付与師とアーティファクト騒動~実力を発揮したら、お嬢様の家庭教師になりました~
第18話 突然の来訪
魔術書や永久付与に必要な道具の回収が終わり、僕たちは工房を後にした。
ダイニングとお店を繋ぐドアノブに手をかけると、兄さんの話し声が聞こえる。
「で、クリスのやつは”消し炭にしてやる!”と言って、洞窟の中でどでかい炎の魔術を使った! とっさに、エミリーが結界の魔術を使っていなかったら、俺たちもゴブリンと一緒に燃やされていたところだったんだ!」
「意外。計画的に行動する人物だと思っていた」
「アイツは、キレると後先考えずに行動するするクセがあるんだ。流石に、今はもうそんなーー」
何を話しているかと思えば、僕の失敗談か! 楽しそうに話さないで欲しい!。
「兄さん!」
ドアを思いっきり開けて走り、店のカウンターを飛び越える。僕は勢いを殺さず、そのまま兄さんに飛びかかった。
「よっと、元気だな」
でも、 胸ぐらをつかもうとしたけど、軽くあしらわれてしまった。
「ちょうど話し終わったところだ。良いところで、戻ってきたな」
良いところじゃない! なんで、職場の同僚に恥ずかしい話を披露しているんだ!
「興味深い話でした。クリス様は、色々なモンスターと戦われた経験があるのですね」
銀髪の髪を揺らしながら、メイさんが僕の方を振り向いた。
どうやら、僕の実戦経験について話していたようだ。たしかに、僕がどのような経験をしたのか。それを伝えるのは大切だ。でも、だからといって、失敗談まで伝えなくていいのに……。
「アミーユお嬢様。上機嫌。いいことあった?」
眠そうな目をしているカルラさんが、アミーユお嬢様の変化に気づいたようだ。
「ええ。クリス先生の工房は、非常に興味深いものばかりでした。私が目指すべき道の一つを、示していただけたように思えます」
そんな意図はなかったけど、良い刺激となったのであれば、見せた甲斐があるというものだ。
「もう終わったんだろ? クリスが元気でやっていることがわかったし、俺はそろそろ帰る」
「うん。またね」
心配性な兄さんは、僕がちゃんと家庭教師をやれているか心配だったみたいだ。
僕は外まで兄さんを見送り、店に戻る。
「仲が良いんですね」
先ほどのやり取りを見ていたアミーユお嬢様が、つぶやく。
「私も兄様たちと、あんな風に仲良くなりたいのですが……」
リア公爵夫人の子供は、アミーユお嬢様だけだ。「お兄様と」は、腹違いの兄弟のことだ。第一夫人、第二夫人にはそれぞれ、一人子供がいる。どちらもアミーユお嬢様より年上だ。
そこまでは知っていたけど、兄弟仲は良くないのか。貴族らしいといえば、らしい気もするけど……。まぁ、僕が口を出せる話ではないか。
「用事が終わったのであれば、帰りましょう。ずっと立ちっぱなしだと、騎士たちも疲れてしまいます」
「僕の用事は終わりました。もう用はないので、帰りましょう」
そう言うと、来たとき同じく、ぞろぞろと騎士を引き連れて馬車に乗り、屋敷へと戻っていた。
馬車に乗っているので、街中で暴漢に襲われるイベントは発生しない。特にトラブルもなく、館まで戻る。
今日も一日平和だなと思っていたけど、どうやら、平和とは唐突に終わってしまうものらしい。僕たちが馬車から降りると、屋敷内が騒然としていた。
「何かあったのでしょうか?」
「様子を見てきます。お嬢様の事は、カルラに任せます」
メイさんが近くにいる、メイドを捕まえて事情を聴いている。会話はすぐに終わったようだ。メイさんが、慌ててこちらに戻ってきた。
「お嬢様。どうやら、コルネリア様とご子息様が、こちらに来ているそうです」
コルネリア様は、ヴィクタール様の第一夫人だ。リア公爵夫人は第三なので、立場的には上となる。ヴィクタール様がどちらの奥様を、より愛しているかによって、立場が逆転する場合もあるけど……この雰囲気では、逆転はしていないだろう。
「!!!!」
アミーユお嬢様が、手を口に当てて驚いている。これほど驚くということは、来訪の予定はなかったのか。
「部屋にこもって、やり過ごす?」
カミラさんが、なんとも大胆な行動を提案した。
「それは無理ですね。来訪の目的は、お嬢様に会うことらしいので……」
「私にですか? なぜ?」
「クリス様も同席してほしいそうです」
メイさんが、申し訳なさそうに僕の方を見ている。
「僕ですか!?」
唐突な話に、僕の素が出てしまった。
アミーユお嬢様と会いたいのは分かる。なぜそこに、僕も追加されるの? 何かやってしまったか? もしかして永久付与の件か? いや、それならアミーユお嬢様に会う必要はない。では、どうしてだ?
