ドラゴンさんは怠惰に暮らしたい
第10話魔物狩り
私が目指す森――冥界の森林は魔物が跋扈し、果てが見えないほど強大だと、シロ様から聞いている。
最奥には常に燃え続けている巨大な穴があり、シロ様と同族の尊いお方がいるそうなので、私としてはご挨拶をしたかったが、禁止されては逆らうことはできない。
今回の目的は浅瀬で魔物を狩ることなので、特に問題はなか。
森に降り立った私は、周囲を見渡す。
人の住む街は、美味しい匂いや多種多様な道具にあふれてて興味深かった。
ここは、住みたくなるほど空気が澄んでいて、力強い生命が多く息づいているのを感じる。
少し移動しただけだというのに、ここまで世界が変わるのか!
未知なる体験は心が躍る!
あぁ、生きるとはなんとも美しい!
私を創り出してくれた偉大なるシロ様に改めて感謝の心をささげた。
さて、ずっとシロ様に祈りを捧げていても良いのだが、それでは命令に背いてしまうことになる。この程度の仕事で時間をかけてしまえば、愚図、いや無能の烙印を押されてしまうのは間違いない。それは、ダメだ。生きる意味を失ってしまう。
魔物を探そう。狩りの時間だ。
目を閉じて意識を耳に集中する。音を聞き分け、その意味を、本能が教えてくれる。天性の狩人であるドラゴニュートにとって獲物の気配を感じ取るのは容易だ。音だけではなく、魔物から漏れ出す魔力で強さを計り、匂いから感情が読み取れる。
ここから前方に魔物と思われる鳴き声が聞こえた。
声の大きさ、魔力からサイズは3メートル近いことが分かる。雑魚というわけではないだろうが、私が勝てないほど強い訳でもない。ちょうど良い相手だ。このレベルであれば、素材には期待できるかな?
足を曲げて力を籠めると、シロ様からいただいた靴が土に沈む。
ため込んだ力を開放するその瞬間に、悲鳴が聞こえた。
乱れて音や魔力を感じにくいが、どうやら魔物の前に男が二人立っているようだ。近くに倒れている一人は女性で、濃い血の臭いを感じた。敵対している魔物は人のような形をしているが、サイズが大きく違う。人の倍ぐらいはあるだろう。
それほど強くないが、魔物からは腐った臭いがする。魔力の質も普通の生物とは異なり、暗く淀んでいるように感じた。……これは、アンデット系か。拳で戦う私と相性は悪くない。
「シロ様は、困っている人がいたら助けてあげなさいと、おっしゃられていた。それとも同時に、他人の獲物を横取りしてはいけないとも。これはどちらに当てはまるのだろうか?」
戦闘は拮抗しているように思えるが、倒れている女性を助ける余裕はないようだ。後数分で死んでしまう状態なので、後回しにしているということはないだろう。
思考を巡らせても答えは出ない。
なら、本人に直接聞けばよい。
下半身にため込んでいた力を開放する。向かう先は、最初に見つけた魔物ではなく、戦闘中の集団だ。
草が生い茂り、木々から伸びる枝が私を遮るが、移動を邪魔することはできない。蹂躙するように、魔法で吹き飛ばし、邪魔するすべてを強引に排除していく。
現場に到着する寸前で、また一つ悲鳴が聞こえた。戦っていた男性の一人が倒れたようだ。二人でようやく拮抗できていたのだ、これ以上は持ちこたえられないだろう。
私の予想を裏付けるように、到着する直前に倒れた。
戦闘が行われていた広場は、血で赤く染まっていた。足が二本、地面に転がっていてる。当然、誰も立っていない。つい先ほどまで戦闘が行われていたが、今は全滅一歩手前という状況だ。
獲物を横取りしてしまう心配はしなくてよいだろう。
心の中で安堵した。
周囲の観察はこのぐらいにして、目の前の魔物に注目する。
ベースとなっているのは、巨人系の魔物だったと思われる。ジャイアントスケルトンが立っていた。
頭部には短い角があり、左胸には心臓の代わりに鈍く光る、魔力が物質化した塊――魔石。両手にはヤツには短すぎるロングソードが握られていた。肉体の代わりに動かしている骨は黒色く変色しており、全身から呪いのような禍々しいオーラを待っとっている。
自然発生したアンデットではなく、人工的に造られたのだろう。最初に発見した魔物より弱いが、禍々しい魔力を発している。
呪われてても骨は売れるのか?
