ドラゴンさんは怠惰に暮らしたい
急報
(俺が狙いなのであれば、この国から出て行けば丸く収まるか?)
(シロ様、もう手遅れでございます)
(なに!? どういうことだ?)
(先日、バスクール王国からクレアとフェリックスの婚約は破棄を提案。グルーン王国が認めました)
(はぁぁぁぁッ!?)
まてまて! 俺が現実世界にいた間に何が起こった!?
話の流れから考えると、大国に屈して婚約したんだよな? それがどうして、破棄するまでに至るんだよ。
クレアが今回の婚約について納得いっていないことは分かったいたけど、そこは姫の責務として涙を流しながらも結婚するパターンじゃないのか!?
いや、それは俺としては避けたい展開だから、結婚しなくて良いんだけどなッ。
婚約破棄させようと考えていたから、この流れは悪くはないが、何とも心にモヤモヤしたものが残る。俺がいなければ仕事は回らないと思っていたら、いてもいなくても問題なかった時に似ている。
けど、悪いことではないか。
知らない間に問題が解決していたのであれば、また元の生活に戻れる。むしろよくやったと褒めるべきだろう。
(あのいけ好かないフェリックスが、この国に来ないのであれば問題ない。これでまたノンビリと暮らせる。ホワイトよ、よく働いた)
俺が褒めたので、涙を流しながら倒れ、天を見上げながら喜ぶと思ったが、そうはならなかった。
想像とは逆に気まずそうな表情を浮かべながら、念話を続ける。
(シロ様の期待を裏切ってしまい申し訳ございませんが、ノンビリとした生活はもうしばらく先になると思われます)
(……なぜだ?)
(グルーン王国がバスクール王国を侵略すると宣言したからです)
(…………マジ?)
(はい。すでに食料などの値段が高騰しているようです)
戦争が始まる直前は物価が高騰すると聞いたことがあるな。
供給能力が減少または不安定になると思われ、国内の総需要に見合うだけの量が手に入らないと不安になり、価格の上昇が発生する……そんな感じだったと思う。
日本のオイルショックも他国の戦争が原因なのだから、その影響力の大きさは国内全土に及ぶだろう。
はぁ、この国の王族はどうなってるんだ。円満に解消できなかったのかよ!
あれか、大国のプライドを傷つけて、ちっちゃな自尊心を満たしたかったのか!?
グルーン王国も婚約破棄された程度で戦争なんて仕掛けるなよ。こっちにはお前らが手に入れたかったドラゴン――シロの俺がいるのに無謀だと思わないのかよ。
それともまさか、人間がドラゴンに勝てるとでも思い上がっているのか?
いや、さすがに勝ち目のない戦いに挑むほど追い詰められてはいないだろう。俺を抑え込める自信があるのかもしれない。
大国であれば秘密兵器の一つや二つあっても不思議ではない、か。ドラゴンと渡り合える戦力がある、もしくは、そう思えてしまうほど強力な戦力があると考えて動くべきだろう。
(戦争はいつ始まる?)
気になるのは開戦時期だ。物資の買い占めが始まったばかりとであれば、時間的な猶予はまだあるだろう。
(巷では一カ月後、海から攻めてくると噂されています)
意外に短い。他国に救援を求める時間はないな。この国を攻めるとしたら海からになるので、戦力に不安はなかったはずだが、大国に勝てるほどではないだろう。
とはいえ、勝ち目がない戦いをするとも思えない。バスクール王国にも、秘策の一つや二つはあると思いたい……あるよな?
(この国は、どう動く?)
(情報が徹底的に規制されており、詳細はつかめておりません)
民衆からの情報収集はこれが限界か。都合良く、事情に詳しい一般人を見つけられるわけでもないだろう。ここより先、詳しく知ろうと思えば貴族もしくは王族から聞き出さねばならない。
優雅にお茶を飲んでいるクレアに視線を移す。
婚約破棄によって戦争が勃発しようとしているのに、そんなことを感じさせないほど落ち着いている。カップを口から離すと、俺と目が合った。
ん? なんだ?
