気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

28

「機内食が飛行機に乗ったら直ぐに出るとは思うのだが、私は軽い夕食を食べてい良いか?」
 鏡に映った祐樹の眼差しが優しく、そして僅かな心配そうな輝きを帯びていた。
「白河教授のご厚意で生涯初のファーストクラス体験――と言っても、貴方がそう誘導して下さったのですよね――とても楽しみです。食事もビジネスやエコノミークラスよりも先に出されるとか聞きました。それにシートを倒すと下手なベッドよりも寝心地が良いらしいですよね……。乗ってしばらくしたらシートを倒して良いというアナウンスが流れるでしょう?
 そうしたら即座に倒して睡眠をたっぷりと取ります。
 正直、そろそろ睡魔が限界なので、私はとにかくカフェインを摂取しなければ。
 では、レストランプロアに行きましょうか?
 貴方の場合、私が居ないと簡単なモノを、しかも同じ食べ物をずっと食べ続けないか少し心配です」
 レストランが集まっているフロアへと移動しつつ横目で祐樹の端整な横顔をこっそり見惚れていた。
 確かに――その頃は皆がそういうモノだと思っていたが――食費と時間を節約するために、カレーのルーひと箱使って野菜たっぷりのカレーを作って一週間や下手すれば二週間、朝昼晩ずっと食べても平気だった。
「そうだな……。一人だと作り甲斐がないので簡単なモノで済ませるか、呉先生などを誘ってどこかに食べに行くかだな……」
 祐樹が確かめるように瞳を覗き込んできた。
「呉先生や森技官と食事に出かけるのは良いですけれど、吉野〇とかそういう栄養の偏りそうなところは避けて下さいね。
 ジャンクフードよりも――って牛丼もその分類で良いのか知りませんが――健康に良さそうなモノを召し上がって下さいね」
 物心ついた時から――母は静かな人だったので、ああだこうだとか自分に指図することもなかった――こういう干渉をしてくる人はいなかったので、その心遣いがとても嬉しい。
「ああ、この前見つけた、柚子の香りが素晴らしい京風の『サトイモの煮転がし』がとても美味しかったあのカウンター割烹へでも行こうかと思っている。
 あの二人を焼肉に誘うのは――野菜がたくさん摂れるとはいえ――嫌がらせとか思われそうだし……」
 祐樹が半ば嫌がらせ的に高級焼肉店に誘った時の森技官のポーカーフェイスが微かに強張っていたのを見ていたので、唇に淡い笑みを浮かべながら祐樹を見つめた。
 ただ、血や内臓が苦手とはいえ焼肉程度で何故そんなに嫌がるのか理解不能だったが。
 すると。 
 

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