choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

屋敷にて…

……二日目…午前……


コンッコンッ!


コンッコンッ!


ドアをノックする音に眠っていた葵は反応した。


コンッコンッ!


葵がドアをゆっくり開けると、五月がいた。


「おはようございます…」


眠たそうな葵を見て五月が言った。
「あんた、いつまで寝てんの?…もう朝の集合時間よ!」


この屋敷の各部屋は、外から鍵をかける事はできず、中からしか施錠できない。


九条と有紀の提案で、朝昼晩の決まった時間は集合するルールになっている。


「用意するので…少し待っていて下さい…」


葵はあくびをしながら、部屋に戻り顔を荒いに行った。


昨日、屋敷の調査をしたが…前回と違い、必要なものが手に入る『転送倉庫』が、今回は無い。


必要なものは、1階食堂の逆側にある物置にある。


有紀に聞いた話によると、『リセットのルール』は前回と同じで、24時間に1回…正午に、使った食糧や日用品などは補充され、廃棄物は屋敷の外に出して置けば消えるようだ。


準備の終わった葵が、部屋から出てきた。


「お待たせしました…では行きましょう…」


葵と五月は皆が待ってる食堂に向かった。


食堂に到着すると、五月は言うように皆が揃っていた。


葵は平謝りをした。
「すみません皆さん…お待たせしまして…」


陸が言った。
「夜更かししてたんだろ?…君、不健康そうだし…」


葵は言った。
「面目ないです…夜が来ないので、しばらくリズムを掴むのに苦労しそうです…」


教師の愛が言った。
「まぁ、無理しないで…慣れていけばいいわ…」


「そう言って頂ければ…さいわいです」


九条が言った。
「まぁ…葵君の場合、今に始まった事ではない…僕は気にしないよ…」


陸が言った。
「九条さんと葵君て、確か知り合いですよね?てか、有紀さんと歩さんも…」


「そうだよ、片岡さんと歩は夏に知り合ったんだが…葵君のお父さんと、僕は元々知り合いでね…」


「『東鷹大学の天変 月島葵』でしょ…」
画家の祥子だった。


祥子は続けた。
「東鷹大学の出身だったら…誰でも知っている…。ふふふ、魅力的ね…」


祥子は葵を見つめている…、葵はその目を見て言った。
「それはどうも…誉め言葉として、受け取っておきます…三木谷さん…」


「祥子でいいわ…、葵君…あなたとは仲良くできそうよ…」


五月が言った。
「祥子さん…東鷹大出身ですか?…じゃあ、私の先輩…」


葵が言った。
「因みに、そちらの有紀さんも東鷹大出身ですよ…」


五月はたまげて言った。
「ええーっ!そうなの?…」


有紀が言った。
「騒がしいやつだ…、まぁ、元気があるのはいい事だが…」


陸が言った。
「ムードメーカーにちょうどいいよ」


五月は気をよくして言った。
「任せて下さいっ!」


葵はそんな五月を放っておいて、有紀の横に座った。


「有紀さん、昨日…僕も一通り検索しましたが、劇薬類や危険物は無いようです…」


有紀は頷きながら言った。
「そうだな…あっても消毒液などの薬品しかない、さらに内服薬までも無い…怪我はしても、病気はしないと、いうことか…」


「可能性はありますね…僕たちは実体であって実体ではありません…。
よって、うつわを作るがわの…さじ加減です…」


「今更だが……、気に入らんな…」


「ええ…、相変わらず、趣味が悪い…」


葵と有紀が話している間に、歩が皆の朝食を運んできた。
「皆…できたよぉ、厨房に残りあるから取ってきてね…」


葵が歩に言った。
「朝食係りは歩さんですか?…」


「簡単なトーストエッグだけどね…」


「意外です…」


「あのね葵君…俺、一応世界中飛び回って、キャンプとか慣れてんの…料理くらいできるよ…」


有紀が言った。
「歩は料理くらいしか、取り柄がないからな…」


「料理のできない有紀に言われたくないよ…」


葵が有紀に聞いた。
「料理しないのですか?…」


「出来ない訳ではない…、必要ないのでしないだけだ…」


歩が笑いながら言った。
「ククク…よく言うぜ、お前が作ると全部真っ黒じゃんか…」


「なんだと?!…歩、お前…私にそんな事言って、ただで済むと思ってるのか?…」


歩は顔をひきつらせて言った。
「じょ、冗談だよ…、あっ、俺…厨房に忘れ物した…」


歩は逃げてしまった。


有紀は両腕を組んで言った。
「ふんっ!私に料理など必要ない…」


葵は相槌をうつしかなかった。
「そ、そうですね…」


やがて食事も終えて葵と有紀か話していたら、祥子が話しかけてきた。


「ここの芸術館には行った?月島葵君…」


「ええ、ここに来てすぐに…それが?」


祥子は妖艶な笑みで言った。
「ふふふ、素晴らしいと思わない?…ここの作品は…」


「素晴らしいですね…限りなく本物を再現している…、いや、ある意味本物ですかね…」


葵の返答に満足したのか、笑顔を崩す事なく祥子は言った。
「ふふふ、あなたもそう思う?…でもどうして、そう思うの?」


葵は答えた。
「そうですね…、あの芸術館でひときわ目立っていたのは…ミケランジェロの『最後の審判』でした…。
僕はそんなに詳しくはありませんが、見事な『フレスコ画』です…」