優雅に立ち上がり一礼をしてから、こちらに近づいてくる。
ホワイトの隣に着くと、膝をついて再び頭を下げた。
「ホワイト様とのお話が終わりましたら、少しだけ私にシロ様のお時間をいただけないでしょうか」
彼女の行動には疑問が残る。
まずは俺とホワイトが会話をしていると気づいている点だ。念話のことは伝えていないし、そもそもシロが人間の会話が理解できることは誰にも教えていない。
(なぜ、会話ができると知っている?)
(私が念話のことを教えたからですね)
(おまッ!!)
犯人はホワイトしかないと思っていたが、予想通りすぎて言葉がでない。
勝手に動きやがって、後で説教コースだな。
とはいえ今はそれどこではない。知られてしまったのであれば仕方がないので、むかつくが、今はホワイトという通訳を使うしかないか。若干、いやかなり不安ではあるが、意思疎通は可能だろう。
それに戦争の準備やホワイトの存在を許していることなど、聞きたいことは山ほどある。
(クレアに話を聞くと伝えてくれ)
(はッ!)
俺の指示を聞いたホワイトがクレアの前にたち、腕を組む。
「人間の女よ、よく聞け! 偉大なるシロ様がお前の話を聞いてくれるとのことだッ! 身と心を捧げる感謝とともに簡潔に願いを述べよ!」
おい、俺はそんな尊大な態度で聞こうと思ってないぞ!
こいつを通訳に指名したのは失敗かもしれない。
「バスクール王国とグルーン王国との開戦が近づいております。戦力差は大きく、このままでは我が国は滅んでしまいます。シロ様に協力していただきたいとは言いません、ですが、どうかホワイト様の力をお借りできないでしょうか」
いきなり俺の力を借りたいと言わなかったのは評価したい。この国は好きだし、本当に滅亡の危機に瀕しているのであれば力を貸すとは思うが、人を殺す覚悟なんてないから率先して戦いたいとは思わない。
その点、ホワイトを貸すだけなら気が楽だし、人を殺すことには忌避感はないだろう。お仕置きにもなる。
俺の命令であれば喜んで引き受けるだろう。ありなしで言えば、ありだ。
(この依頼を受けようと思うが、良いか?)
(シロ様のご命令であれば、喜んでッ!)
元のノンビリとした生活を取り戻したい。そのために創り出したのだから迷うことなかった。それに戦況についても最新情報が手に入りそうだし、何も問題はないだろう。
たった一人追加したぐらいで戦局が大きく変わるのか? という疑問は残るが、そこはクレアたちに任せることにする。
「お前の願いを聞いてくれるそうだ。偉大なるシロ様が創造したこの私が、手下と共に協力してやろう。ありがたく思え!」
相変わらずの態度だが、クレアは気にしないどころか感激していた。
顔を上げて涙をためながら俺を見ている。
これから国を背負って戦争を始めるのだから、その重圧は計り知れない。特にクレアは元婚約者の立場だ。責任を感じたとしても不思議ではない。
優しい言葉の一つでもかけてあげたいところだが、ホワイト経由では無理だな。人の言葉が発せない、ドラゴンの声帯が恨めしい。
だから、このぐらいは言っておこう。
(クレアをはじめとした、王族の命令はちゃんと聞いて、戦争に役立て。努力しましたではダメだ。俺は結果を求める。必ずバスクール王国を守れ。任せたぞ)
(そのご命令、謹んでお受けいたしますッ!)
期待されていることに感動して身体を震わせているコイツが、どこまで役に立つか分からないが、いないよりかはマシだろう。最悪、戦況を俺に伝えるだけでも大丈夫だ。
(毎日、念話で報告しろよー!)
