気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

31

「空港の中の方が高いのですね」
 祐樹がリクエストしたお店が空港の中にも入っていることは知っていたので、案内すると珍しそうに店内を見回しながらそう言うのが祐樹らしくてつい暖かい笑いを零してしまった。
「ほら、京都の店は自分の土地で営業している感じだっただろう?
 しかし、空港の場合は――よほど来てもらいたいお店とかだと家賃というかテナント料が値引きされて無料というケースがないわけではないらしいが――その経費が上乗せされるので料理の代金が同じ店は材料費とか人件費などを削るしかないらしい。
 だから、同じ料金を取っている店の方が味かサービスのどちらか、もしくは両方が落ちるので避けるべきだとどこかで読んだ記憶が有る」
 祐樹が納得した感じで頷いてくれるのもとても嬉しい。
「貴方とご一緒した場合、何でもご存知でいらっしゃるので、とても参考になります。
 それに貴方がそうやってとても美味しそうに召し上がっているのを見るのも目の保養ですし。
 数日間とはいえ、離れるのが寂しいです……」
 切々とした感じで言われて鼓動が薔薇色の拍動を刻んでいる。
 これはマズい……。
 この拍動が全身を甘い毒のように回っていく。
 甘く熱い毒は祐樹の全てでしか解毒することが出来ないことを経験上知っていた。
 しかし、これから晴れの舞台に飛び立とうとする祐樹に「そういう」お誘いをするのも物凄く躊躇われる。
 どうすれば?と心臓が頭にまで来たような拍動を持て余しながらも、指と口は機械的に動いている。
 しかし、お箸を持つ指が薄紅色に染まっているのを見た瞬間、ピタリと手が止まってしまった。
 ただ、祐樹もその指を凝視している、熱いくらいの熱を帯びて。
 柚子のシャーベットがいつも以上に冷たく感じたのは、きっと口の中の熱も上がっているからだろう、祐樹を求めて。
 英語のアナウンスが何だかとても耳障りな空港の中を歩いていると、肩を並べていた祐樹が耳元に低く熱く呟きを落とした。
「困ったことになりました。貴方を求めて、ココが……」
 意味ありげに視線が動く。ココというのがどこか直ぐに分かってしまう。
 ああ、祐樹も同じで、そして自分を求めてくれている。
 そう思うと、居ても立ってもいられなくなった。
 二人きりになりたくて。
 どこが良いだろうかと施設内地図を頭の中に呼び出した、切羽詰まった想いで。
                                              <了>
 

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