付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~
第57話 救出
「誰だ!?」
突入した僕に焦った声で疑問を発したのは、一番近くにいた男性だった。答える代わりに、グローブに魔力を通して《魔力弾》を放つ。着弾と同時に赤い花が咲き、糸の切れたマリオネットのように力なく倒れた。
彼らの足元には、子供の死体が転がっている。
その苦痛に歪んだ顔から、何をやったのか想像するまでもない。濃い血の匂いが僕の怒りをさらに加速させる。この場から見逃すことはあり得ない、慈悲を与えるつもりはなかった。
残りは9人。目指すは部屋の中心。
「捕まえろ! 殺しても構わない!!」
誰かが指示を出した。
あまり戦闘には慣れていないようで、まだ攻撃はこない。さっきは凡ミスをしてしまった僕だけど、さすがにその隙を見逃すほど間抜けではないよ。
一直線に向かいながらも、ガンシューティングゲームのように、次々とフードをかぶった犯人に攻撃を仕掛けていく。牽制しているだけなので当たらなくても良いけど、近づかれないように《魔力弾》を放ち続けた。
そのうちの一つが偶然にも地面に描かれた魔法陣に向かう。直撃する寸前で、見えない壁に衝突、砕け散った。
外部からの攻撃を防ぐ魔術まで組み込まれているのか。
高度な技術に舌を巻く。複数の魔術を組み合わせて一つの魔術陣として描き上げるのは、僕でも困難だ。
主犯格は僕に匹敵するか、それ以上の実力を持っているのは間違いない。やはり雑魚は早めに片づけたいところだけど、立て続けに魔術を使い、魔力の残量が心もとないので一掃するのは難しそうだ。
再びグローブに浮かび上がった魔術陣から《魔力弾》が放たれると、背後から忍び寄った敵の腕と足を同時に吹き飛ばす。また一人、戦線から離脱した。
残り8人。まだ多い。
立ち止まると両手を前に出して《魔力弾》を放つと、狙い通りに動きの止まっていた二人の胸に風穴を開けた。
囲まれないようにと、再び走り出す。
部屋の片隅にあった死体の山が目に入る。
片腕が欠損した見知った顔が合った。
(ルッツさん……)
他にも襲撃時に戦った人たちの何人かが、血を流しながら積み重ねられていた。危険な任務の報酬が、これか。酷く効率的で、残酷なことを思いつく。
さらに燃え上がる怒りを抑え込み、走り続ける。
中心まであと数メートルまで近づくと、そこでようやく、中心に立っていた人物がこちらを向いた。片手でフードを外す。
薄暗く照らされた高貴な顔立ちは、僕が予想している人物だった。
「レオッッ!!!!!」
なぜ、どうして、といった理由なんてどうでもいい。一般人にとって殺人鬼の動機が理解しがたいのと同じように、人道を無視した人の話を聞いても理解はもちろんのこと、納得できるとは思えない。
子供――それも恐らくスラム街の住人だ――を殺害し、その血液を使う外法を許すわけにはいかない!!
叫びながら《魔力弾》の雨を浴びせる。
「ずいぶん乱暴な挨拶ですね」
レオは前方に《平面結界》の魔術を発動させると、いともたやすく防いでしまった。
「随分と頭に血が上っているようですが、魔術を使う者は常に冷静でいるものです。クリス君ほどの付与師が知らないわけでもないですよね」
その発言は、僕を侮りすぎていないかな。表面上は怒りに飲まれているように見えるかもしれないけど、君を倒すための方法はいくつも考えているよ。
レオが魔術文字を踊るようにして書く。その動きは淀みなく、一種の芸術のように感じられた。
数秒もしたら僕に向って魔術が放たれるだろう。避けるなら今しかないけど、攻撃に移る一瞬は、周囲への警戒が疎かになるわずかな隙でもある。見逃さない手はない!
