豆腐メンタル! 無敵さん
二日目欠席入浴中⑧
「ととと、とりあえず、そこに座って。すぐにお茶を淹れるねっ」
「ぐうぅ…………」
エレベーターに引きずり込まれ、押し込められるようにして無敵さんの部屋に上がった俺は、三畳ほどのダイニングキッチンを抜けてすぐある居間の、三角形なガラストップリビングテーブルの前に座らされた。
無敵さんのパンチでまだ呼吸が正常でない俺は、返事すら出来ない。座るというよりは崩れ落ちた、という感じで、俺は座ることになった。
「こ、このアホ……」
思いっきり怒鳴ってやりたかったが、絞り出すようにしてしか声が出ない。仕方がないので睨んでみたが、無敵さんはすでにキッチンでやかんを火にかけているところだった。つまり、俺からは背中しか見えない。睨む無駄。にらむだ。
あと、着替える様子はない。
無敵さんは、まだバスタオルを一枚、体に巻いたままだった。さっきの《無敵パンチ》でもはだけなかったという、根性のあるバスタオルだ。真っ白でふわふわなのに、芯が強いヤツのようだ。いかすぜ。
また、小柄な体を包むのには十分な大きさだ。小さい背中に、華奢な肩から続く細い二の腕。膝より少し上まではバスタオルに隠されているが、そこから伸びる脚はしなやかだ。無敵さんが動く度、お尻の形が浮き上がって見える。こぶりで可愛らしいお尻の形が。
って、いかーんっ! 何を凝視しちまってんだ、俺はぁっ! 殴られたせいとはいえ、息をはぁはぁ吐きながらこんなもん見てたら、俺がまるで変態みたいじゃねーか!
「お茶なんて後でいいから、服を着ろ。とりあえずすることはお茶を淹れることじゃなく、お前が服を着ることだ」
そう言ってやりたいのに、苦しくて喋れない。てか、こんなん言わなくても、フツー分かるだろ? こいつの優先順位ってどうなってんの? なんか俺、昨日からこいつに行動制限されてんだけど。なんでこいつに関わると、俺の自由ってなくなるの?
「お待たせー。そそそ、粗茶、なんですけど」
いろいろな思考を渦巻かせてソウルジェムに穢れを溜めていると、無敵さんが俺の前にティーカップをことりと置いた。
「あと、お茶受けですっ。今、これくらいしかないけど。ごめんね」
続いて、大皿一杯に盛られたクッキーやらマカロンやらがテーブルに置かれた。
「それから、これ。今朝の新聞と、今日発売の週刊誌。これね、あの、最近頻繁に報道されてる、《スクエア・A》のボーカルと、女優の棚瀬マキのね、熱愛真相記事が載ってるんだよ」
さらには、雑誌までが登場した。いや、そんな芸能情報知らないし。人の恋愛になんて興味ないし。てか、無敵さんが芸能情報? 結構意外だったな。
「おい」
しかし、いくらなんでももてなし過ぎだ。そう突っ込もうとしてみると、声は普通に出るようになっていた。だが。
「あ、それとも、ゲームしたい? じゃあね、あたしのね、プレステポータブル持ってくるね」
ついには携帯ゲーム機までをも投入しそうな勢いだ。いそいそと隣の部屋へ行きかける無敵さんに、俺は「待て」と呼びかけた。ぴたりと動きを止めた無敵さんが振り返る。
「え?」
「え? じゃない。気持ちはありがたいが、俺は遊びに来たんじゃねーんだよ」
「そ、そうなんだ。あたし、てっきり……くしゅん」
なぜだかがっかりした風の無敵さんは、無駄に可愛らしいくしゃみをした。なにしろ季節はまだ春の始めだ。部屋のエアコンは動いているようだが、さすがにバスタオル一枚では厳しいだろ。
ああ、くそっ。本題に入る前に、とにかく服を着てもらわねーと。それにしても、真っ白なバスタオルから覗く女の足って、なんでこんなにやらしいの? 無敵さんの足にドキドキしちゃう自分が許せないんだけど。
「いいから、とにかく着替えてこい。そのままじゃ風邪ひくだろ」
なんとなく横を向いてしまった。まさかこのセリフを自分で言う日が来るなんて思わなかった。こういうのって、ドラマかなんかでハードボイルドが言うお決まりのセリフじゃね? ヤバい。俺、今、超ハードボイルド。もし今トレンチコート羽織ってたら、豪雪が吹き荒んでても絶対かけてあげてるよ、俺。で、そのまま名前も告げずに去る。そして凍死。ダメじゃん。ハードボイルド、死ぬじゃん。
というくだらなさすぎる俺の妄想は、無敵さんの眼力によって打ち消された。
「……ホズミくん。あたしの事、心配、してくれてる……?」
「は?」
弱々しい無敵さんの声音。ここ、そんな問いかけが来るところ? なんて思い無敵さんを見上げると、通常モードでは漢数字の“一”みたいになっている目が、大きく開かれていた。
でかっ! それに……、異常にキラキラしてる! なんだこの瞳!
