付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~

わんた

第22話 アミーユお嬢様のお茶会

翌日。目覚めてから自室で朝食を済ませると、ノック音が聞こえた。入出の許可を出すと、褐色銀髪メイドのメイさんが、優雅な動作で入室する。


「おはようございます。アミーユお嬢様が、今からお茶会を開催したいと言っております。参加されますか?」
「もちろんです」
「ありがとうございます。大変喜ばれるかと。ここで待っておりますので、準備をお願いします」


言い終わるとドアの横に立ち、僕のことをじっと見つめている。なんだか監視されているようだ。視線が気になりながらも、仕方なく魔術書をブックホルダーに取り付け、付与ペンをポーチにしまう。


すぐに家庭教師用のセットを身に着け終わると、メイさんに声をかけた。


「準備が終わりました」
「それでは、ご案内いたします」


メイさんを先頭に、赤い絨毯が敷かれた2階の通路を歩く。ガラス窓が一定の間隔であり、外を見れば中庭が眼下に広がっている。緑の美しい庭園だ。


でも昨日、オーガーと戦った場所だけは違った。最後に《火玉》を放った地面に窪みができている。


「今日から修復ですか?」
「はい。もうすぐ始まります」
「ゴーレムを使って?」
「……職業柄気になりますか?」


ゴーレムの素体の内部の至る所に魔術陣が刻まれ、ガソリン代わりの付与液がそこに流れ込むことによって動く。当然、魔術文字しか覚えていない魔術師には作ることは出来ない。両方とも付与師の領分だ。


ゴーレム一体で付与師のレベルが分かると言われるほど、技術の結晶だ。


もちろん、アミーユお嬢様に渡した宝石ような例外はあるけどね。


「リア様の中庭の修繕を依頼されるほどです。興味はありますね」
「すぐに来ると思うので、見学しますか?」
「アミーユお嬢様を待たせるわけにはいきません。残念ですが諦めます」


そういって僕は視線を中庭から、メイさんの背中に戻す。
永久付与液が作れる僕にとって、普通の付与液を使ったゴーレムなんて興味はなかった。


通路に置かれた絵画を眺めながら階段を上がり、三階の奥までたどり着くと、メイさんが立ち止まる。


「ここが、お茶会の会場です」


そう告げてからドアを開けると、甘い香りがここまで漂ってきた。


「……これは花の香り?」
「別名、花の庭園と言われております。きっと驚かれると思いますよ」


その声は少し自慢げだった。事務的に接する彼女にしては珍しい。と、そんな考えも、中に入ったら吹き飛んでしまった。


やや室温の高い庭園には色とりどりの花が咲いている。どの色もケンカすることなく、部屋全体が一つの作品のようだ。さらに、この時期では開花していない植物もあるので、裏側の仕組みもレベルは高いのだろう。この世界でこれほどの庭園を見たのは初めてだ。


「クリス先生ようこそ。驚いてくれました?」


箱庭のような庭園の中心に、淡い緑色のドレスを着たアミーユお嬢様が立っていた。周囲には白い丸テーブルとイスが二脚ある。参加者は二人だけということなのだろう。


「室内に、このような庭園が存在するとは思いませんでした」
「先生の工房を見せていただいた、お礼です」


スカートの端をつまんで、優雅にお辞儀をする。貴族としてではなく、生徒としてこの場にいる。アミーユお嬢様は、態度でそれを表していた。


「こんなにも早く、生徒から教えられるとは……教師失格ですかね?」
「先生の知識と経験と比べてしまえば、このような場所、何の価値もありません」


静かに微笑む姿からは、元気でちょっとお転婆な少女という印象はない。貴族の子女と表現するのが相応しい雰囲気をまとっている。正直、別人ではないかと疑ってしまうほどだ。


