choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

疑問

九条の死……。
それは皆に大きな衝撃を与えた…。


葵と歩は一度食堂に戻り、皆に九条の死を伝えた。


五月と愛は涙し、赤塚や亜美は恐怖に怯えてるようだった。


祥子の表情も決して明るくなく、マリアはよくわかっていない感じだった。


しかし、感傷に浸っている暇も無い。
葵と有紀はすぐに検死を行うべく、九条の部屋に向かった。


部屋に入ると発見した時と同じで、九条がうつ伏せで倒れている。


それを見て有紀は言った。
「やりきれないな……、脱出したら生き返るのは理解しているが…、親しき者が…例え一時的とはいえ、死ぬのは…」


葵は言った。
「こうして人の気持ちを弄ぶ……許せません…」


なんとも言えない空気に、二人は包まれたが…有紀は言った。
「ただ、感傷に浸っている時間も…我々にはない」


「わかっています…。検死を始めましょう…」


九条の遺体を仰向けにして、二人は検死を開始した。


葵は九条の体を触りながら言った。
「目立った外傷はありませんね…死後硬直の具合からして…死後7~9時間と、いったところですか…」


有紀が言った。
「胃液の臭いが強い……、嘔吐していた可能性がある…。
となると、死因は薬物によるものかも知れないな…」


葵は立ち上がり、遺体の周りを調べだした。


ベットにテーブル、床などを調べ…何かを発見した。
「これは……、ティーカップですね…。底に飲料の跡があります…。昨夜に飲んだのでしょう…」


葵はティーカップのとってをハンカチで包み、それを持った。
「他に飲食の形跡はありませんね…」


有紀が言った。
「夕食は皆が食べている…、とすれば、それだな」


「ええ…おそらくは…。これに毒物を仕込んだのでしょう…しかし…」


有紀が言った。
「どこで入手したんだ?…」


葵は髪をクルクルさせながら言った。
「そこです…。この世界に毒物は存在しません…」


有紀も顎を擦っている。
「考えられるのは…元々持っていた…」


「現状、その可能性が高いですが…、だとすれば、少し厄介です」


「そうだな、元々所持していたという事は…、犯人は常にそういった物を所持している危険人物か…」


葵が言った。
「殺意を持って…この世界に来た…」


再び二人は沈黙したが、しばらくすると葵が言った。
「まぁ、確証はないので…。それに薬物を入手する方法があるのかも知れません…。可能性の一つとして、押さえておきましょう」


