最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第53話 合流

「こりゃ……街なのか?」

 沼田はマルセールに到着すると一言目がそれだった。
 馬車から優達も降りて来る。
 街の状態は悲惨だ。炎が発生し、異臭を放っている。
 瓦礫の中から人の手が飛び出ている。御門はそれを見つけて、何とも言えない表情をしている。

 そして、白土はまだ生きている人を見つける。
 男性だ。炎で顔が焼かれ、毒によって体が溶けている。
 だが、処置すれば間に合う。御門を呼ぼうとした時だった。

「駄目だ、俺はもう助からない、だけどせめて……家族だけは」

 声をかける暇もなく。男はガクリと息を絶える。
 手を握って白土は膝を着く。
 また助けられなかった。御門が白土の背中をポンっと叩く。
 軽く頷きながら、白土のせいではないと訴える。

 沼田は、現状を確認しながら。優に問いかける。

「協力してくれてありがとう……って言ったが、こりゃ、やべーよ」

「あぁ、ただ仕方ないよ、どのみちイレイザーの襲撃があったからな」

 ――結局。沼田の願いを聞き入れた優。
 一瞬、自分の目的とやり方が合ってないように思える。
 だけど、白土を助けて貰った恩。そして、周りを見れる状況判断能力。
 葛藤した。だけど、優にとって仲間になれる人材は貴重。

 それに、優には沼田の決断に感心している。


「お前と組む? 何言ってんだ」

 マルセールに来る前のやり取り。
 優は沼田の提案に賛同が出来なかった。
 いや、考えが読めないと言った方が正解か。
 両者の間には亀裂がある。とても大きな亀裂が。
 少し力を加えただけで崩れてしまうぐらいのものだ。

 ただ、渋い表情をする優に沼田は怯まず考えを伝える。

「そのまんまの意味……だな」

「俺とお前が組んで何の利点がある? 白土さんを助けて貰った恩は確かにある、だけど……」

「お前を生贄に選んだ事は、確かに許されることじゃねえって分かってる! 分かってるけどよぉ」

 タダならぬ雰囲気。沼田は、緊張しているのか汗を手で拭う。
 喉が渇き、気が狂いそうでもある。しかし、極限の状態でも。
 自分を殺して、沼田は言葉を続ける。

「こうやって、お前と『組む』って言ってるのはただの協力関係じゃねえって事だ」

「……」

「お前、他のクラスメイトも何人か殺してきてるんだろ? 誰かは分からんけど」

「ああ、少なくとも五人近くは殺してる」

 沼田の他に白土も顔をしかめる。
 知っていた。あの、生贄に捧げた時から。天を見上げながら後悔する。
 あの時、何も出来なかった自分に。
 大切な人が人殺し何て考えたくない。けど、それが間接的に自分の生死に関わっている。
 白土はぎゅっと優の手を握る。優はその温もりを感じて少し安心する。

 ――正直、認められるとは思っていない。簡単に、受け入れられるとは思っていない。

 理解してくれる人は少ないだろう。だけど、一人、二人と自分に協力してくれる人がいれば。

 優は生きていけると実感していた。左腕の相棒もその一人。

 しかし、後ろにいた園田は否定し続けていた。

「駄目、信用出来ない」

「……園田、何言ってんだ? 俺達が生きていく為には、こいつらに付いて行くしかない、寧ろこれが本音だ」

「あら? 素直なのね? 確かにぃ? 今の貴方達じゃ無残にガリウスも倒せないしね」

「……っ! 貴方はいつもそうやって私達下の人間を見下して!」

 怒りの矛先が御門にいく園田。
 互いに睨みあいながら一触即発の危険。
 それを察知して沼田と白土が二人の間に入る。
 優はため息をつきながら、地面に座る。

「まずは、話し合いをしないと駄目なんじゃないの? 協力するにしろ、その溝をなんとかしないと」

 第三者の立ち位置で話しを進める優。信用しきっていないのか。
 白土以外には警戒心を見せている。沼田は、状況いち早く読んで園田に説得を進める。

「一体何があったかは知らないけど、私情は捨てろ! 今の状況が分かってんのか?」

「ええ、分かったつもりで言ってるのよ」

「だったら、俺達は頭を下げてまであいつらに頼るべきだろ! 犠牲になった奴隷達やあのおっさんの為にもな……そうだろ?」

「……悔しくないの?」

「は?」

「沼田君は赤崎さんにも利用されて、また繰り返すの? あの人達だって、私達をいざとなったら捨て駒にするかもしれない」

 園田は声を張り上げる。白土は一歩踏み出して否定しようとする。
 ただ、優に手を引っ張られて止められる。
 御門は腕組みをしながらため息をつく。
 不毛な論争だ。それは園田自身も分かっている。だけど、ここで時間をかけてはならない。
 沼田は、過去の苦い思い出をこの時はシャットアウトして発言する。

