付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~

わんた

第48話 兄さんへの感謝

アミーユお嬢様が連れ去らわれると、襲撃者は波が引く様に逃げ去っていった。もちろん僕らもただ見送るだけじゃない。背中を追って追撃はしたけど、全員を捕まえるのは不可能だった。


他にも泳がせてアジトを突き止めようとした人もいたけど、襲撃犯は下っ端だったみたいで、本拠地にはたどり着けなかった。尋問、拷問の類も当然のようにされている。だけど、出てきた情報は今回の襲撃の目的はアミーユお嬢様だったことと、ニーナが語っていた教団が裏にいると分かった程度だ。


手に入った情報は少ない。ただ時間だけが過ぎていき二日が経過していた。


◆◆◆


リア様の館から追い出された僕は、クリスショップの二階にある自宅で待機していた。襲撃事件直後から僕も独自で調べようとしていたけど、兄さんに「絶対に動くな」と言われてしまい、お店を開く気分にもならず部屋に引きこもっている。


何度も約束を反故にして動き出そうとしたか分からない。でも、騎士団からにらまれているし、犯人から情報を得る手段もない。裏世界の情報屋に伝手はないから、悔しいけどその道のプロに任せるしかなかった。


下からドアが開く音が聞こえて、足音が近づいてくる。兄さんだろう。


ガチャリと音を立てて部屋のドアが開いた。


「元気にしてたか?」
「お帰り。元気だよ。何もすることがないから暇で仕方がないけどね」


予想通り騎士の装備を身につけたに兄さんが立っていた。


「それで、何か新しい情報はあったの?」


僕の問いかけにニヤリと口元を上げた。
小さい頃から何か嬉しいことがあった時にする兄さんのクセだ。
僕は高鳴る心臓を押さえることができず、押し倒す勢いで詰め寄った。


「教えて!」
「分かっている。落ち着けって」
「出来るわけないよ! 待っている人の身にもなってみてよ!!」
「お、おう。それは悪かった」


兄さんは少しうざったそうに僕を押しのけると、部屋の中に入ってくる。
その後ろには見慣れた人――剣士レーネがいた。もちろん武装していないので、今はただの少女にしか見えない。


「え? 捕まったはずじゃ……」


兄さんを捕まえようと伸ばしかけた手が止まる。
彼女は騎士団に捕まっていたはずで、気軽に表を歩ける身分ではない。行き着く先は絞首台しかなかったはずだ。


それが、なぜ?
もしかして兄さんが連れ出した?!


「ちょっと、兄さん!!!」
「先に言っておくが、許可は下りているぞ」


心配するする必要はないと、力強い言葉だった。


そこでようやく僕は、無駄に時間を過ごすことに気づいた。質問をするより話を聞いた方が早い。色々と言いたいことはあるけど、我慢して二人を部屋に案内する。


小さなテーブルを囲うように兄さんと僕が座り、レーネは少し離れたところで後ろに立っていた。


「まずはレーネのことを説明するか。彼女は教団から裏切られれないようにと、独自で組織の情報を集めていた。そのおかげで、やつらが潜伏しているエリアが絞り込めている。活動の目的も分かった。もうすぐ大規模な救出作戦が始まるはずだ。もちろん、俺もそれに参加する」


レーネ! ありがとう!
お礼を言おうとして彼女の方に視線を向けたけど、表情はずっと暗いまま。僕は声を出すのをためらってしまった。


「その代わりといったらなんだが、彼女は絞首台行きは逃れて、家族ともども犯罪奴隷として生きることを許された」
「そっか」


その話を聞いて、弟子だった彼女の命が助かったと、僕は素直に喜べなかった。


公爵家に直接危害を加えた犯罪者は絞首台しかなかったから、扱いが良くなったともいえるけど、どちらにしろ過酷な人生が待っているのは間違いない。


犯罪奴隷であれば、騎士やハンターに肉の壁として使われるだけだ。人に殺されるか、モンスターに殺されるかの違いしかない。


そして、この場にルッツさんがいないということは、そういうことなんだろう。


「だが、そのままだとお前が想像している通り、使いつぶされて死ぬだけだ」
「だよね。僕に伝えたかったことは、それだけじゃないよね?」


兄さんが、ただそんなことを伝えるためだけに、この場に来ることはない。いつも頼りっぱなしで情けないかもしれないけど、何とかなる道を見つけてくれたと、僕は信じている。


