最弱無敵のエンドフォース -絶望からの成り上がり-

ワールド

第16話 ギルド協会

 ララの父親と別れた後。優とララはこの街の【ギルド協会】へと向かった。
 ギルド協会と行っても、この小さな街では規模は大きくない。
 先程も言った通り、冒険者の数は減り、現在では機能しているか分からない。
 説明を聞きながら、優はマルセールのギルド協会の付近まで到着する。

 協会の言うのだからある程度の大きさは予想していた。
 ただ、これでは小汚い屋敷。人手も少ないし、出入りする人もいない。
 廃れているのか。優は表情を変えず、扉の前で疑う。

 しかし、ララは優の手を離さずここまで口数を少なくしている。

 父親の告白とララが優に言った事実。

【母親が狂化の壺の生贄になったこと】

 何度か聞いたその単語に優は表情を暗くする。
 曇りかけた空がそれを強調するように。
 詳しくは話を聞かず、軽く応答し、二人は歩き続けた。

 自分がその壺の生贄となった。言うべきか迷った。ただ、言うべきではないと判断し優は口を閉じる。

 壺のことはシュバルツからも教えられている。
 こうやって自分が冒険者を志そうとしているこの瞬間も。

 遠く離れているラグナロで生贄が捧げられている。

 ララの母親も理由や経緯は分からない。しかし、あの壺の被害に遭ったとなれば黙っていられない。

「スグル君……」

「なに?」

「痛い……」

「あ、ごめん」

 沈黙は力を強くする。ララを握っている右手の力を制御出来なかった。
 我ながら不覚だと感じて、優は慌てて手を離す。
 僅かに手汗を染み込ませながら、ギルド協会を見上げる。

(復讐もそうだけど、あの壺もぶっ壊してやる! 苦しんでいる人がいる限り、俺はそうしなければならない)

 勝手に使命を胸に抱きながら、ララと共に入口の木の扉を開く。
 気味の悪い扉の音と共に、静かに扉は開いていく。
 埃が空気中を舞いながら、優達は見渡しながら薄暗い内部を観察する。

 閉塞としたこの空間は息苦しい。ララは慣れているようだが、優は眉をつりあげながら嫌悪感がある。

 シュバルツに聞いていた華やかで賑やかな印象は全くない。

 誰一人としていないし、話し声も全く聞こえない。そして、優が蜘蛛の巣が張っているテーブルに足をぶつけた時だった。

「ふわぁ……あれ? 冒険者の人? 珍しいこともあるもんだね」

 突然の声に優は体を身震いさせる。敵かと思ったが、そうではないようで。
 カウンターの方に一人だけ女性の姿があった。

 ボサボサの髪型に眼鏡をしている女性。ただ、首にはお洒落なスカーフを身に着けている。
 服装も自分よりは高価な印象でこの人物が何者か。理解するのには時間がかからなかった。
 そして、優が問う前にララが駆け寄る。

「サーニャさん! しっかりして下さいよ!」

「ううん? ララちゃん? だってさ、冒険者どころか、依頼者もこないんだよ! なーんもやることなーい!」

 この街の状態では仕方がない。依頼成功率も低く、報酬も少ない。必然的に廃れていく。
 優秀な冒険者や人材は他の所に行くのは納得である。
 このサーニャという女性はマルセールでも有名な受付嬢であると言うがやる気が感じられない。

 話によるとララは既に冒険者登録は済ましているらしい。

 優はジト目でララを見ながら裏切り者と口走る。
 しかし、サーニャからはまだ難しい依頼は任せられないらしい。

 そして、受付嬢の興味は優に向く。

「あれ、そう言えばそっちの子は何者? 綺麗な白髪だね」

「あ、サーニャさんに紹介したい人がいたんだ! この子はスグルって言うんだけどね! 凄く強いのよ! 何だってあのイモラを簡単に倒しちゃったんだ!」

「宜しく、物凄く強いスグルです! お姉さんもララと同じで可愛いですね」

 本心なのか冗談で言っているのか。優はララと同じようにサーニャを褒める。
 ララはあまり良い気がしてなくて、頬を膨らませている。
 しかし、サーニャはララと違って頷きながら当然の反応と思っている。

