捻くれ男子とボクっ娘
9話
「くっ……何故なんだ……」
葵はがっくりとうなだれていた。
周りに人がいなければ今にも膝から崩れ落ちそうなくらいである。
「勝ったか」
僕が座っているゲーム機の画面では“勝ち”の表記が、葵の方の画面では“負け”という表記が大きく出ていた。
「何故だ、何故だ……ボク個人それなりに強い自信があったのにやるゲームでここまで負けるなんて……」
太鼓のゲームから勝手に始まった僕と葵の勝負は今のところ僕の全勝である。
「まぁゲーセンはよく来るからな」
「……ちなみに聞くんだけど週に何回来ているのさ?」
「1番多かった時は週6だな」
「ほぼ毎日じゃないか!? キミはやる事無いのか!?」
「……僕はお前みたいに周りから好かれる人間では無いからな。放課後は大体ゲーセンだ」
「いやいや勉強とかあるだろうに」
「学校の勉強なら授業で事足りる」
「ボクも一度でいいから言ってみたいなぁそのセリフ!!くぅーー!!悔しい〜悔しい〜」
「……駄々っ子かよ」
「だってだって〜負けるの嫌なんだ〜」
なんて言いながら足をバタバタと振り、今まで見たことが無いぐらい悔しがる葵。個人的にそんな彼女の様子を見て新たな一面を垣間見た。
「クラスの連中がこの今のお前の様子を見たらどう思うだろうな」
いつも教室ではクールな性格をして大人びているが今のこいつは年相応……いや若干年下の様な気がする。そんな様子をクラスの連中が見たらどういう反応をするか気になる。
「ふん、そんなの知らないね。ボクはただ自分の気持ちに正直なだけだ!! 
だからもう一回勝負だ」
と言うと葵は財布から100円玉を出すとゲーム機に入れた。それを見た僕も同じ様に100円を入れた。
「僕が負けるの先か、お前の財布が破産するのが先かある意味見どころだな」
「ま、負けないさ今度こそ!!」
……まぁ結局僕の連勝記録は伸び続け、葵は最後の勝負に至っては機体に顔を突っ伏していた。
ゲームでの対決を終えた僕達はゲーセン内をウロウロしていた。個人的にゲームをしなくてもこうやって見るのも好きだ。
「次こそは勝ってみせよう」
「その次がいつ来るか楽しみだけどな」
「ふん、そんなのすぐに見せてあげるよ!!」
「じゃあ僕も練習するか」
「ま、待ちたまえキミが今以上に上手くなったらボクは本当に越せなくなるから少しハンデをくれると……」
「断る」
「鬼かキミは!?」
そりゃ僕だって負けるの嫌だからな。
「じゃああれで勝負するか?」
と僕が指を指したのはクレーンゲームであった。ここのゲーセンは敷地が広いため、沢山の種類のクレーンゲームがある。
「望むところだよ……と言いたいのだけどボク、あれは苦手というかほぼ出来ないんだよね……」
と苦笑しながら言う葵。
「へぇ、お前でも苦手なゲームあんだな」
「……なんだろ、さっきまであんなに連勝していたキミに言われると凄く嫌味に聞こえるんだけど。まぁいいや、うん苦手だよ。今まであれで商品が取れた事無いね」
「じゃあ目の前に好きなぬいぐるみがあった場合は?」
「泣きながら家に帰る」
「そこまでか……普通?」
「何を言っているんだい!! ボクにとってねーー
ーーって言っている側からあるよ!?」
「ん?」
葵がの目線の先を見ると、そこにはアザラシだろうか、どでかい白い動物のぬいぐるみが景品として置かれていた。
「白いアザラシか……あれ?」
「か、か、可愛い……可愛い〜」
と目をキラキラさせてそのぬいぐるみ達を見ている葵。
「可愛いかあれ?」
僕が彼女にそう言うと葵は凄い勢いでこちらを振り向き
「何を言っているんだい流唯!! あのつぶらな瞳がボクらを見てくるんだよ!?」
と力説してきた。
でもな葵、それプラスチックの目な。
「それを可愛いと思わないなんてキミは頭大丈夫かい?」
「……余計なお世話だ。そんなに可愛いと思うなら連れて帰ればいいだろうが」
「うっ……ボクにその手の才能があったら今すぐにでも持って帰るんだけどね……あいにく才能は無いし、お財布事情ピンチだし……」
「後半は自業自得じゃないか?」
「うっ……またキミは痛いところをついてくるじゃないか……ここは諦めるか……でもなぁ……」
と口ではそうは言っているが足は全く動く気配がない。このままだとこいつはテコでも動く気がしない。
「……」
「アレキサンダー……欲しいなぁ」
「待て、そのアレキ……何とかってなんだ?」
葵がふと声に出した名前が気になり聞いてみた。
「あのぬいぐるみの名前さ」
「……随分見た目とのギャップがある名前だな」
どう見たって“可愛い”という代名詞が似合いそうな見た目なのに名前が昔の大王の名前ってこいつのネーミングセンスはどうなっているんだろうかと気になった。
「シーザー……シャルルマーニュ……フリードリヒ……」
そして新たな名前を呼び始める葵。何故かあげている名前が全て見た目とのギャップが強い。
「なんか増えてるし……はぁ……おい、葵」
「なんだい流唯、ボクは今彼らとの最後の対話をしているんだ、あと5分……いや3分でいいから時間を……」
「アレキサンダーってどれだ」
「えっ……」
「だからアレキサンダーってどのぬいぐるみだ? 僕には全て同じにしか見えないから教えてくれ」
「え、えっと……1番こっち側にあるものだけど……」
と葵が指を指してアザラシの場所を特定した。どうやらそれが目標の物みたいだ。
「分かった、あれな。ちょっと待ってろ取る」
2分後
「ほい、アレキサンダーだ」
「わぁ……」
僕が先ほど取ったぬいぐるみを葵に渡すと彼女はさっきにより増して目をキラキラさせて見つめていたのだが、そのつぶらな瞳? に耐えきれなくなったのか強く抱きしめていた。
「えへへ〜アレキサンダー〜」
「喜んでもらえたようで幸いだ」
「喜ばないわけ無いじゃないか!! こんな可愛い物を取ってもらえたんだから。しかもキミがわざわざ取ってくれたんだよ?」
「まぁ今日のデート代は出してもらっているからな」
アレキサンダーを取るのに使った額は300円だけだが映画、昼飯などは全て葵が払っているのだがからこれぐらい返さないといけないだろう。
「それでもありがとう流唯。
ーーで、相談なんだけどシーザーやシャルルーー」
「それは却下だ」
「まだ最後まで言ってないよボク!?」
……言いたいこと容易に想像出来るからな。
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