付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~
第46話 VSルッツ
「なんでここに、ルッツさんがっ! ヘルセで静かに暮らしていたはずですよね!?」
「偶然とは恐ろしいな」
僕の叫ぶような声を聞いても動揺せずに、ルッツさんは諦めにもいた声を発して、魂が漏れ出てしまいそうな、そんな深い溜め息を吐く。
「誤魔化さないでください!」
一人で勝手に納得しないで欲しい!!
僕は、両親と一緒に戦っていたルッツさんには親しみを感じていたのに……なのに、どうして、僕の前に立ち、アミーユお嬢様の誘拐犯の仲間になっているんだ!
一方的な感情であり、押しつけているとは分かっているけど、裏切られたと思わずにはいられない。答えてください!!
「お前が帰った後に誘われてな。その話にのった。ただ、それだけだ」
誰だそんなことをしたのは!
歯からギリッと音が出るほど、僕は強く噛みしめた。
「捕まれば死罪か奴隷になるんですよ? 成功したってルッツさんに何の意味があるんですか! 参加する理由がない!」
「本当にそう思うか?」
「えっ……」
重く冷たい一言だった。思わず一歩後ずさる。
反論する言葉が見つからない。言葉に詰まってしまい、先ほどまで高まっていた感情が霧散した。
「毎晩、無くなった腕が痛むんだ。やり返せ、恨みを晴らせ、お前にはその資格があると、体に言われているようだ」
そうか! ヘルセ奪還部隊の生き残りであるルッツさんには、復讐という明確な理由があった。金銭といった直接的な見返りがなくても、それが無謀な作戦だったとしても、参加する動機にはなる。復讐とは感情でおこなうものなのだから。
「公爵家が襲撃したって証拠があるんですか?」
でも、復讐するにはヘルセ奪還部隊を公爵家が襲撃したという事実が必要だ。ルッツさんは、僕が気づいていない何かを知っているのだろうか?
「証拠はない。だが状況的に公爵家が関わっているのは間違いない」
「それじゃ、間違っていたらどうするんですか!」
「どうもしない。この娘には運がなかったと諦めてもらう」
「そんな自分勝手な!」
「戦争だって身勝手な誰かが始めたんだ。世の中そんな物だろ?」
「ルッツさん……」
片腕と戦友を失い、守るべきものがなくなったルッツさん。世の中に絶望して最後に残ったのが復讐心か。戦場にも出ず安全な場所で過ごしていた僕に、説得できるほどの言葉は思い浮かばない。
説得を諦めて、チラリとアミーユお嬢様を観察する。
全身の力が抜けたように両腕と足がダラリと下がったままだ。恐らく、抱きかかえる瞬間に何らかの魔術を使って眠らせるなり、気絶させたのだろう。
こちらに向かってくるような声も聞こえてくる。そろそろ最終段をとるしかないみたいだ。
「説得は無理みたいですね。では、実力でアミーユお嬢様を返してもらいます」
指先に魔力を灯して魔術文字を書く。ルッツさんは一瞬だけアミーユお嬢様の方に視線を移動させると、手から離して残された片腕で魔術文字を書く。お互いに≪魔力弾≫を放ち、衝突すると派手な音と共に消滅した。
驚きはしない。相殺されるのは予想済みだ。≪魔力弾≫を放つのと同時に、僕は残されたもう一方の手で別の魔術文字を書いていた。片腕であるルッツさんも慌てて魔術を書き始めるけど間に合わない。
もう一度≪魔力弾≫を放つとルッツさんの胸に当たり、後方へと吹き飛んでいった。
相手はベテランの魔術師とはいえ、片腕の相手に負けるほど僕は弱くない。お嬢様を盾する選択を取らなかった時点で、ルッツさんの負けは決まっていた。
「アミーユお嬢様!」
ルッツさんの生死を確認しないで走り出す。けど、それは致命的な隙だった。周辺一帯が白い煙で覆われる。
「煙幕!?」
「真っ向勝負では勝てないからな」
どこからともなく、先ほど倒したはずのルッツさんの声が聞こえた。
慌てるな、落ち着け。煙であれば対抗の魔術を使えば良いと自分に言い聞かせながら、≪突風≫の魔術文字を書いて発動させる。
僕を中心として渦を巻くように風が吹き荒れる。煙が消えて視界が戻ると、離れた場所にアミーユお嬢様を抱えたルッツさんが背を見せて走っていた。
≪魔力弾≫をまともに受けて走れるほど、僕の魔術は軽くない。恐らく、事前に威力を軽減するような付与を服にしていたのだろう。
「クソッ! 逃がさない!」
慌てて走り出そうとすると、地面から光の紐が出現する。下を向くとすぐに正体が分かった。これは≪拘束≫の魔術!
