ドラゴンさんは怠惰に暮らしたい
再び夢の国へ
タクシーに乗せた風音を見送ってから、店内に戻っていた。
一人になると急に寂しさがこみ上げてくる。先ほどかけられた温かい言葉のせいだろう。少し感傷的になっている自覚はある。
夜はネガティブな思考に陥りやすい。
すべては明日の自分に任せて、もう寝よう。
靴を脱いで座敷に上がる。座布団を二つに折ってから頭を乗せて枕にすると、天井を見上げながら考えるのをやめた。
目を閉じると意識がだんだんと薄れていき、体から抜けていく。上空から見下ろしているような感覚だ。
ついに、きてしまった。休暇は終わり。これから夢の国に行く日々が続く。
遠くない将来、人生が終わってしまうかもしれないな。
少し前までなら、死ぬならそれで良いという考えだった。
だが今は、嫌だなと、そう思いながらも抗うすべはなく、意識は旅立ってしまった。
◆◆◆
目を覚ましたら、いつもの中庭だ。
休んでいたのか、頭は地面の上だ。視界先には芝生が広がっており、クレアがカップを片手で持ち、お茶を飲んでいる。テーブルにはクッキーのようお菓子があった。
クレアの婚約やホワイトの誕生などなかったかのようだ。俺が理想だと感じていた生活が戻ってきたような、そんな光景。もちろん、それは錯覚なんだがな。
「――――様!」
先ほどから、俺を呼ぶ声が聞こえる。
現実逃避はここまでか。いい加減、ウザくなってきた。
目だけを動かし声の主を探す。
膝をつけ、祈るような体勢のまま一方的に語りかけてくるホワイトがいた。
「あぁ! 今日も美しいッッッッ!!」
お前には情報収集を依頼していたはずだ。
誰にも気づかれないように創り、送り出したのに、クレアの目の前にいやがって……。
目が覚めた途端にこれだ。現実とのギャップが大きすぎて、心の整理が追いつかない。
それにクレア、あそこまで騒がしい生き物がいるのに、優雅にお茶など飲んでいるなよ。意外に神経は図太いのかもしれないな。
「ホワイトさんは元気があって良いですね。一緒にお菓子でも食べますか?」
「いえ、シロ様の前でそんなことはできません! むしろ一緒に拝みましょう!」
お茶に誘う方も、祈る方も頭がおかしいと思ってしまうのは、夢の世界の常識に慣れていないからなのだろうか。
いや、今はそんなことを考えている時ではない。とりあえず、情報収集の結果を聞き出さねばらならない。
何が出てくるか分からないビックリ箱を開けるような心境で質問をする。
(俺が頼んでいた依頼は完遂したのか?)
「おぉ!!! シロ様、お目覚めですか!」
(ばかッ! 念話で答えろ! クレアに聞かれたらどうするんだ!)
誰にも知られずにフェリックスの情報を集めたいからこそ、ホワイトを生み出したのに、大声でばらしてどうするだよ。少し考えれば分かることなのに、狂信者ともいえる性格は問題だな。コントロールがきかない。
どうして俺のことを、ここまで崇められるのか分からず困惑は深まるばかりだ。
創造した生物は最初から友好的ではあるが、このレベルにならない。魔法を使う前に効果を確認したから間違いないのだが……。
(聞かせてもよいではないですかッ! シロ様の偉大なるお言葉を代弁させてください!)
(それ以上、無駄口を叩くと踏み潰すぞ)
己の世界に浸りすぎだ。ホワイトに向けて直接魔力を浴びせる。
ドラゴンの圧倒的な力を受けて、前進が震え上がり、ついに倒れた。
(し、失礼いたしました)
体を地面につけたまま震える声で謝罪をした。異変に気づいたクレアがこちらに注目するが、動くことはなかった。優雅なティータイムが再開された。
このまま性格を矯正しても良いが、話が進まないので、威圧をかけるのを止める。
(で、どうなんだ? 落ち着いて話せよ)
(手下どもに探らせて、すでに情報はまとめております)
お前が集めたんじゃないのかよッ! と、突っ込みたくなる気持ちを抑える。
(フェリックスはここより南部にある大国グルーンの第一王子です。バスクール王国が3つ入るほどの領土を持ち、特に軍事力に優れています。現国王は野心家であり、領土拡大のために周辺国に対して侵略を進めているそうです)
俺の警告が効いたのか、落ち着きを取り戻したホワイトが淡々と説明する。
(また、面倒なのに目をつけられたな。ここも、侵略の一環で狙われたのか?)