残り僅かになった魔力を入れ墨に流し込むと、走る速度が急激に上昇した。
「ちっ!」
虚を突かれたレオは指の動きが止まる。それはわずかな時間。でも、身体能力が強化された僕には十分な時間だった。
懐に入って回し蹴りを食らわせると、ガラスが砕けるような音とともに結界を破壊さて、レオを吹き飛ばす。地面を転がり、壁にぶつかる寸前で立ち上がった。
完全に不意をついたはずなのに、致命傷を与えられなかった。心の中で舌打ちをする。
とはいえ、目的は達成した。
足元に倒れている女性――アミーユお嬢様の首に触る。
脈はある。生きている。あぁ、無事でよかった!
この一瞬だけは、戦闘中という事実を忘れて大きく安堵の息を漏らした。
あとは、ここから脱出するだけなんだけど、ちょっと状況が悪そうだ。
レオを除いた5人に囲まれている。魔力を使い切りそうだったので、入れ墨に回していた魔力は停止したままだ。力ずくで脱出するのは難しいだろう。
「まったく、平民は乱暴ですね」
汚れた服を軽くはたきながら、レオは優雅に立ち上がった。わざと派手に吹き飛んで衝撃を逃したな。魔術も一流であれば、体術もできる。敵に回すと厄介な相手だ。
「無辜の民を惨殺する貴族様ほどではないですよ」
「平民ですらない家畜を殺して、何か問題がありますか?」
あぁ、君はそう言ってしまうのか。
同じ付与師として、少しは分かりえると思っていたのは、僕だけだったようだ。
同じ人なのに、家畜や物扱いをされて嘆いている人の声は聞こえないのだろう。彼らの尊い犠牲の上で平和を享受しているとは、考えたこともないんだろうね。戦争を勝ち抜いたのも、道具を上手く使った自分の成果としか考えてないのだろう。
しかも彼らが抱く感情を理解したうえで、上手くコントロールしているのが質が悪い。レーネやルッツさんに「復讐する機会を与えよう」とでも言って、焚きつけたのだろう。
付与、魔術師の中でも同様の考えをする人はいるけど、ここまで人を人と見ない人は珍しい。他国に比べて、ヴィクタール公国は平民にも優しいと聞いていたけど、やっぱりこういう人はどこにでもいるんだね。
「クリス君が来る可能性は考えていました。いや、違いますね。ここに辿り着くのを期待していました。私の集大成を見てもらいたかったのでね!」
レオは最後に、ヒントは十分に与えてましたよね。と、付け加えた。
「集大成とは、この魔術陣だよね?」
「ええ! もうすぐで完成します。大人しくしてくれるのであれば見学させてあげますよ」
僕を囲む人たちの魔力が動き出した。この提案を拒否した瞬間に、四方から魔術が飛んでくるのは間違いない。
数の差は圧倒的で、守りに入った瞬間に負けは確定してしまう。
「確かに、集大成と言うに相応しい、複雑で難解な魔術陣だ。一部を除いて見たことのないものばかりだ」
気取られないようにアミーユお嬢様の服に手を入れる。
間違って胸を触ってしまったけど、この事実は墓場まで永遠に持って行こう。下手をしたら殺されてしまう。
「当然だよ! ハハハハ!!」
褒めて気をよくしたのか、レオは高笑いをした。
敵である僕が目の前に居るのに隙だらけだ。それだけこの魔術陣に自信があるのか? ならずっと、そうしてろ! その油断が命取りにしてやる!