「あら? よく理解しているね! 気に入ったわ、スグル君だっけ? 君もここに来るってことは冒険者を目指しているってことかな?」

「あれ? 流されちゃったな? シュバルツにはまず女性には可愛いと言っておけばいいって学んだんだが」

『時と場合によると付け加えておけ! 軽い男と思われても責任は取らんぞ』

 釘を刺されて優は反省する。言ったのはシュバルツというのは黙っておく。
 しかし、サーニャは優のことを気に入ったのか。
 本棚から数枚の紙を取り出し、カウンターの前に置く。
 優は誘われ、カウンターの前に近付く。書かれていたのは、依頼の内容と対象のガリウスの対象。

「本当なら、ちゃんと正式な手順を踏んで冒険者になってからじゃないと駄目なんだけど……君なら大丈夫かな?」

「へぇ? どうして、そんなことが分かるの?」

 ララも隣で驚きながら優のことを褒めている。いや、騒いでいると言った方が正しいか。
 まだ、冒険者登録もしていないのに。これは異例の処置。
 優の質問にサーニャは眼鏡を上にあげながら、歴戦の堪で生々しい口調で言い放つ。

「だって、君……その年で人を殺したことあるでしょ?」

「……ふーん、受付嬢のお姉さんはよく分かってるじゃん」

「ふぇ!? スグル君が人を殺したことあるって、ほんとに?」

 血の匂いもしっかりと落とし、よく水で流し落としたはず。
 それなのに、このサーニャという女は優の異常さに気が付く。
 どうやら、有名な受付嬢というのは嘘ではないようだ。

 出会ったばかりの素性を見抜き、その人物の実力と風格にあった依頼を提供する。

 中々に気が抜けない相手だと優は察する。すると、小声でシュバルツが優に補足する。

『この世界ではガリウス以外に人を殺すことも認められている、依頼の範囲はともかく、冒険者同士でよく報酬などの分配の争いが起きて、血が流れることもある』

 優は表情は崩さず、サーニャと向き合う。ララにも詳細を説明する。流石に、自分の目的と境遇。そして、真の詳細は言わなかった。

 村から出て来て、その盗賊団を殺したという設定で通して依頼書に手に取る。

「そんな経験豊富なスグル君に説明しておくね! 依頼とその見方に付いて」

「頼む、いやいや分からないことだらけで頭が混乱しそうだ!」

(ほんとはシュバルツから聞いているんだけど、まあいいか)

 ララにもサーニャは復習させるように。
 丁寧に受付嬢として説明を始める。

 基本的に依頼の難しさは基礎能力と同じように。ランクGからSまだ定められている。
 上に行けば行くほど、対象のガリウスが凶暴で討伐が難しい。
 また、環境も過酷で、かなりの日数を欲する時など。様々な要因でギルド協会などが決定する。

 次は、報酬。達成した時の得られるメル。そして、副産物として武器や防具。
 また、メルの代わりに自身の【エンド】を提供することも出来る。
 それは依頼内容の詳細に書いてある。

 そして、自身の冒険者ランクというのもある。
 これは、依頼を受けられる基準であり、ランクGの人は依頼もGのものしか受けられない。

 ちなみに、ララは現在のランクはEであった。ガリウスを倒す以外にも、店の手伝いや雑用。
 これらも立派な依頼だとサーニャは強調する。あまり言うとララが悲しむということもあるが。
 つまり、ララは小さな積み重ねで、ランクGからEに上がったという訳。

