気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

14

「だから物理的にどれだけ離れていても、精神的にはずっと傍に居るような気がする。ベルリンでの公開手術の時は、祐樹が来てくれて、そして見守ってくれたことでよりいっそう平常心を保てたし、集中力も研ぎ澄まされたように思った。だからこその成功だったと思っている。
 しかし、今はどんなに離れていようが、祐樹の存在はいつも近くに居るような気がするので……」
 最愛の人がほの紅く上気した頬と唇に大輪の笑みの花を咲かせて紡ぐ言葉の両方に魅入られてしまう。
「その気持ちは分かるような気もしますが、それは多分二人の魂の繋がりがより深まったということですよね?
 ただ、私はやはり貴方に見守って欲しいと思ってしまいます、未熟者なので……」
 最愛の人が時差を利用して医師しか閲覧出来ないサイトの動画でリアルタイム放映を見てくれることは知っていた。
 それでも実際にその会場に来て欲しかったというのは祐樹の我儘ワガママだと分かっている、頭では。
 女々しい想いだということも百も承知ではいたが、やはり言い募らずにいられなかった。
 案の定、最愛の人の細い眉が曇っている。
「いえ、こうやって見送りに来て頂けただけで充分嬉しいのです」
 祐樹の心と最愛の人へと誤魔化すような笑みを浮かべてそっと長くてしなやかな指に祐樹の指を深く絡めた。
 そのひんやりとした感触が鮮やかに祐樹の心を染めていく、極上の幸せ色へと。
「アメリカへと一緒に行けない代わりに、ささやかな贈り物を用意したので……」
 贈り物?と内心不審に思った。ただ、最愛の人が普段は持っていないほどの「大荷物」の――あくまで彼基準だが――ことだろうか?
「祐樹は飛行機に乗って、その後会場へ直行するのだろう?」
 最愛の人が確認するような響きで聞いてきた。
「そうですよ。日程もタイトに組んでいますので。そうでないと貴方の手術スタッフになれないという悲しい現実が待っていますからね」
 最愛の人の涼しそうな切れ長の目がひときわ煌めいていた。
「それはとても嬉しいが……。せっかくの有給休暇消化のチャンスなので、ゆっくりして来たら良いのに……」
 「病院一の激務をこなす」という枕詞まくらことば的な――そもそも枕詞は五文字なのでその点から異なっているが――シロモノが苗字の上に付いていることは知っている。だから有給休暇はなかなか消化出来ていないのも事実だったが。
「有給休暇は、貴方と一緒に取らないと何の意味もないので、私には」
 すると。

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