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豆腐メンタル! 無敵さん

仁野久洋

三日目七谷水難事件⑨

「留守先生」


 俺は留守先生に呼びかけた。


「なぁに?」


 留守先生はにっこりと微笑んだ。いつもの留守先生だ。この場面でその笑顔って、なかなかサイコホラーしてないか? 結構怖いな、留守先生って。


「七谷と黒野の推薦に賛成したのって、何人ですか?」
「委員長と副委員長の決議? それなら、阿久戸くんを除いた全員よ」
「阿久戸、以外?」
「ええ」


 俺のいる席からわずかに見えた、最前列に座す阿久戸の口元は、にぃ、と吊り上がっていた。


「……やりやがる」


 思わず。
 俺の口角も上がっていた。
 ふ。いいだろう。どうしたいのか知らないが、俺は自分の言いたいことを言うだけだ!


「朝の挨拶、始業終業終礼も、お前らはそうして座っているつもりなのか? 他の教科の先生たちにも、こんな状態を見せるのか? 今、お前らがそうしていられるのは、留守先生だからなんじゃないのか? 今、号令に従わないのは、留守先生を舐めているってことだろう。俺たちへの評価を下すに多大な力を持つ担任教諭に対し、いい度胸をしているな」


 まずは脅す。正常で健全な判断が出来なくなっている相手には、頭から冷や水をかけてやるに限る。


「あっ……」
「う。そ、そう言えば……」


 効果はあった。ただ流されているだけのやつらは、早速動揺し始めた。良し、もうひと押し!


「お前らは、そんなひどいことをしているって分かってんのか? こんなに可愛らしくて儚くって弱々しくって小学生みたいに頼りない、声もロリキャラアニメ声優まんまな留守先生に、良くそんな非道なことが出来るもんだ。
 みんなが留守先生を、しかもたった三日にして舐めまくっているなんて。可哀そうだろ、留守先生が。こんなことを聞いたら、ひょっとしたら泣く可能性だってあるんだぞ」
「ふあああぁ~! や、やめてぇ、ホズミくーんっ! 先生、言われなければ気付かなかったはずなのにぃー! せ、先生、さっきから、心がずきずきと痛むのぉーっ!」


 俺のひと押しで最初に落ちたのは留守先生だった。ひょっとしたら泣くかもとは言ったけど、ひょっとしなくても泣いていた。


「あ、あれー? 俺、留守先生を傷つける為に言ったんじゃないけどなー?」


 校長室でならともかく、生徒の前ではさすがに泣かないだろうと思ってたのに。先生、ホントに大人なの? 実はマジで小学生なんじゃないだろな? その胸、実は作りもの? もしそうなら、超がっかりなんですけど。


「おい、ホズミ。無敵さんだけでは飽き足らず、先生まで泣かすとは。どこまで酷いやつなんだ、貴様は」
「鬼だね、オトっちゃん」
「はふぅ~。そ、そのドSな王子っぷりが、またイカスぅ」
「酷いです。鬼畜です。やっぱりホズミくんは、人間の皮をかぶった悪魔なんですっ」
「ち、違う! 俺は、みんながどれほど酷い事をしているのか、ただ説明しただけだっ!」


 クラス中の冷たい視線を代弁するかのように、黒野、七谷、後藤田、無敵さんが、それぞれ俺に非難を浴びせた。
 どうしていつも俺だけが……。かなり納得いかないが、これが効果てきめんだった。


「ははっ。分かった分かった。確かにこれはひどいことだ。留守先生の涙で、それがよーく分かったよ」
「だな。おれだって留守先生好きだし」
「ま、あたしも、留守先生を泣かせたくなんかないもんね」


 がたがたと椅子を鳴らして立ち上がる者が出始めた。さん、し、ご……。お。七人か。


「ありがとう」


 これで起立した者は俺たち無敵さん係の五人と合わせて十三人。残り、二二。過半数にはまだ遠いが、まずまずの滑り出しだ。そう思い、俺は立ちあがったやつらに会釈した。


「み、みんなぁ……」


 で、留守先生は瞳をうるうると潤ませて、神に祈るかのように手を組んじゃったりしている。今立ち上がった奴等への感謝の気持ちは、俺の比ではないらしい。この時点で、留守先生の担任教師としての威厳は、すでに地に堕ちていると思われるが……。
 留守先生も、俺と同じで結構とばっちりを受ける星の下に生まれついているんだろう。留守先生と結婚するという未来もアリかなー、とか思ってたけど、そんな性質を持つ二人が一緒になったら悲劇しか招かないような気がしてきたので、もっと慎重に考えたいと思います。


「勘違いするなよ、ホズミくん。ぼくは留守先生の為に立っただけだ」


 あと、七三メガネのひ弱な坊やが口をへの字に曲げて釘を刺して来たけど、そんな弱っちぃのに、なんでそんな偉そうに出来んの? 悪いけど、俺、めちゃくちゃ見下しちゃいますよ? そのちっぽけなプライド、もっと傷つけちゃいますよ? なにしろ性格悪いんだ、俺は。自覚してて直さないんだから、俺もたいがい嫌なやつだと、自分で思っているくらい。だからさ。いまさら、お前一人に嫌われたって屁でもない。


「ああ。理由なんかどうだっていいんだ。とにかく号令には従った。それだけで、お前の人間性は保たれたんだからな。最低ギリギリのラインで、だけど」
「ぐぅ」


 立ちあがっておきながら、まだ自分の面子を気にしている七三メガネがムカついたので、追い打ちをかけてやった。従ったという事実攻撃と、お前の為に、という心情攻撃。これは結構効くだろう。


「何が人間性だ。たかが朝の号令ごときで、バカバカしい」
「だよねー。なにムキになっちゃってんの、あいつー?」
「やだやだ。先生に権利を与えられたからって、はしゃいじゃってさ。暴帝になるのって、絶対ああいうタイプのやつだよな」


 まだ座ったままのやつらが、三々五々、好き勝手に話を始めた。


「おい。言いたいことがあるなら、直接俺に言ってこい。同じ意見のやつらと話し合って、なんか違う結論とか出んのかよ?」


 ち。イライラする。ここでもそうか。そうなのか。ここにも……、群れないと主張出来ないやつらしかいないのかよ!


「言えよ! 俺の号令に従えない正当な理由を! 自分が正しいと思うなら、俺に論戦を挑んでみろっ!」


 言ってしまった。やってしまった。
 しまった! 俺は、また!


「ホ、ホズミ、くん……?」


 心配そうな無敵さんの線の目が、俺の顔を下から覗きこんできた。





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