 優はまだ冒険者にも登録してないためランクはない。
 ただ、サーニャが優の前に差し出しているのは、どれもこれもララが見たことないものばかり。

 ランクBやランクCと言ったものがズラッと並んでいる。

 サーニャはこの中でもお勧めの依頼を優に提示する。

「まあ、大まかな説明これぐらいにして、スグル君は何を受けたい? イモラなら最近大量発生してるし、でも、スイーパーとかキメラも……」

「いや、とにかく報酬が高い依頼はない? 今週中に50000メルがいるんだけど」

「5、50000メル!? 流石にそれを稼ごうとなると結構な危険な依頼を受けないと駄目かも?」

 これでも十分危険なのは承知。ただ、優は目を通してもあまり大きな報酬を期待出来る依頼は少なかった。
 だから、更なる高みを目指すため。優はサーニャに本気でもっと稼げる依頼を求める。
 ララにとってはランクCでもたった一人で挑めば無事では帰って来れない。

 その時の優の瞳はララはまるで自分が殺されてしまうかのような。

 殺気を感じて思わず離れてしまう。

 サーニャは動揺せず、再び奥まで行ってある一枚の依頼書を優に見せてきた。

「ふふふ! そんなスグル君には、はいこれ! ランクAの超危険だけど、ちゃんとこなせば金貨が10枚も手に入っちゃう!」

「ほほぉ、どれどれ」

「き、金貨十枚!? 私がどれだけ働いても辿り着けない」

 真っ先に依頼書の内容を見る。
 討伐対象は亜人のガリウス【リザード】と呼ばれるもの。
 聞いたことがあると優は現実世界の知識とこの世界で教えて貰った知識を複合する。

 力も動きも人間より速く強い。
 トカゲと竜が合わさった見た目をしているらしい。

 対象は一匹だが、道中にキメラやスイーパーそしてイモラも潜んでいる。
 さらに、依頼場所も火山。とてもじゃないが、しっかりと準備しないと生きては帰って来れない。

 報酬はかなり旨いが、リスクが高すぎる。そのため、大都市でもなかなか受ける人が見つからずこちらに回された。

 しかし、優は迷うことなくその依頼を引き受ける。
 ララは簡単に決めてしまう優を困惑しながら見つめるだけだった。

 そして、サーニャも準備が必要だと思い、すぐにその手配をしようとする。

「それじゃあ! 勇敢なスグル君に、私はすぐに人材の確保とかを……」

「必要ないよ」

「え? 必要ないって?」

 本来ならCランク以上の依頼は、物資の確保や一緒に行く人材の確保が必要となる。
 いや、それは暗黙の了解で決まっている。実際は本人が要らないならそれでいい。
 ただ、今回はAランクの依頼。入念な準備をしないとまず生きては帰って来れない。

 しかし、優はベテランの受付嬢であるサーニャも驚かせる判断をする。

「うん、俺一人で十分だろ! 何なら、明日の早朝までに終わらせようか?」

「い、いやそれはあまりに無茶じゃないかな?」

「いけるよ、それにサーニャさんだってその方がいいんでしょ? 人材派遣とか物資の調達とか……面倒でしょ?」

 サーニャはまるで心を読まれていたかのような優の言葉に仰天する。
 これもシュバルツの話の上での知識。
 受付嬢は基本的に、どれだけ冒険者などに依頼を受けさせたか。
 そして、依頼の成功の有無はあまり関係して来ない。最も、協約でその人に見合った依頼を受けさせることが義務付けられている。

 流石にサーニャもこれ以上は優の好き勝手にさせる訳にはいかない。

 仮にこれで失敗させたら責任が取れない。

(関係知識も覚えておくと役立つ場面があるか、なるほどなるほど)