(いえ。違います。地理的に離れていますし、バスクール王国は山脈と深い森林に囲まれている陸の孤島。行き来するには海を使うしかありません。そんな不便な場所を侵略する必要性はないかと)
バスクール王国の東側は海に面しており、西と南は山脈によって大陸と分断されている。北は溢れんばかりの魔物が跋扈し、複数のドラゴンが君臨している巨大な森。それらが他国の侵略を防ぐ天然の防壁の役割を果たしている。
経済はほぼ自国だけで回しており、船による貿易によってわずかな外貨を稼いでいる状態。国がいろいろと制限しているので、鎖国していると表現しても良いだろう。
それに金、銀、鉄、ミスリルといった魔法金属が大量に産出されているわけでもないので、仮に占領したとしても戦争の出費に見合うリターンはないのだ。
さらに飛び地で管理が困難となれば、侵略する必要はない。
なんとなく気に入らないが、ホワイトと同意見だ。
(なんだ、そうするとクレアに惚れて結婚しようとしているのか? あんな態度で?)
国としてメリットがないのであれば、個人ではどうだ?
あんな態度をしていたので可能性は低いが、フェリックスがクレアに惚れているかもしれない。DV野郎というやつだろう。暴力によって女をコントロールしたがるクズはいるからな。
それが一国の王女であれば支配欲は強く満たされるのだろう。
俺には全く理解できないし、許す気もないがなッ!
(この矮小の身ではシロ様が何を考えているか想像すらできませんが、落ち着いていただけないでしょうか)
怒りによって魔力が漏れ出していたみたいだ。近くにいたホワイトは呼吸が乱れ、青ざめた顔をしている。
魔力と親和性が高いドラゴンだからこそ、感情が高ぶると魔力も呼応してしまうのか。不便な体だなと思いながらも、魔力をコントロールする。
そのまま次の言葉が出るまで、待つことにした。
(女にだらしないことで有名だそうです。惚れている可能性は低いかと)
(なに!? そんな男なのか!)
一瞬、我を忘れそうになったが、俺は学習する男だ。
魔力が外に放出されないようにコントロールしながら気持ちを落ち着かせる。徐々に頭が動き出した。
女にだらしがない男は、複数の女に手を出し続けている。たった一人の女を追いかけて、結婚するような熱意など持っていない。己の欲望を満たす便利な女を探し続けるだけだ。
王子、そして個人としてもクレアと結婚する理由が見つからない。
別れさせるといっても結婚の理由が分からなければ、最適な手段が考えられん。これは少し、困ったな。
念話から俺の感情が伝わったのだろう、ホワイトが驚きながらも問いかけてきた。
(……まさか、本当にお気づきではないと?)
バカなッ!
まさか、ホワイトにはフェリックスがクレアと結婚する理由が分かるのか!?
(どういうことだ?)
負けた気がしてしまうので嫌だったが、プライドを押し殺して質問をした。
(政略結婚をしてまでも手に入れたいものとは…………シロ様です)
(俺が、狙い……だと……?)
