choice02~球体の楽園~

ノベルバユーザー329392

接触

……翌日…午後……


葵は歩と有紀に会うため歩いていた…。今日は九条の仕事部屋にいく予定だ。


人混みの中…葵は待ち合わせ場所の喫茶店へ向かう。


街の大きな交差点を、覆うように架かっている、巨大歩道橋を渡っている時だった。


交差点の上も人が多い…だがその中で確かに聞こえた。


「I saw again.(また会えましたね)」


その声に葵は反応した。


「I do not lose is time.(今度は負けませんよ)」


声の主を探すが、人が多すぎて…わからない。


辺りをキョロキョロする葵の、服の袖を引っ張る者がいた。


葵が袖先の方へと視線を移すと、子供がいた。


男の子だ。


「君は?…」


男の子は言った。
「これお兄ちゃんに渡してって…」


「誰に?…」


「もう行っちゃった…」


笑顔の可愛らしい男の子から、茶封筒を手渡された。


葵は辺りを見渡したが……、人が多すぎてわからない。


やがて男の子を呼ぶ声がした。


「ママだっ!…バイバイ」


男の子は母だと思われる女性の方へと、走って行った。


葵は男の子に手を振り、そして封筒の中身を見た。


それを見た葵は、思わず笑った。


「ふふふ……」


その時葵のスマートフォンが鳴った。


着信は…歩からだ…。早く来いと言う、催促の電話だろうか…。


「はい、もしもし…」


「葵君、俺だ…歩だ…」


歩は少し焦った様子だった。


葵は何か起こったと察した。
「歩さん…何がありました?」


歩は少し息を調えて言った。
「待ち合わせ場所の変更だ…」


「どういう事です?…」


「有紀が……、倒れた…」


予想外だった…、いや、ある程度予想はできた…。
有紀もあの時の記憶が残っている…。ターゲットになる可能性は十分にある。


葵は落ち着いて言った。
「場所は?」


「東鷹医大だ…すぐに来てくれ…」


葵は歩との電話を終え、すぐにタクシー乗り場へ向かった。


タクシーに乗ろうとした時、面倒な人物が現れた。


「待ちなさいっ!月島葵っ!」


「またあなたですか…」


五月だった。


葵は五月に言った。
「あなたに構っている暇はありません」


「急いでタクシー乗り場なんかに来て…。怪しい…」


「怪しいのはあなたですよ…。では…」


葵がタクシーに乗り込むと、五月も無理矢理タクシーに乗り込んだ。


「どういうつもりですか…」


「あんたが何も話さないから…強硬よっ!」


二人のやり取りにタクシーの運転手が言った。
「お客さん…どうするんです?」


運転手は少しイライラしている…。


葵は仕方ない感じで、運転手に言った。
「東鷹医大まで…お願いします…」


不本意ながら五月を連れて行く結果になった。


葵は五月に言った。
「あなたのしつこさには…呆れますよ…」


「それが私のモットーよっ!」


「何も誉めてませんよ…それに少々強引です…」


「強引さも…私の売りよっ!」


「あなた……、早死にしますよ…」


二人を乗せたタクシーは、目的地の東鷹医大に到着した。


葵は料金の支払いを済ませ、院内の受付に向かった。


すると受付の前で、歩が待っていた。
歩は葵を見つけるなり、呼んだ。


「葵君っ!こっちだ!」


葵は歩の元へ向かった。


五月もいる事に気付いた、歩は五月に言った。
「あれ君は昨日の…」


五月は歩に礼をした。
「昨日はごちそうさまでした…」


歩は葵に言った。
「なんで…この娘…五月ちゃんだっけ…、ここに?」


葵は申し訳なさそうに言った。
「また…つけられてまして、強引に…」


歩は呆れて言った。
「まぁ…昨日のノリから、だいたい想像はつくけど…」


葵は言った。
「それより、有紀さんは?…」


「あ、ああ…、こっちだ…来てくれ」


歩に連れられ、有紀のいる病室に向かった。


有紀の個室に入った3人…、ベッドに寝ている有紀を見て、五月は思わず言った。
「き、綺麗……」


五月の言う通り、眠っている有紀は実に綺麗だった。


葵が言った。
「有紀さん……」


歩が葵に言った。
「こうやって黙ってたら、いい女なんだけどな…」


歩は冗談を言っているが、拳には力が込められていた。


葵が言った。
「倒れた時の状況は?」


「倒れたのは昨日の夜…俺たちと別れて、しばらくしてから…だそうだ…。後は、九条と同じ…」


葵は髪をクルクル回しながら言った。
「実は先程…アマツカと接触しました…」


その言葉を聞いた歩は、目の色を変えて言った。
「なんだってっ?!いったい…、どういう事?!」


葵は先程の歩道橋で起こった出来事を、歩に説明した。


「なんてこった…後手後手だなぁ…」
歩は頭をかき回している。


葵が言った。
「今のところ…相手の方が、一枚上手です…。
一応…美夢と容子さんには、連絡を入れましょう…話しはその後で…」


「なんて?」


「くれぐれもスマートフォンやPC等の、通信機を扱わないようにと…」


「なるほど…予防みたいなものか…」


「僕は美夢に連絡をします…、歩さんは容子さんに…」


「わかった、すぐ連絡をしよう…」


二人がバタバタしている中…五月は現状を理解できず、ぽつりと…つっ立っていた。


「いったい何の話?…アマツカって?」


葵と歩は連絡を終えて、少し落ち着く…。


歩が言った。
「とにかく、九条のオフィスだ…。山村さんには、もう鍵もらって…話も通してもらっている…」


葵が言った。
「そうですね…アマツカの話しは道中で…」


歩は五月に言った。
「五月ちゃん、君はもう帰りな…」


五月は言った。
「何でですかっ?!せっかくここまで来たのにっ!」


葵が言った。
「ここから先は…あなたには関係の無い事です…まぁ、元々関係ありませんが…」


「何を~っ!」


怒りを露にする五月を、歩が宥めた。
「まぁまぁ…とにかく、君は帰ったほうがいい…」


しかし五月は聞かない。
「嫌ですっ!帰りませんっ!」


葵が言った。
「連れて行きましょう、歩さん…」


まさかの答に、歩は驚いた。
「本気か?葵君?…」


葵は諦め顔で言った。
「このまま彼女を無視して向かっても、どうせ尾行してきます…。そうなれば、九条さんのオフィスで、いらぬトラブルが起こる可能性は十分過ぎるぐらいあります…」


「しかし…」


「だったら、連れて行って…おとなしくしてもらう方が、僕らは動きやすい…」


歩は賛同しかねる表情だ。
「本気かよ…」


葵は言った。
「それにこれは…自己責任です…。ストーカーさんに命を賭ける覚悟があるか…」


五月は少し怯んだ。
「いっ、命を…」


葵が言った。
「では、お引き取りを…」


五月は顔を強張らせて言った。
「いいわっ!行くわっ!そこに事件があるんならっ!行ってやろうじゃないっ!…」


歩は仕方ないといった表情だ。
「わかったよ…その代わり、俺らの邪魔はしないでよ…」


五月は言った。
「お役に立つ事はあっても、邪魔にはなりませんっ!」


葵が言った。
「やれやれ、どこからその自信が出てくるのでしょう…やはり早死にするタイプですね…」













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