が襲ってくる!

ゥッ!ウワァァァァァァァ?!?!”

“マリティマ支部?マリティマ支部?

応答せよ、マリティマ支部?”

それ以降連絡が取れることはなかった

さらに、政府機関だけでなく全ての民間企業や公共機関からの連絡も取れなくなってしまった

マリティマ建設の第一人者であるカルミア本社からの連絡も未だない




「嘘や演技の感じはしなかったわ

それに、職員の声にかき消されて聞き取りにくかったけど、人間じゃない声…うめき声のようなものが入っていたわ」

ベルラは音楽家の家系で育ち、非常に優れた耳を持っている

僅かな音の違いや、今のように微かな音も聞き逃さない

「なんであの場で言わなかったんだよ

言ってたら政府だって軍隊を動かしてくれただろ?

俺達二人だけで行かされることだってなかったんじゃないか?」

「あの時言っても結果は変わらないわ

どうして私達二人だけが派遣されたと思う?

政府はこの事をなるべく隠し通したいのよ

軍隊なんか動かしたら他の国に弱みを握られるかもしれないし

何より、巨大海上都市マリティマで都市全てを巻き込むような大きな事件だったら政府の信用に関わるわ

それに政府がそんなことを気にしなくても、私一人しか聞こえていない音を誰が信用してくれるの?」

「………そうだな…仕方ねぇか…」

「ベルラさん、ヘリオさん、もうすぐ当船はマリティマに到着いたします

ご無事をお祈りいたします」

「ありがとう」  「すまねぇな」




港には人の気配はない

しかしむせ返るような様々な花の匂いが入り混じっている

今、この島で一体何が起こっているのか

これから何が起こるのか

まだ二人は知らない

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