ドラゴンさんは怠惰に暮らしたい

わんた

第8話誕生

一人になると、あの傲慢なフェリックスとクレアの婚約を、どうやって解消できるか悩んでいた。


最も簡単な方法は、この世界からご退場していただくことだろう。この体を持ってすればたやすい。一国の王子であろうと、圧倒的な力の前には無力だ。負ける気がしない。


ただ一点、気になることがあるとしたら、ドラゴンを前にして強気な態度でいたことだな。もしかしたら何らかの切り札を持っている可能性は否定できない。


それに人間目線で考えれば、退場していただいた後もトラブルは山のようにある。バスクール王国を守護しているドラゴンが危害を加えたら、国際問題になるのは明白だ。


婚約は解消したけど戦争になりました。では、俺が求めている平穏で退屈な世界が遠のいてしまう。


金品や鱗などを渡す代わりに手を引いてもらう方法もあるにはあるが、俺が人の言葉が話せないので、そもそも交渉のしようがない。この大きく鋭い爪では文字を書くのも一苦労だ。


仮に文字を書いて交渉しても、その間にうっかり殺してしまいそうな気がする。イラッとした瞬間に手を出てしまうのは、この体の本能的な動きなので制御するのが難しい。


先程のやりとりも、魔力を飛ばして追い払っていなければ、どうなっていたか分からないのだ。


他に魅力的な婚約者を用意する、国を滅ぼす、暗殺者を雇うといった方法も思い浮かぶが、ドラゴンだけで実行するには問題がありすぎた。


そもそもフェリックスの情報が足りないので、どういった行動が最適解なのか判断のしようがない。


何か動こうとするには、この体は目立つ。ドラゴンにとって人の社会は窮屈すぎるのだ。


……ここは発想を変えるか。


現実世界での生活が長いせいか、物理的な方法で考えてしまうが、それは間違いだ。俺は夢の国のドラゴン。それらしい方法を探すべきだろう。


脳内の魔法リストを一つ一つゆっくりと眺める。どんな魔法が使えるのかちゃんと調べたことがなかったので、新しい発見が多い。


なんと人化の魔法すらあったのだ。ただこの魔法は使いたくない。


人の社会につかれて夢の世界で癒やされているのに、何が悲しくて姿を変えなければいけないんだ。


今回の件が解決するまでという条件をつけたとしても、この状況下で長期間、俺がいなくなってしまうのは怖い。できるだけ隙は見せない方が良いだろう。


天雷、完全回復、広域結界、さまざまな魔法が出てくるが、どれも大規模だ。個人に対して使うには大げさであり、さらに言えば情報収集に向いた魔法が一つもない。


なるほど。生物の頂点に位置するドラゴン様は、力で全てねじ伏せれば良いという考え方で進化してきたようだ。


こういったとき、本当にドラゴンは使えない。愚痴りながらも探し続けていると、一つの魔法に目がとまった。


生命創造


生殖行動ではなく、魔法で生物を作り出す奇跡だ。


まさか使えるとは思わなかった。


どうやら意識がつながった眷属を作り出すことが出来るようで、俺の場合だと人そっくりだが、体の一部に鱗があり、コウモリの羽、尻尾が生えたドラゴニュートを創造できるようだ。


猫耳や角の生えた獣人がいるらしいので、ドラゴニュートがいても大丈夫だろう。人間社会に溶け込めそうな気がする。


それに個人的には、リザードマンのように顔がトカゲではないというところが、評価できる。


ちらりと周囲の様子を見ると、メイドがスカートをはためかせながら忙しそうに移動していた。


今すぐ魔法を試したいところだが、目撃されるわけにはいかない。夜まで待つか。


久々に頭を使ったから少し眠い。俺はゆっくりと瞳を閉じて、時間が過ぎるのを待つことにした。


◆◆◆


深夜。警備を任された兵士は、外壁や貴人の部屋を警戒している。中庭に注意を向ける人物はいない。悪だくみをするにはちょうど良い時間だ。


さて、さっそく魔法を使うか。


呪文を唱える必要はない。使うと意識すれば発動する。これは魔法と親和性の高いドラゴンだから出来る芸当だ。


真っ暗な空間に魔法陣が浮かび上がると、体内の魔力が一気に持っていかれる。


「グァ!!!」


目の前が真っ暗になり、力が抜ける。貧血に近い症状。今までに感じたことのない体調の変化に思わず鳴き声を上げてしまった。


生命の危機すら感じ始めるほど、体内から力の源泉――魔力が抜けていく。どうにかして中断したいが、生命創造の魔法は、すでに俺の手を離れて自動で動いているので止めらない。


現実世界で起こった出来事を思い出す。


まさか、同じように意識を失ってしまうのか?