盲点だった。夢の国では神に等しい力をもっているドラゴンだったのを忘れていたのだ。
この力が手に入れば、侵略戦争も楽に進むだろう。防衛だって問題ない。普通の人が何人集まろうが勝てるわけがないのだから。
他人に指摘されて初めて気づく事実とは意外に多い。今回の話も、その一つ。欠けていたパズルのピースが埋まったような感覚だ。
(ほぼ間違いなく。でなければ、こんな辺鄙な王国の王女と大国の王子が婚約することなどあり得ないかと)
クレアが不幸になる原因が俺だったとは。
ショックが大きく、しばらく動けそうになかった。
一人になると急に寂しさがこみ上げてくる。先ほどかけられた温かい言葉のせいだろう。少し感傷的になっている自覚はある。
夜はネガティブな思考に陥りやすい。
すべては明日の自分に任せて、もう寝よう。
靴を脱いで座敷に上がる。座布団を二つに折ってから頭を乗せて枕にすると、天井を見上げながら考えるのをやめた。
目を閉じると意識がだんだんと薄れていき、体から抜けていく。上空から見下ろしているような感覚だ。
ついに、きてしまった。休暇は終わり。これから夢の国に行く日々が続く。
遠くない将来、人生が終わってしまうかもしれないな。
少し前までなら、死ぬならそれで良いという考えだった。
だが今は、嫌だなと、そう思いながらも抗うすべはなく、意識は旅立ってしまった。
◆◆◆
目を覚ましたら、いつもの中庭だ。
休んでいたのか、頭は地面の上だ。視界先には芝生が広がっており、クレアがカップを片手で持ち、お茶を飲んでいる。テーブルにはクッキーのようお菓子があった。
クレアの婚約やホワイトの誕生などなかったかのようだ。俺が理想だと感じていた生活が戻ってきたような、そんな光景。もちろん、それは錯覚なんだがな。
「――――様!」
先ほどから、俺を呼ぶ声が聞こえる。
現実逃避はここまでか。いい加減、ウザくなってきた。
目だけを動かし声の主を探す。
膝をつけ、祈るような体勢のまま一方的に語りかけてくるホワイトがいた。
「あぁ! 今日も美しいッッッッ!!」
お前には情報収集を依頼していたはずだ。
誰にも気づかれないように創り、送り出したのに、クレアの目の前にいやがって……。
目が覚めた途端にこれだ。現実とのギャップが大きすぎて、心の整理が追いつかない。
それにクレア、あそこまで騒がしい生き物がいるのに、優雅にお茶など飲んでいるなよ。意外に神経は図太いのかもしれないな。
「ホワイトさんは元気があって良いですね。一緒にお菓子でも食べますか?」
「いえ、シロ様の前でそんなことはできません! むしろ一緒に拝みましょう!」
お茶に誘う方も、祈る方も頭がおかしいと思ってしまうのは、夢の世界の常識に慣れていないからなのだろうか。
いや、今はそんなことを考えている時ではない。とりあえず、情報収集の結果を聞き出さねばらならない。
何が出てくるか分からないビックリ箱を開けるような心境で質問をする。
(俺が頼んでいた依頼は完遂したのか?)
「おぉ!!! シロ様、お目覚めですか!」
(ばかッ! 念話で答えろ! クレアに聞かれたらどうするんだ!)
誰にも知られずにフェリックスの情報を集めたいからこそ、ホワイトを生み出したのに、大声でばらしてどうするだよ。少し考えれば分かることなのに、狂信者ともいえる性格は問題だな。コントロールがきかない。
どうして俺のことを、ここまで崇められるのか分からず困惑は深まるばかりだ。
創造した生物は最初から友好的ではあるが、このレベルにならない。魔法を使う前に効果を確認したから間違いないのだが……。
(聞かせてもよいではないですかッ! シロ様の偉大なるお言葉を代弁させてください!)
(それ以上、無駄口を叩くと踏み潰すぞ)
己の世界に浸りすぎだ。ホワイトに向けて直接魔力を浴びせる。
ドラゴンの圧倒的な力を受けて、前進が震え上がり、ついに倒れた。
(し、失礼いたしました)
体を地面につけたまま震える声で謝罪をした。異変に気づいたクレアがこちらに注目するが、動くことはなかった。優雅なティータイムが再開された。
このまま性格を矯正しても良いが、話が進まないので、威圧をかけるのを止める。
(で、どうなんだ? 落ち着いて話せよ)
(手下どもに探らせて、すでに情報はまとめております)
お前が集めたんじゃないのかよッ! と、突っ込みたくなる気持ちを抑える。
(フェリックスはここより南部にある大国グルーンの第一王子です。バスクール王国が3つ入るほどの領土を持ち、特に軍事力に優れています。現国王は野心家であり、領土拡大のために周辺国に対して侵略を進めているそうです)
俺の警告が効いたのか、落ち着きを取り戻したホワイトが淡々と説明する。
(また、面倒なのに目をつけられたな。ここも、侵略の一環で狙われたのか?)