「そうだな…。後は写真を撮って、一度引き上げよう」


葵は五月に借りたデジカメで現場を撮った。


デジカメは宿主が死んだ部屋を、ただ虚しく写した…。


写真を撮り終えた二人は、九条の部屋を出て、食堂に向かった。


有紀が言った。
「九条氏を失ったのは痛いぞ…」


「そうです…、まとめる人間が居なくなりましたからね…」


九条は皆をバランスよく取りまとめていた。


その九条が居なくなった今、バランスを取る者が居なくなり、脱出派と反対派の対立が激化する事は目に見えていた。


食堂に戻ると、歩と祥子が口論をしていた。


「団体行動をしないと危険だぞっ!」 
歩が祥子に言っている。


しかし、祥子は引かない。
「嫌よ…意見の違う人達と、行動なんて一緒にできないわ…」


「そんな事を言ってる場合じゃ…」


予想通りの展開だった。


テーブルを囲い口論してる中に、葵と有紀は入って行った。


有紀が言った。
「何を揉めているっ!」


葵と有紀が戻った事に気付いた祥子は、二人に聞いた。
「お帰りなさい…。で、死因は?…」


葵は淡々と答えた。
「死因は毒物による…、おそらくはショック死か、中毒死。死後硬直の具合から、死後7~9時間…と、いったところです」


歩が言った。
「おい、葵君…毒物って…」


葵は淡々と答えた。
「そうです…この世界にあるはずのない物で、九条さんは死にました…」


愛が言った。
「自殺とか…」


葵は否定した。
「それはないです…。九条さんの性格上、責任を放棄して、自分だけドロップアウトするとは…考えられないです」


歩も賛同した。
「葵君のいう通りだ…九条が自殺なんてあり得ない…。だからこそ団体行動をして、身の完全を確保しないと…」


しかし、祥子は反論する。
「それこそ危険じゃないからしら…。犯人は私達がまとまった所を…一網打尽するかもしれないわ」


葵が言った。
「団体行動を取るのは重要です…、犯人が僕たちの中に、いた場合…お互いを見張る事ができます」


葵の言葉に場は騒然とした。


そんな中、赤塚が言った。
「恐ろしい事を言わないで下さいっ!…この中に殺人犯が…いるって事ですかっ?」
赤塚は顔面蒼白だ。


亜美も言った。
「12人目がやったんじゃないの?…」


葵は淡々と答えた。
「今は全ての可能性がある段階です…12人目の犯行と決めつける事はできません…」


祥子が言った。
「だったら尚更、私は団体行動を拒否するわ…。殺人犯と行動を共に亜美するくらいなら…、死んだ方がましよ…」


死んだ方がまし…、祥子の言葉に皆は黙るしかなかった。


祥子は続けた。
「私は部屋に戻るわ…話し合いも平行線だし、ここにいる意味はないわ…」


歩が言った。
「しかし、祥子ちゃん…」


祥子は歩を遮った。
「私は…九条さんの事をあまり知らない…。でも悲しみは共有できる事を覚えていて…」


そう言うと祥子は食堂を出ていった。


悲しみは共有できる…。彼女なりに九条の死を、悲しんでいるのか…。


歩が言った。
「葵君…、どうするんだ?」


葵は髪をクルクルさせながら言った。
「確かに祥子さんの言う事にも…一理あります…」


歩は少し表情を硬くした。
「葵君まで何を言ってんだよ?…」


「最後まで聞いて下さい…。僕が言うのはあくまでも、効率の噺です…」


五月が言った。
「効率って、なんの?」


「脱出調査の効率ですよ…、全員が一つにまとまって、引きこもると…どうしても効率が悪くなります…」


歩は硬い表情を少し柔らかくした。
「確かに…そうだ…」


「それに、最大のポイントは…誰が死んでも、脱出さえすれば…全て解決すると、いう事です」


亜美が言った。
「どういう事?…」


「つまり、この中で一人でも生き残って、最後に脱出すれば…全員が生き返ります」


赤塚が言った。
「それは最初この世界に来た時に、聞きましたが…本当ですか?」


葵はキッパリ言った。
「本当です、これは僕や、歩さんに、有紀さんも既に経験済みです。まぁ死んでしまった場合はここでの記憶は無くなりますが…」


五月は言った。
「じゃあ、これからどうするの?」


葵が言った。
「僕はこれから全力で脱出方法を考えます…。勿論、犯人の特定も同時にね…」


歩が言った。
「まさか…一人でやるつもりじゃ?…」


葵が言った。
「僕もそこまで自信過剰ではありませんよ…」


有紀が言った。
「では、どうする?」


「二手に別れましょう…。調査班と、後方支援班の二手に…」


歩が言った。
「後方支援って?」


「まぁ…屋敷で待機して、食事の準備などです。難しく考えなくていいですよ…」


有紀が言った。
「どう別ける?」


葵は髪をクルクルさせながら言った。
「そうですね…。調査班はあまり人数をかけない方がいいでしょう…、機動力を考えて、3人がベストでしょう」


愛が言った。
「じゃあ、残りが屋敷ね…」


「そうなります…、僕は調査班に入りますが…異論は?」


葵の申し出に誰も異論はないようだ。
葵は皆の反応を見て言った。
「異論はないようですね…。では、僕とあと二人は…」


有紀が手を上げた。
「私が行こう…。歩、お前は屋敷に残れ…」


歩は言った。
「何でだよ?」


「九条氏が居なくなった今、お前はここに残るべきだ。食事の事もあるからな…」


そう言われると、歩は素直に納得した。
「わかったよ…。じゃああと一人は…」


五月が勢いよく手を上げた。
「はいっ!私、私が行きますっ!」


歩が言った。
「五月ちゃん…危険だよ…」


五月は言った。
「心配無用です。月島葵の行くとこに五月あり…です」


言ってる意味はよくわからないが、五月の決意は固そうだ。


振り分けが決まったところで、葵が言った。
「とりあえず僕たちは湖へ向かいましょう…、屋敷の方々は陸さんの部屋を見てください…」


赤塚が言った。
「何故ですか?」


葵は口角を上げた。
「もうすぐ正午です…」


有紀が言った。
「リセットのルールか…」


葵は言った。
「はい、この世界のリセットのルールも前回と同じか…、確認する必要があります」


歩は言った。
「わかったよ…、陸君の部屋は俺たちに任せてくれ」


葵は言った。
「では、それぞれのやるべき事をやりましょう…」


葵の号令で皆が立ち上がった。


そんな中、葵は歩にこっそり声をかけた。
「歩さん…」


「ん?…なんだい?」


「マリアという女性を、監視して下さい…」


歩は目を見開いた。
「まさか、彼女が…犯人だと?」


葵は首を横に振った。
「いえ、そういうわけでは…。ただ、彼女には何か引っ掛かります」


「どうしてだい?」


「死んだ人間が生き返る事を知っていました」


歩は再び目を見開いた。
「何だって?…でも、彼女は記憶が…、戻ったのか?」


「そういう感じては無さそうです…。ただ、潜在的に覚えているのかも知れません」


「どういう意味だい?」


「彼女は、この世界を知っている…。つまり、僕たちとは別に…『以前、アマツカの世界を体験した』か、『彼女がアマツカ』、この二つが考えられます…」


「それって…」


「ええ…ですから監視をお願いします…」


葵は髪をクルクルさせながら言った。


「前者である事を、祈りましょう…」













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