ドラゴンさんは怠惰に暮らしたい

わんた

頼みごと

 しばらくして、そろそろ街に戻ろうかとも思ったが……腹が減ったな。
 少々血なまぐさいが、景色は良い。シロ様からいただいた干し肉を食べるとするか。

 地面に座り込むと、大きい肉の塊を取り出し、大きく口を開けて引き千切る。

「うん。旨い!」

 硬い肉は噛み応えがあり、非常に気持ちが良い。味も濃く、ドラゴニュートの体によくあう。流石シロ様だ。お気遣いまで最高だとは、いったいどうすれば恩を返せるようになるのだろうか。

 いつかお礼をしたいと思っていると、頭をかきながらケインが近寄ってきた。こいつら、まだいたのか。すでに逃げ帰っているかと思った。

「助けていただいたお礼に、何か協力したい。困っていることはないか?」

「ケイン兄さんのバカ! ホワイトさんが困っていることを、私たちが助けられるわけないでしょ!」

「いや、シンシア。それは違う。聞いてみなければ分からないぞ。そもそも命の恩人だしな。聞かずに断るわけにはいかない」

「ゴンド兄さんまでっ!」

 ケインの懐っこい笑顔は、口調は軽いのに不思議と嫌な気分にはならないのだ。そてに対して、シンシアは少し慎重すぎだな。人ごときに軽く見られるのは許せないが、もう少し楽にしても良い。シロ様はそのような関係を望んでいそうだからな。

 それにしてもケインの提案は良い機会かもしれない。
 ちょうど、困っていることもある。

 ふむ、この場で頼んでみるのも一興か。

 シロ様に色々と教わったが、細かいことは現地に住む人の方が詳しいだろう。それに人の文化には不慣れだ。この三人に説明させるのは悪い案ではないからな。

「一つ、いや二つだな。聞きたいことがある」

「「「…………」」」

 私が発言すると六つの瞳が一斉にこちらを見る。三人とも緊張した面持ちをしながら、黙ったまま動かない。似たような顔が一斉に黙ると少し不気味だな。

「おぃおぃマジか!? 本当にあるのかよ……」

 聞いてきたくせに驚くのか。私が「困りごとなどない」と、言うのを期待して質問していたのか? なら残念だったな。

 ケインから言い出したのだ。私のためにしっかりと働いてもらおう。

「この魔石を換金できる場所が知りたい」

 ジャイアントスケルトンが残した魔石を取り出す。魔力がなかにつまっており、自ら発光しているように見える。至る所に使われているが、謎も多い。原理など分からなくても、便利であれば広く利用される。その代表例みたいなものだな。

「ん? どうした?」

 なんら反応を示さない三人を見る。

 大きく安堵の息を吐いたのはシンシア。「なるほど」と、うなずいたのはゴンドだ。ケインは何が面白いのか、腹を抱えて笑いをこらえるのに必死だった。

 ……大声で笑っていたら尻尾で叩き潰すところだった。命拾いしたな。

「何を言われるかと思えばそんなことか! 冒険者ギルドで換金できる。兄貴、ここならタンド街が一番近いか」

 落ち着きを取り戻したケインがゴンドに話しかけた。
 聞き慣れない街だな。そういえば城下町の名前を聞いていなかった。恐らくそこのことを言っているのだろう。

「タンド? 城のある場所か?」

 私の質問にケインが答える。

「あぁ、王城都市のことか。ここから歩いて三日はかかる。ちょっと遠いな」

 ん? どういうことだ?
 そんなに離れているはずがない。

「私は城からここまで、すぐについたぞ。そんなに時間がかかるわけないだろう」

 ここで私は、威嚇するように声のトーンを落とす準備をする。
 ついでに魔力も飛ばしたので、彼らは重いプレッシャーを感じているはずだ。

「もしかして騙そうとしているのか?」

 もしそうなら許される行為ではない。そんな不届き者を見逃したとなれば、私だけではなく、シロ様の名前に傷がつく。粛正しなければッ!!

