最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第18話 祝勝と噂

「それでは! 乾杯!」

 サーニャが切り込んで優とララもそれに合わせる。
 現在、優が初の依頼を達成したという訳で、その祝勝会が行われていた。
 とは言っても、この廃れたギルド内で細々とやっている。
 しかし、それでもサーニャのテンションの高さ。意外なララの飲みっぷりにこの場は盛り上がる。

 年齢的にサーニャは酒を浴びるように飲んで、優とララは果実を絞った飲み物を口に含んでいた。
 つまりはジュースだ。この世界でもお酒は二十歳を超えてからだと言う。
 いい加減な冒険者のギルドなのにこういうところは細かい。

 そして、軽く酔っぱらいながらサーニャは優の肩に手を置く。

「にしてもさぁ……まさか、本当に半日で【ミデラ火山】まで行って、リザードを倒して来るなんてね! しかも、たった一人で」

 酒臭さを感じながらも優は嫌な顔せず自慢げに胸を張る。

 ミデラ火山は優が達成した依頼場所。このマルセールから結構な距離があり、道も荒れている。
 本来なら、馬車などに乗って入念な準備をしてから行く所である。

 暑さで水分が奪われ、出現するガリウスも強敵揃い。優秀な冒険者が四人で行っても三日はかかる。
 それも、しっかりと作戦を練った状態で。それなのに、優は即決で決め、単独でミデラ火山まで向かった。

 それもほぼ無傷で帰還。サーニャには、優の髪色もあり【白い悪魔】と勝手に名付けていた。

 僻地での慣れない戦闘に加えて、Aランクのガリウス【リザード】。
 ガリウスにもランクが決められており、上に行くほど強敵である。

 固い爪と強固な皮膚。火の海に入れる耐性。凶暴な性格も合わさって普通にやっては勝てない。

 ただ、優には【フォース】によってコピーしたエンドと経験がある。
 さらに、狂化の壺に入った経緯があり、高温の場所には慣れている。

 念を押すなら左腕には頼れる相棒のシュバルツがいる。困った時には、アドバイスもくれるため今回の依頼は楽勝だった。

 相手の動きを見極め、巧みにエンドを使いながらリザードを追い込む。
 防御壁【シールド】、瞬間加速【アクセル】、強化【シファイ】この三つの使いどころを間違えなければ負けるはずがない。

 もちろん、過信をしてはいけないと優には分かっている。

 頭の中で連想しながら優は木の器に入っている紫色の液体を飲む。

 飲み干したところで、今回の報酬の分配の話となった。

 サーニャは豪快に酒を飲んでいたがそれを止めて目を大きく見開く。

 ララも頬を膨らませる程食べていたのか。一気に喉の奥に詰め込んで咳をする。

「けほけほ! 分配って……全部、スグル君の取り分だよ! 私は、スグル君に付いて行くことも出来なかったし」

「いやいや、元々はララのためにやった訳だし、俺の我儘でララの父さんに文句を言ったのもあるしな」

 すると、優はサーニャからその場で受け取った金貨十枚を袋から取り出す。
 本来なら報酬は、ギルドに報告して詳細の書類を作成。ギルド本部にそれを転送し、最低でも受け取るのに三日はかかる。
 もちろん、それは高難易度の依頼が特別であって、Cランク以下の依頼はその場で受け取れる。

 だが、今回はサーニャの粋な計らいもあり、自身の財布から金貨を差し出した。

 優は両手を合わせてサーニャに軽く頭を下げた。

 そして、断るララに優は金貨をまとめて七枚をララの前に置く。

 輝かしく黄色の光を放つそれは人の心を動かす。少しだけララは言葉を詰まらせる。
 しかし、すぐにララは自分の前に置かれた金貨を優の前に返す。

「ちょっと待って! パパの借金の分は金貨五枚だよ? この二枚はどうして?」

「ああ、俺は強いしすぐに稼げるからこれはララにあげるよ」

 得意げに優は椅子を揺らしながらララに予定多くの金貨をあげる。
 借金の分まで貰うだけでも申し訳ないのに。
 父親のことを考えるとここで素直に優から金貨を受け取った方がいい。

 さらには、この二枚で武器や防具も買える。冒険者として本当の意味で出発出来る。
 だけど、こんな形で冒険者になっても先は長くない。
 周りは自分で稼いで、そのメルで冒険者に登録し、物資を調達している。

