最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第44話 真実

 優の拷問と共に赤崎の策略は晒されていく。
 過去に優が立ち向かえなかった事も。
 その話自体も。聞いているだけで気が狂いそうだ。
 しかし、先に進むために。優は赤崎にしている拷問を加えながら強くする。

 ただ、このまま失禁されて。何も答えなくなったら元も子もない。
 優はシュバルツに僅かながら。彼女に、回復魔術をかけるように指示する。
 葉月達と同じように。じわじわと攻めていく。
 そして、赤崎は完全に観念して。事の全てを優に打ち明ける。


 沼田が修学旅行のお金を盗った事が発覚した後。
 考えてみれば、展開が強引に感じた。
 保健室で沼田が手当てを受けている時。泣きながら、沼田は出水と飛野に訴えた。

「俺は、やってねぇ」

「ああ、それは分かってるさ、安心しろ」

 丸椅子に座りながら。出水は、腕組みをして考え込む。
 飛野は保健室の先生に事情を説明しながら。なんとか気を紛らわそうとしている。
 思い返すと。あの、集金袋の下りから。不可解な点は幾つかある。

(こんな時、頭が良ければパパっと解決するんだけどな)

 出水は首を横に振りながら。足りない頭脳を目の前の沼田に託す。

「なぁ? 金を集めた日、お前は何をやってたんだ?」

「……すぐに帰って、そのなぁ」

 帰ったと言っても。その動機が不十分では疑われても仕方ない。
 だが、とても答えにくそうに。沼田は口を閉じきっている。
 出水は、勿体ぶっている沼田に。

「おいおい、そこをはっきりしないとしょうがねえだろ! 別に笑わないから答えろよ」

「や、約束だぞ!」

 男と男の約束を交わして。出水と沼田は握手をする。そして、鞄の中から沼田はあるソフトを取り出した。
 パッケージを見ると、そこには。

「『隣の席の奴が俺に気があるみたいなんだが、告白してみようと思う』は?」

「その新作のゲームをやろうと思って俺は、すぐに帰ったんだ! 証拠はその日のセーブした日付とプレイ時間をみれば分かると思う」

「な、何なんだこれ? タイトルが直球過ぎるだろ」

「あ、当たり前だ! これが俺の生き甲斐で、唯一の楽しみだったんだからな」

 話によると。沼田は集金の日。このゲームをやるために。そそくさと家に帰ったらしい。
 保健室のパソコンを借りて、内容を確認してみる。すると、確かにかなりのプレイ時間と進行度が確認出来た。
 沼田が言うには。思ったよりも、ゲームが面白くなかったらしく。その日、最後にプレイしていないらしい。
 最悪だった出来事。だが、この濡れ衣を着せられた。潔白を晴らすための重要な証拠となった。

 だが、出水は顔を険しくしながら。飛野は若干顔を赤面させながら。沼田は再び色々なものを失った。

 そして、あの写真。これは、赤崎と沼田が二人で出掛けた時の写真。
 デートかと。出水は疑うが、沼田は断固否定する。
 傍から見れば、不細工が美少女とデートしている世の男性を勇気づける光景。
 ただ、実態は、【不細工男が美少女に利用されているだけ】というもの。

 話を聞いて、出水は拳に力が入る。飛野は、何故だか髪型をいじっている。

 沼田が言うには。あの時の写真は。【赤崎が自ら沼田に見せつけたもの】だった。
 有頂天の状態の沼田はさらに興奮して。赤崎の指示通りに。服がはだけた所を写真に撮らせた。
 中には際どいポーズのものもあったらしい。その一部を、赤崎が黒川に転送。
 集金袋を盗ったというのは嘘。そして、犯すぞと言い放ったのもあの場で出た嘘。

 全ては作られた物語。さらに、沼田は話を続ける。

「聞いた話だけど、修学旅行の金は葉月が裏で結構回しているらしい……それと、黒川の奴がクラスの奴と担任を脅しているとも聞いた」

「な、なんだよ、それ!? 初めて聞いたぞ」

「詳しい情報源は言えねえけど、とにかく、俺はやってない」

 それだけは固く口を閉じて。沼田は、ベッドに横たわる。

「それだったら、何であの時……言わなかったんだよ? これを言えばお前の無実も証明出来ただろ!」

 訳の分からない沼田の心境に。出水は大声を上げる。
 しかし、沼田は蹴られた腹をさすりながら。
 出水の方を見ながら、諦めた表情で。

「だって、こんな俺が言っても信用されないだろうが、どんなに正しい事を言おうと、結局は力の持っている奴が正しくなる」

「いや、それは」

「捻くれれて申し訳ないんだが、俺の事なんて助けなくていいよ、どうせ誰も【期待】してないんだからな」

 そう言ってまた沼田は二人を拒絶する。
 助けてくれた事はとても感謝している。だけど、これによって輝かしい二人の人生に泥を塗らせたくない。
 生まれた時から。他人に迷惑をかける為に生まれてきたようなもの。
 沼田は二人から目を逸らし、ふて寝する。どんな言葉をかけたらいいか分からず。
 出水と飛野はただ、保健室から出ていくしかなかった。


 一方で。体育倉庫の裏では。ケラケラとしている赤崎に。
 集金袋の中身を広げて札束を数えている黒川。
 そして、壁に寄って腕組みをして立っている葉月。

 最後に。その光景を楽しそうに見ている晴木の姿があった。

「いやいや、こんなに上手くいくなんて思わなかったよね」

 赤崎は黒川に寄り添いながら。その太く逞しい体に抱き付いている。
 だが、あまり赤崎に興味はないらしく。黒川はお金に執着する。
 そして、赤崎も目を光らせながら。札束に目をくれている。