「クリス様?」
「……コルネリア様のお誘いとあれば、断るわけにはいきませんね。着替えたほうが良いでしょうか?」
いくら考えを巡らそうが、結局、この場で断ることは出来ない。ぶっつけ本番で、頑張るしかないだろう。
「かなり待たせてしまっているようなので、普段着のままで良いそうです」
どのぐらい待っているんだ? なんか、イライラしてそうだな……。
「分かりました。アミーユお嬢様。すぐに行きましょう」
「そうですね」
アミーユお嬢様を先頭に、屋敷の中に入り、客間まで移動する。ドアをノックし、部屋に入ると、リア公爵夫人がいた。
テーブルを挟んだ向かい側に、金髪でゆるい縦巻きロールの女性と、ぽっちゃりした子供がソファーに腰かけている。
縦巻きロールの女性がコルネリア様だろう。気品があり、自信に満ち溢れた表情をしている。すると、ぽっちゃりが息子かな? パーツはコルネリア様に似ているのだが、脂肪とイヤらしい目つきが、全てを台無しにしている。
なんとなく、無能に見えてしまうのは、偏見だろうか?
「コルネリア様。お久しぶりでございます」
僕が考えこんでいる間に、アミーユお嬢様が、流れるような動作で礼をする。
「後ろにいるのが、家庭教師のクリス先生です」
紹介されたので、僕も慌てて礼をする。家庭教師をする合間に、礼儀作法を調べていたので、なとか形にはなっているはずだ。その動作が、洗練されているかどうかは別としてね。
「その男が、クリスですか」
コルネリア様が、僕の事をじっくりと観察している。アミーユお嬢様ではなく、僕が本命?
「リアの娘にしては、良い教師のようですね」
「母様!」
僕の事を評価してくれているのか、微妙に分かりにくい表現だな……。
けど、息子が顔を真っ赤にして抗議しているということは、少なくとも評価が低いわけではないかな?
「そこで立ってないで、座りなさい」
館の主人のように振舞うコルネリア様。このやり取りだけでも、力関係が分かるというものだ。彼女に逆らえる人間は、この場に居ない。素直に従うしかないだろう。
アミーユお嬢様と僕は、軽く一礼してから、リア公爵夫人の座るソファーへと腰かけた。
ダイニングとお店を繋ぐドアノブに手をかけると、兄さんの話し声が聞こえる。
「で、クリスのやつは”消し炭にしてやる!”と言って、洞窟の中でどでかい炎の魔術を使った! とっさに、エミリーが結界の魔術を使っていなかったら、俺たちもゴブリンと一緒に燃やされていたところだったんだ!」
「意外。計画的に行動する人物だと思っていた」
「アイツは、キレると後先考えずに行動するするクセがあるんだ。流石に、今はもうそんなーー」
何を話しているかと思えば、僕の失敗談か! 楽しそうに話さないで欲しい!。
「兄さん!」
ドアを思いっきり開けて走り、店のカウンターを飛び越える。僕は勢いを殺さず、そのまま兄さんに飛びかかった。
「よっと、元気だな」
でも、 胸ぐらをつかもうとしたけど、軽くあしらわれてしまった。
「ちょうど話し終わったところだ。良いところで、戻ってきたな」
良いところじゃない! なんで、職場の同僚に恥ずかしい話を披露しているんだ!