中庭を全力で走っていくホワイトと後を追うクレアを見送りながら、ようやく一息つけるようになった。
(シロ様、もう手遅れでございます)
(なに!? どういうことだ?)
(先日、バスクール王国からクレアとフェリックスの婚約は破棄を提案。グルーン王国が認めました)
(はぁぁぁぁッ!?)
まてまて! 俺が現実世界にいた間に何が起こった!?
話の流れから考えると、大国に屈して婚約したんだよな? それがどうして、破棄するまでに至るんだよ。
クレアが今回の婚約について納得いっていないことは分かったいたけど、そこは姫の責務として涙を流しながらも結婚するパターンじゃないのか!?
いや、それは俺としては避けたい展開だから、結婚しなくて良いんだけどなッ。
婚約破棄させようと考えていたから、この流れは悪くはないが、何とも心にモヤモヤしたものが残る。俺がいなければ仕事は回らないと思っていたら、いてもいなくても問題なかった時に似ている。
けど、悪いことではないか。
知らない間に問題が解決していたのであれば、また元の生活に戻れる。むしろよくやったと褒めるべきだろう。
(あのいけ好かないフェリックスが、この国に来ないのであれば問題ない。これでまたノンビリと暮らせる。ホワイトよ、よく働いた)
俺が褒めたので、涙を流しながら倒れ、天を見上げながら喜ぶと思ったが、そうはならなかった。
想像とは逆に気まずそうな表情を浮かべながら、念話を続ける。
(シロ様の期待を裏切ってしまい申し訳ございませんが、ノンビリとした生活はもうしばらく先になると思われます)
(……なぜだ?)
(グルーン王国がバスクール王国を侵略すると宣言したからです)
(…………マジ?)
(はい。すでに食料などの値段が高騰しているようです)
戦争が始まる直前は物価が高騰すると聞いたことがあるな。
供給能力が減少または不安定になると思われ、国内の総需要に見合うだけの量が手に入らないと不安になり、価格の上昇が発生する……そんな感じだったと思う。
日本のオイルショックも他国の戦争が原因なのだから、その影響力の大きさは国内全土に及ぶだろう。
はぁ、この国の王族はどうなってるんだ。円満に解消できなかったのかよ!
あれか、大国のプライドを傷つけて、ちっちゃな自尊心を満たしたかったのか!?
グルーン王国も婚約破棄された程度で戦争なんて仕掛けるなよ。こっちにはお前らが手に入れたかったドラゴン――シロの俺がいるのに無謀だと思わないのかよ。
それともまさか、人間がドラゴンに勝てるとでも思い上がっているのか?
いや、さすがに勝ち目のない戦いに挑むほど追い詰められてはいないだろう。俺を抑え込める自信があるのかもしれない。
大国であれば秘密兵器の一つや二つあっても不思議ではない、か。ドラゴンと渡り合える戦力がある、もしくは、そう思えてしまうほど強力な戦力があると考えて動くべきだろう。
(戦争はいつ始まる?)
気になるのは開戦時期だ。物資の買い占めが始まったばかりとであれば、時間的な猶予はまだあるだろう。
(巷では一カ月後、海から攻めてくると噂されています)
意外に短い。他国に救援を求める時間はないな。この国を攻めるとしたら海からになるので、戦力に不安はなかったはずだが、大国に勝てるほどではないだろう。
とはいえ、勝ち目がない戦いをするとも思えない。バスクール王国にも、秘策の一つや二つはあると思いたい……あるよな?
(この国は、どう動く?)
(情報が徹底的に規制されており、詳細はつかめておりません)
民衆からの情報収集はこれが限界か。都合良く、事情に詳しい一般人を見つけられるわけでもないだろう。ここより先、詳しく知ろうと思えば貴族もしくは王族から聞き出さねばならない。
優雅にお茶を飲んでいるクレアに視線を移す。
婚約破棄によって戦争が勃発しようとしているのに、そんなことを感じさせないほど落ち着いている。カップを口から離すと、俺と目が合った。
ん? なんだ?