手をもう少しだけ奥に突っ込んでいくと、コツンと、堅い物に手が当たった。
目的の物を手に入れて僕はニヤリと笑い、返事の代わりに攻撃をすることに決めた。
「《氷狼》。こいつらの腸を食い破れ!」
キーワードに反応してアミーユお嬢様のが懐に隠していた宝石が光に包まれ、氷でできた透明な狼が出現した。
これは僕が作ったアーティファクト。攫われた時は使う隙がなかったので、この存在を知っている人はほとんどいない。切り札的なアイテムだ。
突入した僕に焦った声で疑問を発したのは、一番近くにいた男性だった。答える代わりに、グローブに魔力を通して《魔力弾》を放つ。着弾と同時に赤い花が咲き、糸の切れたマリオネットのように力なく倒れた。
彼らの足元には、子供の死体が転がっている。
その苦痛に歪んだ顔から、何をやったのか想像するまでもない。濃い血の匂いが僕の怒りをさらに加速させる。この場から見逃すことはあり得ない、慈悲を与えるつもりはなかった。
残りは9人。目指すは部屋の中心。
「捕まえろ! 殺しても構わない!!」
誰かが指示を出した。
あまり戦闘には慣れていないようで、まだ攻撃はこない。さっきは凡ミスをしてしまった僕だけど、さすがにその隙を見逃すほど間抜けではないよ。
一直線に向かいながらも、ガンシューティングゲームのように、次々とフードをかぶった犯人に攻撃を仕掛けていく。牽制しているだけなので当たらなくても良いけど、近づかれないように《魔力弾》を放ち続けた。
そのうちの一つが偶然にも地面に描かれた魔法陣に向かう。直撃する寸前で、見えない壁に衝突、砕け散った。
外部からの攻撃を防ぐ魔術まで組み込まれているのか。
高度な技術に舌を巻く。複数の魔術を組み合わせて一つの魔術陣として描き上げるのは、僕でも困難だ。
主犯格は僕に匹敵するか、それ以上の実力を持っているのは間違いない。やはり雑魚は早めに片づけたいところだけど、立て続けに魔術を使い、魔力の残量が心もとないので一掃するのは難しそうだ。
再びグローブに浮かび上がった魔術陣から《魔力弾》が放たれると、背後から忍び寄った敵の腕と足を同時に吹き飛ばす。また一人、戦線から離脱した。
残り8人。まだ多い。
立ち止まると両手を前に出して《魔力弾》を放つと、狙い通りに動きの止まっていた二人の胸に風穴を開けた。
囲まれないようにと、再び走り出す。
部屋の片隅にあった死体の山が目に入る。
片腕が欠損した見知った顔が合った。
(ルッツさん……)
他にも襲撃時に戦った人たちの何人かが、血を流しながら積み重ねられていた。危険な任務の報酬が、これか。酷く効率的で、残酷なことを思いつく。
さらに燃え上がる怒りを抑え込み、走り続ける。
中心まであと数メートルまで近づくと、そこでようやく、中心に立っていた人物がこちらを向いた。片手でフードを外す。
薄暗く照らされた高貴な顔立ちは、僕が予想している人物だった。
「レオッッ!!!!!」
なぜ、どうして、といった理由なんてどうでもいい。一般人にとって殺人鬼の動機が理解しがたいのと同じように、人道を無視した人の話を聞いても理解はもちろんのこと、納得できるとは思えない。
子供――それも恐らくスラム街の住人だ――を殺害し、その血液を使う外法を許すわけにはいかない!!
叫びながら《魔力弾》の雨を浴びせる。
「ずいぶん乱暴な挨拶ですね」
レオは前方に《平面結界》の魔術を発動させると、いともたやすく防いでしまった。
「随分と頭に血が上っているようですが、魔術を使う者は常に冷静でいるものです。クリス君ほどの付与師が知らないわけでもないですよね」
その発言は、僕を侮りすぎていないかな。表面上は怒りに飲まれているように見えるかもしれないけど、君を倒すための方法はいくつも考えているよ。
レオが魔術文字を踊るようにして書く。その動きは淀みなく、一種の芸術のように感じられた。
数秒もしたら僕に向って魔術が放たれるだろう。避けるなら今しかないけど、攻撃に移る一瞬は、周囲への警戒が疎かになるわずかな隙でもある。見逃さない手はない!