こいつ……、こいつっ……。
もしかして、ちゃんとしたらすっごい可愛いんじゃないか!?
待てよ。この目、そしてこの顔……。
俺、どこかで見たような気がするぞ。
何かが心に引っ掛かり、俺は記憶の棚を探り出す。しかし、それはすぐに中断せざるを得なくなった。
「嬉しい……」
キラキラとした瞳が、ますます煌めく。無敵さんの瞳が潤んできたせいだろう。いや、ホントになんで? お前の涙腺、一度病院で診てもらった方が良くないか? 俺、普通のことしか言ってないけど。
だが、これはこの後起きる異常事態への予兆に過ぎなかった。
「ありがとう、ホズミくん」
にぱ、と笑った無敵さん。腕を少し上げ、頬に手をやろうとでもしたんだろう。その時、あれほど激しいボディブローを放っても微動だにしなかったバスタオルが、はらりとほどけた。
やっぱり、神様はいる。アホでエッチでどうしようもなくイタズラ好きな、ラブコメの神様が。
「ヤバい!」
頭の中でカチリという音をさせながら、俺はそう確信していた。
俺の不思議体質が、とてつもなくまずい場面で、またしても発現している。通常時間にすると多分三秒ほどのことが、俺の中では五分ほどになってしまうこの現象、TPOによっては非常に危ないことになる。
今が、まさにそれだ!
無敵さんがバスタオルが外れたことに気付くのが遅れれば遅れるほど、それこそじっくりとのんびりとまじまじとがっつりと俺が見てしまうことになるのだ。なんだこの文章。主語多すぎないか? ヤバい。俺、マジ激ヤバス(笑)。
落ちつけ。まずは落ちつくんだ、俺。まずはこれまでの状況を整理してみよう。でないと、ゆっくり、ゆっくりとスローモーで落ちてゆく無敵さんのバスタオルに神経が集中し過ぎてしまう。そうだ。冷静に、考えながら、間違いなく、確実に、視線を……、そうだな、目いっぱい右に向けるか、いや、それよりも瞼を閉じてしまった方がいい。
そう判断して瞼に指示を送るも、とにかく脳以外は通常の時間でしか動かない。ふぁー、と落ちてゆく無敵さんのバスタオルは、まだ見えている。バスタオルが落ちるのなんて一瞬だ。すでにバスタオルは、無敵さんの胸の谷間を中ほどまでしか隠していない。左わきの下とおっぱいの間くらいで留められていたバスタオルは、無敵さんの左半身の半分まで開いている。
つまり。左胸の外側からくびれた腰に続き、美しいカーブを描く太ももへの輪郭は、もう丸見えとなっていたとか思っている間にも、おおお、お、おっぱい、が。お、おっぱいがぁ!