慌てて立ち止まると体内の魔力を高めて抵抗をすると、僕の体に巻き付こうとした瞬間に光の紐は消える。
抵抗が成功して視線をルッツさんがいたところに戻すけど、すでに混戦状態の戦場に入ってしまったみたいで、姿は見えなかった。
それでも諦めるわけにはいかない。行き先の予想ぐらいはつくから、とりあえず走る! そんなことを考えていると、また地面から光の紐が出現した。
「クソッ! しつこい! 時間が無いのにっ!」
大きく後ろに飛び跳ねて≪拘束≫の魔術から逃れると、魔力の痕跡を頼りに右側を見る。女性と思われるフードをかぶった人が魔術を発動させようとしているところだった。
魔術文字を書く時間が惜しい。アーティファクトを持っていることを見せびらかしたくはなかったけど、仕方がないか。グローブに魔力を込めると、刻み込まれた魔術陣が浮かび上がり≪魔力弾≫が連続して放たれた。
絶え間なく降り注ぐ≪魔力弾≫を左右にステップして避けて、こちらに向かってくる。魔術師のくせに動きが良い。確実に捕らえたと思ったけど、甘かったか。
「なっ!」
十分近づいたと思ったのだろう。相手は走りながらマントに隠していた剣を抜いた。≪魔力弾≫を華麗に回避する身のこなしから、もしかしてと思ったけど、まさか剣も使えるというのか!?
魔力の出し惜しみを止めて≪魔力弾≫の数を増やす。それでも勢いを止めることは出来なかったけど、いくつかは体をかかすったようで女性のフードが取れた。
「君は!」
「クリスには悪いけど、邪魔させてもらうよ!」
髪をなびかせて少し勝ち気な目をした少女は、少し前に知り合い、一つの魔術を教えたレーナだった。
「なんで君がっ!」
「私に勝ったら教えてあげる!」
ルッツさんが現れて、アミーユお嬢様が誘拐されて、レーネと敵対する。予想外の出来事が続いて混乱した僕は、迂闊にも≪魔力弾≫を撃つのを止めてしまった。
その隙を逃すほど甘い彼女ではない。一足飛びで近づくと、僕に向かって剣を振り下ろしてきた。
「偶然とは恐ろしいな」
僕の叫ぶような声を聞いても動揺せずに、ルッツさんは諦めにもいた声を発して、魂が漏れ出てしまいそうな、そんな深い溜め息を吐く。
「誤魔化さないでください!」
一人で勝手に納得しないで欲しい!!
僕は、両親と一緒に戦っていたルッツさんには親しみを感じていたのに……なのに、どうして、僕の前に立ち、アミーユお嬢様の誘拐犯の仲間になっているんだ!
一方的な感情であり、押しつけているとは分かっているけど、裏切られたと思わずにはいられない。答えてください!!
「お前が帰った後に誘われてな。その話にのった。ただ、それだけだ」
誰だそんなことをしたのは!
歯からギリッと音が出るほど、僕は強く噛みしめた。
「捕まれば死罪か奴隷になるんですよ? 成功したってルッツさんに何の意味があるんですか! 参加する理由がない!」
「本当にそう思うか?」
「えっ……」
重く冷たい一言だった。思わず一歩後ずさる。
反論する言葉が見つからない。言葉に詰まってしまい、先ほどまで高まっていた感情が霧散した。
「毎晩、無くなった腕が痛むんだ。やり返せ、恨みを晴らせ、お前にはその資格があると、体に言われているようだ」
そうか! ヘルセ奪還部隊の生き残りであるルッツさんには、復讐という明確な理由があった。金銭といった直接的な見返りがなくても、それが無謀な作戦だったとしても、参加する動機にはなる。復讐とは感情でおこなうものなのだから。
「公爵家が襲撃したって証拠があるんですか?」
でも、復讐するにはヘルセ奪還部隊を公爵家が襲撃したという事実が必要だ。ルッツさんは、僕が気づいていない何かを知っているのだろうか?
