choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

対立

葵と祥子が互いに言い分を言い合っていると、残りのメンバーも食堂に集まった。


九条が言った。
「皆どうしたんだい?…まだ夕食には早いよ…」


亜美が言った。
「祥子ちゃんに…、食堂に来るように言われて…」


葵が言った。
「どういうつもりです?…祥子さん」


祥子は言った。
「別に…集まる事は、悪い事ではないわ…」


「意思表示させるつもりですか?」


「それも、いいかもしれないわね…。この際だから、私は宣言するわ…」


亜美が言った。
「何を?…」


祥子ははっきり言った。
「私は脱出しない…。ここで暮らしていくわ…」


葵は言った。
「あなたは何を言っているか、わかっているのですか?…。殺人事件が起こったこの狭い世界で、生きていく?…。それは自分が犯人だと言っているようなものですよ…」


祥子が言った。
「あなたこそ、私が犯人だと本気で思っているの?…。天才月島葵君…」


葵は言葉を聞き詰まらせた。
この女は何を考えているのか…。それは葵にも読めなかった。
現時点で、葵は祥子が犯人だと思えなかった。


12人目の存在…、それがはっきりしない限り犯人を絞る事が出来ない。


言葉を詰まらした葵を見て、祥子は言った。
「言葉が無いようね…。私が犯人だという証拠がないもの…」


葵にとって、祥子の言う証拠はさほど問題ではなかった。


葵は言った。
「確かに、証拠はありません…。しかし、それはあまり意味が無い…」


「あら、どうして?…」


「凶器は消去ボックスで…消すことができます。それに、12人目の存在があります…、第一容疑者は12人目です。しかし、それも重要な問題ではないです…」


亜美が不思議そうに言った。
「どうして?殺人犯がいるんですよ?」


「殺されたくなければ、早く脱出すればいい…。しかし、脱出したくない人がいる、何名か…。それが一番の問題です」


祥子が言った。
「私が妨害すると?…」


「否定はできないですね…、脱出となるとこの世界は消滅します…」


祥子は笑いながら言った。
「ふふふ、それは困ったわ…。でも安心して、邪魔はしないわ…」


祥子はそう言うと食堂を出て行こうとした。


葵は祥子に言った。
「何処へ行くのです?…」


「部屋に戻るのよ…意思表示もできたので…」


祥子はそう言うと食堂を後にした。


九条が言った。
「彼女はいったい何なんだ?…掴み所がない…」


葵が言った。
「説得するしかないですね…九条さんの出番ですよ」


「自信無いよ…」


歩が言った。
「葵君が言うように、九条か説得した方がいいよ…。葵君だと、また口論になるぞ」


葵が言った。
「口論で思い出しましたが…。亜美さん、昨日…陸さんと何を揉めていたのですか?」


亜美は急に葵に聞かれて、少し慌てた。
「な、なに?…」


「口論してるように見えましたが…話して下さい、事件の手懸かりになるかもしれません」


有紀が言った。
「話してくれないか…、陸は湖に呼び出されたようなんだ」


なかなか話そうとしない亜美に、葵は言った。
「もしかして、陸さんは…、怪我をしていたんではないですか?」


亜美の目は見開いた。
「どうして?…」


「グランドに行った時にわかりました。しかし、違和感がありました…動きが軽快だったので…」


亜美はますます不思議そうに言った。
「だったらなぜ?」


「癖ですよ…。怪我をしていた時の癖でしょう…、無意識に右足をかばっていました」


亜美は呼吸を少し整えて言った。
「ええ、そうよ…月島君の言う通りよ…。陸は怪我をしていたの…ここに来るまでは…」


有紀が言った。
「ここに来るまでは?…」


亜美は続けた。
「私も直接見たわけじゃなく、陸から聞いたんだけど…、陸はここに来るまでは…松葉杖で生活をしていたようなの…。でもこの世界に来て、右足が治ったの…」