けど、その心配は不要な様だった。


「ぷっ……」


アミーユお嬢様が、急にお腹を押さえたかと思うと、


「あははは! もう限界!」


大声で笑いし、僕の知っている姿に戻った。


「私、もうダメ……」


ツボにハマったみたいで、目じりにたまった涙を拭いている。さっきまでの大人っぽい態度は、どこかに消え去ってしまった。


「もうちょっと頑張れなかったんですか」
「先生は、おしとやかな生徒がお好みですか?」


好みのタイプなんて考えたことがなかった。学ぶことに前向きであれば、個人の性格なんて関係ない。おしとやかだろうが、お転婆だろうが、僕が合わせるだけだ。


「 …… ありのまま、自然体が良いですね」
「いつも通りで良いって、ことですね!」


僕の曖昧な回答に対して、飛び跳ねるように喜んでいる。


「お嬢様。立ち話は失礼ですよ?」
「あ! 」


僕の後ろで待機していたメイさんが、喜んでいるお嬢様に注意をした。


庭園を案内するわけでもないのに、立ったままなのは、確かに失礼だ。そろそろ座るべきだろう。


「先生ごめんなさい!  座りましょ!」


僕がうなずくとメイさんがイスを引いてくれたので、目礼してから座る。続いてアミーユお嬢様のイスも引いていた。


「メイ。お茶とお菓子を持ってくるように」
「はい。お嬢様。すぐに持ってまいります」


メイさんが庭園の奥に入って数分。お茶とお菓子が入ったカートを押す、カルラさんと一緒に戻ってきた。


「本日はストレートティとプレーンクッキーをお持ちしました」


メイさんが僕の前に、カルラさんがアミーユお嬢様の前に、音を立てずにティーカップを置く。さらにテーブルの中央には、クッキーが山盛りに入った大皿が置かれた。


「甘いものは大丈夫ですか?」
「どちらかといえば、好物です。食べても良いですか?」
「もちろんです!」


主催者の許可も降りたので、クッキーを一つ口に入れる。焼きたてのふんわりとした食感と、ほどよい甘さ。バターの香りが心地よい。


「美味しい……」


思わず言葉が漏れてしまうほど上出来なクッキーだ。


「先生に満足していただけて嬉しいです!  後で料理長にお礼を言わなきゃ!」


そう言ったアミーユお嬢様は、目の前のクッキーを食べる手が止まらない。


このまましばらく可愛らしい眺めていたいけど、今日は先生として来ているのだ。客としての義務を果たすために授業をしよう。


とはいえ、外で魔術の訓練をするわけにはいかない。この場に教本もないので魔術の座学も無理だ。としたら、やることは一つしかない。


「お嬢様。昨日、お渡しした宝石は持っていますか?」
「はい!  ずっと身につけています!」


そう言うと、手に持っていたポーチから青い宝石を取り出した。


「それでは、この宝石を使って授業をしたいと思います。人払いできませんか?」
「二人の秘密ですからね……」


小声で言いながら、いたずらっ子のような笑みを浮かべた。


「メイ、カルラ。これから先生の授業を受けるので、二人は外に出て」
「お嬢様!」


メイさんが珍しく慌てた声を出す。教師と言えども、僕は男だ。密室で二人っきりにするのは色々と問題があるのだろう。その理屈は十分理解できる。


「出ていってもらえないのであれば、授業は中止です。また今度にしましょう」


それに今すぐ教えなければいけないことではない。ダメなら次の機会にしよう。僕はそんな気楽な気持ちでいた。でもアミーユお嬢様は違ったようだ。


「お母様から許可はもらっています。あなたの指示を聞くつもりはありません。大人しく下がりなさい」


今まで聞いいたことの無い、冷たい声だった。……あれは完全に怒っている。


「…………分かりました。ドアの前に待機していますので、何かあればすぐに駆けつけます」
「その心配、先生に対して失礼です」
「ですが!」
「僕は構いません。そこが妥協点でしょう」


このままだとマズイと思い、二人の会話を遮る。僕が作ったことさえバレなければ良いんだ。最悪の場合、メイドの二人に見られても問題ない。


「ありがとうございます」
「お嬢様、頑張って」


納得していないという雰囲気を出すメイさんと、なぜか応援するカルラさん。対照的な二人が、お茶会の会場から退出した。


「では、特別授業を開始しましょうか」


ミーユお嬢様の方に振り向きながら、懐から黒い宝石を一つ取り出した。

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