夕陽のロマンス~オフィスラブ~

雪華月ふわり

無意識の意識~涼宮side~

カタカタ‥無機質なキー音が夕暮れのオフィスに吸い込まれていく。

もうとっくに周りの社員は帰宅しており、停まったままの空気に自分の小さな呼吸だけが感じられる。

特に残業を命じられた訳ではないが、もう少しで終わりそうなので区切りをつけておきたい。

パソコンの画面に集中していると、カサッという紙が揺れるような音がした。
自分しかいないと思っていた為、驚いて振り向くと、金髪にライトグリーンの瞳を持つ、彼が所在なさげに立っていた。

日比谷レオー営業部随一の鬼才で、直接関わる事が多いこの部所ー観光記事編集部の人間でなくともその名は知られている。
手には桜模様があしらわれた紙袋を提げており、この部所の誰かに用があるのだろう。

「何かご用でしたら上司に連絡しましょうか?」
そう彼に告げると、特に用は無いと言いながらも席へ歩みを進めてきた。

先日京都に行き、お世話になっている編集部へと買ってきたのだという。
中身は八ツ橋と抹茶のケーキだそうで、特に食べれない人はいないな等と考えながらお礼を述べた。ラムネ・ニッキ・桃の3種類のバリエーションがあり、古来より続く伝統の菓子も時代と共に変わりつつある。

「あの、涼宮さんに頼みたい事があるんだけど、仕事の区切りがついたらで全然いいんだけど。」
トップの営業成績を叩き出すことの多い、彼
らしからぬ歯切れの悪い物言いが若干気になりつつも、5分程度で区切りがつくことを伝えると了承してくれた。

視線を感じ、ちらと横目で見やると何処か真剣な表情で何かを考え込んでいた。
特に気にすることなく、業務を終えた。
「日比谷さん?」何度か彼の名を呼ぶと、ハッとし返事をしてくれた。
きっと疲れているんだろう。
(営業の業務の大変さは私には理解出来ないものがあるんだろう。)
先程の話の続きを促すと、
「ああ。実は来月掲載予定のレジャー特集の取材に付き合ってもらいたいんだけど。」
日比谷さんはそうきりだした。
聞くと先月私が編集した花見の記事が評判だったらしく、営業部と編集部から一人ずつ取材に行くことになったらしい。
お礼を述べ、取材の日程を訊くと今週の土曜日はどうかと言われたため、特に予定も無かったので了承した。
若干日比谷さんの顔が赤くなった気がしたが、5月になったばかりで、特に気にしなかった。
(彼女とのデートは大丈夫なんだろうか?)
余計な心配をしつつ10時に駅で待ち合わせることになった。

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