皆は困惑した表情をしている。
その中で愛は一人、下を向いていた。


さらに亜美は言った。
「この世界にいれば…陸は、陸は元気にサッカーができる…。私も帰りたくなかったしそれで…、でも、陸は「俺は帰らないといけない」って…」


葵が言った。
「それで口論を?…」


亜美が言った。
「そうよ、でも陸が何故、頑なにここに止まるのを拒んだのかは、わからない…。でも、死んじゃうなんてあんまりよっ!」


亜美は泣き出してしまった。


するとマリアが言った。
「泣かないで…、きっとまた、会える…」


普段言葉を発っさない為か、マリアの声は不思議と殺伐とした食堂の空気を柔らかくした。


ただ葵だけはマリアの言葉に背筋を凍らせ、呟いた。
「なに?……」


そんな葵の様子に気づく事なく赤塚が言った。
「とにかく少し落ち着きましょう…マリアさん、一緒に亜美さんを部屋に」


そう言うと赤塚は、マリアと共に亜美を連れて食堂を後にした。


食堂に残された6人はそれぞれ動き出す。


「俺、とりあえず夕食の準備するわ…」
歩はそう言うと、厨房へ行った。


するといつもなら歩を手伝うはずの愛は、下を向いたままだ。
そんな愛を見て、五月が声をかけた。


「愛さん…どうしたんですか?」


愛は五月に気付いて、少し慌てて言った。
「えっ?、ああ、五月ちゃん…。なんでもないのよ…、さぁ、私も厨房に行かなくちゃ…」


愛はそう言うと、そそくさと厨房へ行った。


有紀が葵に言った。
「どう思う?…三木谷祥子を…」


葵は髪をクルクルさせながら言った。
「彼女は…たんに、絵が描きたいからこの世界にいたいわけではないでしょう…」


「他にも理由があると?…」


「でしょうね…。そうでなければ、あそこまで拘らないでしょ…、絵を描き続けるにしても、限界があります…描くものがなくなりますよ」


有紀は憮然とした表情で言った。
「確かに…。しかし、彼女のあの執着はなんなんだ…」


葵は呆れながら言った。
「彼女に関しては注意する必要がありますね…」


九条が言った。
「彼女の「邪魔はしない」と、いう言葉を信じたいけどね」


葵は言った。
「僕もそうしたいです…」


有紀が言った。
「で、先程聞きそびれたが…、もう一つの部屋はどうだった?」


葵は言った。
「目立った生活感は無かったです…。ただ、使用した痕跡はありました…先輩、デジカメを」


葵がそう言うと、五月は待ってましたと言わんばかりに、デジカメを差し出した。


そして、五月は胸を張って言った。
「どうぞ見てくださいっ!隅々まで捕りました」


葵は五月からデジカメを受けとり、操作した。
「これを見てください」


葵が見せた画面は、部屋の窓の縁だった。
「窓の縁に、2ヵ所…繊維が付着しています。繊維と繊維の間は約50cm程の間隔があります」


有紀が言った。
「なるほど、縄梯子なわばしごか…」


「ええ…おそらく…、縄梯子で、屋敷の出入りをすれば、見つかるリスクもすくないですから…。後、これを…」


葵は次の画像を見せた。
「洗面所です…、よく見てください、水垢が着いています…無数に…。これは、水道を使った痕跡です」


九条が言った。
「では、この世界の何処かに…、いるのか?12人目が…」


「可能性は高いです…。ただ、確証はありません…生活感が少ないので」


有紀が言った。
「気が休まらないな…」


葵はテーブルに肩肘をついて言った。
「それが狙いですよ…。そうやって僕らを揺さぶっているんです…、アマツカは」


九条が言った。
「僕たちも一枚岩じゃないからね…」


葵が言った。
「考え方が対立してしまいましたから…、後、有紀さん…どう思います?…」


「陸の怪我の事か?…」


「はい…。怪我もそうですが…、僕は病気も、『この世界に来たら治る』と思うのですが…」


有紀は興味深いと、いった感じで答えた。
「考えられるな…。現にこの世界には内服薬が無い…。つまり、病気をしないと、とれるな」


葵は呟いた。
「夢の世界……。怪我も病気も無い世界…、確かに夢の世界ですね…」


有紀は冗談半分で言った。
「私は商売上がったりだがな…」


「ふふ、確かにそうですね…。まぁ…僕もこのような世界は否定しますよ…」


アマツカの目的は理想の世界を創ろうとしているのか?


葵は言った。
「アマツカの目的が…少しつづわかってきた気がします…。ただ、同意はしかねますが…」


前回と違い全員が同じ目標に向かっていない。


それが後々、脱出を困難にすることは、安易に予想ができた。


ただ葵には他に引っ掛かることがあった。
(あのマリアという女性……、何故?…)



















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