「捨て駒にされても仕方ねえだろ」

「……え」

「俺には現状を読み取れる事が出来る! んで、今何をすべきかも理解出来ているつもりだ」

「そんなの、私には」

「だよな、俺だって人間だし腑に落ちない所はあるが……俺達はもう【捨て駒】にした奴らがいる! 今度は、俺達の番だろ」

 チラッとよそ見して優の方を見る沼田。
 口では言っているが本心は分からない。
 しかし、優には伝わってくる。沼田の覚悟の強さ。
 そして、園田は説得を続けていくと段々と静かになる。
 元々、大人しい園田がここまで引き下がらないのは珍しい。

 沼田は最後の一言を園田に。
 そして、全員に響くように。

「それに、捨て駒で終わるなんて思っちゃいねーよ、もう俺は負けたくねえんだ」

「……ふぅ、もういいよ、沼田の気持ちは分かった」

「俺は、状況は読めて少しは頭が良いと思ってる! 好きに使ってくれ」

「分かんないわ、何でこうなるの」

 納得いかなさそうに園田は唇を噛む。
 しかし、フォローするように白土が優しく発言する。

「私は、園田さんの気持ちも分かると思う……確かに、クラスの上の人達は酷い事を言ってたのも事実だし」

「貴方が気にすることじゃないわぁ! 容姿が優れている人が優遇されるのは当たり前だし」

「……っ、そういう所が嫌いなのよ! 何気ない発言で傷つく人だって」

「それはただ逃げてるだけじゃなぁい? 自分で自分の可能性を狭めているのよ」

 厳しい一言。沼田の胸にもグサリと突き刺さる。
 まるで、ナイフでえぐられたように。痛い、が沼田は受け入れる。
 御門の事情は知らないが、ここまで来るのに色々と犠牲にしてきたのだろう。
 表情が暗い。それを見て、胸の痛みが和らぐ。

 ――自分で自分の可能性を狭めている。

 なるほど、と沼田は思い返す。

「それ、最低な悪口だな、たく……そんな事言われると抗いたくなる!」

「まぁ、少しは信用出来そうだしいいよ、沼田……お前、いや君と組んであげるよ」

「ほ、本気で言ってるの? こんなの」

 もう引き返せない。沼田は半ば強引に園田もこちらに引き入れる。
 ただ、険悪な御門と園田。まだまだ、クラスメイトの間の溝は埋まっていなかった。


 場所はノースの森からマルセールへ。
 初めて来るこの街に。優以外のクラスメイトはこの惨状に驚きを隠せなかった。
 まず、少しでも生き残っている一般人を探す。
 ただ、絶望的な状況だ。瓦礫をどかして出てくるのは見るにも堪えない死体。
 火傷と瓦礫に押し潰された肉片。白土は口を塞ぎながら謝り続ける。

 御門は専門的な知識がある。だから、見た瞬間。助かるか、助からないかの判断が出来てしまう。
 表情は変わらない。だけど、体は震えている。

「これが、お前の見せたかったものか? 笹森」

 屍を見ながら。沼田は目を逸らしながら質問する。
 優は一切表情を変えなかった。

 見せたかったもの。ガリウスに襲撃されて、誰も助けに来なかった。
 いや、この街自体が初めからおかしかった。
 ララの親父を生贄に差し出す事に賛同した民衆。

 どのみち未来はなかっただろう。
 しかし、これだけの犠牲を見逃すわけにはいかない。

「結局、どの世界に行っても同じなんだよ」

「同じ? どういう意味だよ」

「お前ならよく分かっているだろ?」

「……まあな」

 クラスという小さな組織を超えて。今度は、街全体になっている。
 弱い者が強い者に喰われるのは必然。
 今も、貴族の人達は平然と幸せにしているのだろう。
 こんな惨状も知る事もなく。
 そう思うと苛立ちを隠せなくなってくる優。