げぇっ! ここここここ、このままでは、とんでもない所まで見えてしまうぞ! いいのか、これ? いいのかぁぁぁぁぁ!?
「ぐうぅ…………」
エレベーターに引きずり込まれ、押し込められるようにして無敵さんの部屋に上がった俺は、三畳ほどのダイニングキッチンを抜けてすぐある居間の、三角形なガラストップリビングテーブルの前に座らされた。
無敵さんのパンチでまだ呼吸が正常でない俺は、返事すら出来ない。座るというよりは崩れ落ちた、という感じで、俺は座ることになった。
「こ、このアホ……」
思いっきり怒鳴ってやりたかったが、絞り出すようにしてしか声が出ない。仕方がないので睨んでみたが、無敵さんはすでにキッチンでやかんを火にかけているところだった。つまり、俺からは背中しか見えない。睨む無駄。にらむだ。
あと、着替える様子はない。
無敵さんは、まだバスタオルを一枚、体に巻いたままだった。さっきの《無敵パンチ》でもはだけなかったという、根性のあるバスタオルだ。真っ白でふわふわなのに、芯が強いヤツのようだ。いかすぜ。
また、小柄な体を包むのには十分な大きさだ。小さい背中に、華奢な肩から続く細い二の腕。膝より少し上まではバスタオルに隠されているが、そこから伸びる脚はしなやかだ。無敵さんが動く度、お尻の形が浮き上がって見える。こぶりで可愛らしいお尻の形が。
って、いかーんっ! 何を凝視しちまってんだ、俺はぁっ! 殴られたせいとはいえ、息をはぁはぁ吐きながらこんなもん見てたら、俺がまるで変態みたいじゃねーか!
「お茶なんて後でいいから、服を着ろ。とりあえずすることはお茶を淹れることじゃなく、お前が服を着ることだ」
そう言ってやりたいのに、苦しくて喋れない。てか、こんなん言わなくても、フツー分かるだろ? こいつの優先順位ってどうなってんの? なんか俺、昨日からこいつに行動制限されてんだけど。なんでこいつに関わると、俺の自由ってなくなるの?
「お待たせー。そそそ、粗茶、なんですけど」
いろいろな思考を渦巻かせてソウルジェムに穢れを溜めていると、無敵さんが俺の前にティーカップをことりと置いた。
「あと、お茶受けですっ。今、これくらいしかないけど。ごめんね」
続いて、大皿一杯に盛られたクッキーやらマカロンやらがテーブルに置かれた。
「それから、これ。今朝の新聞と、今日発売の週刊誌。これね、あの、最近頻繁に報道されてる、《スクエア・A》のボーカルと、女優の棚瀬マキのね、熱愛真相記事が載ってるんだよ」
さらには、雑誌までが登場した。いや、そんな芸能情報知らないし。人の恋愛になんて興味ないし。てか、無敵さんが芸能情報? 結構意外だったな。
「おい」
しかし、いくらなんでももてなし過ぎだ。そう突っ込もうとしてみると、声は普通に出るようになっていた。だが。
「あ、それとも、ゲームしたい? じゃあね、あたしのね、プレステポータブル持ってくるね」
ついには携帯ゲーム機までをも投入しそうな勢いだ。いそいそと隣の部屋へ行きかける無敵さんに、俺は「待て」と呼びかけた。ぴたりと動きを止めた無敵さんが振り返る。
「え?」
「え? じゃない。気持ちはありがたいが、俺は遊びに来たんじゃねーんだよ」
「そ、そうなんだ。あたし、てっきり……くしゅん」
なぜだかがっかりした風の無敵さんは、無駄に可愛らしいくしゃみをした。なにしろ季節はまだ春の始めだ。部屋のエアコンは動いているようだが、さすがにバスタオル一枚では厳しいだろ。
ああ、くそっ。本題に入る前に、とにかく服を着てもらわねーと。それにしても、真っ白なバスタオルから覗く女の足って、なんでこんなにやらしいの? 無敵さんの足にドキドキしちゃう自分が許せないんだけど。
「いいから、とにかく着替えてこい。そのままじゃ風邪ひくだろ」
なんとなく横を向いてしまった。まさかこのセリフを自分で言う日が来るなんて思わなかった。こういうのって、ドラマかなんかでハードボイルドが言うお決まりのセリフじゃね? ヤバい。俺、今、超ハードボイルド。もし今トレンチコート羽織ってたら、豪雪が吹き荒んでても絶対かけてあげてるよ、俺。で、そのまま名前も告げずに去る。そして凍死。ダメじゃん。ハードボイルド、死ぬじゃん。
というくだらなさすぎる俺の妄想は、無敵さんの眼力によって打ち消された。
「……ホズミくん。あたしの事、心配、してくれてる……?」
「は?」
弱々しい無敵さんの声音。ここ、そんな問いかけが来るところ? なんて思い無敵さんを見上げると、通常モードでは漢数字の“一”みたいになっている目が、大きく開かれていた。
でかっ! それに……、異常にキラキラしてる! なんだこの瞳!