話を聞いていた愛が言った。
「『フレスコ画』?…」


葵が答えた。
「西洋の壁画に使われる、絵画技法です…」


葵はさらに続けた。
「日本にもレプリカは存在しますが…それは、原寸大の陶器製です…。
しかし、ここにあるのは壁画で、フレスコ画を忠実に再現しています…本物により近い…」


有紀が言った。
「なるほど…本物を知らなければ、再現出来ないってわけか…」


祥子は葵の話を聞いて、少し笑って言った。
「ふふふ、さすがね…。でも、そんなことは問題じゃないの…」


葵が言った。
「作品に魅了され…そして、引き込まれる…。ですか…」


「そうよ素晴らしい作品には、講釈はいらないの…『魂を掴まれる』…、それだけでじゅうぶんなの…」


「なるほど…よくわかりました。僕と祥子さんとは、見てるものが違うようです…」


「そうね、あなたは知識とその目で…、私は感覚で…。
でも、楽しいお話だったわ…、私も絵を描いてるの…今度見てちょうだい…」


「ええ…是非とも…」


「それでは、ごきげんよう…」


そう言うと祥子は自分の部屋へと戻って行った。


「不思議な方です…」


葵が呟くと、有紀が言った。
「気に入られたようだな…」


「そうですか?…僕とはタイプが異なりますよ」


「根拠を求める葵と、感覚で動く祥子…面白い…」


「他人事ですね……、楽しんでるヒマ…ありませんよ」


「葵君の言う通りだ…」
九条が後ろから言った。


「僕たちは脱出方法を考えないと…葵君の言う通り、楽しんでいるヒマはないぞ…」


九条がそう言うと、歩が厨房からやって来た。
「皆、食べ終わったかい?…片付けたいんだけど…」


歩が食器を片付け始めようとすると、愛が言った。
「渡辺さん…私も手伝います…」


愛の申し出に歩の表情も緩んだ。
「いやぁ、助かるよ…愛ちゃんだっけ?…」


「あ、愛ちゃん?…」
愛は呼ばれなれてないのか、少し戸惑っている。


歩は気にせず言った。
「まぁいいじゃないのっ!俺の事は歩でいいよっ!よろしくな」


「は、はい……よ、よろしく…」


有紀が愛に言った。
「愛、気にするな…こいつは誰にでも馴れ馴れしい…」


歩が有紀にケチをつけた。
「お前…一言多いぞ…」


「ほんとの事だ…それともデリカシーが無いと、言った方がよかったか?」


愛は二人の仲裁に入るように言った。
「まぁまぁ、私もフランクな方がいいんで…、それより片付けましょう…」


「いやぁ助かるよ…優しいし、どっかの誰とは大違い…」


「なんだと!…歩…」


愛は慌ててまたも仲裁に入る。
「まぁまぁ、とにかく片付けましょう…お昼の準備も手伝いますから…」


そう言うと愛は歩を厨房に連れて行った。


九条が言った。
「君たち…相変わらずだな……」


葵が言った。
「ああは言ってますが…歩さん…、有紀さんが倒れた時は動揺してましたよ…」


有紀は言った。
「ふんっ!葵に動揺を見せるとは…情けないやつだ…」


葵のフォローも台無しだ。


すると今まで黙っていた、堂島夫婦の娘…亜美が言った。
「脱出方法を探すんですか?…」


九条が言った。
「そうだが…」


亜美は浮かない表情だ。


それを見て有紀が言った。
「帰りたくないのか?…」


すると陸が席から立ち上がった。
「俺…ちょっとグランドで汗流してきます…」


そう言うと陸は食堂を出ていった。


亜美は有紀に言った。
「帰りたくない、わけじゃないけど…少し休めるかなぁって…せっかく両親から離れられたから…」


九条が言った。
「先生たちも心配してるよ…」


亜美は言葉を強めた。
「だから嫌なんですっ!」


有紀が言った。
「まぁ、そう熱くなるな…どのみちすぐには脱出できない、休める時間はまだある。なぁ、葵?」


「そうですね…いまのところは、何もわかりません…時間はかかるでしょう…」


亜美は言った。
「今の状況って、『神様がくれたプレゼント』って、思ってたの…」


九条が言った。
「神様か……」


皆の会話を不思議そうに聞いていた五月が、葵に聞いた。
「これって…夢でしょ?」


まだ夢だと思っているようだ。


葵は呆れて言った。
「そう思っているのは、あなただけですよ……」









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