(いえ。違います。地理的に離れていますし、バスクール王国は山脈と深い森林に囲まれている陸の孤島。行き来するには海を使うしかありません。そんな不便な場所を侵略する必要性はないかと)
バスクール王国の東側は海に面しており、西と南は山脈によって大陸と分断されている。北は溢れんばかりの魔物が跋扈し、複数のドラゴンが君臨している巨大な森。それらが他国の侵略を防ぐ天然の防壁の役割を果たしている。
経済はほぼ自国だけで回しており、船による貿易によってわずかな外貨を稼いでいる状態。国がいろいろと制限しているので、鎖国していると表現しても良いだろう。
それに金、銀、鉄、ミスリルといった魔法金属が大量に産出されているわけでもないので、仮に占領したとしても戦争の出費に見合うリターンはないのだ。
さらに飛び地で管理が困難となれば、侵略する必要はない。
なんとなく気に入らないが、ホワイトと同意見だ。
(なんだ、そうするとクレアに惚れて結婚しようとしているのか? あんな態度で?)
国としてメリットがないのであれば、個人ではどうだ?
あんな態度をしていたので可能性は低いが、フェリックスがクレアに惚れているかもしれない。DV野郎というやつだろう。暴力によって女をコントロールしたがるクズはいるからな。
それが一国の王女であれば支配欲は強く満たされるのだろう。
俺には全く理解できないし、許す気もないがなッ!
(この矮小の身ではシロ様が何を考えているか想像すらできませんが、落ち着いていただけないでしょうか)
怒りによって魔力が漏れ出していたみたいだ。近くにいたホワイトは呼吸が乱れ、青ざめた顔をしている。
魔力と親和性が高いドラゴンだからこそ、感情が高ぶると魔力も呼応してしまうのか。不便な体だなと思いながらも、魔力をコントロールする。
そのまま次の言葉が出るまで、待つことにした。
(女にだらしないことで有名だそうです。惚れている可能性は低いかと)
(なに!? そんな男なのか!)
一瞬、我を忘れそうになったが、俺は学習する男だ。
魔力が外に放出されないようにコントロールしながら気持ちを落ち着かせる。徐々に頭が動き出した。
女にだらしがない男は、複数の女に手を出し続けている。たった一人の女を追いかけて、結婚するような熱意など持っていない。己の欲望を満たす便利な女を探し続けるだけだ。
王子、そして個人としてもクレアと結婚する理由が見つからない。
別れさせるといっても結婚の理由が分からなければ、最適な手段が考えられん。これは少し、困ったな。
念話から俺の感情が伝わったのだろう、ホワイトが驚きながらも問いかけてきた。
(……まさか、本当にお気づきではないと?)
バカなッ!
まさか、ホワイトにはフェリックスがクレアと結婚する理由が分かるのか!?
(どういうことだ?)
負けた気がしてしまうので嫌だったが、プライドを押し殺して質問をした。
(政略結婚をしてまでも手に入れたいものとは…………シロ様です)
(俺が、狙い……だと……?)
盲点だった。夢の国では神に等しい力をもっているドラゴンだったのを忘れていたのだ。
この力が手に入れば、侵略戦争も楽に進むだろう。防衛だって問題ない。普通の人が何人集まろうが勝てるわけがないのだから。
他人に指摘されて初めて気づく事実とは意外に多い。今回の話も、その一つ。欠けていたパズルのピースが埋まったような感覚だ。
(ほぼ間違いなく。でなければ、こんな辺鄙な王国の王女と大国の王子が婚約することなどあり得ないかと)
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コメント
ノベルバユーザー325425
面白い。大体ドラゴンの話は人化とかになって結局チート系になるけどこれはドラゴンのまま話が続くので新鮮味があり面白い
ノベルバユーザー356780
ドラゴン好きの私はこの作品がとてもいいと思いました、(?)
続き待ってます( ˙꒳˙ )