まぁいい。街で聞いてみればすぐに分かるだろう。ダメならもう一度、ここで狩りをするまでだ。と、ここまで考えて、シロ様のお言葉がよみがえる。
――困っている人がいたら助けてあげなさい。
死に瀕している彼らは、困っているといって良いはずだ。
魔物と戦っている間に出血で死んでしまうのは間違いない。それを知って何もしないのは、「助けなさい」の言葉に反してしまうだろう。そはダメだ。
まずは人命救助が先。
ホワイトドラゴンのシロ様から創造された私は、その特徴を強く引き継いでいる。要は、回復が得意なのだ。
右腕を高く掲げてる。
「守るべき者に癒やしを。エリアヒーリング」
上空に魔法陣が浮かび上がり、光の粒子が舞い落ちてくる。倒れている三人のケガに集まると出血が止まった。これで、戦っている間に死んでしまうことはないだろう。
「カッカッカッ」
勝利を確信したところに、突如、魔法陣が表れて戸惑っていたジャイアントスケルトンだったが、ようやく私を認識したようで、アゴを動かして謎の音を出した。威嚇しているつもりだろうか?
そんなことを考えていると、アンデットとは思えぬ軽快な走りで向かって来た。
「シロ様からの寵愛を受けている私に、勝てると思っているのか? 思い上がるなよ」
何の工夫も、技術もない。力任せに振り下ろされた二本のロングソードを、魔力デコーディングした両手で受け止める。私の足が地面に埋まる程度には、力が強いようだ。
ジャイアントスケルトンの体から可視化されるほどの濃い魔力が噴き出すと、剣に込められた力が増幅した。このまま押し切るつもりか?
多少はやるようだが、全く足りない。
私を倒したいのであれば、これ以上の力が必要だぞ。
手に力をこめる。ガラスが割れるような音とともにロングソードの刀身を砕いた。
骨の癖に驚いているのか、動きが止まった。
その隙を見逃すほど私は甘くはない。懐に入り込み、跳躍しながら顎を打ち抜く。上昇する勢いを活かしてジャイアントスケルトンの肩に乗ると、頭がい骨をつかみ、砕いた。
トドメを刺したと確認した私は、転倒に巻き込まれる前に、飛びのいて地面に着地する。
「ん?」
だが、予想に反してジャイアントスケルトンは立ったままだ。頭部を砕いても形が維持できる?
不審に思って観察していると、足元から奇妙な音が聞こえた。地面を見ると、砕けた破片がカタカタと震えている。
この骨、再生するのか?
素材を手に入れるために最小限の破壊で倒そうと思っていたが、そろそろ面倒になってきた。次で倒す。
手を前に出すと、全力でそそいだ魔法陣がジャイアントスケルトンの足元に浮かび上がる。
「滅び去れ、ターンアンデット!」
白い光が漏れ出し次第に強くなると、光の柱が出現した。
それは天にも届くほど高く、上空の雲を突き抜ける。
「――――――」
無言の悲鳴。矛盾しているようだが、そのように聞こえた。
ジャイアントスケルトンの端から光に飲まれて溶けていく。通常よりも効きが良いと感じるのは、骨が呪われているからだろうか?
