最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第43話 拷問

 間合いを詰めて。仕留めたと思った。だが、赤崎によって放たれた銃弾。
 それは、優の間合いを離れさせるために。
 有り得ない動きをして優に迫る。角度を変えて。幸いにも、瞬間加速の効果時間だったため。
 命中する直前に避ける事に成功する。
 だが、両頬に赤崎によってつけられた掠り傷。破れた皮から流れた血が口まで届いてくる。
 手でそれを拭きながら。優は、状況を整理する。

 ――エンド能力。赤崎のエンド能力はまだ不明。
 しかし、隙を逃さず。相棒のシュバルツが優に助言をする。

『解析が終わった! あの、女のエンド能力……それは、念動力【サイコキネシス】と呼ばれるものだ』

「なるほどな、それで銃弾を」

 現代風に言うと超能力のようなものだ。
 意志の力だけで物体を動かす能力のことをさす。優は、その手の類も本で知識としては身に着けていた。
 恐らく、銃弾にその力を作用させて。正面に放った銃弾を左右に動かした。
 そして、優の死角からその銃弾を放ったのだろう。

 厄介だ。瞬間移動【アクセル】の能力を発動させてなければ。
 確実に、致命傷のダメージを受けていた。

 さらに、本来なら難しいと言われる二丁拳銃を器用に使いこなしている。

 並大抵の相手ではないと。優は察しながら。目を細める。

 対する赤崎は、銃弾を放った拳銃の銃口に。息を吹きかけながら驚きを見せている。

「あらら、このコンボで避けられたか、この霧と笹森の実力なら殺れると思っていたけど……残念」

 特有の音を鳴らしながら。銃弾を装填する。この勝負を楽しんでいる。
 その余裕と楽し気な雰囲気に。優は、少し怒りを覚える。

「随分と余裕なんだね、そうやってクラスの男子に媚びを売っていたのか?」

「ふーん? 別に露骨にしてた訳じゃないけど、気付かれていたんだ」

 優は周りを確認しながら。他に敵がいないか気配を感じる。
 だが、先程の攻撃で二人は仕留めた。援軍が来る様子もない。
 時間がない中で後退しながら。戦闘しながら、ラグナロまで近付いて行くように。
 そして、赤崎は二丁の拳銃を。優に向けながら、年相応の女の子の無邪気な笑顔を見せる。

「それにしてもさぁ、笹森……今、どんな気持ち?」

「……は?」

「あの壺の事を考えてみたの、私さ、思うんだけど、一部の人はあの壺の事を恨むんだけど、それは場違いなような気がするのよ」

 優は、短剣を取り出し。相手の攻撃に備える。
 赤崎は茶色の小型拳銃を、二丁同時に発砲する。鼓膜が破れそうなぐらいの音が、この場に鳴り響く。
 目が慣れた優は銃弾の軌道を読んで。二本の短剣で、迫る銃弾を弾き飛ばす。
 だが、今度は銃弾そのものではなく。周りの物体にその力を行使する。

「ああ、後さ! 私に見惚れているのは嬉しいけど、周りもちゃんと見た方が良いよ」

 即座に周りの変化に気付く。異変が起こっているのは、自分の真上にあった大木。
 放たれた銃弾で脆くなった所を。赤崎のエンド能力で無理やり動かされた。
 負荷がかかったその大木は。上空から大量に降り注ぐ。

 舌打ちをしながら。優は、地面を蹴って横に避ける。

「バッキューン!」

 しかし、それを予測してたかのように。赤崎は、獲物を狙うハンターのように。
 確実に相手を追い詰めていく。だが、優も負けない。
 距離的に防御壁【シールド】の発動は間に合わない。優は、地面を両手につき、横に回転する。
 見事な運動神経でそれを回避する。現実にいた頃。体育の授業で出来なかった事。
 嫌いだったマット運動が、ここで役に立つとは。人生やはり何があるか分からない。

 自分で擬音を発しながら。赤崎は、避けた事に感心しながら。追撃を緩める事はない。
 大木のあるこの場所では不利だと感じて。
 このノースの森の中で、優が知っている比較的立体物がない場所。