クソッ!!! もう少し慎重に動けばよかった、この前も後悔したばかりじゃないか! 何も成長していない!


あぁ、どんどん視界が暗くなっていく。体も冷える。ドンと地響きが聞こえたと思ったら、俺が力なく倒れた音だった。


最強の体を手に入れても扱う人がダメだと、こんな情けない死に方をするのか。試しに魔法を使って死んでしまうようなは、ドラゴンの中でも初めてじゃないか?


(――――――シ―――え――――――)


男の声が聞こえだした。これが噂の死神ってやつか。


夢の世界で死んだら、現実に戻れるのかな。


(大丈――シロ――聞こえ――――)


うるさいな。迎えに来たなら、さっさと閻魔大王の所にでも連れていけ! いや、この世界だと冥界の主は別か。いったい誰になるんだ? 美人の女性なら多少は慰めになるか……? それなら少しはやる気が出るってもんだ。


(シロ様!!)


まさか、俺の名が呼ばれた? 閉じていた目を開くと、目の前に銀髪で細くしまった体をした、全裸のドラゴニュートが立っていた。俺のように鱗は白い。


(おまえは誰だ?)


(はっ! 創造主のシロ様によって生まれたドラゴニュートでございます!!)


なに!? あの魔法は発動が成功したのか!


倦怠感は残っているが、力が抜き取られるような感覚は止まっていた。魔法陣も消えていることから、生命創造の発動が終わったことが分かる。


死ななかったことに安堵すると、意識は全裸のまま片膝をついて満面の笑みを浮かべている男に向かう。


こいつを、どうにかしなければいけない。何が嬉しいのか分からないが笑顔のままだ。テンションが異常に高そうに見える。


少し面倒に感じるが必要なことだ。一つ一つ丁寧に確認していくとしよう。


(なぜ、俺とお前は会話ができる?)


(眷属は意識の一部がつながっているからでございます! 声を発することなく会話が可能でございます!)


(離れても大丈夫か?)


(はい! この世界にいる限りは会話可能でございます!!)


念話みたいな能力が使えるようになったのか。生命を創り出すといい、規格外な魔法だな。


それにしても眷属ときたか。任務が終わったら自由に生きろと言っても素直に従うか怪しい。最悪、死ぬまで付いてくるかもしれない。


もしかしたら長い付き合いになるな。そんな相手に、こいつ、あいつ、だけでは可哀想だ。名前をつけてやるか。


俺の眷属というなら、わかりやすくホワイトにで良いだろう。嫌がるようであれば後で変えてやる。


(お前に名前を授ける。これからホワイトと名乗るが良い)


(!!! なんと、ありがたきお言葉! いただいた名前は一生大切に致します!!!)


雑につけた名前だが、ホワイトは感極まって涙を流していた。手のひらをあわせると、神を前にしたように拝んでくる。


そんな風にされたら罪悪感を覚えてしまうからやめてくれ。もう少しまともな名前を考えてやればよかった。


(気に入ったのか? 他の名前に変えても良いぞ?)


(いただいた名前は気に入っております!!! 変えるなど、おっしゃらないでください!)


今度は泣きそうな顔をしだした。ここまで感情のふり幅が大きいとは……生まれたてだからか?


ここまで他人に慕われた事なんてなかったから、ホワイトと一緒にいると疲れてしまう。さっさと仕事を任せて自由に活動してもらうか。


(それよりホワイトに頼みたいことがある)


(シロ様の命令であれば、何なりと!!)


また笑顔になった。俺の言葉に左右され過ぎだろう。彼に依頼するのは不安が残るが、これしか方法がないので諦めることにした。失敗したら次を考えるさ。


心の中で大きなため息をして色々と諦め、魔法を使う前に考えていた依頼を伝えることにした。

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