気分は下剋上 アメリカ学会編

こうやまみか

「それに、医局員一同で集まる機会が増えるのは、大歓迎です。
 特にこういう名誉ある学会に招かれた……た……いえ、医局員が更に増えるのも確実でしょう。次は遠藤先生辺りでしょうか……。その時はもっと盛大に祝いましょうね」
 ごくごく自然な笑みが凛とした佇まいに良く似合っている。医局に最愛の人が居ると、それだけで大輪の花が咲いたような感じになるのは以前からだったが、最近の彼は瑞々しさが増している。
 名指しされた遠藤先生は椅子から立ち上がって「有り難うございます。頑張ります!」と感動も露わに宣言しているのも。
 以前は祐樹最愛の人が高嶺たかねの花のようなカリスマ性のみで回していた感じだったが「事件」や地震の件で距離が良い感じに縮まっている感じだった。
 ちょうど大天使が舞い降りた風情だった。
「そうですね。今回の田中先生の場合は出版関連の行事も目白押しでしたので、スケジュール的に難しかったので、次回はそう致します。では、さっそく移動しましょうか?」
 柏木先生がそう宣言しながら手を打って皆を誘導している。
「祐樹、済まない。少しの時間だが……共に過ごす時間が減ってしまって……」
 綺麗な切れ長の目が残念そうな煌めきで見上げてきた。
「いえ、むしろ嬉しいですよ。医局員に慕われている教授が最強ですから。プライベートではまた改めて埋め合わせをして頂くということで……」
 皆が楽しそうな感じの和やかさでぞろぞろと出て行く医局の隅で囁いた。
 祐樹の言葉で耳朶みみたぶが鮮やかな薄紅色に染まっていく様子も花が咲く感じでたまらなく綺麗だった。
 そういう細やかな変化を独占して知っているのは祐樹だけだと思うと胸が弾んだ。
「では、先に行くので」
 柏木先生が医局のドアのガラス部分から促してきたので最愛の人は足早に立ち去った。しなやかな若木のような後ろ姿を魅入られたように見つめてしまっていたが。
 特に少しだけ紅く色づいた細い首筋から花の芯のようなうなじとか几帳面に切りそろえられた後ろ髪のラインがとても綺麗で目が離せなかった。
「田中先生。お疲れだろうが、宜しく」
 一瞬放心状態だったらしく柏木先生の声で我に返るという体たらくだった。
「確かに疲れていますね……。まあ、飛行機に乗ってしまいさえすれば、後は勝手にアメリカに着いてくれるでしょうが」
 苦笑を浮かべながらそのまま帰れるように荷物をまとめた。
「搭乗前のラウンジで寝てしまわないように気を付けないとな……」
 確かに飛行機に乗るまでが心配だといえばそうだった。
 しかし。
 
 
 

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