 ――――シュバルツが過去に。父親と共に修行した修練所。

 敵の位置も。この濃霧により悪天候も影響を受けない。

 優は敵に背を向けて。咄嗟の判断で、過去に言われたシュバルツの話を思い出す。

「あ、逃げるんだ! かっこ悪い、やっぱりあんたは屑でどうしようもない奴だわ」

『いや、いい判断だ! 俺のくそくだらない話を覚えててくれたようだな!』

 耳を傾ける事もなく。優は真っ直ぐにそこに向かう。
 一年間の間に学んだことを生かして。迷った時は過去の経験を思い出して、そこから最善の選択を選んでいく。
 赤崎はとても不満そうに。渋い表情をしながら。デンノットで状況を説明する。

「笹森を国境付近で見つけたよ、今は私一人で遊んでるけど、はやく他の人も連れて来て」

 一方的にそれだけ連絡して。赤崎は飛び上がりながら銃弾を装填する。
 ここで笹森を逃がしては。報酬を受け取れない。負傷させた笹森を、晴木達に届ければ。
 楓も喜んでくれて、多くの金銭を自分の所に転がり込んでくる。

「やっぱり信用出来るのは、【お金】だけだね! さっさと動けなくして、終わらせるよ」

 赤崎は、背中を追いかける優に。容赦なく背後から発砲する。
 優は蜘蛛の糸を使いながら。周りの大木にそれを引っ掛けながら。
 上手くそれを避けていく。空中での動きは基本的にそれ頼み。
 だが、相手も念動力で不規則に放った銃弾の軌道を変化させる。

「ち!」

 致命傷は先程から受けていない。ただ、動きやパターンは単純化している。
 このままでは、弄ばれて終わってしまう。
 ただ、この意味のない移動時間。相手はそう思っているだろう。
 しかし、優にとってはとても価値のある時間であった。

(銃弾の装填時間は約三秒、あの念動力はやっぱり相当繊細なコントロールが必要のようだな)

 確かに、このエンド能力は強力。ただ、強力な力はそれ相応に。リスクや条件が厳しいと決まっている。
 赤崎の戦法的に。銃弾を補充する時間と。この、力は洗練された技術も必要となる。
 そして、致命的な欠点はその赤崎本人にあった。

『もう少しで、俺が昔に親父に鍛えられていた場所に着くぞ』

「……っ! よし、これで勝負は決まった」

『油断はするな、こちらが追い込まれている……』

「いや、あいつの顔を見てみろ」

 銃弾による攻撃は止まない。ただ、最初と比べて。明らかにエンド能力は使用されていない。
 それに、本人は隠しているつもりだが。やはり、あの余裕さとこちらを煽る行為。
 推測だが、これらは何か重大な弱点を隠すもの。優は、銃弾を避けながら。
 額の汗と体の震え。それで全てを理解する。

「あいつは、そもそもの【エンド量】が致命的に少ない」

『確かに、あれだけの能力を維持しようとするとかなりのエンド量が必要となるな』

 解説しながらシュバルツも何かを悟る。
 最初から。もしかすると、赤崎と優との勝負は決していたのかも。
 相手の狙いは【速攻】で。エンドの量が尽きる前に優は殺す事。
 この濃霧と入り組んだ地形を利用しながら。ただ、予想外だったのは優の抜群の戦闘センスと運動神経。

 赤崎は、追い込んでいるつもりが。気が付けば、追い込まれていた。
 そして、その追い込まれた獲物は。まるで、優の手の平で踊らされているかのように。

「……他の場所と比べて、何もない? あっれ?」

「気付くのが遅いよ」

 不審に思った時。既に、優は赤崎の背後に回り込んでいた。
 強化と瞬間加速を同時に使用して。相手の背中に今までの恨みを晴らすかのように。
 拳の重い一撃。それは、小柄の赤崎の動きを止めるには。むしろ、痛過ぎるものだ。
 背骨が折れる鈍い音が優にも届く。そのまま、地面に叩きつけて。優は赤崎の体を拘束する。

