付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~

わんた

第49話 アミーユお嬢様の救出に向けて

クリスショップを出ると、兄さんのパーティメンバーである戦士のダモンさん、魔術師のエミリーさん、レンジャーのナナリーさんが待っていた。兄さんと同時に騎士として採用されたので、装備に統一感はあるけど、戦闘スタイルに合わせて形や素材は変わっている。


たとえばナナリーさんの鎧はベースは皮で、心臓といった重要器官の部分だけ金属製などで補強している。エミリーさんは僕と一緒で皮の鎧だけだ。ダモンさんは兄さんと同じく金属製の鎧に身を包んでいる。


「クリス君も作戦に参加だよね?」
「おう。もちろんだ」


絡みついてくるナナリーさんを兄さんが優しく迎える。
エミリーさんは「頑張ろうね」と、僕の頭を軽く撫でると、すぐに兄さんのところに行ってしまった。一応、魔術を教えてことがあるので師匠と弟子の関係ではあるんだけど、なんだか子供扱いされているように感じた。兄さんの恋人だし、義理の弟って感じなんだろう。


「覚悟は決まっているか?」


僕とモテない男同盟を組んでいるダモンさんが隣に立つ。
兄さんたちがイチャイチャしているのを遠巻きに眺めていた。


「はい」
「救出作戦は五人で一つのチームに分かれて周辺地域を探索することになっている。ほとんどのやつらは西地区にあるスラム街の一画をを調べる予定だ」
「一番怪しそうなところだね。僕たちもそこを?」


捕まった人たちはスラム街出身が多かったらしい。とはいえ一言でスラム街と言っても広大だ。特に戦後の影響で境界線もあいまいになっている。全てをしらみつぶしに探そうとしたら最低でも一か月は必要だったから、ニーナの情報でエリアを絞り込めたのは大きいだろう。


僕も、そこに本拠地もしくはそれに近い拠点があると考えていた。


「いや、俺たちは中央だ」


でも兄さんたちの考えはちょっと違うみたいだ。
これから調べるところは中央地区らしい。あそこは間違ってもスラム街と呼べるような場所ではない。


「え? あそこは裕福層がいる場所ですよね?」


なんせリア様の館の近くだ。豪商と呼ばれる人や、身分の高い人などが住んでいる。もちろん道は整備されているし、浮浪者は見かけない。高級店も多く品ぞろえも豊富で、僕のお店でおけないような付与液なども販売している。


そんな争いとはほど遠い場所にあるような地区が怪しいだなんて。
どうしてだろう?


「そうだ。レーネが言うには、あそこまでの戦力、組織力を用意するには、明日を生きるのに必死なスラム街の住人では不可能だそうだ。所詮ヤツラは末端の人間でしかなく、上層部は裕福なやつが占めている、ということらしい」


実際に襲撃されたこともあり、僕は目の前の出来事が全てだと勘違いしていたことに気づいた。


言われてみれば説得力ある。騎士を退けるような戦力をスラム街の住人が集められるわけがない。しかもそれを組織立って運用するのであれば、不可能に近いだろう。夢物語だ。


「この情報は、みんな知らないの?」
「アイツが報告するのを忘れたらしいな」
「兄さん、また危ないことを」


報告を忘れたって、絶対にわざとだ!
僕たちがアミーユお嬢様を救出できる可能性を少しでも上げるためにやっているんだと思うけど、少しでも間違えれば救出が失敗してしまうほどの危険な行為だ。


さすがにやり過ぎじゃないかな。兄さん。


「まぁ、騎士団だってバカじゃない。中央地区にも他にも人を派遣している。ただ、確信がもてないから人数は少ないがな」


それだったら、まだ大丈夫なの……かな?
いや、危険なことをしているのには間違いない。とはいえ、今から報告したら兄さんが処罰されるだけだし、このまま進むしか方法は残されていない。


兄さんは臆病な僕のことを考えて、ギリギリまで言わなかったんだろう。


「それで、中央区に行ってどうするんですか?」
「レーネが言うには、御使いを召喚するには大量の付与液が必要だそうだ」


きてくださいと言って現れたら誰も苦労しないか。地球であれば怪しい儀式になるけど、ここだと魔術の登場だ。魔術陣を描けば可能なのかもしれない。残念ながら僕は具体的な方法は思いつかない。でも、ある程度は推測できる。


「複雑な魔術陣を使うのであれば付与液は必要ですね。しかも最低でも四種類は。複数の付与液を混ぜ合わせて混合液を作ることになるかと。配合率は分かりませんが、必要になりそうな付与液はいくつか心当たりがあります。御使いがどんな存在か分かりませんが、遠くから呼び寄せるのには変わりません。ということは、長距離転移の魔術陣に使用されるラウム液は使うはずです。それに合わせて空間を歪ませるエスパス液も使う可能性が高いですね。どちらもかなり貴重な液体です。なぜなら作るのに高度な技術と設備が必要になるからです。あれは油断するとすぐに変質して効果がなくなってしまうので、自宅で保管なんてできません。個人が趣味で持っている可能性は低いので、店経由で仕入れているはずです。だから、僕たちは――」
「相変わらず付与術になると話が長いな、で、結論は?」


兄さんに肩を叩かれて、周囲に人がいることを思い出した。どうやらまた、思考の海に沈んでいたみたい。


あぁ、何を考えていたんだっけ? ん。そうだ、付与液についてだ。


あれは素人やプロでも個人が気軽に扱える物ではない。作るにあたり、いくつかの作業工程は必ず専門の業者がかかわる必要がある。


「ラウム液、エスパス液もしくはその素材を購入した人を探せば、当たりを引けると思います」


だから付与液から犯人にたどり着く可能性は高い。
仮に数年前から計画されていたとしても、帳簿に残っていると思う。無かったとしても、貴重な素材を大量購入したとなれば、憶えている人もいるはずだ。


「付与液の店に聞き回るとしても、顧客の情報を素直に提供するとは思うか?」


相手がそれなりの地位にあるなら、金と権力にものをいわせて情報を漏らさないようにと脅しをかけている場合もから、兄さんが懸念するのも分かる。


でも、僕は付与師だ。襲撃犯の身元を調べる方法は分からないけど、貴重な付与液が誰かに買われたのかを調べるのであれば、やりかたはいくつか思い浮かぶ。例えば、知り合いのお店に聞いて見るとか。


「付与液を取り扱っているお店は少ないから、横のつながりが強いんだ。貴重な材料をかき集めたと思うし、多分、他の店に在庫を融通してもらえないか相談しているはず。ニコライじいちゃんなら何か知っていてもおかしくないと思う」
「あのおっさんか! レーネ、どう思う?」
「教団の人間から半年ほど前に、大量の付与液を購入したという話を聞いたことがあります。恐らくクリスく……様の言う通り、可能性はあると思います」
「ウソではないな?」


兄さんがにらみ付けると、レーネが苦しそうな表情を浮かべた。
あれは普通の苦しみ方ではない。犯罪奴隷用の魔術陣が刻み込まれた道具を使って、強制的に発言させようとしているのだろう。


チクリと僕の心が痛んだ。だけど、今は無視する。優先順位を間違えてはいけない。


「うっ、ウソではありません」
「クリスよくやった! これは、いけるぞ!」


兄さんから痛くなるほど背中を叩かれた。
咳き込みながらもなんとか返事をすると、僕らはニコライおじいちゃんのいる店に向かっていった。

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