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ノベルバユーザー329392

①陽の差す場所に

 ………暗い………闇………。


 体が分離していくような………。


 そんな感覚………。


 体がバレる、気持ち悪さと……解放感がある、気持ち良さ……。


 それらがミックスした、感じたことのない感覚……。


 ………悪くない………生と死を両方感じているようだ。




 ………某病院………




 葵はうっすらと目を開けた。
 ………明るい………。
 カーテンの隙間から、葵を差す。
 ………日差しだ………。


 ………ここは?


 体の感覚からして、ベッドの上か。
 明るさに逆らうように、目をゆっくり開けていく。
 そこには美夢がいた。
 葵を呼ぶ声は美夢だった。
 葵は目を覚ましてからの第一声を上げた。
「美夢……ここは?…」
 葵の反応に美夢は喜び、そして言った。
 「よかったっ!気付いて……病院よ……ここは…」  
 嬉し泣きをしている美夢の頭を、いつものようにポンと叩く。
 葵は起き上がろうとしたが、上手く体を動かせない。
 美夢あわてて言った。
 「無理はだめだよっ!私もだけど、最初は上手く動かなかったよ…」
 「そのようだな…皆は?」
 美夢は涙ながら言った。
 「みんな………無事よっ!愛美さんも、堂島さん達も……山村さんに、順平君も……」
 葵は目を見開いて、そして…じょじょにホッとした表情に戻り、そして言った。
 「そうか……良かった…」
 美夢は言った。
 「葵で最後だよ……皆はもう目覚めてるよ」  
 「なに?……僕はどれくらい寝ていた?」
 「まる10日間……でも、私も起きたの昨日だけど…昨日、私が目覚めた時…お兄ちゃんがいてビックリした。でも、安心した……帰ってきたんだって…」
 「ああ……僕たちは帰れたんだ…」
 「さっきまで葵のお母さん来てたよ。でも帰っちゃった……ついさっき…」
 「そうか……まぁ、母も忙しいからな…色々と…」
 葵はそう言うと、再び起き出した。体は……動く……。
 美夢が言った。
 「大丈夫なの?…」
 「色々と、確かめる事がある……もう十分寝た…」
 そう言うと葵は出ていってしまった。
 美夢呟いた。
 「ほんとに……じっとしてられないんだから……まっ、いっか……それが葵だもんね…」
 よたつきながら廊下を歩く葵に、後ろから声をかけてきた人物がいた。
 「葵っ…目が覚めたか…」
 有紀だった。
 「有紀さん………無事のようで、なりよりです…」  
 有紀はふらついている葵を見て、呆れ気味に言った。
 「ふらふらな、おまえに言われてもな……あまり無理をするな…」
 「体はおぼつかないですが、じっとしてられなくて…」
 「葵らしいな…」
 「少し話がしたいのですが…」
 「ああ……私もだ。話す時間もある……今は私もだ患者だ……不愉快だが…」
 有紀は人に診られるのは、嫌なようだ。 
 有紀と立ち話をしている間に、葵の体の感覚は元に戻ったようだ。
 「もう歩けます……甘い物が欲しいので、できれば喫茶店か何処かに…」
 有紀が言った。
 「この病院の1階にある…ついてこい…」
 有紀につれられ葵は病院の1階にある、普通の喫茶店へ行った。
 院内の喫茶店なので、お洒落感は無く……昔ながらの喫茶店と、いった感じだ。
 有紀はアイスコーヒを注文し、葵は店員にコーヒーと牛乳のわりあいを細かく伝え、いつものアイスカフェラテを注文した。
 店員に「シロップ3つ」と付け加えたのは言うまでもない。
 それぞれ注文した物が届くと、葵と有紀は一口つづ飲んだ。
 葵が言った。
 「やはり美味しい…」
 有紀も言った。
 「ああ……そうだな…」
 しばらく二人の間で沈黙が続いた。
 ただそれは嫌な沈黙ではなく、心地よい沈黙だった。
 現実を二人は噛み締めていたのだろう……それぞれの飲み物を堪能しながら……。
 しばらく沈黙を堪能し、葵が切り出した。
 「有紀さん…それで、皆の様子は?」
 有紀はアイスコーヒを飲みながら言った。
 「皆、心身共に以上無し……念のため全員MRIで検査したが……特に異常は無かったようだ…」
 「そうですか…」
 「ああ……私も確認したが…問題ない…」