こいつ……、こいつっ……。
もしかして、ちゃんとしたらすっごい可愛いんじゃないか!?
待てよ。この目、そしてこの顔……。
俺、どこかで見たような気がするぞ。
何かが心に引っ掛かり、俺は記憶の棚を探り出す。しかし、それはすぐに中断せざるを得なくなった。
「嬉しい……」
キラキラとした瞳が、ますます煌めく。無敵さんの瞳が潤んできたせいだろう。いや、ホントになんで? お前の涙腺、一度病院で診てもらった方が良くないか? 俺、普通のことしか言ってないけど。
だが、これはこの後起きる異常事態への予兆に過ぎなかった。
「ありがとう、ホズミくん」
にぱ、と笑った無敵さん。腕を少し上げ、頬に手をやろうとでもしたんだろう。その時、あれほど激しいボディブローを放っても微動だにしなかったバスタオルが、はらりとほどけた。
やっぱり、神様はいる。アホでエッチでどうしようもなくイタズラ好きな、ラブコメの神様が。
「ヤバい!」
頭の中でカチリという音をさせながら、俺はそう確信していた。
俺の不思議体質が、とてつもなくまずい場面で、またしても発現している。通常時間にすると多分三秒ほどのことが、俺の中では五分ほどになってしまうこの現象、TPOによっては非常に危ないことになる。
今が、まさにそれだ!
無敵さんがバスタオルが外れたことに気付くのが遅れれば遅れるほど、それこそじっくりとのんびりとまじまじとがっつりと俺が見てしまうことになるのだ。なんだこの文章。主語多すぎないか? ヤバい。俺、マジ激ヤバス(笑)。
落ちつけ。まずは落ちつくんだ、俺。まずはこれまでの状況を整理してみよう。でないと、ゆっくり、ゆっくりとスローモーで落ちてゆく無敵さんのバスタオルに神経が集中し過ぎてしまう。そうだ。冷静に、考えながら、間違いなく、確実に、視線を……、そうだな、目いっぱい右に向けるか、いや、それよりも瞼を閉じてしまった方がいい。
そう判断して瞼に指示を送るも、とにかく脳以外は通常の時間でしか動かない。ふぁー、と落ちてゆく無敵さんのバスタオルは、まだ見えている。バスタオルが落ちるのなんて一瞬だ。すでにバスタオルは、無敵さんの胸の谷間を中ほどまでしか隠していない。左わきの下とおっぱいの間くらいで留められていたバスタオルは、無敵さんの左半身の半分まで開いている。
つまり。左胸の外側からくびれた腰に続き、美しいカーブを描く太ももへの輪郭は、もう丸見えとなっていたとか思っている間にも、おおお、お、おっぱい、が。お、おっぱいがぁ!
げぇっ! ここここここ、このままでは、とんでもない所まで見えてしまうぞ! いいのか、これ? いいのかぁぁぁぁぁ!?
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