 立ち上がり、にらみつける。
 私の感情を反映するようにコウモリの様な羽を大きく広げ、尻尾が無意識に動く。ドンドンと、地面を強く叩きつけていた。

「おいおい! ちょっとまて! 誤解だって!!!」

「ケイン兄さんのバカッ!!」

 シンシアが掴みかかると、非難の目をしてケインを睨みつける。ケインが両手を前に出して必死に否定するするが、聞く耳を持っていない。

 一方、ゴンドは方を落として天を見上げていた。

「終わったな……」

「ゴンド兄さんは、すぐに諦めないのッ!!!」

 シンシアがゴンドの頭をたたき、重い音が森の中に響く。

 おいおい、なんて姿をさらすんだ。情けなさ過ぎて怒りが一気に霧散したぞ。いつの間にか尻尾の動きも止まっていた。

 まぁ、こんな小心者の集団が、私を騙そうとするはずがないか。

「説明を求める」

 私の一言で一瞬の沈黙が訪れた。

「空を飛んで移動したのであれば、距離感が合わない可能性が。それと種族差による力、体力の違い、かなと……思います」

 もう兄に任せられなくなったのか、シンシアが困惑しながらも返事をした。

 そういえば人は空を飛べなかったな。それに種族差か。言われてみればドラゴニュートと同レベルの能力を求める方がおかしいか。

 うむ、気づけば簡単な答え。なぜ辿り着けなかったのだろうと、首をひねってしまう。どうやら、私の早とちりだったようだ。

「なるほど。その説明は納得できた。では、そのタンドの街に案内して、こいつを換金するのを手伝ってくれ。これが二つ目の聞きたかったこと、というよりかは、頼み事だな。どうだ?」

「この流れで断れるわ――」
「ケイン兄さんは黙って!」

 反射的に話し出したケインの頭を叩いてシンシアが言葉を続ける。

「その依頼、喜んで受けさせてもらいます!」

 太陽のようにまぶしい笑顔だ。この私でさえ、見とれてしまいそうになる。隣に頭を抑えてうずくまっているケインがいなければな。この女は、意外に突っ込みが激しいな。助けたときは死にかけだったこともあり、お淑やかだと思っていた。

「案内なら俺に任せてほしい。シンシアはホワイトさんの隣で話し相手になってくれ。ケインは後ろだ」

 ようやく意識が戻ってきたゴンドが話をまとめる。淀みない指示と素直に従う二人を見る限り、普段からそのような立場なのだろう。

 私を護衛する必要はない上に飛んだ方が早いのだが、気づかいが分からない私ではない。先ほど迷惑をかけたこともあり、好意は素直に受け取ろうとしよう。

「私はそれでかまわない。道中はよろしく頼む」
「任せてくれ」
「はい!」
「おうよ」

 心の中でシロ様に謝罪しながら、干し肉を丸呑みして食事を手早く終わらせる。
 冥界の森林を歩いて出ることになった。

(……ホワイト)

 背筋に電撃が走ると共に、脳内に神々しい声が響き渡る。
 危うく涙を流しながら跪くところだった。

(何でしょうか! ご用命であれば、人の街の一つや二つ、墜として見せます!!)
(いや、そんなの求めてないから……)

 私の提案は受け入れてもらえなかった。シロ様の御心を理解するのは時間がかかりそうだ。

 他にもいろいろと提案したいところだが、シロ様お声が暗い。疲れているご様子。ここは無駄口を叩くのは辞めよう。

 あぁ、なんて主想いなのだろう!!!!

(これから少し寝るが、何か問題はあるか?)

(魔石を手に入れたので換金しに行くところです。至って順調に進んでいます)

(意が――ゴホン。それは朗報だ。換金後に情報収集するのを忘れないでくれ)

(もちろんです! 手下にも協力させますので、きっと望むようなお答えが出るかとお見ます!)

(な、なんだ!? 手下とは!!)

(シロ様が気にされるようなことではございません! ゆっくりお体を休めてくださいませ)

 念話を遮断した。お疲れのシロ様と長話するわけにはいかないからな!

 機嫌が最高に良い私は、鼻歌を歌いながら片手で魔物を殺し、人の住む街に向かっていった。

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