 「あの島で死んだ人達は?…」
 有紀はアイスコーヒを飲み干し、空のグラスを置いて言った。
 「お前の予想通りだ…」
 「では…記憶は…」
 「あの島で死んだ5人と本物の一ノ瀬 椿は、船で光に包まれた後の記憶がない…」
 「一ノ瀬 椿に泣きボクロは?」
 「あった……左目の下に……髪を上げたらはっきりと確認できたよ…」
 「そうですか……やはり彼女は身代わりでしたか…」
 「現に彼女は我々と症状が異なっていた」
 「症状が違う?…」
 有紀は言った。
 「一ノ瀬 椿に関しては、睡眠薬の反応が出たようだ…よって我々とは症状が異なる。現に我々は10日前にこの病院に搬送されて、一ノ瀬 椿を除き……最初に目を覚ましたのは…愛美だったそうだ」
 葵が言った。
 「一ノ瀬 椿が目覚めたのは?」
 「搬送された次の日だ…」
 葵は髪をクルクル回しながら言った。
 「アマツカも言ってましたが……一ノ瀬 椿は『入れ物』だと……一ノ瀬 椿は……やはりアマツカの身代わり…」
 「そうなるな…」
 葵が言った。
 「どういった経緯でこの病院に?」
 「我々が発見されたのは…集合場所の港だったそうだ…」
 葵はまた髪をクルクルさせて言った。
 「なるほどで…オートパイロットで、あの港に船が戻る設定になっていて……僕らを……おそらくアマツカの仲間が、船から降ろし、そして…匿名で通報すれば…」
 「そう言う事だ…寝ぼけていても、さすがだな、頭の回転は…」
 「恐縮です…」
 有紀が言った。
 「因みにこの病院は、九条氏の知り合いの病院のようだ…」
 「それもアマツカの計算の内でしょう……」  
 有紀は聞いた。
 「どういう事だ?…」
 「アマツカは保険をかけていたんです。僕らが記憶を持ったまま脱出したときの…」
 「保険?…」
 「九条さんは、現大臣の息子さんです。些細なスキャンダルにも敏感です…」
 「そうか……九条氏の事がマスコミに漏れれば…アマツカにとってもリスクがある」
 「だから人選の際に、九条さんを選んだのでしょう…」
 「九条氏が搬送された時点で、マスコミへの根回しをしたわけか……まぁ、おかげで我々もゆっくり養生できるわけだが…」
 葵も残りのアイスカフェラテを飲み干し、有紀に聞いた。
 「有紀さん……一つ伺いたいのですが?」
 「なんだ?…」
 「チケットをどこで入手したのですか?…歩さんと参加したようですが…」
 有紀が言った。
 「入手したのは私だ……上から休暇を取れと言われてな…タイミングよく歩も帰国していたからな……やつの気分転換もかねて誘った」
 「そうでしたか……僕は美夢の兄の代理だったので、聞いてみないとわかりませんが…」
 「疑うこと無くチケットを受け取ったよ…」
 「僕もです…皆はどうだったのでしょう?…」
 「私も気になったので聞いてみた。OL二人組は社内の抽選で、当選したようだ」
 「二人は大手商社のOLでしたね…」
 「星城商事と言っていたな…」
 「堂島夫婦は?」
 「堂島夫婦は、知人がものすごく多い……有名な茶人らしい……政界に財界…各方面に顔がきくらしい……その財界の幹部に貰ったようだ…」
 「順平君は?…彼の専門学校はコンピューター系でしたね?彼も抽選で?」
 「そうだ…しかし、順平の学校にチケットを寄付したのは、どうやら九条氏らしい…」
 「どういう事です?…」
 有紀はいつも葵が広角をあげる感じを、自分がやって、そして言った。
 「面白い事がわかってな……九条氏は株主優待でチケットを2枚貰ったらしい…」
 「その1枚を順平君の学校へ……ですか……ではその株主とは?」
 「心当たりが無いらしい…九条氏の会社は株式投資を数多くしている…その中の一つだろう…気にも、ならないくらい小さな規模の…」
 葵は髪をクルクル回し、少し考えている。
 その様子を見て有紀が言った。
 「気になるか?」
 「ええ……ただわかった事は……アマツカは一人ではない…」
 「何故そう言える?」
 「まず先程も言った通り……僕たちを船から降ろした人間に、船を回収した人間…」
 葵は続けた。
 「そして、今回のメンバー……バランスが良すぎます……医者に料理人、品格のある茶人、リーダシップのある政治家の息子…そして、本来僕の席には警察の人間が来る予定でした」
 「確かにバランスが良いように感じるな…」