「なわけ、ないだろ?」
「そうだよね」
「おう。細いながらも回避する道筋は作った。後はお前次第ってところだな。お人好しのお前のことだ、レーネを助けたいと思っているんだろ?」
「うん。アミーユお嬢様の次ぐらいにはね」


レーネのことも救いたいという気持ちはあるけど、さすがにアミーユお嬢様ほどではない。それに襲撃犯でもあるし、優先順位は当然低い。それを間違えてしまうほど僕はお人好しだとは思っていない。


「なら、何も問題ないな。前置きはこのぐらいにして本題に入るか。あのお嬢ちゃんは、御使いを召喚するための生贄として攫われたらしい。召喚の魔術が発動するまで最短で四日。それまでは確実に生きている。もちろん、危害を加えられることも絶対にない。御使いは純潔無垢な人を好むからな」


この世界の人は、神や御使いは存在すると信じていて、ヴィクタール公国は、 モンスターとの戦いを司るアレッド教が国教として普及している。


アレッド教には人をいけにえに捧げるような教義はない。ただひたすらにモンスターと戦え、抗えといった考えだ。


だからそのような考えをする宗教は、この国ては主流ではないし、いけにえを求めるような教義があれば邪教として認定される。


「そんなことのために……絶対に許せない」
「同感だ。それで残り二日で救出しなければいけないんだが、はっきり言うと騎士団だけでは人手が足りない。そこで民間のハンターにも依頼を出すことにした。当然、自由に動けるわけではなく、騎士団の指揮のもとで動く形になるがな」
「それって大丈夫なの? 面子丸つぶれでしょ」
「アミーユお嬢様が攫われた時点で丸つぶれだ。これ以上、傷が広がらないようにという考えなんだろう」


騎士が護衛していたアミーユお嬢様が白昼堂々と襲撃され、攫われたんだ。確かに、これ以上ないってぐらい権威に傷がついているだろう。それこそ上の首が飛ぶような……なるほど、試験組のトップは騎士団長だ。


彼の力が弱まって、スカウト組の力が強くなっているのであれば、効率を重視して民間にも仕事を出す柔軟性は出てくるか。


「でだ、そこで重要なのが報酬だ。アミーユお嬢様を助け出せば金銭の他に望むものが手に入るぞ。例えば、犯罪奴隷とか、な」


そこでレーネの話がつながるのか!
僕がアミーユお嬢様を救出すれば、レーネも死ぬ運命から助け出せる。犯罪奴隷から解放するのは無理だけど、肉の盾として使い潰すのは回避できる。彼女がしでかしたことを考えれば、それだけでも十分だ。


「お前も参加するよな?」
「もちろんだよ! でもハンターの資格は持ってないよ?」
「安心しろ」


兄さんは一枚のカードをテーブルの上に置いた。
光を反射する金属製のカードには、今日の日付と僕の名前が刻み込まれていた。


「代理でハンターのカードを作った」


簡単に言っているけど、普通は代理で作れない。
騎士という立場を使って無理矢理発行させたのだろう。
僕のために、僕が後悔しないようにと。きっとハンターに協力させる案も兄さんがリア様に提案したのだろう。


生まれ変わって、兄さんの弟になって、本当に良かった。
ありがとう。
次は僕が頑張る番だ。


「これで僕も参加できるよ」
「話は終わりだ。すぐに準備するんだ。時間は待ってくれないからな!」
「うん! 三十秒で支度するね!」


僕はコートといつも使っている道具セットを身につけると、兄さんの後を追って久しぶりに外に出た。

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