 優はシュバルツに教えられたことを的確に、巧く使いながらサーニャを誘導する。

 見透かされたサーニャは嘘はつかず、ララがいる手前宜しくはないが真実を告げる。

「はぁ……まあね、依頼を受けた後なら、正直どうでもいいし、貴方よく分かってるのね?」

「ふふふ、これでも経験豊富ですから」

「そ、そうなんですか? ということは……私も?」

「流石にララちゃんみたいな常連は少しは情があるけどさ! 初見の冒険者のこと気遣うなんて出来ないし、こっちとしてはスグル君みたいな人の方が都合が言い訳」

「ほうほう、はっきりと言ってくれてありがとうございます」

「べーつに? ギルドの受付嬢なんてこんなもんよ、良い人なんて思わないことね! みんな……自分のことで精一杯なのよ」

 サーニャは少しだけ表情を曇らせながらまたいつもの笑顔に戻る。
 大変な職種だと優は感じながら、腕組みをして納得する。
 そして、結局。何も支援を受けず、サーニャは念を押すがそれを振り切って依頼を単独で受けることにした。

 ララも付いて行くと言い切るが、流石にそれは優。そして、サーニャからも止められる。
 優にとっても足手まといになるし、ララの身の安全を考えてだろう。
 依頼書にサインをして、早速と言わんばかりに優は腕をグルグルと回しながら外へと出て行った。

 ここまで数十分。嵐のような出来事にサーニャとララはしばらく沈黙していた。

「まさか、Aランクの依頼を単独でしかも今夜中に終わらせるって……面白い子ね」

「はい、スグル君のことはまだ分かりませんけど、悪い子ではないと思います」

 本当なら引き留めたかった。こんな危ない橋を渡らなくてもコツコツと行けばいい。
 だけど、不思議と出会ったばかりだが、優からはなんとかしてくれる。そのようなオーラが滲み出ていた。
 ララは椅子に座って優の無事を祈るだけだった。

 そして、サーニャはそんなララを見てニヤニヤしていた。

「スグル君、いい子だったね! あーあー私ももう少し若かったらアタックするんだけどな」

「……! そ、そんな風に私は見てませんから! た、ただ、頼りになるとは……」

「ふーん、分かった分かった! でも、あんたもいい年なんだから、男の一人ぐらい」

「お、大きなお世話です!」

 茶化されながらララは、顔を赤面させる。満更でもない様子。
 可愛いと思いながらサーニャは白い歯を見せていた。
 今日はもう時間的に遅い。サーニャはギルド協会の寝室に泊まって行けばとララに提案する。
 女の子が街中を一人で歩くのは危険だろう。冒険者と言えど、まだまだ未熟。

 ここは、お言葉に甘えてララは部屋を借りることにした。

 無事に帰って来るであろう。優を出迎える目的が一番だった。

 ララは両手を合わせて優の成功と無事を祈った。

 そして、時間は滝のように過ぎ去っていく。

 寝室でララはサーニャのベッドを借りてグッスリと眠っている。
 サーニャはカウンターの前で書類の整理をこなしながらそのまま寝落ちしてしまったようだ。

 気持ち良さそうに涎を垂らしながら寝息を立てながら。

 完全に職務放棄だが、それはすぐに終わることとなる。

 サーニャは頬が軽く引っ張られる感覚があった。
 夢から覚めて、サーニャは飛び起きる。

「い、良い男!? 遂に私の前にも……」

「どうも、良い男です」

「うげ……は、はぁぁぁぁ!」

 頬をつねっていた張本人。優は眠たそうに不満を口にする。
 ただ、サーニャは思わずカウンターの椅子から転げ落ちてしまう。
 それぐらいに信じられないものだった。
 すぐに床から立ち上がり、サーニャは少し傷を負った優を心配する。

 ただ、掠り傷だけであり致命傷ではない。

 優は有言実行通り本当にAランクの依頼リザードをこなす。

 その姿にサーニャは一瞬だけ。優が【白い悪魔】に見えた。

 それぐらいにこの優の仕事ぶりと落ち着きぶりは目を見張るものだった。

 何事もなかったかのように優はサーニャにこう言い放つ。

「さてと、次はどんな依頼を受けようか?」

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