残り僅かになった魔力を入れ墨に流し込むと、走る速度が急激に上昇した。
「ちっ!」
虚を突かれたレオは指の動きが止まる。それはわずかな時間。でも、身体能力が強化された僕には十分な時間だった。
懐に入って回し蹴りを食らわせると、ガラスが砕けるような音とともに結界を破壊さて、レオを吹き飛ばす。地面を転がり、壁にぶつかる寸前で立ち上がった。
完全に不意をついたはずなのに、致命傷を与えられなかった。心の中で舌打ちをする。
とはいえ、目的は達成した。
足元に倒れている女性――アミーユお嬢様の首に触る。
脈はある。生きている。あぁ、無事でよかった!
この一瞬だけは、戦闘中という事実を忘れて大きく安堵の息を漏らした。
あとは、ここから脱出するだけなんだけど、ちょっと状況が悪そうだ。
レオを除いた5人に囲まれている。魔力を使い切りそうだったので、入れ墨に回していた魔力は停止したままだ。力ずくで脱出するのは難しいだろう。
「まったく、平民は乱暴ですね」
汚れた服を軽くはたきながら、レオは優雅に立ち上がった。わざと派手に吹き飛んで衝撃を逃したな。魔術も一流であれば、体術もできる。敵に回すと厄介な相手だ。
「無辜の民を惨殺する貴族様ほどではないですよ」
「平民ですらない家畜を殺して、何か問題がありますか?」
あぁ、君はそう言ってしまうのか。
同じ付与師として、少しは分かりえると思っていたのは、僕だけだったようだ。
同じ人なのに、家畜や物扱いをされて嘆いている人の声は聞こえないのだろう。彼らの尊い犠牲の上で平和を享受しているとは、考えたこともないんだろうね。戦争を勝ち抜いたのも、道具を上手く使った自分の成果としか考えてないのだろう。
しかも彼らが抱く感情を理解したうえで、上手くコントロールしているのが質が悪い。レーネやルッツさんに「復讐する機会を与えよう」とでも言って、焚きつけたのだろう。
付与、魔術師の中でも同様の考えをする人はいるけど、ここまで人を人と見ない人は珍しい。他国に比べて、ヴィクタール公国は平民にも優しいと聞いていたけど、やっぱりこういう人はどこにでもいるんだね。
「クリス君が来る可能性は考えていました。いや、違いますね。ここに辿り着くのを期待していました。私の集大成を見てもらいたかったのでね!」
レオは最後に、ヒントは十分に与えてましたよね。と、付け加えた。
「集大成とは、この魔術陣だよね?」
「ええ! もうすぐで完成します。大人しくしてくれるのであれば見学させてあげますよ」
僕を囲む人たちの魔力が動き出した。この提案を拒否した瞬間に、四方から魔術が飛んでくるのは間違いない。
数の差は圧倒的で、守りに入った瞬間に負けは確定してしまう。
「確かに、集大成と言うに相応しい、複雑で難解な魔術陣だ。一部を除いて見たことのないものばかりだ」
気取られないようにアミーユお嬢様の服に手を入れる。
間違って胸を触ってしまったけど、この事実は墓場まで永遠に持って行こう。下手をしたら殺されてしまう。
「当然だよ! ハハハハ!!」
褒めて気をよくしたのか、レオは高笑いをした。
敵である僕が目の前に居るのに隙だらけだ。それだけこの魔術陣に自信があるのか? ならずっと、そうしてろ! その油断が命取りにしてやる!
手をもう少しだけ奥に突っ込んでいくと、コツンと、堅い物に手が当たった。
目的の物を手に入れて僕はニヤリと笑い、返事の代わりに攻撃をすることに決めた。
「《氷狼》。こいつらの腸を食い破れ!」
キーワードに反応してアミーユお嬢様のが懐に隠していた宝石が光に包まれ、氷でできた透明な狼が出現した。
これは僕が作ったアーティファクト。攫われた時は使う隙がなかったので、この存在を知っている人はほとんどいない。切り札的なアイテムだ。
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