 客観的に見て沼田は現状を何か裏の力が働いていると予想した。
 憲兵団、騎士団。何処の組織も動いていないのはおかしい。
 これだけの騒ぎだ。普通だったら今頃到着しているはず。

 何もないというのはそう考えるしかない。

 ――それは一瞬だった。沼田の背後からガリウスが襲いかかって来る。

「……っ!」

 ムカデのような見た目。キメラが牙を剥き出しにしながら近付いてくる。
 気付いた時には、もう遅かった。
 振り向きながら沼田は身構える。武器も戦闘能力もない。

「瞬間加速【アクセル】」

 だが、すぐに優がエンド能力を発動させて一気に加速する。
 短剣を鞘から取り出し、キメラに向かって行く。
 連撃を繰り出し、回転しながら肉を切り裂く。
 長い胴体の複数の箇所を同時に狙える。勢いと速度があり、一発で仕留めるには十分過ぎる程の威力。
 血飛沫と共に。キメラは地面に倒れる。沼田はその光景を目の当たりにして驚く。

「つ、つぇぇ……」

「まだ油断するな」

 優が低い声で沼田に周りを確認させる。
 すると、大量のガリウスに囲まれていた。
 キメラだけだったがこれはまずい。
 恐らく、崩壊した街のエンドを求めて彷徨って来たのが流れてきたのだろう。

 各自も存在に気が付く。ただ、疲弊している全員にとって。
 これだけのキメラを相手にするのはキツイ。
 御門は鎖で縛りながら動きを止め、白土がマルナのエンドを含ませた魔術で応戦する。
 焼き殺し、氷漬けにする。見事な連携だった。

 園田と沼田は影でバレないように潜んでいた。
 無駄に動いたらやられる。視力強化で辺りを見渡しながら園田は警戒している。
 沼田は冷静に分析しているが、それだけでどうしようもない。

(いや、今はやれる事をやるしかねぇな)

 だが、キメラの数は多い。仕留め切れない分が非戦闘員の二人に向かう。
 本能で沼田は園田の前に出る。守るように。
 歯ぎしりをしながら、必死に恐怖を押し殺す。
 膝が震え、今にでも逃げ出したい。
 園田は唖然とした表情で。そんな沼田を前で見ていた。

(捨て駒は……俺だけで十分だ!)

 優はそちらに気が付く。すぐに方向転換して、間合いを詰めようとした。
 だが、御門も白土も自分達のキメラの討伐に手を焼いているようだ。
 動けない沼田と自分を重ねる。
 あの時。自分もキメラを前にして恐怖の方が勝る。結局、楓の為に動けたが。
 だけど、あれが本来の姿。

 人間は限りない恐怖に近付いた時。本来の力が発揮出来なくなる。

 優はそれを痛感しながら。間合いを詰めていく。
 だが、間に合わない。複数のキメラが沼田に迫る方が先だ。

 もう、駄目だ。

 沼田も目を瞑り諦めた時だ。

 ――――キメラが目の前で倒れる。

 何が起こったのか。頭の整理が追い付かない。思考回路がショートしたように。
 沼田は死を覚悟して静かに目を開ける。
 バタバタと倒れていくキメラ。
 すると、その死体の上に立つ人物。

「もう少しで死んでたな、沼田」

「い、出水!?」

 二本の剣を持ちながら。出水は簡単に辺りのキメラを斬り殺す。
 その登場につられるように。
 遠くから弓矢も飛んでくる。飛野は瓦礫に隠れながら遠距離を攻撃を仕掛ける。
 そして、極めつけは。

「ララ、御門と白土の援護をしてやれ!」

「はい!」

 美しい緑髪を揺らしながら。上空から斬りつける。
 力が無い分それで威力を稼ぐ。だが、技術が格段に上がったララ。
 苦戦している御門と白土の間に入り、ガリウスを倒す。

 登場した出水、飛野、ララの助太刀によって。
 勢いがついて戦局は一気に逆転する。
 誰も犠牲にならずキメラの全部倒し尽くす事に成功した。

 そして、また増えて合流したクラスメイトとその仲間。

 一度、状況を整理する事にした。

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