最後の抵抗とばかりに逃げだそうと歩き出したが、光の柱は壁の代わりにもなっているので、衝突して魔方陣から抜け出すことは叶わない。
苦しみながらもドンと叩くが、その程度の力では私の魔法を破壊することはできなかった。
のたうち回った後にジャイアントスケルトンは、魔石を残して消え去っていた。
最奥には常に燃え続けている巨大な穴があり、シロ様と同族の尊いお方がいるそうなので、私としてはご挨拶をしたかったが、禁止されては逆らうことはできない。
今回の目的は浅瀬で魔物を狩ることなので、特に問題はなか。
森に降り立った私は、周囲を見渡す。
人の住む街は、美味しい匂いや多種多様な道具にあふれてて興味深かった。
ここは、住みたくなるほど空気が澄んでいて、力強い生命が多く息づいているのを感じる。
少し移動しただけだというのに、ここまで世界が変わるのか!
未知なる体験は心が躍る!
あぁ、生きるとはなんとも美しい!
私を創り出してくれた偉大なるシロ様に改めて感謝の心をささげた。
さて、ずっとシロ様に祈りを捧げていても良いのだが、それでは命令に背いてしまうことになる。この程度の仕事で時間をかけてしまえば、愚図、いや無能の烙印を押されてしまうのは間違いない。それは、ダメだ。生きる意味を失ってしまう。
魔物を探そう。狩りの時間だ。
目を閉じて意識を耳に集中する。音を聞き分け、その意味を、本能が教えてくれる。天性の狩人であるドラゴニュートにとって獲物の気配を感じ取るのは容易だ。音だけではなく、魔物から漏れ出す魔力で強さを計り、匂いから感情が読み取れる。
ここから前方に魔物と思われる鳴き声が聞こえた。
声の大きさ、魔力からサイズは3メートル近いことが分かる。雑魚というわけではないだろうが、私が勝てないほど強い訳でもない。ちょうど良い相手だ。このレベルであれば、素材には期待できるかな?
足を曲げて力を籠めると、シロ様からいただいた靴が土に沈む。
ため込んだ力を開放するその瞬間に、悲鳴が聞こえた。
乱れて音や魔力を感じにくいが、どうやら魔物の前に男が二人立っているようだ。近くに倒れている一人は女性で、濃い血の臭いを感じた。敵対している魔物は人のような形をしているが、サイズが大きく違う。人の倍ぐらいはあるだろう。
それほど強くないが、魔物からは腐った臭いがする。魔力の質も普通の生物とは異なり、暗く淀んでいるように感じた。……これは、アンデット系か。拳で戦う私と相性は悪くない。
「シロ様は、困っている人がいたら助けてあげなさいと、おっしゃられていた。それとも同時に、他人の獲物を横取りしてはいけないとも。これはどちらに当てはまるのだろうか?」
戦闘は拮抗しているように思えるが、倒れている女性を助ける余裕はないようだ。後数分で死んでしまう状態なので、後回しにしているということはないだろう。
思考を巡らせても答えは出ない。
なら、本人に直接聞けばよい。
下半身にため込んでいた力を開放する。向かう先は、最初に見つけた魔物ではなく、戦闘中の集団だ。
草が生い茂り、木々から伸びる枝が私を遮るが、移動を邪魔することはできない。蹂躙するように、魔法で吹き飛ばし、邪魔するすべてを強引に排除していく。
現場に到着する寸前で、また一つ悲鳴が聞こえた。戦っていた男性の一人が倒れたようだ。二人でようやく拮抗できていたのだ、これ以上は持ちこたえられないだろう。
私の予想を裏付けるように、到着する直前に倒れた。
戦闘が行われていた広場は、血で赤く染まっていた。足が二本、地面に転がっていてる。当然、誰も立っていない。つい先ほどまで戦闘が行われていたが、今は全滅一歩手前という状況だ。
獲物を横取りしてしまう心配はしなくてよいだろう。
心の中で安堵した。
周囲の観察はこのぐらいにして、目の前の魔物に注目する。
ベースとなっているのは、巨人系の魔物だったと思われる。ジャイアントスケルトンが立っていた。
頭部には短い角があり、左胸には心臓の代わりに鈍く光る、魔力が物質化した塊――魔石。両手にはヤツには短すぎるロングソードが握られていた。肉体の代わりに動かしている骨は黒色く変色しており、全身から呪いのような禍々しいオーラを待っとっている。
自然発生したアンデットではなく、人工的に造られたのだろう。最初に発見した魔物より弱いが、禍々しい魔力を発している。
呪われてても骨は売れるのか?