 ララは下を俯きながら、自分の拳を握り締める。

 父親には借金までさせて冒険者にさせて貰った。動機は不純にしても事実。
 鞭で叩かれても笑顔でいる父親を思うと胸が痛くなって仕方ない。

 敵うはずのないイモラに一人で挑み、また助けられてここまで支えられている。

 それも知り合ったばかりの人物に。彼がお人好しなのか。それとも、自分が不甲斐ないのか。
 ララは、自分は冒険者に向いていないと改めて思った。

 こんなことなら、街の食事屋で働いていた方が父親にも迷惑をかけなかった。

 自分の夢が周りを巻き込み、不幸にさせる。そう思うと、ララの瞳から涙が溢れてくる。

 だが、優は悲しみに浸っているララを自分なりに元気づけるように。
 そして、あのイモラに挑んでいた果敢な状態に戻すように。

 冗談を交えつつこんなことを言った。

「これは、やっぱりララが受け取っていいよ! 俺から見てもララの防具も武器もボロボロだしな」

「あ……」

 基本的にガリウスと戦う者は装備をしっかりするのを怠らない。
 だが、優から見てララは下級のガリウスの攻撃にも耐えられない防具の質。
 動きやすいが、防御力は皆無の布切れと言った印象。

 それは、優にも言えるが、機動力を重視している目的があり、何より多量のエンドを流し込んでいる。
 自身の物とシュバルツの物が融合し、さらなる強固なものとなっている。
 並大抵の攻撃では貫かれないし、安心して攻撃も受けられる。

 ララの基礎能力やエンド能力は不明だが、今の状態では厳しいが冒険者としては未熟。

 だからこそ、ララには優れた武器や防具を装備して万全な状態で挑んで欲しかった。

「あの時のイモラだって武器がしっかりしてれば勝てたかもしれないよ? 力の差はそんなに無かったと思うけど」

「それは違うよ、剣の腕もまだまだだし、もっと強くならないと……」

「誰でも稽古して努力すれば強くなるもんだ! まあ、長い話は置いといてこれは受け取っておけよ!」

「うぅ、でも……」

 後ろ向きなララに優は苦い顔をする。今まで癖の強いクラスメイトの女子しか見て来なかった優。

 でも、こんなに素直で優しい女の子が存在するなんて。
 よっぽど自分の女運がなかったのか。いや、ただ一人だけ。
 久しぶりに優は幼馴染の顔を思い出す。

 未練が全くない訳ではない。ただ、晴木と同じく今一番話したい相手で、一番自分の手で殺したい相手。

 隠していた憎悪が表に出そうになる。シュバルツが言うには、復讐相手を目の前にしている自分は近寄りがたい存在になるらしい。

 サーニャが言う白い悪魔という表現は間違いではない。

 少しだけ本性を曝け出して、二人には気付かれない程度にだが。

 ララは、楓のようにはなって欲しくはない。そして、人を信用させるにはやはり何か材料を用意しないといけない。

 疑り深いが、どんな相手にもそれは必要。この余分な二枚の金貨はララに信用を得るためでもある。
 さらに、優はサーニャにも残りの三枚の内。二枚の金貨を手渡す。
 冒険者登録の手数料と色々と補助してくれたお礼。
 本来なら優は依頼を受けることも出来なかったし、高難易度の依頼を受けられたのも、全てサーニャのおかげ。

 ララと違い、サーニャは大喜びしている。優にとっては渡したものが減って返ってきたと言うだけと突っ込みたかった。

 残りの一枚を優は受け取るこということで話をまとめようとした。

 しかし、ララにとってやはり納得がいかない。

「やっぱり、これは受け取れないよ」

「ララは中々強情だな? 俺が良いって言ってるんだからいいじゃん!」

「で、でも……」

「じゃあ、こうしよう! ララが立派な冒険者になって稼げるようになってから返してくれればいいよ!」

「あははは! それなら気が楽じゃない? ララちゃん、せっかくだから受け取っておきなよ! ほら、運も実力の内って言うしね!」

 結局、渋々ながらもララは七枚もの金貨を受け取った。
 ララが立派な冒険者を目指し、優と肩を並ぶくらいになる。

 ただ、その頃に優がいるとは限らない。

 そして、このAランクの依頼を単独で達成という噂はこのマルセール中に広まる。

 この噂がこの街に潜伏している葉月達に届くのは時間の問題だった。

 これは優にとっては好都合なことに変わりはなかった。
 出向かなくても、あちらから来てくれる。黙ってはいないだろう。

 仕掛けられたらそれに応えるだけ。優はララがサーニャに無理やり抱き付かれる姿を見ながら、薄い笑いを浮かべていた。

 優の戦いは既に始まっていた。

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