 上に乗りながら。優は見下した表情で。冷たい瞳で赤崎を見つめる。

「さ、最低……か、可愛い女の子の上に馬乗りになるなんて」

「黙れ、その指を切り落とされたいか?」

 ちょうど指先を伸ばしていたため。短剣で優は躊躇なく一本を削ぎ落とそうとする。
 それを見て、赤崎は背中の痛みで大声を出さないはずなのに。

「じょ、冗談でしょ!? ねぇ、ねぇ! その白髪かっこいいよね! 雰囲気も変わってさ、今なら付き合ってあげても……」

「それはこっちから願い下げだね」

 急に赤崎は涙目になる。必死にこの世界に来る前も。散々馬鹿にされてきた者への報復も込めて。
 まずは、その指を二本同時に。

「あぁぁぁぁぁぁ! いだいぃ、いだいよぉ!」

 すらっとした白い指先。それは、短剣の鋭い刃によって簡単に斬り落とされる。
 泣き叫んで助けを願う赤崎。しかし、それは虚無。無駄な行為。
 優は蜘蛛の糸で赤崎をさらに縛り付ける。これで、もう赤崎は完全に動けなくなる。もしもの可能性もなくなってしまう。

 霧が晴れてきた。優は、涎を垂らして号泣している赤崎に。過去に会った未解決の事件のついて問う。

「そう言えば、あの【修学旅行】のお金を集めようとした時あったよな? あれ……実際はどうなんだ?」

「どうって、や、やめて! わ、分かった、本当の事を教えるから」

 優が言っているのは。【修学旅行】のお金を集める時。
 全部で約百万相当のお金を。赤崎が係員として集めた。
 だが、次の日。集めたはずのお金がなくなっていた。
 袋にいれたそれは八代先生がしっかりと預けたはずなのに。
 赤崎は、泣きながら自分のせいではないと訴えた。

 可哀想な姿に。彼氏である黒川は、席を立って全員に聞く。

「おい、はっきりと答えろ、誰がやったんだ?」

 迫力のある黒川の演説に。この場は静まるかえる。
 やんちゃの性格で、いつも目上の人にも歯向かっている。
 そうなっては、八代先生に止められるはずもなく。
 黒川は近くの席を蹴る。そして、その席の主である沼田が驚きながら尻餅を着く。

「……っ! 何すんだよ!」

「あぁ!」

 鋭い眼光で睨みつけながら。体格差と慎重差で沼田は顔を青ざめる。
 後退しながら、その姿はとても情けなかった。
 そして、黒川は沼田の机の中をチェックする。
 まさかと思いながら。沼田は、人生の中で一番に緊張した瞬間だろう。
 そんなはずはない。だが、黒川は机の中から出てきた袋を掲げながら。

「犯人はお前だったのか! この野郎!」

「ちが……う!」

 すると、黒川は沼田の腹を蹴る。何度も何度も。昼食の後のHRの時間。
 最悪の時間に最悪の出来事。さらに、最近の嫌な出来事。
 沼田のストレスは最高潮に膨れ上がり、込み上げてくるものがあった。

(違う! 普段の沼田からしてこんな事するはずがない!)

 優は、たまにアニメや本の話で。沼田と話す機会が多々あった。
 話し方は偉そうな感じもあるが、こんな自分にも、気さくに話しかけてくれる。
 それに、お金を集めたのは昨日。その日、沼田はすぐに家に帰っていた。
 証言しようとして。優は、席から立ち上がろうとする。

「駄目! 何をしようとしてるの?」

 腕を掴まれ。優は、静止させられる。
 口も塞がれて。騒いでいる影で楓は優の自分の方に抱き寄せる。
 優は言葉を発しようと必死に抗おうとしている。
 しかし、楓は落ち着かせるように。優の耳元で囁く。