「証拠はない。だが状況的に公爵家が関わっているのは間違いない」
「それじゃ、間違っていたらどうするんですか!」
「どうもしない。この娘には運がなかったと諦めてもらう」
「そんな自分勝手な!」
「戦争だって身勝手な誰かが始めたんだ。世の中そんな物だろ?」
「ルッツさん……」
片腕と戦友を失い、守るべきものがなくなったルッツさん。世の中に絶望して最後に残ったのが復讐心か。戦場にも出ず安全な場所で過ごしていた僕に、説得できるほどの言葉は思い浮かばない。
説得を諦めて、チラリとアミーユお嬢様を観察する。
全身の力が抜けたように両腕と足がダラリと下がったままだ。恐らく、抱きかかえる瞬間に何らかの魔術を使って眠らせるなり、気絶させたのだろう。
こちらに向かってくるような声も聞こえてくる。そろそろ最終段をとるしかないみたいだ。
「説得は無理みたいですね。では、実力でアミーユお嬢様を返してもらいます」
指先に魔力を灯して魔術文字を書く。ルッツさんは一瞬だけアミーユお嬢様の方に視線を移動させると、手から離して残された片腕で魔術文字を書く。お互いに≪魔力弾≫を放ち、衝突すると派手な音と共に消滅した。
驚きはしない。相殺されるのは予想済みだ。≪魔力弾≫を放つのと同時に、僕は残されたもう一方の手で別の魔術文字を書いていた。片腕であるルッツさんも慌てて魔術を書き始めるけど間に合わない。
もう一度≪魔力弾≫を放つとルッツさんの胸に当たり、後方へと吹き飛んでいった。
相手はベテランの魔術師とはいえ、片腕の相手に負けるほど僕は弱くない。お嬢様を盾する選択を取らなかった時点で、ルッツさんの負けは決まっていた。
「アミーユお嬢様!」
ルッツさんの生死を確認しないで走り出す。けど、それは致命的な隙だった。周辺一帯が白い煙で覆われる。
「煙幕!?」
「真っ向勝負では勝てないからな」
どこからともなく、先ほど倒したはずのルッツさんの声が聞こえた。
慌てるな、落ち着け。煙であれば対抗の魔術を使えば良いと自分に言い聞かせながら、≪突風≫の魔術文字を書いて発動させる。
僕を中心として渦を巻くように風が吹き荒れる。煙が消えて視界が戻ると、離れた場所にアミーユお嬢様を抱えたルッツさんが背を見せて走っていた。
≪魔力弾≫をまともに受けて走れるほど、僕の魔術は軽くない。恐らく、事前に威力を軽減するような付与を服にしていたのだろう。
「クソッ! 逃がさない!」
慌てて走り出そうとすると、地面から光の紐が出現する。下を向くとすぐに正体が分かった。これは≪拘束≫の魔術!
慌てて立ち止まると体内の魔力を高めて抵抗をすると、僕の体に巻き付こうとした瞬間に光の紐は消える。
抵抗が成功して視線をルッツさんがいたところに戻すけど、すでに混戦状態の戦場に入ってしまったみたいで、姿は見えなかった。
それでも諦めるわけにはいかない。行き先の予想ぐらいはつくから、とりあえず走る! そんなことを考えていると、また地面から光の紐が出現した。
「クソッ! しつこい! 時間が無いのにっ!」
大きく後ろに飛び跳ねて≪拘束≫の魔術から逃れると、魔力の痕跡を頼りに右側を見る。女性と思われるフードをかぶった人が魔術を発動させようとしているところだった。
魔術文字を書く時間が惜しい。アーティファクトを持っていることを見せびらかしたくはなかったけど、仕方がないか。グローブに魔力を込めると、刻み込まれた魔術陣が浮かび上がり≪魔力弾≫が連続して放たれた。
絶え間なく降り注ぐ≪魔力弾≫を左右にステップして避けて、こちらに向かってくる。魔術師のくせに動きが良い。確実に捕らえたと思ったけど、甘かったか。
「なっ!」
十分近づいたと思ったのだろう。相手は走りながらマントに隠していた剣を抜いた。≪魔力弾≫を華麗に回避する身のこなしから、もしかしてと思ったけど、まさか剣も使えるというのか!?
魔力の出し惜しみを止めて≪魔力弾≫の数を増やす。それでも勢いを止めることは出来なかったけど、いくつかは体をかかすったようで女性のフードが取れた。
「君は!」
「クリスには悪いけど、邪魔させてもらうよ!」
髪をなびかせて少し勝ち気な目をした少女は、少し前に知り合い、一つの魔術を教えたレーナだった。
「なんで君がっ!」
「私に勝ったら教えてあげる!」
ルッツさんが現れて、アミーユお嬢様が誘拐されて、レーネと敵対する。予想外の出来事が続いて混乱した僕は、迂闊にも≪魔力弾≫を撃つのを止めてしまった。
その隙を逃すほど甘い彼女ではない。一足飛びで近づくと、僕に向かって剣を振り下ろしてきた。
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