 互いに、付き合ってはいる。しかし、あくまで【利害】の関係らしく。

 葉月は突っ込むように。

「いや、それ私のお金だし、まぁ! 元々は沼田の奴を陥れるのが目的だった訳だし」

 そう言って、裏の方で。葉月は有り余る資金源でもう一度。修学旅行のお金を立て替える。
 葉月にとっても。この黒川哲治という男は怖い。聞く所によると、【人を殺した】という噂がある。
 だから、この話を頼まれた時。断れなかった。もちろん、この噂の信憑性は薄い。
 しかし、葉月には分かる。この、黒川哲治という男は【屑】という事。

 そして、目の前にいる風間晴木。彼は、表の顔は優等生を演じている。
 その事を知ってても。葉月は彼に好意を持っていた。

 彼は、偽りの仮面を被り。そして、黒川達にこう言い切る。

「沼田には悪いけど、クラスにとって邪魔でしかないからな! あいつがいる事によって、俺らの評価が下がるかもしれない」

「そうそう! あいつの顔と女子を見る目とかキモいからさ」

「でも、お前も中々にやる事がえげつないよなぁ? 風間、あの使えない担任も喰ったのか?」

 恐ろしく低い声で。晴木は何も迷わず担任の八代の体を堪能したと。
 プレイ内容まで事細かく、言おうとする晴木に。葉月はやめてと一概する。
 赤崎は少しドン引きしながら。まさか、担任と生徒とそんな事をしている事実に。
 気持ち悪くなるが、目の前のお金の為ならと割り切る。

 そして、黒川は立ち上がり集金袋を乱暴に掴む。

「この金は、赤崎のダチにも渡しておくか、あいつらの【嘘】があったからここまで上手くいったんだからな」

「ふん、好きにしていいよ、にしても沼田のあの表情は痛快だったな!」

 晴木は腹を抱えて笑う。自分の思い通りに人が動き、物事が進んでいる。
 自分は安全な位置から見下ろしながら。何かあったら、自分は関係ないと言えばいい。
 担任の八代は後で、協力して貰ったお礼として。また、体を重ねればいい。
 彼女は完全に晴木の肉体に溺れ、後ろめたさなど感じていない。

 全ては思い通り。黒い闇は止まらない。溢れ出るそれを浴びながら。
 晴木は更に、言葉を続ける。

「次は、調子に乗ってる【笹森優】だなぁ」


 ――――――――

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 ――――

「いだいよぉ!」

「それで、後は何なんだ?」

 糸で絞める力は強くなっていく。優はナイフで腹部を刺しながら。
 シュバルツの回復魔術によって治癒されながら。
 治ったら、すぐ痛みが襲う。地獄のループが続いていた。
 優は押し付けるナイフを段々と深くさせながら。まだ、知っている情報を言えと脅す。

「あの時、黒川に沼田が集中攻撃されてたのに、クラスメイトは助けなかった……八代は分かるけど、他の奴らも買収されてたのか?」

「葉月っちの事だから……風間に言われて金を渡していたんじゃないの?」

 赤崎は赤裸々に答える。沼田の次は笹森になっていた。それが、この世界に来て計画が少し狂った。
 だから、問答無用で。この世界に来た瞬間から。もう、晴木の頭の中では決まっていたのかもしれない。
 そう思うと、途方もない怒りが込み上げてきた。

 そして、写真も証言も真っ赤な嘘。作られた物語に踊らされた。
 自分はあの時何も出来なかった。楓に止められなくても、何が出来たと言うのか。
 結果的に。楓の判断は正解だったのか。あの場で、歯向かっていれば確実に標的が自分となっただろう。

 優は拘束した赤崎の爪を全て剥がす。
 表面の肉が曝け出され、優はナイフで軽く突き刺す。

「どうだ? 地味だけど痛いだろ?」

「あ、ぎぃ、あ、がぁ」

「もうまともに喋れないようだな」

 追い打ちをかけるように。全ての指を落とす。作業的な感覚となっており、優は地面に落ちた指を踏みつける。
 絶望しきった彼女の顔を見るのは実に愉快。
 ただ、これだけでは全然足りない。まだまだ、拷問を続けたい。
 しかし、ペンダントの反応が強まってきている。こちらに、近付いて来ているのか。
 優は、赤崎に遂に留めを刺す構えを見せる。

「それにしても、最期がこんなに惨めな姿で終わるなんて悲しくならないか?」

「だ、だずけて」

「写真を俺も撮ってやろうか? まぁ、こんな女を撮りたいなんて思わないけどな」

 その瞬間。優は短剣に持ち替えて。首を削ぎ落す。さらに、怒りが溜まっているのか。
 死体を残さない勢いで。転がった首を強化のエンド能力を発動させながら。
 何度も何度も。気が付けば、怒りで我を忘れて。体の内部があちこちに飛び散っていた。

 息を荒くしながら。全身に返り血を浴びてしまう。しかし、優にとってもはやどうでもいい事だった。

『派手にやったな』

「……あぁ」

『お前が助けたい女はどうやら厄介な事に巻き込まれているようだな』

「どうして、分かる?」

『俺の勘だが、今の女の話に出てきた、勇者という男はかなり危険な人物だと予想している』

 予想も何も。危険の上をいく人物だと優は言い切る。
 そして、赤いペンダントを見ながら。赤崎の事をすぐに忘れて、優は向かって行く。
 邪魔は入ったが、今の自分のやるべき事。

 白土結奈を助ける事。優は、赤い拳を握り締めながら。焦っているのか返り血を洗う事もなく。
 真っ直ぐと白土の元へと向かって行った。

コメント

  • チキン

    赤崎の戦いの前の描写なくない?

    0
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