まぁいい。街で聞いてみればすぐに分かるだろう。ダメならもう一度、ここで狩りをするまでだ。と、ここまで考えて、シロ様のお言葉がよみがえる。
――困っている人がいたら助けてあげなさい。
死に瀕している彼らは、困っているといって良いはずだ。
魔物と戦っている間に出血で死んでしまうのは間違いない。それを知って何もしないのは、「助けなさい」の言葉に反してしまうだろう。そはダメだ。
まずは人命救助が先。
ホワイトドラゴンのシロ様から創造された私は、その特徴を強く引き継いでいる。要は、回復が得意なのだ。
右腕を高く掲げてる。
「守るべき者に癒やしを。エリアヒーリング」
上空に魔法陣が浮かび上がり、光の粒子が舞い落ちてくる。倒れている三人のケガに集まると出血が止まった。これで、戦っている間に死んでしまうことはないだろう。
「カッカッカッ」
勝利を確信したところに、突如、魔法陣が表れて戸惑っていたジャイアントスケルトンだったが、ようやく私を認識したようで、アゴを動かして謎の音を出した。威嚇しているつもりだろうか?
そんなことを考えていると、アンデットとは思えぬ軽快な走りで向かって来た。
「シロ様からの寵愛を受けている私に、勝てると思っているのか? 思い上がるなよ」
何の工夫も、技術もない。力任せに振り下ろされた二本のロングソードを、魔力デコーディングした両手で受け止める。私の足が地面に埋まる程度には、力が強いようだ。
ジャイアントスケルトンの体から可視化されるほどの濃い魔力が噴き出すと、剣に込められた力が増幅した。このまま押し切るつもりか?
多少はやるようだが、全く足りない。
私を倒したいのであれば、これ以上の力が必要だぞ。
手に力をこめる。ガラスが割れるような音とともにロングソードの刀身を砕いた。
骨の癖に驚いているのか、動きが止まった。
その隙を見逃すほど私は甘くはない。懐に入り込み、跳躍しながら顎を打ち抜く。上昇する勢いを活かしてジャイアントスケルトンの肩に乗ると、頭がい骨をつかみ、砕いた。
トドメを刺したと確認した私は、転倒に巻き込まれる前に、飛びのいて地面に着地する。
「ん?」
だが、予想に反してジャイアントスケルトンは立ったままだ。頭部を砕いても形が維持できる?
不審に思って観察していると、足元から奇妙な音が聞こえた。地面を見ると、砕けた破片がカタカタと震えている。
この骨、再生するのか?
素材を手に入れるために最小限の破壊で倒そうと思っていたが、そろそろ面倒になってきた。次で倒す。
手を前に出すと、全力でそそいだ魔法陣がジャイアントスケルトンの足元に浮かび上がる。
「滅び去れ、ターンアンデット!」
白い光が漏れ出し次第に強くなると、光の柱が出現した。
それは天にも届くほど高く、上空の雲を突き抜ける。
「――――――」
無言の悲鳴。矛盾しているようだが、そのように聞こえた。
ジャイアントスケルトンの端から光に飲まれて溶けていく。通常よりも効きが良いと感じるのは、骨が呪われているからだろうか?
最後の抵抗とばかりに逃げだそうと歩き出したが、光の柱は壁の代わりにもなっているので、衝突して魔方陣から抜け出すことは叶わない。
苦しみながらもドンと叩くが、その程度の力では私の魔法を破壊することはできなかった。
のたうち回った後にジャイアントスケルトンは、魔石を残して消え去っていた。
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