「興味深い話でした。クリス様は、色々なモンスターと戦われた経験があるのですね」
銀髪の髪を揺らしながら、メイさんが僕の方を振り向いた。
どうやら、僕の実戦経験について話していたようだ。たしかに、僕がどのような経験をしたのか。それを伝えるのは大切だ。でも、だからといって、失敗談まで伝えなくていいのに……。
「アミーユお嬢様。上機嫌。いいことあった?」
眠そうな目をしているカルラさんが、アミーユお嬢様の変化に気づいたようだ。
「ええ。クリス先生の工房は、非常に興味深いものばかりでした。私が目指すべき道の一つを、示していただけたように思えます」
そんな意図はなかったけど、良い刺激となったのであれば、見せた甲斐があるというものだ。
「もう終わったんだろ? クリスが元気でやっていることがわかったし、俺はそろそろ帰る」
「うん。またね」
心配性な兄さんは、僕がちゃんと家庭教師をやれているか心配だったみたいだ。
僕は外まで兄さんを見送り、店に戻る。
「仲が良いんですね」
先ほどのやり取りを見ていたアミーユお嬢様が、つぶやく。
「私も兄様たちと、あんな風に仲良くなりたいのですが……」
リア公爵夫人の子供は、アミーユお嬢様だけだ。「お兄様と」は、腹違いの兄弟のことだ。第一夫人、第二夫人にはそれぞれ、一人子供がいる。どちらもアミーユお嬢様より年上だ。
そこまでは知っていたけど、兄弟仲は良くないのか。貴族らしいといえば、らしい気もするけど……。まぁ、僕が口を出せる話ではないか。
「用事が終わったのであれば、帰りましょう。ずっと立ちっぱなしだと、騎士たちも疲れてしまいます」
「僕の用事は終わりました。もう用はないので、帰りましょう」
そう言うと、来たとき同じく、ぞろぞろと騎士を引き連れて馬車に乗り、屋敷へと戻っていた。
馬車に乗っているので、街中で暴漢に襲われるイベントは発生しない。特にトラブルもなく、館まで戻る。
今日も一日平和だなと思っていたけど、どうやら、平和とは唐突に終わってしまうものらしい。僕たちが馬車から降りると、屋敷内が騒然としていた。
「何かあったのでしょうか?」
「様子を見てきます。お嬢様の事は、カルラに任せます」
メイさんが近くにいる、メイドを捕まえて事情を聴いている。会話はすぐに終わったようだ。メイさんが、慌ててこちらに戻ってきた。
「お嬢様。どうやら、コルネリア様とご子息様が、こちらに来ているそうです」
コルネリア様は、ヴィクタール様の第一夫人だ。リア公爵夫人は第三なので、立場的には上となる。ヴィクタール様がどちらの奥様を、より愛しているかによって、立場が逆転する場合もあるけど……この雰囲気では、逆転はしていないだろう。
「!!!!」
アミーユお嬢様が、手を口に当てて驚いている。これほど驚くということは、来訪の予定はなかったのか。
「部屋にこもって、やり過ごす?」
カミラさんが、なんとも大胆な行動を提案した。
「それは無理ですね。来訪の目的は、お嬢様に会うことらしいので……」
「私にですか? なぜ?」
「クリス様も同席してほしいそうです」
メイさんが、申し訳なさそうに僕の方を見ている。
「僕ですか!?」
唐突な話に、僕の素が出てしまった。
アミーユお嬢様と会いたいのは分かる。なぜそこに、僕も追加されるの? 何かやってしまったか? もしかして永久付与の件か? いや、それならアミーユお嬢様に会う必要はない。では、どうしてだ?
「クリス様?」
「……コルネリア様のお誘いとあれば、断るわけにはいきませんね。着替えたほうが良いでしょうか?」
いくら考えを巡らそうが、結局、この場で断ることは出来ない。ぶっつけ本番で、頑張るしかないだろう。
「かなり待たせてしまっているようなので、普段着のままで良いそうです」
どのぐらい待っているんだ? なんか、イライラしてそうだな……。
「分かりました。アミーユお嬢様。すぐに行きましょう」
「そうですね」
アミーユお嬢様を先頭に、屋敷の中に入り、客間まで移動する。ドアをノックし、部屋に入ると、リア公爵夫人がいた。
テーブルを挟んだ向かい側に、金髪でゆるい縦巻きロールの女性と、ぽっちゃりした子供がソファーに腰かけている。
縦巻きロールの女性がコルネリア様だろう。気品があり、自信に満ち溢れた表情をしている。すると、ぽっちゃりが息子かな? パーツはコルネリア様に似ているのだが、脂肪とイヤらしい目つきが、全てを台無しにしている。
なんとなく、無能に見えてしまうのは、偏見だろうか?
「コルネリア様。お久しぶりでございます」
僕が考えこんでいる間に、アミーユお嬢様が、流れるような動作で礼をする。
「後ろにいるのが、家庭教師のクリス先生です」
紹介されたので、僕も慌てて礼をする。家庭教師をする合間に、礼儀作法を調べていたので、なとか形にはなっているはずだ。その動作が、洗練されているかどうかは別としてね。
「その男が、クリスですか」
コルネリア様が、僕の事をじっくりと観察している。アミーユお嬢様ではなく、僕が本命?
「リアの娘にしては、良い教師のようですね」
「母様!」
僕の事を評価してくれているのか、微妙に分かりにくい表現だな……。
けど、息子が顔を真っ赤にして抗議しているということは、少なくとも評価が低いわけではないかな?
「そこで立ってないで、座りなさい」
館の主人のように振舞うコルネリア様。このやり取りだけでも、力関係が分かるというものだ。彼女に逆らえる人間は、この場に居ない。素直に従うしかないだろう。
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