「優には関係ないよ! 私に心配かけさせないで」

「で、でも、沼田君は……」

「ほら、晴木も遠くから見てるだけだよ、余計な事には首を突っ込まない!」

 一緒に立ち上がり。沼田が暴行される姿をただ見つめるだけ。
 八代先生も怯えているだけで。何もしようとしない。周りも、止める所か。盛り上がりが加速していく。
 優は、手を伸ばしながら。思わず涙が出てしまう。

「いい加減にしろ! てめぇ! まだ沼田が盗ったと決まって訳じゃねえだろ!」

 しかし、優の代わりに。出水が黙ってられなくなり。黒川を後ろから止める。
 続くように飛野も沼田に駆け寄る。顔面が晴れて、口元が切れて流血している沼田。
 思わず、二人は唖然としてしまう。幾らなんでもやり過ぎだと。
 出水は怒号を上げながら。周りのクラスメイトにも叱る。

「お前らも! クラスメイトの仲間がこんな目に遭ってんだぞ! なに、ヘラヘラとしてんだ!」

「はぁ? そいつが、お金を盗ったからでしょ?」

 そんな出水に。葉月は不機嫌そうに反論する。まだ、事実確認が出来ていないのに。
 一方的過ぎるこの制裁に。出水はこのクラスは異常だと。飛野も、沼田を労わっている。
 濡れ衣を被せられている本人は痛みで話せない。悔しさと、苦痛で血が混じった涙を流し続けている。
 そして、赤崎はさらに追い打ちをかける。

「うぐ、ぐす……沼田っちは、【金を寄越さないと犯すぞ】って体育倉庫の裏で言われたの」

「……がぁ、違う!」

「ああ、それうちも聞いた」

「わ、わたしもです!」

 すると、いつも赤崎と仲の良い女子二人も賛同する。
 これは赤崎の為に言いたくないと。出来れば避けたかった事だが仕方がない。
 力ずくで集金袋を盗られて、挙句の果てに服を脱がされてその写真を携帯で撮られた。
 極め付きはその模様の赤崎の写真を。黒川が、沼田に見せつける。

 確かに、そこには赤崎の服がはだけた写真があった。まるで、行為の後かのように。
 首を横に振りながら。自分の潔白を証明しようとする。
 だが、ここまで証拠が揃っていては。弁明の余地もない。

 クラス中が騒然とする。

『え、きも、てか、普通に犯罪じゃん』

『まじ、ないわ、顔も不細工で中身も不細工か』

『生きてる価値ないんじゃない?』

 衝撃の事実。もちろん、これらは全て作られた物語。
 赤崎は手で顔を隠しながら。笑いを堪えていた。

(やったぁ! 百万円ゲット! 葉月ちゃんと黒っちもありがとう! お礼に他のみんなに奢らないとね!)

 その瞬間。沼田は、全てに絶望して教室の床に吐いた。
 さらに、歓声が上がる。居ても立ってもいられなくなり。出水と飛野は、険しい表情をしながら。
 二人で沼田を肩に担いで。保健室へと連れて行った。

 その光景を後ろで見ながら。優は呆然と立っているだけだった。


 そして、現在。

「ほら、速く続きを話さないと……この糸に絞め殺されるよ?」

 優は先程の繭をヒントにしながら。
 グルグルに赤崎の体に巻き付けて。時間の経過と共に。その糸が縛る力が強まっていくというもの。
 まだ、話は終わらない。拷問は時間をかけてじっくりやりたい。
 しかし、白土の事が頭にあるため。効果的に、相手の情報を引き出すために。焦らすというのは非常に重要。

 そして、短剣を鞘にしまって。さらに、相手に苦痛を与えるために。
 ナイフを取り出し、もう一本。もう一本と、赤崎の指を切っていく。

「あぁぁぁぁぁぁぁ! おねがい、やめてぇ」

 森に響く赤崎の悲鳴。無残に指が地面に落ちて赤く染まる。
 返り血を頬に浴びながら。優は、苛立ちを隠せず。遂には相手の腹を殴る。

 背骨も折れて、指も切られて。あの、明るい赤崎の姿はもう何処にもなかった。

 しかし、それ以上に。赤崎の策略の話は優の拷問以上に酷いものだった。

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