 「さらに言えば、あの島の生命線はパソコン通信です、パソコンを専門している順平も必要……OL二人組は大手商社の人間なのでそれなりに教養があります……役割的に華といったところですか…」
 「なるほど…しかし、ぞっとするな…」
 「アマツカは富豪相手にこのゲームを持ちかけている節がありました。それらもアマツカの協力者でしょう…目的は違いますが…」
 「目的が違う?どういう事だ?」
 「富豪達は刺激に飢え、人間サバイバルで多額の賭博をし、アマツカはそれで大金を得る……利害は合致していますが……どこか引っ掛かります…」
 「私には特にないが…」
 「では何故アマツカは、僕らが島に到着した時に仕掛けてこなかったのでしょう?仮に人間観察をするなら、船にいる間と島の1日目があれば、じゅうぶんだと思いますが…」
 葵は髪をクルクル回し言った。
 「何故3日目だったのでしょう?…何かを実験…観察していたような…」
 「やつはどこを着地点にしてるんだ?」
 「それは僕にもわかりませんが……興味深く思います…」
 有紀が顔をしかめて言った。
 「葵……お前、まさか…」
 葵はにやけて言った。
 「ええ……アマツカを追います…」
 「よせっ!危険だ!それにどこの誰だかわからんぞ…」
 葵はテーブルに置いてある伝票を持って立ち上がった。
 「心配せずとも、向こうから接触してきますよ……僕たちは記憶を持ったまま、脱出したのですから……では、ごゆっくり…」
 そう言うと葵は喫茶店から出ていってしまった。
 葵の後ろ姿に有紀は呟いた。
 「やれやれ、好奇心旺盛だな…」
 葵は喫茶店を出ると、無意識に屋上用へ向かっていた。
 本能が日の光を欲したのか、無意識で……ただ屋上へ向かった。
 屋上へ行くと先着がいた。
 歩だった。
 歩は缶コーヒーを片手に、煙草をふかしている。
 葵は歩の方に行き、横に並んだ。
 「煙草…吸うんですね…」
 「うん…なんか、日の光を浴びたら…久々に吸いたくなってね…」
 「僕は喫煙者ではありませんが…なんとなくわかる気がさします…」
 「ヤッパリ太陽はいいよね…生きてる感じだ…」
 「そうですね…」
 しばらく沈黙が続く。
 日差しは強いくらいだが、今はそれも心地よかった。
 歩が言った。
 「追うんだろ?アマツカ…」
 「ええ……まぁ、放っておいても、向こうから仕掛けてくるでしょう…」
 「だろうね……。なぁ、葵君…」
 「なんですか?」
 「俺にも手伝わせてくれ…」
 「本気ですか?」
 「ああ……本気だ…」
 「自責ですか?アマツカを生み出したのは自分だと…」
 「それだけじゃない……俺は今でも救えなかった命は…後悔する事がある。あの時こうしてれば、ああしてれば……救えたんじゃないのか?って…でも…」
 「でも?…」
 「救えた命に後悔は無い。しかし、アマツカは…」
 葵が言った。
 「『You will be sorryby all means…(あなたは必ず後悔する…)』ですか…」
 「ああ…生きてさえいれば、未来への可能性は無限だ。だから、俺は知らなくちゃいけない…アマツカを…」
 葵は言った。
 「アマツカ……天の使あまのつかい、すなわち天使……目的は何なんでしょう?結局『AMS』のパスワードもローマ字で『amatuka』でした…」
 「よくパスワードが、わかったね?」
 「よくよく考えたら、僕らの乗った船名は『エンジェル』……そして、また美夢の発想ですが、死んだ人が『天に召された』ようだった……と、言ったので…それに関するフレーズを手当たり次第に使っただけです」
 「ほんとに、たいしたやつだよ…君は…」
 「運がよかっただけです…」
 歩が聞いた。
 「次……アマツカと対峙した時に…勝てるかい?…」
 葵は笑って答えた。
 「ふふふ……アマツカは僕と1対1で戦っているようでしたが……そう思っている間は、アマツカは勝てません…」
 「アマツカは……僕たち、12人に負けたんですから…」
 決して葵一人の力で勝てた訳ではない……皆の支えや、協力があり、勝てたのだ。
 それに気づかない限り…アマツカは勝てないと…。
 葵の表情は自信に満ちた表情だった。

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