優雅に立ち上がり一礼をしてから、こちらに近づいてくる。
ホワイトの隣に着くと、膝をついて再び頭を下げた。
「ホワイト様とのお話が終わりましたら、少しだけ私にシロ様のお時間をいただけないでしょうか」
彼女の行動には疑問が残る。
まずは俺とホワイトが会話をしていると気づいている点だ。念話のことは伝えていないし、そもそもシロが人間の会話が理解できることは誰にも教えていない。
(なぜ、会話ができると知っている?)
(私が念話のことを教えたからですね)
(おまッ!!)
犯人はホワイトしかないと思っていたが、予想通りすぎて言葉がでない。
勝手に動きやがって、後で説教コースだな。
とはいえ今はそれどこではない。知られてしまったのであれば仕方がないので、むかつくが、今はホワイトという通訳を使うしかないか。若干、いやかなり不安ではあるが、意思疎通は可能だろう。
それに戦争の準備やホワイトの存在を許していることなど、聞きたいことは山ほどある。
(クレアに話を聞くと伝えてくれ)
(はッ!)
俺の指示を聞いたホワイトがクレアの前にたち、腕を組む。
「人間の女よ、よく聞け! 偉大なるシロ様がお前の話を聞いてくれるとのことだッ! 身と心を捧げる感謝とともに簡潔に願いを述べよ!」
おい、俺はそんな尊大な態度で聞こうと思ってないぞ!
こいつを通訳に指名したのは失敗かもしれない。
「バスクール王国とグルーン王国との開戦が近づいております。戦力差は大きく、このままでは我が国は滅んでしまいます。シロ様に協力していただきたいとは言いません、ですが、どうかホワイト様の力をお借りできないでしょうか」
いきなり俺の力を借りたいと言わなかったのは評価したい。この国は好きだし、本当に滅亡の危機に瀕しているのであれば力を貸すとは思うが、人を殺す覚悟なんてないから率先して戦いたいとは思わない。
その点、ホワイトを貸すだけなら気が楽だし、人を殺すことには忌避感はないだろう。お仕置きにもなる。
俺の命令であれば喜んで引き受けるだろう。ありなしで言えば、ありだ。
(この依頼を受けようと思うが、良いか?)
(シロ様のご命令であれば、喜んでッ!)
元のノンビリとした生活を取り戻したい。そのために創り出したのだから迷うことなかった。それに戦況についても最新情報が手に入りそうだし、何も問題はないだろう。
たった一人追加したぐらいで戦局が大きく変わるのか? という疑問は残るが、そこはクレアたちに任せることにする。
「お前の願いを聞いてくれるそうだ。偉大なるシロ様が創造したこの私が、手下と共に協力してやろう。ありがたく思え!」
相変わらずの態度だが、クレアは気にしないどころか感激していた。
顔を上げて涙をためながら俺を見ている。
これから国を背負って戦争を始めるのだから、その重圧は計り知れない。特にクレアは元婚約者の立場だ。責任を感じたとしても不思議ではない。
優しい言葉の一つでもかけてあげたいところだが、ホワイト経由では無理だな。人の言葉が発せない、ドラゴンの声帯が恨めしい。
だから、このぐらいは言っておこう。
(クレアをはじめとした、王族の命令はちゃんと聞いて、戦争に役立て。努力しましたではダメだ。俺は結果を求める。必ずバスクール王国を守れ。任せたぞ)
(そのご命令、謹んでお受けいたしますッ!)
期待されていることに感動して身体を震わせているコイツが、どこまで役に立つか分からないが、いないよりかはマシだろう。最悪、戦況を俺に伝えるだけでも大丈夫だ。
(毎日、念話で報告しろよー!)
中庭を全力で走っていくホワイトと後を追うクレアを見送りながら、ようやく一息つけるようになった。
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